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19 Day7

 しばらく寝込んでいた。

 あの爆発が何もかも吹き飛ばしたせいなのか経験値はたっぷり入っていた。

 つまりあの人食い集団もろともくたばった証拠だ。


 それでもやつらはまだこの街に残っている。

 リーダーを失ったここの連中はどうすればいいか分かっちゃいない。だらだらとこの街に居座っているだけだ。


 また死んだ、生きたまま食われ、腹を掻っ捌かれたままくたばった。

 あの痛みと恐怖はこれから先ずっと付きまとうだろう。

 ここは地獄なんだろうか? 人生を漠然と生きているだけだった俺への罰なのか?


 思い返してみるとそうだ。

 むかし両親が死んだとき「どうすればよかった」とただ放心しているだけだった。

 その時はけっきょく親友が助けてくれた。アイツが何もかも面倒を見てくれた。

 

 一人じゃ無力だった。素晴らしい運動神経があるわけでもない。頭がいいわけでもなく、かといって料理が得意だとか何かしらの特技もない。

 ああ、この世界に来てやっとわかった。俺は白紙だ。何にも書かれてない薄っぺらい紙だ。それも忘れられて机の奥とかで眠っていたやつだろう。


「どうすればよかったんだ?」


 この世界に来てから何かしたか?

 殺されて、生き返って、それだけで一歩も進んでないじゃないか。


 だがそれでも、あの狂人にようやくお返しをすることができた。

 そうだ。俺はよくやったのだ。死に物狂いで暴れて、絶望的な状況をぶち壊してやった。


「そうだ」


 PDAを見た。『112』という人間がこの世界で生きた証拠が事細かに表示されている。


「俺はもう、加賀祝夜じゃない」


 このステータス画面は俺だ。

 死んで蘇り、人をたくさん殺し、白紙の上にようやく名前が書かれたわけだ。


「生きてやる」


 立ち上がった。すぐに地上に飛び出した。

 目の前に広がる現実はいままでの常識が通用する世界じゃない。

 狂わなければ生き残れない、死ぬか生きるかの世紀末だ。

 

「絶対に生きてやる」


 砂嵐は止んでいた。オレンジの荒野の上で明るい空がどこまでも続いている。

 俺は、この見知らぬ地で生き抜かなければならない。

 漠然と生きて、なすがままの人生はもう許されない。


「殺してでも、生きてやる」


 ポケットから錆びたナイフを抜いた。あのとき始めて()を殺した時の戦利品だ。

 いやというほど見てきた殺人現場を抜けてあの通りへやってきた。

 リーダーを失ったカルト野郎が二人、店舗の前に突っ立っている。


「うぅぅぅぅおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 そんな奴らに馬鹿みたいに叫びながら突っ込んだ。

 手にはナイフを握って、隠れることなくまっすぐに。


「で、出やがったぞあの化け物! マジで生きてやがった!」

「なっ!? う、ウソだろ!? 死んだんじゃなかったのか!?」


 一人が鉄パイプ、もう一人が拳銃。

 俺はどんどん距離を詰めて、こっちに銃口を向ける奴に狙いを定めた。

 距離は十メートルほど。外したら死ぬ――それがどうした!


「――ッ!」


 立ち止まった、右腕を引き絞り、ブーツで地面を思いきり踏んづけた。

 腕を思いきり突き出して、握っていたナイフを手放す。

 錆びだらけの刃物がひゅんと音を立てて飛んでいく。


「なんだよあいつ気でも狂っぐひゅぅっ!?」


 こっちに拳銃を向けていたやつの目に錆びだらけのそれが刺さる。

 手にしていた獲物が地面にからっと落ちた。まだだ。あらん限りの力で距離を詰めた。


「あっ……う、ウソだろ……おい、こっちくんなよ。なあ、俺が悪かったよ! だからやめようぜ!? もうリーダーもいないし、なっ!?」


 もう一人がおびえて得物を手放すのが見えた。

 構うものか。手ぶらになったそいつを思いきり突き飛ばした。


「ひっ……! や、やめろ! 来るな! 化け物! いやだ死にたく」


 地面に転がった鉄パイプを拾って、両手で構えた。

 狙いは尻もちをついたカルト野郎の首だ。


「――今度はお前らが死ぬ番だ」


 鉄パイプの先端を、体重を乗せて相手の喉にねじり込んだ。

 人間二人分の経験値を手に入れた。


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