22 もう逃げられないぞ☆ ストレンジャー味
「――お前が言ってることがマジなら、あいつのクソみてえな性癖のせいで濡れ衣着せられてたってことかよ!?」
「あんたの言う通りマジで捕まえたテュマーとよろしくやってやがった!」
「はぁ!? 俺は半分冗談だぞ!? そんなやべえド変態だったのかあの野郎!?」
「もう半分が当たってんだよ、クソが! そのカメラが証拠だ!」
俺たちは根強く明るい街中へと早歩きで進む。
郊外にいたハーレーたちをたたき起こして、無理矢理連れて事情を話せば眠気も吹っ飛んだらしい。
「――な、何だこりゃぁ!? な、こ、畜生なんてもんみせやがる!?」
「そのセリフはもういい! あいつはナイツを食肉加工したんだよ!」
「あの野郎……! 全部あいつのやらかしで、それを俺たちに擦り付けてあんな涼しい顔してやがったのか!?」
「それも今日で最後だ! 酒場にいるうちに押し掛けるからついてこい!」
ハーレーは例のカメラを一目見ればもう十分だったみたいだ。
テュマーにヘッドロックを決める変態の雄々しい姿が手元に戻ってきた。
「そういうことかよ! いやまて、じゃあ俺たちが立ち往生してる間にこのテュマーは――」
「さっき安楽死させられるまで救援信号を送りながらのプレイに勤しんでたわけだ、最高だろ!?」
「なんてこった……それじゃこの町はおしまいじゃねえか!?」
「これから栄えるか滅ぶかの話はあとだ! とにかくディアンジェロのやったことをバラすぞ!」
最低の事実にざわめく運び屋たちも連れて、布に包まれたテュマーを担いだ監視者たちと街へ乗り込む。
リム様たちがうまくやってくれてたみたいだ。深夜でなお輝く照明の下で、住民たちが相変わらず陽気でいた。
「おっ……おい、見ろあれ! 運び屋どもがこっちに来るぞ!?」
「監視者たちも一緒だ、どうしたんだあいつら?」
「ストレンジャー! なんなんだこんな夜中に! 後ろにいるやつらは――」
「結論だけ言うぞ! 全部ディアンジェロが犯人だ! ぶち殺すからどけ!」
「いやお前ぶち殺……いきなりなんだ!? ディアンジェロさんがどうしたんだ!」
「何があったんだストレンジャー!? あの人が犯人って、まさかテュマーの件や失踪事件のことか!?」
「あいつが何かしたっていうのか!? そんなわけあるか、説明しろ!?」
あいつが待ち構えるであろう酒場の前にたむろする連中をかき分けた。
結果的に頭数を増やして、俺たちは西部開拓時代を引きずる店内へぞろぞろお邪魔することになるわけだが。
「……なんだ? 今日は一段と騒がしいじゃないか」
おっちゃんが経営する宿よりもずっと広いそこに、あのサイコ野郎はいた。
テーブルに乗った肉をつまんで酒も飲んで上機嫌のところだったらしい。
満席の酒場は仲良く語らう場になっていたが、押し入ってきた姿を見るとすぐにあいつの顔色が変わる。
「――あら、お帰りなさい」
客でいっぱいのそんな店内で、カウンター裏にいたリム様がにっこりした。
妖しい赤の瞳は「やっておきましたわよ?」とメッセージが浮かんでいる。
人混みに混ざっていたノルベルトやロアベアも気づいたようだ。
(やるのだな?)
(ああ、逃がすなよ)
(逃すものかよ。さあやってこい)
さりげなくオーガの姿に目配りして入り口に向かわせた。
酒場は余計な客で溢れて、そこにノルベルトがつっかえて逃げ場は塞がれた。
「こんな時間におしかけてきて、一体どうしたんだこいつら……?」
「見ろよ、運び屋どももいるぞ。監視者たちも全員揃ってるみたいだが」
「す、ストレンジャー? 怖い顔してどうしたの? 何なのよもう……」
「き、聞いてくれみんな。こいつが言うにはディアンジェロさんが――」
「ああ、テュマーの接近やナイツの失踪が彼のせいだと……」
人外混じりの騒がしい店の中、町の連中は当然ざわめく。
どいつもこいつも「まさかディアンジェロが」という顔だが、当の本人は。
「俺? 君はこの町の異変の原因は彼らではなく、俺にあると?」
食べかけの串焼きの肉を下ろして、引きつった笑顔で言い返してくる。
落ち着いてるように見えるが声は震えてるし、返す視線も不安定だ。
「そうだな、なんたってお前の隠れ家に大事な愛人を置き忘れてたからな」
そんな様子に「やれ」と監視者たちに手で合図を送る。
すると酒場の上に布で包まれたヒトガタが置かれて、ステアーとクリューサがそれをきびきび解き。
「見ろ、みんな! こいつがテュマーを呼び寄せた原因だ! このクソ野郎は女性のテュマーを飼ってやがった!」
「一週間以上も前から汚染地域と偽った場所でかくまっていたようだな。お前好みの女だったか知らんが、不衛生極まりない話だ」
明るい酒場の中、それは二人によって強い香水の匂いを伴って解き放たれる。
言うまでもないが頭をブチ抜かれた下着姿のテュマーだ。
きれいな女性に黒く汚れた肌が混じった様子は、客の酔いもさめるほど強烈だったに違いない。
「てゅ、テュマーだ……! ど、どこから連れて来やがったんだ!?」
「ひぃ……!? いきなりそんなもん持ってきて何なんだよお前ら!?」
「……まて。こいつ、香水の匂いがしないか? この匂い――」
店内は別の意味でにぎやかになっていく。
中には不快な香りに混じる香水に気づく奴がいたが、それがなおさらディアンジェロの気分を削いだのかもしれない。
「……な、なんだその……き、汚らしい、テュマーは? どうしてそんなものを公衆の面前まで……」
はっきりと動揺してやがる。笑顔が消えて血の気が青くなった。
化けの皮がはがれてきたディアンジェロを見て、俺は続けることにした。
「テュマーがやって来たのは運び屋のせいじゃない、誰かが東の廃墟にこいつを閉じ込めてたからだ」
「き――君はつまり、俺がそんなやつを町のそばまで連れ込んだと言いたいのか? 馬鹿げてる! どうして私が町を危険に晒すような真似をしないといけないんだ!?」
「もしかしたらお前は慎重にやってるつもりだったのかもな。ナイツに見つかって黙らせるしかなくなった時点でお前は失敗してるんだよ」
「ナイツが!? ディアンジェロさんが殺したって言いたいのかお前!?」
「違う、やったのは運び屋たちだ! この人がそんなことするはずが……」
さすがディアンジェロだ、住民たちはやすやすと認めたくはないらしい。
それでも信頼における人物が震えあがるのを見て、流石の周りも不信感が募っていく。
「あなたたち、失踪当日のことは覚えてるかしら?」
そこにいいタイミングで女王様が言葉を差し入れてくる。
「覚えてるに決まってるさ! 運び屋が来て、テュマーが来て、それからナイツのやつが消えちまったんだ!」
「あいつらが来てから二度とも妙なことが起きたんだぞ!? どう考えてもそいつらの仕業としか思えないだろ!?」
「ええ、そうね。あなたたちからすれば運び屋が怪しいでしょうけど――」
客のリアクションをそうやって引き付けると、視線で「さあやれ」とばかりに引き継がされた。
その通りにしてやろう。俺は雑貨屋の手帳を取り出して。
「あんたらの言う通りこいつらは怪しいだろうな。でも運び屋を疑ったのはナイツもだ、だからあいつは雑貨屋でガイガーカウンターを買ったんだ」
「ガイガーカウンター? それがなんだっていうんだ!」
「ナイツは疾走する前、運び屋がガソリンを探して廃墟を漁ってるのを不審に思ったらしいな。ここに書いてある通りに、わざわざ雑貨屋で購入して一人で廃墟の様子を見に行ったんだ」
適当な客に投げ渡した。
手にしたやつの周りにぞろぞろと人が集まると、ディアンジェロが強張った。
「それは……見に行って当然じゃないのか!? 不審な様子があれば監視するのが彼らの務めじゃないか!」
「ああそうだな。でも地図には嘘が書かれてたんだ、ガイガーカウンターのおかげで存在しない汚染地域が一つあることにあいつは気づいたんだ」
客たちは「カルカノさんの記録だ」とか「ナイツの奴が」とか「どうして下着をこんなに?」だとか口々だ。
次第に俺とディアンジェロを見て、不審なざわめき方に変わっていき。
「……ストレンジャー、どういうことだ? あの地図は確かにディアンジェロさん主導で書き上げたものだが、そこに嘘があるだって?」
ついに一人が訝しんできた。
ご本人がきゅっと口を閉じてにらみつけるのを見て、俺は地図を広げた。
「見ろ、東の廃墟の地図だ。実際に調べに行ったら、一つだけ放射能汚染されていない場所があったんだ」
「彼の勘違いだった、とかじゃないのか? 誰だってミスはするはずだろ?」
「それはここに何もなければの話だ。実際は汚染されてなかったし、パン屋に地下室が隠されてたのさ」
左腕のPDAと仲良くそれを晒した。
画面には事前にとっておいた例の派手なパン屋の看板が間近に写されている。
次に中も、その奥にあった不気味な階段も全部だ。
「こ、これって……あそこだよな? 気味悪くて誰も近寄らなかった……」
「ほ、ほんとに汚染なんてされてなかったのか?」
「そいつのPDAにはガイガーカウンター機能があるぞ。目立つものと言えば、ここ最近誰かが頻繁に通っていた足跡程度だったがな」
まじまじとその画面を見せると人だかりの間に動揺が広まった。
クリューサの言葉も混じれば、ようやくひそひそ怪訝に話し合ったようだ。
さあどうする、俺は中身を知ってるんだぞ、まだ苦しい言い訳をするのか?
「騙されるなみんな! こいつがいってるのは嘘だ! その写真はどうせ別の場所で撮ったんだろう!?」
どうやらまだ足あがくつもりだ。ざわめく群衆の前で大きく言葉を上げたが。
「……で、でもディアンジェロ……この変な看板は、どう見たって……」
「あ、ああ……あそこしかないよな。こんな目立つ見た目、他にあるかよ……」
あの変な看板が役に立ってくれたか、偽りようがないと広まった。
ディアンジェロは詰まった言葉に口をぱくつかせている。
今ここで証拠を全部出してやってもいいさ。だがまだだ、まだ関心を引く。
「悪い知らせがある、俺たちはついさっき中を探ってきた。そこでナイツの死体があったんだ」
「嘘だろ……? な、ナイツが死んだって……」
「遺体も持ってきた。ひどいザマだ、人間がやったと思えないぐらいにな」
俺は監視者たち、とくにステアーの顔色をうかがった。
数度は迷いが浮かぶものの、最終的に「なるようになれ」な顔だ。
「……これがナイツだ。無理に見ろとは言わないが、ここに真実がある」
外からもう一つの白い包みが持ち運ばれてきた。
布を貫通するほどの強い燻製の香りが更に食事の場を飾っていく。
でもそれは開くまでだ。誰かが、いや、たくさんの人が駆け寄った瞬間に。
「あっ……へっ……? あ、あっ……あああああああああああああッ!?」
「ひぃぃぃいいいいいいいいいいっ!? な、なんだこの……うえ゛……っ」
「ナ……ナイツだ、間違いないぞ! この髪、この顔の形……!」
「い、いやああああああぁぁぁッ!? な、なんなのこれはァァァ!?」
布を開いた途端、客の分だけの阿鼻叫喚がそこらを襲った。
腰を抜かして逃げる、振り向いて吐き出す、放心して眺める、パニックを起こして丸くなる――あらゆる反応が集ってる。
「待て、信じるなみんな! こんなむごいことをやったのは運び屋が……」
その中にもちろんディアンジェロもいたが、笑えない顔で立ちすくんでいた。
少し待った、何人かの人間が落ち着くのを見計らって。
「ナイツがガイガーカウンターを買ったとき、そいつでバレると思って焦ったんだろうな? 雑貨屋に行って在庫がないか店主に尋ねたらしいな?」
続きを尋ねるが、はっと我に返ったそいつは。
「――いいや! 俺は雑貨屋でそんなことは尋ねちゃいないぞ! いや、確かに雑貨屋にはいったかもしれないが、ちょっとした買い物に寄っただけで……」
確かにそう言ってしまった。
すると、後ろで酒場の扉がぎぎっ、と弱弱しく開く音がして。
「……この男のことを信じるんじゃない。そいつは確かに私の店に来たぞ! ガイガーカウンターがないかと必死の形相で尋ねたのも忘れるものか!」
見ればカルカノ爺さんが宿のおっちゃんに支えられながらそこにいた。
穏やかな顔は怒りに染まっていて、ディアンジェロの気が押された。
「つまり真相はこうだ。ナイツは知っちゃいけない場所を知った、それがこの汚染地域モドキだ。だからお前はカルカノ爺さんに尋ねて慌てて追いかけた。そして見つかったんだろ? その結果が――」
更に続けた。今度はクラウディアがナイツの変死体の頭を探って。
「クリューサの検死の結果によると45-70の弾を頭部に受けて即死だ。この弾は狩人が良く使ってる弾らしいな?」
混乱を過ぎてすっかり聞き入り始めた客たちに問いかけた。
強く反応したのは、さっきディアンジェロと絡んでいた連中だ。
「……45-70っていや、ディアンジェロの銃だよな?」
「ああ……俺たちみんな308口径だ、そうじゃないと弾が貫通しねえ」
「あれで仕留めるのはあいつだからこそ、だよな。じゃ、じゃあ……」
いい言葉を作ってくれた。恩人に不審な目を向けている。
間違いなく購入履歴に弾の種類まで残ってるんだ、逃げようがない。
「べ、別に俺だけその弾を使うとは限らないだろう? それこそ運び屋だって」
「悪いな、俺たちは身軽なもんでな。小銃よか拳銃やらの方が似合ってんだ」
苦し紛れに運び屋たちに矛先が向くが、ハーレーたちは銃を見せてくれた。
拳銃に切り詰められた散弾銃、狩りなんかに合わないそれが証拠だ。
「ディアンジェロ……お前……」
誰かがはっきりとそう疑って、さぞ肩身の狭い思いをしてるだろう。
町の連中の不信感は上昇中だ、畳みかけるぞ。
「し、しかしだな!? まだ他に同じ口径の銃を持ってる人間がいるかもしれないだろ!? 町ごと洗いださないと俺の使ったものだと断定できないじゃないか、言いがかりだ! それにこの死体の有様はなんだ? どうして俺がここまでやらないといけないんだ!」
「そうだな、考えが三つある。死体を処理するのが面倒だったか、それかご馳走したかったか、それか」
次の言葉に、俺はナイツの死体を指で示す。
ちょうど噛み跡が残るところだ。好奇心のある客がまじまじ見始めたので。
「両方だ。死体を処理して、ご馳走もできて一石二鳥か。まあこの花嫁さんの口には合わなかったみたいだぞ」
「この噛み跡はまさか、そのテュマーが? いやしかしどうしてテュマーを?」
そいつに向けてカメラを手渡した。
さすがにまずいと思ったのか手が伸びてくるが、ステアーが払いのけた。
「みんな、そのカメラを見ろ。そこにすべての答えがある」
保安官の硬い一言を受けてみんながぞろぞろと寄っていく。
一方でディアンジェロは後ろめたそうに壁際へと退くが。
「…………おい、冗談だろ」
「なんだよこれ……うわ……嘘だと言ってくれ……!」
「ディアンジェロ、お前これはどういうことだ? なんでお前……」
「この手帳に書いてある香水に下着……こいつに使ってやがったのか……!?」
「そういうことだったのか! やっと分かった! 一週間ほど前からずっとこいつが信号を……!」
関心を引いたネタはあっという間に広まっていく。
ぶちまけられた情報から答えをくみ取った連中もいるようだ、これでもうこいつの逃げ場はない。
「こいつは地図上にあった偽物の汚染地域でこいつを閉じ込めていた。そりゃ帰りが遅くなるほど一方的に愛し合ってたみたいだな? 大方、バレるか不安になって大量に摂取したリフレックスのせいで繁殖欲が高ぶってたんだろうな?」
「……香水の匂いがしたのも、帰りが遅いのも、そういうことだったのか?」
「嘘だと言ってくれディアンジェロ、お前はそんな……」
ディアンジェロに近づいた。また一歩下がっていった。
「つまり真相はこうだ。どっかからさらってきたテュマーを監禁したもののそいつを知られた、だからナイツを殺したんだ。そしてちょうどよく運び屋がいたわけだ、大量の岩塩を運んでるから車の部品を抜けば身動きは取れなくなる。それで住民が疑われようが運び屋の落ち度が疑われようが、どっちにせよお前にとっちゃ幸運だ」
そこに追加だ、運び屋たちがせっせと木箱を運んできてくれた。
整然と揃えられた車の部品がそこにある。住民たちは「まさか」な顔だ。
「おう、その隠れ家とやらにこいつがあったからな。随分器用にとってくれたじゃねえか? ああ?」
「こ、これって車の部品よね……? なんでこんな……?」
「ディアンジェロがやったっていうのか、これも……」
「都合が良かっただろうな、こいつの信号もキャッチしてテュマーが北から来たんだ。ちょうどその濡れ衣をかぶせるのに運び屋は都合が良かったんだろ? こんだけ信頼されてるお前のことだ、みんな信じてくれたんじゃないか?」
俺は背中の散弾銃に手をかけた。
回りの視線が完全に不信感へと変わっていくと、サイコ野郎は引く――が、そこに待ち受けるのはロアベアだ。
「……馬鹿げてる、馬鹿げてるぞ」
そこから放った一言といえば、相変わらず否定の言葉で。
「俺が、そんな、き、汚らしいテュマーの為に罪を犯したと言いたいのか、君は!? この町のためを思ってるんだぞ私は! なんなんだ、よってたかって私を疑って、そんなしょうもないものの――」
「ノルベルト! こっち来い!」
いいだろう、俺はノルベルトを呼んだ。
一瞬「俺様が?」というような顔をされたが、手にしていた戦槌をさして。
「そいつを貸せ」
「これか? 何に使うのだ?」
柄を突き出されたので分捕った。
オーガが使い道を尋ねるより早く、俺は大きく重たいそれを全身で持って。
「そうだな、こんなしょうもないものは念入りにぶっ潰すべきだよなぁ!」
「……ま! 待て! やめろォォォォォッ!」
床に伏すテュマーの顔面へとぶちこんだ!
かなりの重たい槌がその鼻先に落ちると――いうまでもないだろ?
酒場に生々しい粉砕音と、手元へ相応の感触が伝わった。
『ひっ!?』と声を引かせるミコには気の毒だが、もうそこにはきれいな顔が残っちゃいない。
「どうだ!? 二度と信号を送れないようにしてやる、こんな風にな!」
周りが全力で引いてる、ノルベルトも顔をしかめるほどだ。
構わずもう一撃を加えようとするも。
「て……テメエエエエエエエッ! いい加減に、しやがれええええええッ!」
ついにディアンジェロがキレた。
腰から回転式の拳銃を引き抜かれた。すさまじい速さだった。
しかし狙いは俺ではなく……その後ろにいたロアベアだ。
「う、動くな! 動くんじゃねえクソども! よく、よくも俺の嫁をぶち殺してくれたな! ええ!?」
軽々とした身のこなしで、その横合いから銃口を突き付けた。
きっかけができればその頭をぶち抜けるだろう。この先あればだが。
「お~……捕まっちゃったっす皆さま~」
「ふざけやがって! ふざけやがってよぉ! お前ら!? お、お前さえ、ストレンジャー、お前さえ来なきゃ二人でいつまでもいられたってのによぉ!」
そのまま、ディアンジェロは引いていく。
店の外へ――しかしまあ、人選ミスって言葉がある。
「許さねえぞ! いいか、動くな! このまま出てって、お前に復讐してやる! お、俺の嫁を、無残に殺しやがって! くそくそくそくそっ――」
支離滅裂な言動のまま、よだれも垂れた怒り顔で退店しようとするも。
「あっ、ディアンジェロ様。うちの頭は狙ってもあんま意味ないっすよ?」
――ごろん。
次の瞬間、銃口の先から飾りつきの生首が落ちた。
首無しになったメイドにそいつはしばらく固まって。
「…………は? ええ? あっ……」
真っ赤な顔が忙しそうに真っ青に変わった。
銃が逸れるのも仕方ない。メイドの身体がその隙にするりと抜ける。
「そういうことだ、さよなら。人選センスってのは大事らしいな?」
三連散弾銃を構えた。
向かう先はディアンジェロの腹、速攻で狙いを重ねると。
「――あっ、まっ、まってくれストレンジャー! ああそうだ俺がやったんだ、俺がっだからまず話を聞いて」
*Baaaaaaaam!*
トリガを引いた。
ど真ん中をぶち抜かれたディアンジェロが、開きかけの扉から締め出された。
まだだ。しっかりとどめを刺してやる。
後を追えば、街灯の明るさの下で腹を真っ赤にしたまま宙をもがいており。
「お……あ……エヴァ……たすけ……」
まだ何か言っていたので、構わず胸元に銃身を傾けた。
最後に見た顔はエヴァという名前に救いを求めていたが。
「あ、く、くそ、まだ死にたくない神様たすけ」
*Baaaaaaaaam!*
ぶっ放した。続きの言葉は地獄でやるといい。
「……まさか、あいつがそんなことを」
「くそっ、信じてたのになんてやつだ。いい奴だと思ってたのに……」
「うそでしょ……? 信じられない、そんな人だったなんて気づかなかった……」
「どうすんだよ、テュマーが来るってことだよな……? な、なんてことしやがったんだ、あのイカれ野郎……」
そんな死に様に文句を言うやつはいないらしい。
あるのはとんでもないものを残してくれたことに対する不満と絶望だけだ。
「ははっ……次はテュマーだって? 一体どうなっちまうんだ、俺たち……」
弔われそうにない方の死体の前で、ステアーがそう言うように。
◇




