15 生ける嵐(紅茶風味)でゴリ押し解決
「そうか、その銃口が答えなんだな? つまり君たちはそれほど後ろめたい何かがあるんだろう? 監視者の失踪も、不可解なテュマーの接近の原因も関わっている、そうだな?」
西部劇さながらの有様がすぐそこだが、ディアンジェロは特に躊躇がない。
まっすぐ構えた小銃でドレッドヘアを赤く染める覚悟ができてるほどだ。
「そうだ、やっぱりこいつらが怪しいぞ! ディアンジェロの言う通りだ!」
「運び屋なんて嘘だ! 汚染されてない岩塩なんてこんな世界にあるもんか!」
そんな堂々たる姿に感化されたとでもいいたいのか、住民たちも迷わず運び屋たちの急所を狙いすましていた。
「クソがッ! なんだってこいつら俺たちのせいにしやがるんだ!?」
「ハーレー! こいつらどうかしてやがるぞ! やらねえとこっちが――」
「お前ら銃を下ろせ! おいディアンジェロとやら、お前は何様のつもりだ? ええ? ずいぶんと前から俺たちのことを目の敵にしやがって、何企んでやがる?」
それに対して取り囲まれた連中といえば、銃口があまりすすんでいない。
ハーレーとか言うやつのおかげだろう、何せ本人は腰にぶら下げた拳銃に一切触れずにいるんだから。
「なんだ、何事だお前たち!?」
「こりゃ一体何の騒ぎだ!? どうしてこんな真昼間から銃でご挨拶してやがるんだ!? 早く下ろせ!」
「監視者たち! 君たちの出番だ、今すぐ怪しいこいつらを捕えろ!」
「このクソ野郎の言葉に耳を貸すな。怪しいのはこいつの方だろ? 銃なんて必要ねえ、こうなりゃ檻の中だっていい、この馬鹿について一つ言わせてくれ」
この場面に監視者たちもぞろぞろやってきてもう滅茶苦茶だ。
そいつらすら銃を持ち出して余計にこじれてきた。そんなど真ん中に放り込まれてるんだぞ俺は。
一番の原因は誰だ? そう尋ねられたら黒髪の男を上げるとも。
「おい、ディアンジェロ。余計なお世話だろうけどこれ以上刺激するな、お前のせいで映画のワンシーンが撮れそうになってんだぞ」
さっきからやたらと責め立てているディアンジェロに一声かけた。
せめて銃ぐらい下ろさせようとするが、ぎりっと緊張した表情が向けられる。
声こそまだ落ち着きはあるものの、よく見ればトリガにかけた指が震えてる。
「……ストレンジャー、君はあいつらをかばうというのか? 今ここで奴らをどうにかしないと、次は我々に何が降りかかるか分からないだろ?」
すぐに顔向きは怪しい連中へと戻った。
これが北部の険しさを表現してるわけじゃないことを願うばかりだが、それにしちゃ決めつけが強すぎないか?
(イチよ、どう思う?)
銃声で賑やかになる一歩手前で、ノルベルトの低い小声が挟まる。
どう思うって? 俺の感想はこうだ。
来たばかりでまだ全容こそ分からないが、疑う材料は揃ってる。
問題はそれらを駆使してここまでこぎつく必要はあるかって話だ。どうしてこの黒髪の男は騒いでる?
(変だな。俺にはこいつが扇動してるように見える)
ディアンジェロと、そばで好き放題に罵詈雑言を浮かべる住民を見た。
それからその近くで困惑する監視者たちも。本来であればこの場を取り仕切るやつは誰かぐらい分かってるはずだ。
(奇しくも俺様も似たような感じといったところか。まさしくそうだ、この男はなぜひとりでこうも騒ぎ立てているのだ)
(奇しくもね、二人になったらそれはもう偶然じゃないだろうな。こんな真昼間に堂々と物申すのはよっぽど勇気か正義感でも溢れてるに違いない)
(監視者とやらたちが見ているというのにな)
(そうだ、こいつ独断でやる理由はなんだ?)
ノルベルトも同じ気持ちだったようで、俺の考えに頷いてはいる。
となると次の問題は「じゃあこいつは何がしたいのか」だ。
ドレッドヘアに銃を向ける姿は変わることなく撃つ機会を探ってた。
(……いちクン、聞いて)
オーガとストレンジャーのこそこそ話に肩の短剣も混じってくる。
この言い方はやっぱりミコも感じたものがあったに違いない。
(どうした?)
(このディアンジェロって人、ちょっとおかしいよ。ちゃんと後で詳しく説明するから――)
(なんとかしろってか? そのつもりだ。俺だって妙に思ってるからな)
(フハハ、正確には俺様たちだろう?)
(やっぱり……。あのね、手短に言うと表情とか声とか、違和感を感じるの)
(俺の気のせいじゃなかったみたいだ、きな臭くなってきた)
さて問題は、そんな汗をうっすら流して緊張してるディアンジェロ――いや全員の銃口をどう制するかだ。
クリューサはともかくクラウディアは「やるならやるぞ」と腰の短剣に指をかけていた。
「……ご主人、どうするの? 止めるならできる限りのことはするけど」
ニクは鼻をすんすんさせながら槍を掴んでいる。
リム様は無言で運び屋と住民を見比べていた、動ける人数は僅かか。
「おいディアンジェロ、ちょっと落ち着けよ? お前が元気すぎてみんなビビってるだろ? ここは一旦引いて一番偉いやつに任せておくのが賢明じゃないのか? それともお前、肉焼くとき他人の焼き加減とか勝手に取り仕切っちゃうタイプ?」
ノルベルトと暴れて鎮圧するのもいいが、この件はこいつが原因だ。
手を広げてひたすら敵意も戦意もないことを伝えるも。
「だっ――だがなストレンジャー、こんな怪しい奴らを一週間も野放しにしてるような連中だぞ? 君には分からないと思うが、ここは生まれてさほど経たない希望の地なんだ! そんな場所に不用意に怪しい輩を引き入れるなんて不用心だと思わないのか!?」
今までよりも少し早口で、叩きつけるような言葉が返された。
でも効果はあったようだ。住民たちがいくらか銃を下ろしている。
「ここは俺たちの希望の地なんだ! みんなが手を取り合ってのどかに暮らしていたのに、こいつらが来てからおかしくなり始めているんだぞ!?」
「……そうだ、俺たちは今まで平和に暮らしてたよ」
「なのにおかしいでしょ? いきなりよからぬ変化がやってきてみんな不安よ」
まあ、十を超える得物が向き合う状況なのは変わりなさそうだ。
「――だそうだが、保安官殿」
次に声を発したのはずっと黙っていたクリューサだった。
向かう先はこの場に居合わせるようになったステアーの姿で。
「ディアンジェロさん、落ち着いてくれ。あんたの街を思う気持ちは分かるさ、だがこいつらはよく見てきたよ、今のところは問題を起こしていないお客様だ」
なるべく刺激しないように穏やかな物腰で説得にかかってきた。
さすがに保安官の態度を見て安心したのか、場の緊張がマシにはなるが。
「じゃあ君たちの一人が行方不明のままという事実はどうなるんだ! 一週間も姿をくらましているらしいじゃないか!」
まるでそれも許さないとばかりに食らいつく。
ステアーはともかく周りの監視者たちの目がつられてしまった。
「……確かに、言う通りだ。いきなり姿を消すなんて今までなかったよな」
「あのディアンジェロさんが言うんだ、やっぱりあいつらが……?」
「で、でも一度もトラブルは起こさなかっただろ? いや逆に怪しいのかもしれないが……」
「だからそいつも俺たちには関係ねえっていってんだろが!」
「黙れ! やっぱりお前たちが何かしたんだろう!? ここは俺たちの町だ、好き勝手やらせねえぞ!」
なんだったらさっきよりもトリガに向かう指の力は数倍増してるはずだ。
こっちもディアンジェロをぶちのめす方向性が浮かんだところで。
「――勝ったわ! これが女王パワーよ!」
そんな場面にものすごく場違いな奴がきてしまった。
カジノの方角から、この世の勝利を収めてきたような女王様がお帰りだ。
「イチ様ぁ~、有り金全部溶かしちゃったっす~」
ああそれから、有り金全部溶かしてきたダメなメイドだ。
もうやだこいつら。この状況を遠目に見て何かしら気づいてくれないのか?
「――なっ、なんだ君たちは!?」
「あら、どうしたのよこの有様は。喧嘩?」
「なんすかなんすか、決闘っすか」
「あー、おかえり女王様とダメイド。ややこしいことになっててどうにかしようとしたつもりだ」
『ほんとにカジノいってきたんだこの人たち……』
「きいているのか!? 今我々は重要な話をしているんだ! この街の存続にかかわる――」
チップを台無しにしてすがりつくメイドはともかく、女王様は長い棒を手にかつかつと銃口の間に挟まった。
だが一切動じない。たとえディアンジェロが口を挟もうともだ。
「まあまあ私のジャックポットに免じてやめなさいよ、せっかくいい気分なんだし、事情とか知らないけど話し合いでどうにかしない?」
マイペースを貫いて場の空気を滅茶苦茶にしに来た。
頼むからこれ以上刺激しないでくれ、そう思った矢先。
「てめっ……! ふざけんじゃねえぞ! 邪魔だクソ女ァ!」
まずい、運び屋の一人が散弾銃を向けた。
血の気が多い奴が間もなく頭をきれいに吹っ飛ばす、そんな状況で――
「あらそう。誰かがそう言ってくれるのを待ってたわ、ありがとう」
ぶぉん。
空気を押しわけるような鈍い音を立てて、長い棒でその手を打ち払った。
一瞬だ。一国の女王様が身をよじりながら短く先端を打ち込んだのだ。
「いっ――な、なにしやがるっ……!?」
その結果、銃床を切り詰められた散弾銃は空を舞った。
ちょうどこっちに飛んできた。痛がる持ち主から離れたそれをキャッチ。
「き、君っ!? 一体なんなん」
「はい次!」
ちょうどその時、今度はディアンジェロへくるりと身体を潜り込ませる。
慌ててあいつが得物ごと引くが、それも逃さずびゅんっと鋭く突いた。
一瞬にして誰かを撃つはずの小銃がくるくる空を舞っていく。
すかさずそれを棒で弾いて、こっちにトスしてきた――マジかよこの人。
「でぃ、ディアンジェロさん! なにをしてるんだ、この――」
「て、敵かっ!? こここっちに来るなぁぁぁッ!」
いきなりの棒術の襲撃に住民たちが慌てふためく。
誰かがぱんぱん拳銃を放つも、女王様はまるで弾が見えてるかのように左右にステップしつつ。
「次で四つ!」
銃口の先で地面を踏んで反転、それに合わせて発砲されるもまた避けた。
「はぁぁぁっ!? ここここいつどうなってぐえっ!?」
そしてリーチを生かして武器を叩き落とし、その勢いの返す刀が足を払う。
一名ダウン。そばで呆気にとられる奴の足も巻き込んで二人目だ!
「おいおいどうなってんだこの姉ちゃんは――」
「今、弾避けなかったか……?」
「これで6!」
いがみ合っていた運び屋と住民が仲良く唖然としていたが、そこにも彼女は襲い掛かる。
攻撃の慣性を生かすようにゆるりと迫り、掬いあげるかのように男を足からかちあげる。
そいつが派手に背中から転んだ矢先、身をかがめて女性の腕を棒で絡めとって地面にテイクダウン。
「おいふざけんなっ!? 今俺たちは――」
「まっまて! 分かった! 下ろすからもう分かったから!」
「あなたたちもついでにやられときなさい、めんどいし!」
あんまりの急な出来事に、残ったやつらも文字通りお手上げだ。
しかし女王様の嵐のような猛攻は、きっと急に止まれない性質なんだろう。
先頭の誰かを押し払うように地面に倒して、その隣の奴も棒――とみせかけてスライディングで転ばせる。
「こっこっちくんな!? 何だこの姉ちゃんはァァァ!?」
「ふざけんな畜生! 舐めてるんじゃねえぞ!」
「これで十!」
つい武器を向けてしまった住民も運び屋も、まあ哀れな犠牲者になるわけだ。
起き上がるなり手を打ち下ろされて無力化、痛がる姿を退けて続けて半回転。
そして最後の一人が石突きで胸を突かれて「ぐへっ!」と派手に転ぶ。
「両者そこまでよ、本気で叩かれたくなかったら武器を下ろしなさい」
あっという間に銃を向け合う集団を平らげた女王様はにっこりだ。
どうにかいい汗をかいたぐらいで、棒くるっと煽って周囲を制している。
「……おい、ストレンジャー。彼女は何者だ? 一体どうなってるんだ?」
そんな涼しい顔に俺たちは圧倒されてるが、ステアーもなおさらだ。
「アメリカに密入国してきたどっかの国の女王だ。なんだあの化け物」
「よほどおっかない国に違いないだろうな」
一体、僅かな時間で何人制圧したんだ?
十人だ。十人の武装した人間が武器も落として動けずにいる。
しかも本人は全然やる気を出してない。その気になればあの棒で頭をカチ割って皆殺しにできるはずだ。
「棒で全員やっちまうなんてバケモンかよ……なんてもん見せやがる、くそっ」
運び屋のボスが言うように、ほんとにバケモンだ。
全員が呆然とするほどの光景だった。嵐が去って静寂だけが残されてる。
『す、すごい……一瞬で終わらせちゃった』
「ノルベルト、なんだあの強さは」
「イグレス王国の女王は存じの通り自由奔放な生きざまだが、棒術と弓術に長けたことでも有名でな。実際目にするのは初めてだが、すさまじい物よ」
「誰かの言葉そっくりに返すぞ、バケモンかよ」
「ふっ、彼女は生ける嵐と呼ばれているぞ。かの国で戦が起きた時、その前線にて直々にクォータースタッフ一本で殴り込んで500人を叩き殺したという逸話もある」
『ごひゃくにん……!?』
「じゃあ俺たちの目の前にいるのは500人殺しの犯人か? ……いやあの人ならなんかやりそー」
犯人は棒で器用に武器を押し退けて、掃除気分でこっちに掃いてくれた。
物理的に事を済ませておいてさも何事もなかったかのような笑顔だ。
「ただいま、ちょっと大当たりしてきたわ。それで一体何事なのかしら?」
財布の中身も体力も余裕そうな女王様はにっこり問いかけてきた。
あまりの恐ろしさに気づいて逃げ出す奴らがいる中。
「ああ、聞いてくれそこのお嬢さん。君に手短に話そう、この怪しい男がこの街を脅かしているんだ。不審な点もいくつかある、近頃の事件と深く関わっているとしか――」
「おい姉ちゃん、こいつらの話を信じるな。このディアンジェロっていうやつが俺たちを悪者扱いしてるっていったら信じてくれるか?」
黒髪とドレッドヘアが事の説明をしてきた。
落ち着きを取り戻した言葉と、必死の説き方を前に生ける嵐は。
「そう、じゃああなたは勇敢にも自らの意志でこの男の悪しき所業を暴こうとしたのね?」
まず、ディアンジェロの方を向いた。
感心するようなヴィクトリア様にぶんぶん頷いて「そうだ」と表すも。
「街のためを思ってくれてるみたいね。でもね、それは貴方たちではなくてしかるべき人物に一任すべきじゃないの?」
女王様は長い棒を担ぎながらどこかを向いた。
こんなやり取りに巻き込まれてうろたえている監視者一同がいる。
「そ、それは……監視者たちに危機感がなかったからだ。誰かがいずれ目を向けなければならないと思って、だからこうして」
「言い訳は結構よ。主張を無理矢理押し通すためだったら何をしてもいいわけじゃないいのよ、この街の掲げる古き良きなんとやらはそんなもの?」
それから街の南側に立った看板を顎で示した。
今じゃただの「スピリット・タウンへようこそ」になってそうだ。
そのことに気づいたのか、何人かの住人たちが悔しそうに去っていく。
「ちゃんと頼るべき相手に頼る、それが一番よね?」
やがて黒髪の男すらもしぶしぶ去っていくと、ステアーたちの方を向く。
誰一人として否定できない状況だ、みんなそうだと首を縦に振っている。
レイダーらしい連中からは感心の口笛が口々に上がってるぐらいだ。
「……その通りだ、俺たちがしっかりしないと駄目じゃないか」
保安官がやっとそう認めると、この場の空気もマシになってきた。
「そうだったな。もう言い訳はできねえよ、俺たちのミスだ」
「こんなことになってすまない、ちゃんと目を向けるべきだった。ええと……」
「俺は責任者のハーレー、岩塩を運んでる運び屋だ。自分たち以外信用できないからって頼らなかったこっちの責任も一理あるよな?」
ひとまずは監視者と運び屋は和解できたみたいだ。
この街におけるお互いの意識が変わってきたところで、
「――ふっ、それでは失礼するわ。せいぜい仲良くすることね」
一仕事終えてすっきりした女王様はどこかへ行ってしまう。
街の『SHOP』という馬鹿でも分かる表現を辿って早足で入店された。
「――戻ったわ!」
……いやすぐに戻って来た。
ティーバッグの入った紙箱を山のように抱えて速攻で凱旋しやがった。
「お帰り女王様、ずいぶん早い英雄の帰還だな」
「これでこの街の紅茶は私が買い占めた!」
『大人買いしてる……!』
「大人買いっていうか大人げないだけだろ」
「後でギャンブルで勝って飲む新鮮な紅茶うめえって言いまくるわ!」
「重箱の隅をつつくようで悪いけど、それ150年前の新鮮な紅茶だぞ」
「150年も鮮度を保ってるとかチートか!? 持ち帰って研究しようかしら!?」
確かに嵐のような女っていう表現は正確かもしれない、訪れたばかりの町で紅茶を品切れにさせるんだからな。
「本当に申し訳ない、我々の管理が行き届かなかった挙句に、君たちを巻き込んでこうも助けてもらうなんて……」
個性的な顔ぶれ(と紅茶独占犯)に保安官が謝ってきた。
ハーレーは監視者立ちに事情を説明しつつまだ不機嫌だが、トラブルを起こそうとするそぶりはゼロだ。
「いいのよ、旅先を快適にするために勝手にやっただけだから」
「まあそういうことだな。これがあんたらの悩み事か?」
「そうなんだ。一週間も前からテュマーが不自然に接近していて、しかもそれと同時に我々のメンバー失踪ときた」
「その疑いが一つ晴れて事件解決に取り組めるようになったわけか」
「ああ、このままだと住民の不満がな。早く解決したいんだが人手が足りないんだ」
「ここまで関わったんだ、後でじっくり聞かせてくれ」
「いいのか?」
「ストレンジャーの仕事だ」
それだけ伝えた。
奇妙な顔ぶれに慣れたステアーは目に見えて嬉しそうだ。
「そうか、ありがとう。いやお礼はことを成してからか、とにかく今日はゆっくりしてくれ」
「そうするよ。おすすめの宿とかある?」
「あるぞ、そこのレッドアイっていう宿屋だ。不愛想だがいいところだ」
そこにクリューサの言う通りに休める場所はないかと尋ねた。
答えはすぐで、嵐が去った雑貨屋の隣にそれらしき建物がある。
スティングで見たモーテルよりもずっと古風だが、綺麗な二階建ての宿の出で立ちは魅力的だ。
「雑貨屋の隣か、買い物が楽そうでいいな」
「そうかもな、店主が気合を入れてお客様のために整えてくれているからな。値段も安いし気に入るはずだ」
「そりゃよかった、あれなら枕を高くして眠れそうだ」
「俺の紹介で来たとでも言っておけ、サービスしてくれるはずだ」
ステアーは別れの挨拶をしてから去っていった。
「ということで今日の宿泊先はあそこだ、いいな?」
『いいと思うよ。けっこう広そうだし……』
「……ん。見た目がきれいだね、変な臭いもしないし落ち着けそう」
「中々に趣のある外観よ。中もさぞ期待できるだろう」
「スティングより立派な建物っすねえ……あひひひ」
「まったくとんだ一日だったな、やっと休めるのか」
「フランメリアの宿に少し似ているな、なんだかわくわくするぞ」
「構いませんわ! あっキッチンお借りできるかしら!」
「紅茶が飲めるなら文句はなし! どうせだし私が全額払うわ!」
「良し決まりだな、全員全力で女王様のおごりに感謝しろ」
全員異論なしだそうだ、あとは俺たちを受け入れる余裕があるかどうかだ。
◇




