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12 スピリット・タウン

 肩には短剣、そばにはわん娘、前には年齢の割にお若い女王様。

 しばしついてくることになったヴィクトリア様と共に北へ向かえば、枯れた農地だらけの道も変わる。


 道すがらの光景にはっきりと緑が生え始めていたからだ。

 ウェイストランドの荒野に雑草や木が生きている。

 進めば進むほどそれは色濃くなって、誰かさんのもたらす変化がある。


「……なあお前ら、イグレス王国って分かるか?」


 段々と向こうに緑のかかった廃墟が見えてきたころ、俺は誰かに聞いた。


『そんな名前の国、ゲーム上に登場しなかったよね……?』

「そっすねえ、うちらが知ってるのはフランメリアだけっすよイチ様」

「でもそのフランメリアと思いっきりかかわりがあるんだぞ?」

『そうだよね……さっきヴィクトリア様、同盟国って言ってたし』

「もしかして後々のアプデで追加される予定だったとかじゃないっすか」

『あり得るかも。今後はいろいろなマップが実装されますってわたしたちに通達してたよね?』

「まだまだ新要素も追加するってものすっごい情報量送ってきたっすよね、運営さん。それなら実装予定のところだったんじゃないんすか?」

「なるほどな、つまり――」


 二人のヒロインにそう聞いたが「そんなの知らん」ということが分かった。

 後でいろいろ聞いてみるか。そう思いつつ自然が戻りつつある荒野を見れば。


「見てリムお姉ちゃん! なんかフランメリアのバケモンいる!」

「あっマジですわ! クレイバッファローおったんかワレ!」

「ということは紅茶のミルクに困らないじゃない! 勝ったわ!」

「やりましたわ! あとで乳製品の補充をしなくては……!」


 そんな道の国の女王様と、あとじゃがいもの魔女がはしゃいでいた。

 作物が全滅して緑が生い茂るようになった農地の上で、殺意マシマシな角を構えた黒毛の牛がサボテンを食ってる。


「……待てクラウディア、なんだあの牛のミュータントは?」


 相変わらず「モー」と見た目以上に貧弱な声で鳴く姿に、クリューサは少し驚いているようだ。


「あれはフランメリアの山岳地帯で生きるクレイバッファローだ。肉もうまいし牛乳もとれるぞ」

「誰が活用方法を教えろといった? まあ分かった、デタラメな世界のふざけた生き物なんだな。そうじゃなきゃあの大きさは説明できん」


 件の水牛モドキは魔女と女王に接近されてすごく嫌がってる。

 確かノルベルトが「うかつに近づくな」って言ってたよな?

 そう思ってるとご本人がクリューサのそばにやってきて。


「うむ、見た目はさながら要塞のようではあるが怒らせなければ温厚なものよ。可愛いかろう?」

「あいつらは草食動物だから心配はいらないぞ、餌さえあれば大人しいんだ。かわいいものだろ?」

「お前らの物の見方がおかしいのは病気か何かによるものか? くそっ、俺はこの旅で何度驚けばいいんだ……」


 二人の人間離れした感性に挟まれてえらくお困りのようだった。

 ストレスで胃がずたずたになってもどうにかなるだろう、だって医者だし。


「こいつがいるってことは先にもいそうね。あなたのおかげでこの旅も安泰よ」

「いいこと考えましたわ! この子連れて歩けば食料に困りません! 名前は授乳プレイ!」


 女王と魔女の地獄のような絡まれ方にえらく困ってるところに、俺もゆっくり近づいてみる。

 無視を決め込んでサボテンをぼりぼり食らっており、叶うものなら助けてほしそうにつぶらな目を向けてきた。


「おい、お前またサボテン食ってるのか?」

「モー」

『……また牛に話しかけてる』

「お~、クレイバッファローっす。こっちにいらしてたんすねえ」


 ぞろぞろ人が集まってメイドまで来ると、そいつはてくてく歩き始めた。

 後ろ姿は「もう付き合いきれません帰らせてもらいます」といった風貌だ。


「……お肉」

『ニクちゃん!? なんでそこで食欲出ちゃうの!?』

「あのお肉、柔らかくて大好き。またステーキ食べたい」


 もっと豊かで落ち着ける場所を求めるその背中にニクがじゅるりしていた。


「クラウディアが言ってたな、ああいうのがいると豊かな証拠だって」

『言ってたね……じゃあ、これから先は西みたいになってるのかな?』

「肉と牛乳にありつけてるのは確実だろうな」


 今のわん娘だったらやっつけてはくれそうだが、そんなことをする必要も、まして荒野で食事中のところを邪魔する権利もない。

 最後に振り返って罵倒するかのように「モー」と一鳴きして消えた。


「……行っちゃった」


 危機から逃れた牛モドキの背中に、ダウナーな犬っ娘がしゅんとしていた。

 ブラックガンズで振舞われたあいつのステーキはうまかったけれども、おかげでうちのわんこの舌はこうも肥えてしまってる。


「ニク。肉なら今度食わせてやるから、また会ってもそっとしといてやれ」


 落ち着けと頭をぽんぽんした。犬の質感混じりの黒髪で耳がぺたっとした。


「ん。ほんと?」

「ほんと。そのかわりナイフとフォークの使い方を覚えてもらうぞ」

「……そのまま食べた方が楽なのに」

「料理っていうのは食器を使うともっとおいしくなるんだよ」

『わ、わたしも教えてあげるからがんばろうね……?』


 今日から食器の使い方も教えないと駄目そうだ。

 お肉の約束に尻尾をふりふりしはじめたニクを連れて、また進んだ。

 廃墟が近づいてきて、そこで建設途中のままのビルが幾つか立っていた。


「それにしても「すてぃんぐ」とかいう街でフランメリアの人たちが戦ってたなんて……」


 そこで牛モドキをあきらめたヴィクトリア様が絡みにきた。

 好奇心旺盛な若々しい顔はあの出来事にすら興味を示してるらしい。


「なんていうか驚いたよ俺。あっちの人たちウェイストランドにすぐ順応してたし、こっちの人達ともうまくやってたんだからな」

『みんなすごく仲良くやってたよね。おばあちゃんとか、チャールトンさんがいたからこそなのかもしれないけど』

「そりゃそうよ、フランメリアって言ったらあの世界で初めて人間と魔物が共存するようになったところだし」

「そうなのか?」

「ええ、その関係性が熟すまでかなりの苦労があったそうだけども、おかげであの大陸は驚くほどの速さで文明を築いたもの。魔物の強みも生かした文化とか卑怯よ卑怯」


 この人の言うようにあんなやべー魔物と人が共存するのは難しいと思う。

 スティングの場合は既に「仲良くする文化」があったからこそだろう。

 あんな人間の思考感情から何もかもズレまくった連中をどうまとめたのか。

 それも多種多様な種族をだ。その苦労は俺には分からないが、そのおかげあってこうしてライヒランドをぶちのめせた。


「卑怯いうなよ。そういえばあんたのその、イグレス王国ってのはどうなんだ?」

「どうって、魔物と共存してるかってこと? 難しいわねえ」

「芳しくない言い方だな」

「フランメリアってそもそも魔女ファーストだし? 国王よりも実は魔女が強いところだから実質魔女の国なのよね、全員が魔物たちよりくっそ強いからコントロールできたのもあるわ」

『フランメリアが魔女の国……ですか?』

「そうよ。アバタールが世界で迫害されてた魔女を集めてくれたの、その上でまとめたんだからたいしたものよ」


 ますますすさまじい情報が出てきた、実質魔女の国だって?

 その言葉でついリム様の方を見てしまった。

 「座りっぱなし疲れますわ!」と杖から降りてとことこ歩いてる。


「ああいうのか?」

「そうよ、リムお姉ちゃんはそのうちの一人だけど、もっとすごいのがいっぱいいるのよ」

『りむサマよりすごいのがいっぱい……』

「リム様以上がいっぱいいるのか、そりゃ愉快だな」

「それだけじゃないわ、専門の教育機関を作って種族問わずに次世代の魔女も育ててるの。あの国は魔女の文化を絶やさないように尽力してるわけ」

「国が魔女を育ててるのか?」

「そゆこと。うちからも投資してて、いつか海を渡って国に仕えてもらうの」

「そりゃ安泰だな、晴れて魔女になれたら就職先も出るわけか」

「給料は良くするし休日もしっかり与えるつもりよ。でもその代わり紅茶を毎日飲んでもらうわ! コーヒーとかいう泥水は禁じます」

「泥水言うな」

『泥水……』


 つまり人と魔物が共存する国でもあり、世界中から集まった魔女が寄り添う国でもあるわけか。

 どれほどお強いのかは分からないが国に多大な影響を与えて、こうして奇妙な国フランメリアが完成したと。


「魔女ってそんなに影響力があるのか?」

「もちろんよ。それもピンキリで、純粋に一国に危機が訪れるほどやっばい魔女とか、リムお姉ちゃんみたいに食文化の追及に専念する魔女とか、なんかこういろいろいるのよ」

「そんなのをいっぱい国に詰め込んで大丈夫なのかよ」

「国を亡ぼすほどの力すら無効化するチートな人がいるじゃない」

『……あ、魔法が効かない能力……?』

「そうよミコチャン、アバタールとやらは自分の力を「どんな魔女だろうが対等に接することのできるもの」と見出したらしいわ。その結果がこれよ」


 なるほどな。

 そんなイロモノクセモノバケモノまみれをまとめられたのは、世にも奇妙な異能を壊す力でしたとさ。

 話の流れからして「俺は魔壊しだ! 逆らわないと死ぬぞ!」みたいな使い方はしなかったようだが。


「本当だったらアバタールって魔女を簡単に殺せるのよね。どんな魔術を使おうが、どんな呪いを放とうが効かないんだし。魔女からすれば悪魔そのものよ」

「つまり俺は魔女殺しになれるっていいたいのか?」

「うんそういうこと。でもね、その力を魔女に使ったことなんて一度もないの」

「マナ・クラッシャーを?」

「マナ・クラッシャーよ。魔法が効かないのをいいことに、頭のお堅い魔女を説き伏せようと日々頑張ってたそうよ」

「その努力の甲斐あって魔女と仲良くできたと」

「そりゃ人間に迫害されてひどい目に会ってきた矢先、魔法が効かないバケモンみたいなのが接触しにきたんだからね。どっちも大変だったに違いないわ」

『……それだけ、魔女の人たちを大切にしてたんですね』

「でも魔女を対等に扱ってくれた人間よ。きっと嬉しかったでしょうね」


 同じ力を持った誰かさんは魔女と仲良くしようと頑張ったに違いない。

 そこには途方もない努力と時間を要したかもしれないけれども、誰一人傷つけることなく手を取れた。

 その結果があのフランメリアなんだろうか?


「そんな魔女のみんながフランメリアの為にいてくれるのはね、楽しく生きる道を示してくれた恩人のことを今も思い続けてるからよ」


 女王はそういって廃墟をみていた。

 道の右側には中途半端な街の姿が残されていて、幾つもの工事現場が入り口で停滞していた。

 順調にいけばスティングのようにいろいろな建物が立ち並んだかもしれないが、骨組だけの高いビルが答えを見せている。


「そのおかげが巡ってきて俺たちは救われたんだな」

「いいえ、私もよ」

「女王様も?」

「そそ。実は私って旦那と一緒に魔女たちに育てられたの」

『……ヴィクトリア様、魔女の方々に育てられてたんですか?』

「うん。まあちょっと子供の頃は大変な思いをしただけよ。それでフランメリアに行き着いたら、ある魔女が拾ってくれたの」


 その光景を傍らに出てきた言葉の意外さときたら一体。

 どんな人生を歩んでいたのかと気にかけてたが、この女王様は親にいい思い出がなさそうだ。


「ああいうの?」


 で、まあ、ある魔女と言われたらちょうど当てはまりそうなのがいたわけだ。

 リム様を指さした。ニクのスカートをちょいちょいめくってセクハラしてる。

 

「ニクちゃんオスなのかメスなのかはっきりさせろオラッ!」

「……んおっ……♡ し、尻尾はご主人にだけ触らせたいのに……っ♡」

『りむサマ、なんでこんな時にニクちゃんに変なことしてるの……?』

「アルミダっていう魔女がお母さん代わりになってくれたの。もちろん、リムお姉ちゃんにもお世話になったものよ」

「魔女が母親代わりか」

「ええ、私達はお母さんって今でも呼んでる。その人のおかげで二人仲良く立派に育って、親離れするころには国が立ってたわ」


 女王様は道路の上に広がる青空を見つつ、少し懐かしがってる。

 地上にはフランメリアの豊かさが混じって、歩くほどに緑が強まっていた。

 あっちの世界がもたらしたものはどこまで続いているんだろうか?


『ヴィクトリア様は魔女の人たちと深い縁があるんですね……』


 人の犬のセクハラする魔女はさておき、ミコが言った。


「今もお忍びでフランメリアに来て会いに行ってたりするのよねえ、年に四度行われる魔女の集会とかもサプライズで乱入して魔法で強制送還されてるけど諦めません」

『……一国の女王様がいきなり現れたら焦ると思います』

「毎年一回は突撃してるんだからいい加減慣れなさいよ!」

『毎年忍び込んでたんですか……!?』

「女王様がアグレッシブすぎてイグレスっていう国が心配になってきた」


 一見すれば女王には見えない金髪のお姉ちゃん(55歳)は、俺たちに向けてゆったりと笑みを浮かべて。


「だから、もしあなたがアバタールだっていうならお礼を言いたいわ。旦那も持てて子供もいて、いつのまにか国を作って愉快な国民たちの上に立ってるもの」


 そう告げていかにも自分の人生が満ちているかを教えてくれた。

 まだまだ終わりそうにない楽し気なものだろう。でもまあ、俺は模造品だ。


「あいにくアバタールモドキだ、本人みたいになれるようには頑張ってる」

「そう、じゃあありがとう。ちなみに我が国では優秀な人材募集中よ、困ったらうちにきなさい」

「どういたしまして女王様。でも紅茶以外飲むなってのは辛い、特にコーヒー禁止のあたり」

「焦がした豆汁なんてやめなさい、水がもったいないわ!」

「ええ……」

「あんな泥水すするなんてお母さん許しません」

「いつから俺のママになった……?」

「私もママですわー!!」

「なんでママ増えてるんだよ」


 困ったら雇ってくれるそうだがコーヒーに対する殺意が尋常じゃない。

 泥水のくだりをブラックガンズの連中に教えてやりたいところだが、とりあえずなんでこの世界で三人もママができてるんだろう。

 リム様にべたべたされながらだが、俺は先に建つ大きな看板に気づいた。


「……はあ、私もスティングの戦いに加わりたかったわ」


 向こうに街の姿があると分かったものの、女王様がまた何か言い出す。


「えっいきなり何言ってんの女王様」

「だって大きな戦いでしょ? 徳を積むにはいい機会じゃない。はあ、私も戦いたかったわ……」


 背中に括った大きな弓と、手にした身の丈より少し上の棒を示して「こいつでやってやるのに」と強調してる。


「ねえこの人ほんとに女王なん?」

『……発想がフランメリアの人たちみたいだよ』

「すごい規模の戦いだったんでしょ!? なんで呼んでくれなかったの!?」

「仮に呼んだとしてどうするんだよ女王様」

「大丈夫、侵略者に矢を浴びせて棒で殴り殺して煽るだけだから……」

「この人ほんとに女王なん?」

「チャールトンのやつめ、抜け駆けでこっちにきて部下までもって暴れ回ってるなんて……けっきょく最後に勝つのはいつもあいつなのね、悔しい」


 この言動と思考からしてやっぱチャールトン少佐の旅の仲間だけあると思う。

 そもそも普通の人間は(物理的な意味合いで)徳を積むとかいわねーよ。

 四人で旅をしてたらしいけど、残り二人も相当アレなやつだったんだろうな。


「む……! みんな、あそこに人がいるぞ」


 東側いっぱいに続く廃墟を眺めつつ進むうち、クラウディアが反応した。

 あそこ、とさされた場所はさっき目についた大きな看板の方だ。

 更に近づいて分かったが、150年前の文字は剥がれ落ちてこう書かれていた。


【スピリット/タウンへようこそ】


 『スピリット』という部分だけがかろうじて残り、その下に手書きの大文字がぐにゃっと書き足されてる。

 現にその先にはある程度の人の姿が行き交うほどだ。

 東側の住まう価値もないぼろぼろの荒れ地に比べると、その看板の後ろでは綺麗に形を残す建物がまだあった。


『……おい! そこのお前たち! その場から動くなよ!』


 そしてお出迎えの姿もセットだ。

 初対面の相手には嬉しくない小銃や拳銃といった得物を手にした何かだ。

 弾薬用のポーチをつけたズボンにボディアーマー、そしてウェイストランドに合わせたコートに身を包む姿が幾つもある。

 素顔を見せないために口元をマスクで覆ったそいつらは、人によってはあまりいい印象を感じないかもしれない。


「だ、そうだ。最初の挨拶はどうするみんな?」


 街があって、そこから来たとなれば話すだけの理性はありそうだ。

 言われた通りに「武器なんて抜きませんよ」と待つと、その『スピリット・タウン』から来たやつらが俺たちを遮った。


「よし、そのまま聞け。お前たちは何者だ?」


 そのうちの一人が俺たちに近づいてきた。

 ただし目はかなり不信がってる。特に俺ではなく後ろの奇妙な面々に。


「そんなに警戒しないでくれ、スティングからきたんだ」

「あのライヒランドの戦いがあったというスティングからか?」

「今はもう平和だ。俺たちは賊じゃないし、何ならこの道路を通り道にしてるナガンってトレーダーとも知り合いだ」


 それだけ伝えると、男は仲間と何かを言い合い始めた。

 しかし今だに怪訝そうだ。南からきた俺たちをまだ警戒している。


「じゃあ、その後ろのミュータントは一体なんだ?」


 最初に意識が向いたのは後ろのノルベルトだったようだ。

 尖った耳の褐色肌に、犬耳っ娘に赤目の魔女様だって同じだろう。


「ミュータントじゃなくフランメリアっていう国の住人だ、ご存知?」

「そんな場所知るか。いいか、ここ最近はミュータントだのテュマーだので住民の気が立ってるんだ、お前がどれだけかわいがって手なずけていようが今は――」

「そいつはストレンジャーだぞ」


 さてどうしたものかと口を動かしてると、クリューサが混じった。


「スト……なんだって!?」

「スティングでライヒランドを殺しまくったやつがここにいるんだが、そんな頼もしい奴がいてくれれば少しは気も休まるだろう。違うか?」


 そして挟まった言葉がそんなものだ。

 よくやってくれたと思う。耳にしたそいつらは今度は明るくざわめき始めた。


「あんたもしかして……いや、そのアーマーは……」

「ついこの前、正式入隊したぞ。つまりストレンジャー兼擲弾兵だ」

「ってことはあんたがあの噂のストレンジャーか!?」


 武器も下ろしてものすごく親し気にこっちにきた。

 あきらかに違う態度だ。マスクも下ろしてにっこりするぐらいには。


「ああ、哨戒任務中だ」

「噂と違って若いじゃないか! 驚いた、あんたがあの英雄か……」

「おいおいほんとにストレンジャーかよ! 良く来てくれたなあんた!」

「そうか、なら大丈夫だな。悪かったよ、気が立ってたんだ」

「いいんだ、それより行っていいよな?」

「もちろんだ! ようこそ、スピリット・タウンへ!」


 俺は一人と握手をした。

 すっかり気を良くした連中は「さあ入ってくれ」と招いてくれた。

 向こうでは映画のセットみたいな西部劇めいた街がなぜかあって、その隣で150年前からの廃墟が立ち並ぶというアンバランス具合だ。


『古き良き戦前の残る街、スピリット・タウンへようこそ』


 戦後になって追加で建てられた大きな看板は、改めて街の案内をしていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  最初に意識が向いたのは後ろのノルベルトだのだ。
[気になる点] 【スピリット/タウンへようこそ】 ここの/は・の入力ミスかなと思ったんですが前後の文脈上敢えてそう書いてるのかなとわからなかったので
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