23 空っぽのスピリットタウンに何を注ぐ?
あれから町をあげての大騒ぎが始まった。
ここで一番信用できる奴が実はサイコ野郎、住民が殺され燻製加工、極めつけはテュマーだから無理もないか。
騒ぎを聞きつけ酒場の前で集う人たちの言葉は大体こうだ。
「テュマーがどうこう」「この町はおしまいだ」「どうすればいい」とかだ。
勝手にこの世の終わりに絶望する姿が無限ループに入ろうとしていたので、ステアーたちの「落ち着くまで休んでくれ」という言葉に甘えた。
が、けっきょく外から何時間も聞こえる話し合いのせいで眠れるわけもない。
気づけば俺もテュマーのことでいっぱいで、気が気がじゃなくなったわけだ。
「……起きたかストレンジャー。全然眠れてないようなひどい顔だな」
浅い眠りから酒場の外へ出ると、そこで待ってたのは保安官だった。
そういう本人だって一睡もしてないし、ナイツのこともあってひどい顔だ。
「おはよう。次はあんたが眠った方がいいぞ、冗談じゃなく本気の心配だ」
『お、おはようございます、あの、大丈夫ですか? 顔色が……』
「心配はありがたいんだがな二人とも、今から寝ると永眠になりかねないぞ」
「その様子だと話し合いはやっと済んだ感じか?」
気の毒なステアーは「あそこだ」と俺の問いに答えた。
げんなりした様子はサイコ野郎殺害現場となった酒場を嫌そうに見ていた。
相変わらず言葉も喉も枯れて絶望に打ちひしがれる住民だらけだ。
「あれは『話は弾む、されど進まず』って感じね。ああしてまだパニックを引きずってるのよ」
なんともいいがたい光景を目にしてると女王様がやってきた。
約束通り紅茶を淹れてくれたらしい。濃い香りが「どうぞ」と渡される。
『……仕方ないと思います。信じてる人があんな人で、町の人がひどい目にあって、そこにテュマーが攻めてくる、なんて分かったら……』
いつもより濃いような甘いお茶をすすると、そんな光景にミコが言う。
最悪って単語を一日に何重にも重ねるとああも喪失感が漂うらしい。
「そうねえ、人間一度に受け入れられる事柄なんてたかがしれてるものよ。あんなのが立て続けに起きて『街が危ないです』ってなったら、普通はああなるでしょうに」
「あんたらは余所者だから関係のない話かもしれないが、俺たちからすれば世界が終わったも同然の絶望的状況なんだぞ。あいつらは確実に来るだろうからな」
「もう他人事じゃすまされないのよね、ここまで関わっちゃったんだし?」
ステアーも一杯飲み始めたが、味なんて感じてる余裕もなさそうだ。
その点女王様は頼もしい。お気楽というか、えらく肝が据わっている。
「……ストレンジャー。あいつらを見てくれ、どんな感想だ?」
そこでステアーから「どんな感じがくみ取れるか」いわれても。
こんな町をあげての葬式さながらの雰囲気じゃ全員棺桶いきだろう。
「そうだな。ここの人口はどれくらいだ?」
「老若男女平等にカウントしてだいたい120だ。まさかとは思うが、全員で戦えば怖くないとか言わないよな?」
「このままじゃだいたいで120人の棺桶が必要になりそうだな」
「ひでえこと言うなよ、そうならないように誰か助けてほしいもんだ」
「それについてだが、流れ次第では120以上にもなりえるだろうな」
町ぐるみの絶望を眺めていると宿からクリューサがやってきた。
「クリューサ、こんな時に縁起でもないことを言うのは駄目だぞ」
クラウディアもリム様の作ったパンをがぶがぶしながらだ。呑気な奴め。
「それはあんたらがどうにかしてくれる可能性を加えた上でのカウントか?」
「本気で動いたテュマーは厄介だからな。このまま俺たちがやつらから隠れて進もうが、道中でたった一匹出くわしただけでこの旅は終わることだろう」
メンタルケアは専門外のお医者様が見る先は心の折れた人たちだ。
でも旅が終わるだって? どういう意味かダークエルフと首をかしげるも。
「どういうことだクリューサ、私達の旅にも何かしらの影響があるのか?」
「たとえここを見捨てて進もうが、テュマーたちは警戒を強めて必ず俺たちを妨げるぞ。お前たちはやつらが厳しく目を見張らせる中を突き進みたいのか?」
「お医者さんの補足をしておくとだな、信号をキャッチしてクソ真面目に努めるようになったあいつらは好戦的なんだ。北へ向かおうが郊外を迂回しようが、ひとたび見つかってしまえば群れを呼んで襲い掛かって来るぞ」
こういうのに詳しいステアーのアドバイスで事態の深刻さがよく分かった。
例えここを見捨てて進もうがテュマーの脅威は避けられないらしい。
どういうことかって? また人の旅路を邪魔する奴が現れたってことだ。
「なるほどな、じゃあここから先は行き止まりってことか?」
俺は面倒が待ち構える北の方角を見た。
そのはるか遠くの廃墟でテュマーが蔓延ってるそうだが、誰かさんのせいで超がつくほどの危険地帯と化してるそうだ。
「あいつらが仕事を終えれば帰ってくさ、非感染者の俺たちを皆殺しにしてここをきれいに片づければな。それか総意でここを捨てて、長い年月をかけて向こうが諦めるのを待つかだ」
ところが残念ながら保安官からの返答はよろしくなかった。
「感想はこうだ、ふざけんな」
「それはあのクソ野郎と彼女さんにいってやってくれ。ふざけやがって」
ここが攻め込まれて滅びるか、ここを捨てて逃げるかの二択だ。
余所者の俺たちはともかく、この町に住むステアーは諦めたように笑った。
「あの野郎。うちの若いのをぶち殺した挙句、テュマーとよろしくやってやがったって? 最悪だ、俺が今この町を捨てたい気分なのが分かるか?」
「沈む前の泥船ってこんな感じなんだろうな。テュマーは確実に来るのか?」
「ああ、あの時街に接近したのが証拠だ。いずれ本隊が来る」
「敵の数や装備の質は?」
「分からん。知りたきゃ偵察を送って実際に確認する以外にはないさ」
「攻め込んでくるのは確定で、敵の規模は不明か。じゃあ北部にいるレンジャーたちにどうにか連絡をつけて助けに来てもらうプランは?」
「北部のレンジャーはテュマーのいる廃墟を超えた先だ、しかも9マイル以上もあるんだぞ? それに今から呼んだとしても間に合うか分からない、テュマーの妨害のせいで向こうまで連絡する手段もないときた」
「じゃあなんだ、ここは完全に孤立してるっていうのか?」
「この際『まだできて日も浅いから』なんて言い訳はしないが、他所とのつながりが薄い点については認めてやるよ。おしまいってことだ畜生」
絶望を潤滑油に良く回る舌で一通り喋って、黙り込んでしまった。
ディアンジェロの馬鹿野郎の次に頼るべきはずの保安官がこれじゃ、住民たちがますます不安になるもの仕方なさそうだ。
「なるほど、マジで俺たちの旅路がやばそうだなこりゃ」
西部開拓時代の町並みごと滅びかねない住民からクリューサに目を移した。
「お前は旅先でああいう変態と巡り合う運でも持ってるのか? おかげでまた危機が訪れてるわけだが」
宿で危惧していたことにまんまと直面したことに死ぬほど呆れてる。
「その割には余裕そうだなお前」
「最悪ここを見捨てて別のルートで行く、ぐらいの考えはあるからな。一度引いて安全になるまで様子を伺ったら再開すればいいだけの話だ」
「ああそうだな、それなら町一つを犠牲に先へ進めるだろうしな」
「くそっ、なんにせよこの町で気づけたのが唯一の幸いだ。構わず進んでいたら今頃テュマーの群れと鉢合わせするところだったんだぞ?」
クリューサの言い分だとこういうことか、「ここで気づけて良かった」と。
もしもここを素通りしていたら、救難信号に寄せられたテュマーどもに追いかけられる運命が待っていたに違いない。
どちらにせよ避けられなかったか。首を突っ込んで正解だったな。
「じゃあどうすればいいんだ? 何か対処する手立てはないのか?」
そんなやり取りの中にダークエルフの疑問が当たった。
どうにかできるのか? 敵をぶち殺すなら俺たちの出番だが、ご対面する相手の規模が分からないんだぞ。
「そのうちお邪魔しにくるテュマーたちを撃退できれば諦めるだろうさ。ここを丸ごと戦場にしてだがな」
ところがしばらくして、ステアーがそんな疑問を解消してくれた。
これから来る連中をやっつけるという単純な解決法だ。
だけどこんな状況じゃ戦えないだろう。
敵の詳細は不明、気分はどん底、町の頼もしい奴が消えてぼろぼろだ。
スピリット・タウンの皆さま総出で絶望したくはなる気持ちは分かる。
「……てことは、俺たちの安全にせよ町の為にせよ、敵を全員ぶちのめせばいいんだな?」
でも俺たちは違う。そもそも似たような経験が最近あったからだ。
スティングを戦場に変えて大きな敵に打ち勝ったあの事件だ。
まあフランメリアの頼もしい奴らや、ウェイストランドのおっかない連中の手助けがあったからこそだが。
それでも俺たちは、あの戦場で妙なクセがついてしまったらしい。
「敵は間違いなくここに来るのだな? 迎え撃っても構わんのだろう?」
ノルベルトが血の付いた戦槌を拭いてやる気満々に笑みにきた。
いきなり真っ向から戦うという選択肢が出て、ステアーが戸惑うも。
「そうねえ、私から言わせてもらえばもうここで戦うしかないんじゃない? 逆に言えばここで戦わないと、仮にこの町の民が逃げ延びても心は一生折れたままになるのよ?」
女王様も大賛成だ。町の様子を見て可能性を探ってる。
「ここは心のよりどころですもの。失う痛みの方が強いに決まっていますわ」
宿からエプロン姿のリム様もてくてくやってきた。
人外の魔女姿にまで言われて、ステアーも信じられなさそうな顔だ。
「それは、冗談ではなく正気で口にしているんだろうな?」
それから不安の募ったままに問いかけてきた。
あいにくストレンジャーは黙ってやられて引きさがる性格じゃない。
「正気だし本気だ。スティングよりマシとか言ったら怒る?」
「怒らないが。いや、こんな状況でそんなことを平然と言えるお前がおかしいと思ってきたよ」
「否定できないな、でも何もしないで引き下がるのが性にあわないだけだ。旅を邪魔されるってのが一番腹立つ」
決めた、テュマーがなんだ、ここでぶっ潰して旅先の安全を確保だ。
このまま見過ごして町が滅んだらあのド変態に仕返しされたみたいで腹立たしいのもある。
よって全員ぶちのめす。そう親指で北の方角を指して。
「俺から提案だ。敵を迎え撃ってここを守り切るってのはどうだ」
これから来るであろう敵を全滅させると伝えた。
さすがにいきなりすぎて面食らってるものの、ステアーは部下と考えて。
「……俺たちの力になってくれるってことか?」
何人分もの視線を伴って、落ち着かない様子で見てきた。
きっかけ次第で戦う覚悟ができそうな面構えなのが救いか。
「どの道、最悪の経験をこうして共にしたんだから引けないだろ。確かにここを見捨てるって選択肢もあるけど……」
俺はそんな奴らから――時間が止まったように動かない住民たちを見た。
「あるけど、なんだ?」
「あんたの教えてくれた宿がいいところで、しかもおっちゃんが親切だったんだ。一人1000チップもするのに満喫しないで出て行くのはもったいないし、しかも『やばいからさようなら』なんてしたらボスにぶっ殺される」
もうどうであれ他人じゃない、どっぷり足を踏み込んだ余所者だ。
あの変態はともかく、ここは滅んでいいほどしょうもない場所じゃない。
「それにさ、後ろから遅れてやって来る奴らがいるんだ。そいつらの為に道を切り開く約束しちゃったもんだから、ここを廃墟にするわけにはいかないんだ」
こう約束したよな、帰り道を確保してくるって、
色々なやつに見送られてやってきた手前、テュマーごときで道中の町を一つ潰されるわけにはいかない。俺たちの勝手で見捨てるなんてなおさらだ。
「うむ、俺様たちはフランメリアの戦友のために先駆けとしてここに来たものでな。だというのにここを落とされたら後続の者たちに合わせる顔がなかろう?」
ノルベルトも不敵に笑った。
そうさ、ずっと後ろには戦友がいるんだ。世話になったお礼として快適な旅路を約束するぐらいはしておきたい。
『……うん。わたしたち、困ってる人は見捨てられないもんね?』
肩の物言う短剣からはそんな頼もしい言葉だってある。
ストレンジャーの役目は「せいぜい世の中捨てたもんじゃない」と思わせるぐらいだ。それをここで成すだけだ。
「ん。テュマーと戦うように訓練されてるから、いつでもいける」
ニクのじと声も混ざった。クールすぎる顔は自信いっぱいだ。
「テュマーって首落とせば死ぬんすよね、だったら問題ないっす!」
「私は戦うことはできませんけれども……皆様の支えになることはいくらでもできますわ。せっかく宿のおっちゃんにお料理を教えたのにお別れだなんてもったいない!」
ロアベアとリム様はこんな事態でも平常運転だ、だからこそ頼もしい。
「豊かな土地がこれほどまでにできているんだ。ここを捨てずに最後まで抗えばさぞいい町になるぞ、そうだよなクリューサ」
「こんな変態を崇めていた街がどうなろうが勝手だが、テュマーのせいで俺の睡眠時間が削られて腹が立っている。奴らに仕返しぐらいしてもいいだろうな」
医者とダークエルフも乗ってきた。安眠を妨害された恨みが募ってる。
「私はとっくの昔に戦るつもりよ。紅茶を一杯売ってくれたお礼と思って棒を振るってやるわ」
最後に女王様がたっぷりの自信を振舞って、やっとステアーが頷いた。
「……分かった、このまま何もしないのは愚策だ。できうる限りのことはする」
「オーケー、じゃあまずは地形や装備の確認だ。それと――」
監視者たちのやる気も決まったみたいだ。
ステアーを筆頭にぞろぞろ集まってきてくれたが。
「ところでね、士気っていうのは本当に大切なのよ。反面、こういう空気は風邪みたいなものでどんどん広まってくの」
そこで女王様がさっきから目にかけていた町の連中を急に持ち出す。
葬式ムードはそろそろ本番に入りそうだ。あれをどうしたものか。
「分かるよ、このままじゃあの人数分の盛大な葬式になりそうだからな」
「まあ、そうねえ、ところで私の昔話だけど聞いてくれる?」
「なんだいきなり」
「昔ね、チャールトンたちと一緒に冒険してたんだけど。自分たちよりはるかに数も質も高い敵と戦うことになったのよ、しかも頑強な要塞付きでもうマジもう無理よ」
「チャールトン少佐もかよ。それにしたって分の悪い戦いだな」
「ええ、でも私たちはそれならと敵の士気を削ぐことにしたの。補給を断って燃やして奪って、孤立した敵をぶちのめして、攻撃に移らせないで神出鬼没の奇襲攻撃で眠る暇も与えず嫌がらせしまくり」
「ほんとに嫌がらせの極みみたいなことしてんな女王様……」
「うん、それで士気が下がってもうぐだぐだよ。頭おかしくなった兵が続出して逃亡者もいっぱい、守りも薄れていい塩梅だったので全員ぶち転がして奪還しました。以上」
『……チャールトンさん、どんな冒険してたんだろう』
聞く分にはひど……大変そうな話だが、最後に女王様は「それで」と加えて。
「何が言いたいかっていうとね。士気まじ重要、こんな全員棺桶にぶち込まれそうなムードだったら滅びてもおかしくないわ。でも少しでもマシになれば自発的に戦う人が増えるのよ」
「じゃあなんだ、パーティーでもして士気を上げろってか?」
「それはいい考えね、おやつと紅茶があればさぞいいでしょうけど……でもひとまず大事なことがあるわ」
「その大事なことってなんだ?」
「何もしない、という状況を作らないことよ。何かをさせて少しでも希望を持たせる、ああやってぐだぐだ俯いてる状態を続かせてたら死んだも同然よ。よって私に任せなさい」
自慢の棒をかつっと地面に突き立てて、堂々たる姿で住民たちに向かった。
何をするんだ、と思いきや。
「――聞きなさい、スピリット・タウンの民よ!」
結んでいた金髪をしゅるっと下ろして、背の丈以上はある棒を高く掲げた。
どこまでも響きそうな声の勢いもあって絶望続きの顔が向く。
「あなたたちは今、選択を迫られてるわ! 一つはここで町と共に死ぬか! 二つはここから逃げ延びて、奴らから背を追われるように生き続けるか!」
しかし続く言葉の内容に、すぐ興味を損ねたようだ。
そんなところに――
「三つはこの町と奴らを戦わせて勝つかよ! 自由の気風があふれるこの町やらは、押し寄せる死にぞこないたちに潰されるほど弱弱しいものだったの!?」
棒の先が町の方をぶぉんとむいた。
そこにあるのは150年前、あるいはその倍の西部開拓時代の様子だ。
つい最近まではそれなりにやっていただろう、みんなが誇るほどに。
「あなたたちじゃなくてこの町が戦うのよ! 確かにあの事件は凄惨たるものだったでしょうね、あなたたちはディアンジェロという男によっていろいろなものを失ったけど――」
少し興味を持った連中が顔を上げた。まだ続く。
「今のあなたたちは空っぽよ! だからこそいいのよ!」
「だからこそ、だって? そりゃどういう意味なんだ?」
誰かが食いついた。それがきっかけとなって住民たちが次々顔を上げた。
「空っぽってことは入れ放題ってことよ! あなたたちは今だからこそチャンスがある! この町を自分たちで守って、本当の自分を手に入れればいい!」
そんな言葉がでかでか響いて、ざわめき始める。
中には立ち上がるやつもいるほどだ。実際、監視者たちも食いついてた。
「だからチャンスなの! ディアンジェロのおんぶにだっこから外されて、スピリット・タウンの人間としての自分を得る最初で最後のチャンスよ! あいつらはわざわざその機会を私たちにくれたのよ、だったら『テュマーに抗った町』として名を残すのはどうかしら!?」
彼女の声をきっかけにどんどん人が立ち上がる。
その声に従って、町の連中が不思議と寄って集まっていく。
「――そうだ、チャンスだ」
「……そうかもな。こんないい土地に巡り合えたんだ、偶然なわけない!」
「うん、そうだ……! 俺たちはまだ、この町らしさを得ちゃいねえ!」
女王様の声に町の連中が不思議と寄って集まっていく。
けっして不安が消えたわけでもない。それでも何かしないといけないという気持ちもあるんだろう。
そういった考えが果たして伝染していったのか、動ける奴らが集まり。
「あの男に裏切られたのは確かよ、だったらそれを上回る良い結果を作ればいいだけ! あなたたちの手で上書きして、この町に自分たちだけの歴史を刻むのよ! 今から名を上げて世に認められるチャンスと思いなさい!」
最後にそう一声広がると、スピリット・タウンの連中は沸き上がった。
地べたで絶望しふさぎ込む人種はもういない。あるのは戦う気概だけだ。
「よし、よし……! 武器だ、武器集めてこい!」
「何かできることはないか!? いや、とにかく襲撃に備えなきゃ」
「戦うぞ、テュマーどもにこの土地をくれてやるもんか!」
「ど、どうすればいい!? 何をすれば」
「落ち着きなさい! ここには頼れる監視者や"ストレンジャー"がいるでしょ!? あなたたちより戦いに慣れた者に従いなさい!」
人々がごちゃごちゃと街中で混ざり合う最中、女王様は俺たちを示した。
実にいいところに立っていたストレンジャーズにその目が集ってくる。
「なんで俺?」なんていわないさ。ここまでずっとお膳立てしてくれたんだ、バトンタッチだ女王様。
「街の防御を固めて装備を整えて敵の状況を視察する、戦の基本! 彼らに判断を仰いで迅速に迎え撃つ手立てを立てなさい!」
「お、おお……そうだ! そうだな! ストレンジャーがいた!」
「おい! 俺たちどうすればいい!? なんだってするぞ!」
「ほ、保安官! 何をすればいいか教えてくれ!」
「くそったれテュマーをぶちのめせるなら喜んで戦うぞ! 指示をくれ!」
そんな注目に立たされた俺やステアーはえらい変わりように戸惑っていた。
幸い、心をかき回された住民たちは銃を引っ張り出してくるほどに熱心だ。
「……だそうだぞ保安官殿、どうする?」
「やれることはもうなんだってするさ、依然変わりなくな」
「なら急いで敵に備えるぞ。とりあえずこっちの戦力の把握からやりたい」
「今から装備や人員をかき集める。使えそうなやつは消防署まで連れてくぞ」
見た感じは数十人か。やる気に満ち溢れて、武器すら自前で持ってくる奴らが元気に集ってきた。
女王様に抜きだされた住人たちは指示待ちだ。生かすも殺すも俺たち次第といった具合か。
こんな人数を率いろということらしい。幸いにもそういった姿はスティングでさんざん見せられた――やるしかない。
「……オーケーお前ら、やる気があるやつはついてこい! 監視者の詰所まで移動だ! 何か案があるやつ、何かしたいことがあるやつがいたら移動しながらなんでも話せ!」
「おっ、俺、銃の腕には自信があるんだ! 狙撃とかできるぞ!」
「罠だ! 罠をしかけるってのはどうだ!?」
「北へ向かう途中にいい地形があるんだ! そこで待ち伏せて――」
俺は雑多な姿を引き連れて、消防署へと大急ぎで向かった。
到着するころにはついてくる住人の数が倍に増えていた。
◇




