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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
222/580

133 さよならスティング、また来たぞウェイストランド


 一体どれほどお世話になったか計り知れない、ママの待つ宿屋へと歩く。

 戦場を抜ければそこにあったのはいつものスティングだ。

 ところどころブチ壊されてはいるが、あの賑やかさが街中に戻っていて。


「世のためになる方だったみたいだな」


 俺はなんとなく、そばの誰かにそう伝えた。

 市街地を走る道路を辿れば――きっと流れ弾でも喰らったんだろう、建物がところどころにぶち壊されていた。

 あのマーケットですら運悪く当たった何かで天井の一部がはがれ、開放感を一割向上させているほどには。


「うむ、そうかもしれんな」


 ノルベルトは満足そうに答えている。

 ちょうど俺たちは街の為に働く人々が行き交うところに差し掛かっていた。 

 すぐ訪れるであろういつもの日々のために、市民だろうが義勇兵だろうが異種族だろうが、お構いなしに街を復興させようと努めている。

 絶望の顔色はそこにない。あるのはちょうど、隣のオーガぐらいの表情だ。


「……擲弾兵!」

「擲弾兵! 俺たち勝ったんだな!?」

「おかえり擲弾兵、まさかもう行くのか?」


 そんな忙しそうなところを横切ろうとすると、声をかけられる。

 スティングのいろいろな顔ぶれがこっちを見ていた。

 きっとなんとなく察してしまったに違いない、まるで見送るように並んでる。


「任務中なんだ。引き続き哨戒任務に戻る」

「そうか、もう行っちまうんだな」

「ここでやることは全部やったからな、さっさと行かないとボスに怒られる」

「あんたのおかげで最後まで希望を捨てきれなかったよ、ありがとう」

「どういたしまして。せいぜい寿命が尽きるまでその希望は捨てないでくれ」

「だいぶひどいありさまだけど、俺たちでどうにかやり直してみせるよ。もっといい街にしてみせるから絶対また来いよ?」

「ああ、いつかまた来る。その時また襲われてたら助けてやるよ」

「ミュー……フランメリアの奴らが一緒にこの街を復興してくれるらしいんだ。戦いにはいけなかったけど、あいつらと一緒に頑張るよ」

「大丈夫だ、戦うよりも大事なことはいっぱいある。まあ次来るまでいいところにしといてくれ」


 市民たちに見送られながらママの宿に向かった。

 ようやくあの姿が見えてきた、素朴だけれどいろいろな客を受け入れてきた包容力のある建物だ。

 どこかのドワーフが施した工事のせいで戦前よりも立派な構えになってるが。


「ストレンジャーさん! 無事だったのね!」

「お兄ちゃん! おかえり!」


 そんな小奇麗な宿屋の前で二人が手をふっていた。

 ママとビーンだ、わざわざこっちまで歩いてきた。


「お帰りなさい。私達、ライヒランドに勝ったのね?」

「おれ、心配だったよ。お兄ちゃんたちがかえってきて、本当に良かった」

「ただいま二人とも。良かったな、これでもう宿屋が襲われることはないぞ」


 二人は俺たちが返ってきて本当に嬉しそうだ。

 今から長いお別れになると思うと寂しくなるぐらい、本当にお世話になったと思う。


「……この様子だと、もう行っちゃうのかい?」


 みんなでようやく帰ってくると、ママは尋ねてきた。

 宿の中は始めて見た時よりもずっと立派な有様になってはいるが、もう何年も訪れていなかったように感じる。


「先に言っとくと「ゆっくりしていけばいいのに」とかはなしだ。一日分の宿泊料で一生分お世話になったからな、次からは採算とれるようにしてくれ」

「分かったわ、じゃあ次来るときはしっかりお金はとるからね?」

「ああ、頼む」

「その代わり料理をタダで大盛にしてあげる、もちろんスペシャルもね」

「ママのスペシャルが大盛か、最高だ。楽しみにしてるよ」

『お世話になりました。ママさんの作ってくれたお料理、すごく美味しかったです……!』

「あなたのような子に言われるなんて嬉しいわ、ミコさん。色々事情は聞いたよ、早く元の姿に戻っていっぱい食べてね」


 そんな約束をして、ママたちにハグされた。

 この人は人生で一番うまいと思った料理を作ってくれた恩人だ、もしここにまた来れたら『スペシャル』を頼みまくってやろう。

 ……いつかまた、ここに来れたらの話だけどな。


「……ママの料理が食べられなくなると思うと少し寂しい」

「あなたがそんな姿になって驚いちゃったけど、私の料理をおいしそうに食べてくれて本当に嬉しかったわ。寂しくなったらストレンジャーさんと一緒にいつでも戻っておいで」

「実に美味な食事と寝床をありがとう、ママよ。ここほどこの旅の疲れを癒せた場所はなかった、良き思い出がいっぱいできたぞ」

「そういってくれてここを続けてて本当に良かったと思うよ。これからの旅はいろいろなことが起きるだろうけど、どうか気を付けてね?」

「ママさんのお手伝いができてすっごく楽しかったっす、なんだかうちも寂しいっすねえ……アヒヒヒッ♡」

「ロアベアさんもいっぱい働いてくれたわね。あれからいろいろなお客様が来てくれたけど、あなたのおかげで本当に助かったわ。待っててね、お給料を払うから」


 ニクからロアベアまで一人ずつ丁重にハグした。

 首ありメイドが「いらないっす」とただ働きを希望したところで、俺たちは部屋に戻って荷物を取る。

 そしてママの宿屋とはお別れだ。本当にありがとう、お世話になりました。


『ここで本当にいろいろなことが起きたよね……』


 荷物を取って廊下に出た途端、ミコが懐かしむように言う。

 見上げれば綺麗に塞がった天井がある。308口径の銃弾はこの世を去った。


「人生一回分に必要なストーリーがここに全部ぶち込まれたからな、ここで起きたことはもう一生忘れないと思う」


 隣で一緒に見上げるニクの頬をぷにっと突いた、「ん」と疑問形で首をかしげてきた。

 愛犬はこうも立派に育ってしまったが、この姿は今までの旅路で生まれた思い出を胸に秘めている。

 出会った頃のことから今ここにある宿屋まで、そしてこれから先もだ。


『……ニクちゃん、また撫でてほしそうにしてるよ』


 ただまあ、ちょっと甘えん坊になりすぎた気がする。

 尻尾をふりふりして真顔で撫で待ち中のニクを撫でてやった、柔らかく伸びたショートヘアと犬耳はつやつやふわふわだ。


「んへへへ……♡ これ好き……♡」

「リム様とエンカウントしたら絶対ろくでもないことするだろうからな、全力で阻止してやる」

『モンスターみたいに言っちゃだめだよいちクン』


 リム様がどんな奇行をこいつに施すかはおいといて、みんな準備完了らしい。

 アラクネ製のジャケットの背中にバックパックを重ねたノルベルトが、アンティークな感じの鞄と杖を持ったロアベアが出てきた。


「忘れ物はないな?」


 対してストレンジャーはといえば、短機関銃と自動拳銃も加わって少し重くなった。

 そして犬はかわいい女……男の娘に化けて、クソ重たい運命と絶望的な世界の真実も背負ってすらいる。


「ようやく旅路を歩けるな、それも今度は清々しくだ」


 オーガは戦槌を担いでニヤリと笑った。頼もしいこの顔で何度救われたか。


「それでは不肖ながらデュラハンメイドのロアベア、お供させていただくっす。あっ街出る前にカジノ寄っていいっすか」

「よし最短ルートで街出ていくぞ」

「そんな~」

『ロアベアさん、流石に今のは冗談だよね……?』

「冗談だけど本気で行ってみたかったっす! ぐぬぬ」

『どっちなの!?』

「お前この空気でカジノとか言うのやめろよ……」


 ロアベアはロアベアだ。滅茶苦茶無念そうにするのは無視して出口へ向かう。

 カウンターの方でママたちはもう定位置についていた、今日からいつもどおりの営業が始まる様子だ。


「じゃあ行ってきます、また会おうママ」

『いってきます。ありがとうございました』

「いってきます」

「さらばだママ、また会える日を楽しみにしてるぞ」

「ママさんお元気で~、それではごきげんようっす。あひひひっ」

「行ってらっしゃいみんな。体には気を付けて、ちゃんとご飯は食べるんだよ」


 それぞれに別れの言葉を向けてから俺たちは出て行った。


「お兄ちゃん、ありがとう。俺、頑張るよ」


 あと一歩、というところでそんな声がした。

 振り向けばビーンがいた。前よりもしっかりとした感情が顔にこもっていて、まっすぐとした目を向けている。

 うなずいた。「頑張れよ」と手のひらで送って出ていく。

 心配するな、お前だっていろいろなものを抱えてるけどどうにかなるさ。


「よお、坊主ども。いかにも街から出ていくってナリじゃねえか」

「戦いまくれてよかったぜ、これぞフランメリアの民だ。今から勝利を祝って派手な宴でもやるらしいけどよ、お前らはいいのか?」


 出て行った矢先でスピロスさんとプラトンさんが待ち構えていた。

 不思議なことに、牛と熊の大きな身体の隣では白いドッグマンとそれにしがみつく人間の子供という組み合わせだ。


「悪いけど哨戒任務中なんだ、あんたらで楽しんでてくれ。俺たちは先いってあっちの世界の入り口でも確保しとく」

「なんだよほんとに出てくのか。まあお前の人生はお前のもんだ、今の気持ちを削ぐような無粋な真似はしねーよ」

「つれねえなあ、ちなみに俺たちはしばらくここに残っていろいろやるつもりだ、後片付けとか街の復興だとかいろいろな」

「色々好き放題に暴れちまったからな、立つ鳥跡を濁さずだ」

「ついでに旅の準備も並行してやんねえとな。ガキ一人に喋る犬の分も用意しねえといけねえ」


 二人の獣人はにっこりしながら一匹と一人を示した。


「色々と考えた結果だが、この二人についていけば問題ないとワタシは判断した」


 元白狼様はすっかり飼い犬か何かみたいに成り下がってるが、前より満足はしてるらしい。


「そりゃ合理的だな。またさらわれて神になるんじゃないぞ」

「心配するなニンゲン、ワタシはもうただの喋るドッグマンだが、犬らしく子守りの仕事も任されている。存外満足しているぞ」


 そういって白い腕が示すのはぴったりとくっつくブロンド髪の少年だ。

 前に見た時はオドオドしてはいたが今は違う、しっかりとした子供が確かに二本の足で立っている。


「なあ、スピロスさん。オスカーはどうするんだ?」


 そんなオスカーを見て思った疑問だが、それはすぐに解けた。

 なぜなら牛の身体はとても親し気に人間の子供の頭を撫でて。


「こいつか? フランメリアに連れて帰ることにした」

「俺が閃いちまったんだぜ、せっかくだし養子にしちまえってな!」


 意外だった、連れ帰って獣人の養子にしてしまうらしい。

 でも本人は嫌がってはいない、むしろ大人しく笑顔を浮かべてる。

 少なからず分かることは、発狂して自ら視力をゼロ以下まで落とした行方不明の毒親よりもずっといい環境かもしれないってことだ。


「そうか。オスカー、こんなことを聞くのはどうかと思うけど……いいのか?」


 そんな様子に水を差してしまうのは分かっちゃいるが、つい聞いた。


「うん。自分の力でやり直してみようと思う」


 そこから返ってきた言葉の強さときたら、とてもあの時弱っていた子供とは思えない一言だ。


「なら大丈夫さ、お前ならきっとうまくいく。ついでに軽口を添えておくと人生は豊かになるぞ」

「いい人生のためにこれから練習しておく」

「その意気だ」


 オスカーの頭をぽんぽん撫でた、形はどうであれお前は毒親に勝ったぞ。


「じゃあなみんな、先行って待ってる」

「おう、気を付けろよ。オメーらとはまた会えるといいな」

「お前と会えて楽しかったぜ、道中でくたばるなよ」

「じゃあね、お兄ちゃん」

「またなオスカー、それじゃさようならお父さん」

『あっいちクンこらっ! やめなさい!』


 去り際に無防備なミノタウロスの雄っぱいに全力でハイタッチした。

 「なにこいつ」を極めたような顔をされたが構わず突っ走った。

 最後に触ったケモノっぱいは筋肉が詰まってた、この押し返される感触を俺は二度と忘れない。


「その様子だとそろそろお別れらしいが、少しは余韻を味わったらどうだ」

「ストレンジャーさん、もしかして……もう行くのか?」


 南へ向かうとオレクスとダスターたちが建物の壁によりかかっていた。

 回りに付き添うのは両手でどうにか数え切れるほどにまで減った自警団たちだ。


「哨戒任務中だ、これより橋を越えて北へ向かう」

「そうか、一体誰が言い出したか知らんが祝勝パーティーをやらかすらしいんだが、お前が来ればさぞ盛り上がると思わないか?」

「来て欲しいのか?」

「いや、お前と関わるとロクなことが起きないと分かったから結構だ。それにどうでもいい」

「そいつは間違ってないだろうな、迫撃砲が来るかもとか言ったらマジで呼び寄せるぐらいには呪われてる」

「次は世界の終わりでも導くつもりか。そういうことならさっさと行ってしまえ」

「じゃあさっさと行かせてもらおう。そういえば家は見つかったか?」

「それなんだが、ドワーフどもが俺のために新築の我が家をプレゼントしてくれるそうだ、時には言ってみるもんだな」


 オレクスはどうにかマイホームにこぎつけたらしい。

 よっぽどそっちの方が大事なのか、段々と勝利の雰囲気がわきたつ街のことなんてどうでもよさそうだ。


「出発前に質問させてもらうけど、お前これからどうするんだ?」


 そのまま呪いをうつす前に離れようとしたが、ふと質問した。

 生き残りの自警団たるそいつは隣の義勇兵を親指で示して。


「クソ市長は爆死して内通者はぶち殺した、大挙していらっしゃったお客様は地獄にお帰りになって、そうなると今度はこの街をどうするかという話にならないか?」

「街に残る気概があるのは間違いなさそうだな」

「そうだ、だからまあ、また自警団生活になりそうだ。幸いにも見込みのあるやつが義勇兵の中にいっぱいいるからな」


 けだるそうに紹介されたダスターはまんざらでもないご様子だ。


「……俺、自警団になるよ。それくらいしかできないし、その方がスティングのためになると思うから」

「だとさ。世のためもとい社会のため貢献するなんていろいろな形はあるが、物好きなこいつは俺たちみたいにせっせと努めるのをご希望だとさ」

「俺からのアドバイスが欲しいなら先に言っといてやるよ、やめたくなったらすぐやめてプレッパーズのところにいけ、今なら入りやすいぞ」

「おい、せっかくの人材を奪おうとするな馬鹿野郎が」

「まあそういうわけだから適当に頑張れよ、人間は真面目になりすぎると自滅するようにできてるしな」


 俺は生き残った義勇兵の肩を叩いた。

 きっとストレンジャー的なものが感染したんだろうか、軽くうなずかれた。


「分かった、先輩たちに怒られてクビにならない程度にサボろうと思う」

「言いやがってこの新入り。自警団が再発足した時は覚悟しろよ」

「じゃあ行ってもいいな? 別れの挨拶はこれで十分だろ?」

「さっさと行っちまえ。元気でな」

「さようならストレンジャー、ご武運を」


 自警団達にも別れを告げた。

 戦場の方へと向かっていけば、ごちゃごちゃとした街の景観にフランメリアの奴らがたむろしていた。

 敵からはいだ戦利品やらを吟味してる一団はこっちに気づくと、いかにも旅立つ姿を見て何か感づいたらしい。


「こっちは俺たちに任せて先に行って来い、アバタールもどき」

「そういうことだ、我々の帰路を確保しといてくれ。そして俺たちはゆっくり楽しみながら帰るとするさ」

「腹いっぱい戦えて幸せだ、しばらく動けそうにないや。代わりに先行って向こうの様子探ってこい」

「儂、この世界に留まって商売でも始めようと思うんじゃが」

「お、じゃあ俺も残るか。向こう百年は退屈しなさそうだからなこの世界」

「俺たちは親父殿についてくぜ、人間の軍曹殿だけじゃ補佐は大変だ」


 満場一致で「いってらっしゃい」だ。

 それでも全員がとても馴染みのある顔で見送ってくれている。

 戦友だ。とうとう俺はこの人たちの戦友として迎え入れられたらしい。


「了解、あちらの世界への帰り道を確保してきます。ということでまたな、あっちで待ってるぞ」

「あっちでまた会おう、いってこいアバタールもどき」

「共に戦えたこと、我忘れないからな! 必ずまた会おうぞアバタール!」

「ちゃんと野菜は食べるんですよ。いってらっしゃい」


 新しい仲間に別れを告げて進んだ。

 死体の香りがまだ残る戦場にまた戻ってくると、褐色肌が二人分待っていた。


「これで任務再開か。ずいぶんと大きな障害物に遮られたものだ」

「……もう、いっちゃうんだ」

「ありがとな二人とも、お前らのおかげで助かった」


 俺は二人にハグした。胸がデカい方はともかく、分厚い方に合法的に触れた。


「シノビとしての職務を全うしただけだ。どうだ、己れも忍者らしくなったと思わないか?」

「俺よりずっと立派な忍者だ、誇ってくれ。その調子でウェイストランドの悪を成敗してくれると助かる」

「心得た。せっかく得たこのシノビの力だ、世のために生かそう」

「……おとうとが、調子乗ってて、かわいくない」

「お姉ちゃん総出でアレクに優しくしてやってくれ、まだ十五歳だろこいつ」

「ニクもミコも、元気でね」

『……うん、サンディさんも。いちクンを助けてくれてありがとう』

「ん。ご主人のことはぼくに任せて」


 二人とお別れした。この姉弟がいればウェイストランドは安泰だ。

 「ボスのことを頼む」と肩をぽんと叩いた後、そこからさらに進んだところ。


「よくぞ戦った二人とも。言葉は無用、どうか貴公の旅路に幸があらんことを」

「ストレンジャー、ここで起きた出来事は全てベーカー将軍に伝えておくぞ。あの人も喜ぶはずだ、さらばだ戦友よ」


 ホームガードたちが待っていた。オークも人間も、皆等しく敬礼している。

 またな、戦友。それらしく敬礼して、ひとりひとりが信頼してくれる顔つきなのを知ってから歩いた。


 更に戦場の光景が濃くなると、住宅街のそばには既に数多の死体が出来上がっていた。

 人魔物入り乱れた部隊がそんな場所を片付けているところで、


「あ、ダーリンだー♡」


 ちょうど大破した戦車を調べてたハヴォックに見つかった。

 見た目は爽やかなイケメンだが、さんざんいじられたことは二度と忘れない。


「その格好……もう行っちゃうんだ?」

「もうスティングは十分堪能したからな」

「そっか。あっちなみに僕はまだだよ、あいつらの落とした武器兵器とか研究したいし」

「あんまりオチキス隊長に迷惑かけるんじゃないよ」


 付き合わされてるエンフォーサーの隊長は「まったくだ」とこっちを見てた。


「助けてくれてありがとう、オチキス隊長」

「いや、エンフォーサーらしく一矢報いてやったんだ、その上で気持ちよく勝利したのだから感無量だ」


 俺は部下たちに見送られながら街から離れていくが。


「あ、それとダーリン」


 ハヴォックに呼び止められた。

 「どうしたんだ?」と顔と首で表現すると。


「一つ報告があったんだ。橋の向こうでグレイブランドの連中が陣取ってるんだけど、どうも誰かさんを待ってるみたいでね」


 相手はおそらくはクロラド川を越える手掛かりの方へと指を向ける。

 そんな場所で、もしかしたらここにいる誰かさんを待ってるかもしれないってことらしい。


「なるほど、で、ここの代表として挨拶してくればいいのか?」

「そうだね、ありがとうぐらいいったほうがいいんじゃないかな?」

「そうしよう。手土産ぐらい持ってった方がいいか?」

「ああいう人たちって思い出とか重んじそうなタイプだしね、ライヒランドのボスをぶち抜いたとかそういう土産話のスピーチでもしたらどうかな!」

「だったら「お前らの宿敵は頭だけ地獄に落ちたぞ」ぐらいいっとこう」


 ハヴォックと抱き合った、ところが首にむちゅっ♡とキスされた。

 見ればイケメン男装女子の顔でこっちをうっとり見てた。このメス……!


「……たくよぉ、お前のせいで来世の分まで戦った気分だぜ。まあトヴィンキーが食えたんだ、良しとしてやら」


 死体とスクラップが並ぶ住宅地を進むと、道中にいたカーペンター伍長が立ち上がった。

 その挨拶は敬礼だ。周りのレンジャーたちも続々形を取り始め。


「ガキも助けてスティングも救って……大した奴だよお前は。今度会う時があればいろいろ話そうぜ、お前の旅の話がどんなものか聞いてみたいんだ」

「ライヒランドっていうレンジャーの悩みが消えてすっきりしたわ。大変だったけれども、何もかも貴方のおかげよ。良い旅路を」

「こんだけブチのめしたんだ、しばらくはおイタできねえだろうな。その調子でウェイストランドのクソ野郎をぶちのめしてこい」

「道中大変かもしれませんがどうか健やかにそしてしぶとくやってください。以上、ラムダ隊長よりだ」


 シエラ部隊とラムダ部隊に見送られた、その先にいるのはシド将軍とボスだ。

 立ち止まった。二人の穏やかな様子を見るに、どうも俺を待ってたらしい。


「ストレンジャー。もう行くんだな?」


 ボスの相棒は少し名残惜しそうだった。

 寂しさのために軽口でも叩いてやろうと思ったが握手を求められて断念した、がっちりと掴んで答える。


「ああ、行ってくるよ。ありがとう将軍」

「君のおかげでヴァローナという忌まわしき悪魔を祓うことができた、このスティングもしばしの平和が訪れるだろう」

「うちらの宿敵があんな風にくたばるなんてね。ま、あいつらしい無様な死に方さね」


 一人の老人と一人の将軍は「いけ」とばかりに道を譲ってくれた。

 その先では高台ごと派手に吹き飛んだ民間の跡地で、プレッパーズやブラックガンズが集まっているようだ。


「行ってこい、そして勝利を掴んでくるんだ」


 きっと将軍の真面目な顔つきの中にはいろいろな言葉があるはずだ。

 けれどもそれだけを述べて見送られる。必ず勝利してやろう。

 そして街への出口が近づこうとしたところで。


「イチ、今だから言うよ! あのショットガン馬鹿は殺されちゃいないし死んじゃいない! あんたと共に生きてる、それだけさ!」


 珍しく大声が後ろから届いてきて、やっと肩の重みが降りた気がした。

 振り向こうとしたがやめた。無粋だし今の顔を見たら死ぬほど笑われるだろう。

 だから進んだ。顔を向けなくたって、二人がどんな顔してることぐらいなんとなく分かるから。


「また一つ伝説を作っちまったなぁ、ストレンジャー」


 爆弾魔の犯行現場に近づくと、ツーショットが馴れ馴れしくやって来た。


「俺がやったのはあのクソ野郎に仕返ししたぐらいだ」

「まあそういうなって、そこまで導いたのがお前の仕事だ。現にお前を見て嫌な顔したやつが今日いたか?」

「さっさと行け馬鹿野郎、っていう自警団の奴ぐらいだったな」

「そういうことだ、まあこれで旅が再開できるんだし喜べよ」


 いつもの調子のいい声はこれで最後かもしれない。

 そう思うと寂しいさ、でも「じゃあな」と拳をぶつけて別れた。

 ヒドラたちもこっちに気づいて手を振って来た、スピネル爺さんもすっかりなじんでよく溶け込んでる。


「ヒドラ、タグありがとな」

「もうなくすなよ? 出張して作ってやるわけにはいかねえからな」

「スピネル爺さんはどうするんだ?」

「儂? そりゃもちろんこっちの世界に残っちゃう!」

「おうよ、二人で事業を立ち上げることにしたんだ。ファクトリーに負けねえユニークな品をいっぱい作ってやる」

「そゆこと! 面白おかしい世界に相応しい面白おかしい武器を提供する企業……中々趣があると思わんか?」


 俺の悪友も中々にぶっ飛んだ友達が増えたみたいだ。

 少し困ってるラシェルたちに手を振って進み続けると、その道中でハーヴェスターが腕を組んでいた。

 隣にはなぜか変態館主とレプティリアンメイドがいるが。


「やっとこの街から騒がしい奴が消えるのか、お前のおかげで一年も経った気分だ」

「そりゃお騒がせしました、あんたらには本当に世話になったよ、何から何まで。で、なんだこの面子」

「このトカゲマニアが醸造設備を持ってるそうでな、そして俺たちは材料になる作物を抱えてる、つまり商談中だ」

「さらばだ擲弾兵! 旅の行く先で何かトラブルが待ち構えているかもしれないが案ずるな、お前の可能性は無限大だぞ!」


 ブラックガンズの連中はコーヒーの前に酒造りでも始めるらしい。

 酒が飲めない俺には無縁な話だが、きっといいパートナーになれるはずだ。向こうがクソド変態という点を除けば。

 俺は無限の可能性とやらを信じて後にした。


「……お前たちか」

「む、みんなも出ていくところだったか。奇遇だな」


 するとどういうことだろう、向かう先でちょうどクリューサと出会った。

 クラウディアもご一緒してる。間違いなく橋を渡りいくような出で立ちだ。


「なんだ、けっきょくお前もあっちの世界にいくのか?」

「勘違いするな、スティングにいると医者というだけの理由で延々とタダ働きさせられるんだぞ。これだったら侵略前の方がマシだと思わないか?」

「こう言っているが気にしなくて大丈夫だぞ。ちゃんと患者たちに見送られてきたぞ」

「人が話してるときに余計な言葉を挟むな! くそ、この馬鹿エルフといいお前といい調子を狂わせる輩しかいないのか俺の周りには」


 話を聞く限りはこのお医者様も同じゴールを目指してるってことは確かか。

 褐色エルフの放つ無邪気或いは傍若無人なスタイルで、こうして街を出ていくにも苦労があった様子だ。

 そうか、行く場所は一緒か、それなら――


「そりゃご苦労だったな、じゃあ一緒にいくぞ」

「一緒に、だと? 待て、お前は一体何を」

「おお、では私たちも同行しようじゃないかクリューサ。どうせ旅へ行くならいっぱいいた方が安全だし愉快なことだろう」


 旅は道連れという言葉を最大限に生かして、この優秀な医者を連れてくことにした。

 本人は嫌そうだがクラウディアがこれだ、けっきょく嫌でもついていかないと駄目だろう。

 それでも何か言おうとしてたみたいだけど数の差に勝てるわけがない、俺たちを見てようやく諦めて。


「いいか、ついてやっても構わないが条件がある。お前たちもこの馬鹿エルフの面倒を見ろ、こいつに振り回されて過労のあまり心臓が止まりそうだったからな」

「心配するな、今度は俺が振り回してやるよ」

「お前も俺を殺すつもりか? くそっ、どこまで死を振りまくつもりだこの嵐のような男は」

「そういうこと言う割にはあっちの世界に行く気満々だったみたいだな」

「ああ、もう医者としてこき使われるのはごめんこうむりたいところだが、あちらの世界の薬学とやらには興味深いものがある」

「つまりみんなフランメリアを目指しているということだな! そういう訳だからよろしく頼むぞ、お前たち」

「ああ、お前らには頼りにしてるよ」

『ふふっ。よろしくお願いします、クリューサ先生』

「……ん。ご主人に何かがあったら助けてあげてね、クリューサさま」

「医者殿もついてくるとは頼もしいものよ。何か困ったことがあれば何でも俺様に言うといいぞ、その顔色では力仕事にも難儀しているだろう」

「これでお医者様の精神的負担も軽減っすね、早く顔色良くなるといいっすねえ……あひひひっ♡」

「お前たちは時々本気で毒殺したくなるな。いや、毒でも死にそうにないだろうなこんな面々では」


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[良い点] 激戦に次ぐ激戦のスティングシティ攻防戦お疲れ様でした(・ω・)b 緒戦でしこたまロケットやら迫撃砲やら食らったりノル君狙撃されたり(目玉を抉った銃弾は何処に?脳みその筋肉で受け止めたか( …
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