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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
219/580

130 どうせならウェイストランドらしい戦いを

 ここの住宅街はとても大きい。

 太い道路が幾つも織り込まれ、白色と赤茶色の住宅が整然と建ち並ぶその姿は、かつて戦前の人間がそれだけいた証拠なのかもしれない。

 あるきっかけで訪れた世界の終わりの後ですら、頑丈な造りのそれは世紀末世界の人間の住居たりえた。

 これこそがスティング・シティが栄えた理由の一つだったんだろう。


 しかし今はどうだろう、世界が終わる前の景観は終わりを迎えている。

 数多の家が攻撃と略奪で人の営みごとぶち壊され、戦いの混乱によって住まう人間は追い出された。

 度重なる悪い知らせにこの街が終わると誰もが思ったに違いない。

 けれどもどうしたことか、戦火の中の人々は北へ逃げてどうにか生き延びた。

 それどころかこう言うのだ。『悪い奴らを全員ぶちのめしてくれ』と。


 ただそれだけを叶えるため、戦前をまだ残すこの場所は決戦の場にされた。

 居住区に武器と罠が配置され、人ならざるものから軍隊モドキまでもが待ち構え、世紀末世界の支配者気取りどもを誘い込む。

 150年前の裕福な連中も自分たちの住処がこんなぶっ飛んだ有様になるなんて思ってもなかったはずだ。 


「見てみろ。あいつらどういうことか本当に来やがったぞ」


 南側の道路をまっすぐ見渡せる住宅の中、オレクスが最初に言った。

 一階の適当な窓から見る分には本当にその姿が豆粒ほどに確認できる。

 荒れ地を超え道路も渡り、だいぶ勢いの削がれた敵軍がこっちに向かっていた。


『こちらプレッパーズのクソババァだ、敵さんマジで住宅街に入ってきたよ。迂回もせずによくもまあぞろぞろお邪魔しにきたもんだ』

『こちら南東の工場陣地、敵の攻撃が止んだ。予定通りこのまま監視を続ける、どうかご武運を』

『南西陣地より報告じゃ、どうにか抑え込んだぞ。儂らはここで壁となる、ぞんぶんに腕を振るえ』


 無線の報告を聞いてると、本当にこんな場所に敵が流されたんだと実感した。

 少なくとも道路にはライヒランドの連中を妨げるものはいない。

 しかし地図を見る限りは別に住宅街なんて通らずとも、中央部に行く道はいくらでもあるはずだ。

 荒野を突っ切る、別の道路を辿る、そんなルートもあるのに。


『おっさんが答えてやるよ。あいつらにしこたま喰らわせてやった俺のトラップは覚えてるか?』

『覚えてるさコルダイト、何詰め込んだか知らんが有効に使わせてもらったよ』

『材料はホームガードの対戦車手榴弾とおっさんの悪戯心だ。爆発する車やらドラム缶やらさぞ恐怖を植え付けただろうな』

『でも効いたのは一回きりだ、それっきり避けるなり撃つなりして避けられたよ』

『だからこそいいんだよ、分かるか?』

『あんたの感性にロクなものなんて求めちゃいないが、どういうことだい?』

『あいつらが迂回しそうなところに大急ぎで廃車やらドラム缶を運んで置いたんだ。するとあら不思議、行こうと思った場所には罠がいっぱい、ってね』

『要するにそんなハッタリするためにあんなもん飾りつけしたのかい』

『おいおい勘違いしないでくれよ、思いついたのは俺じゃねぇ、ハーヴェスターの奴だよ』

『こちらハーヴェスター、あんたの教え通りにやったぞ。オーバー』

『ほらなぁ? ついでにメインストリートにお手製のクレイモア地雷もセットしてある、あんたの指示で鉛玉の雨が降るぜ』

『突貫作業でよくもまあそこまでしたもんだね、あんたらは』

『そりゃあここが消えたらおっさんたち商売できねえからなぁ』


 その疑問はボスとブラックガンズの無線会話で判明したが。

 爆発しないがらくたが良い感じに害獣よけになってるらしい。


「……さっきまであんなに馬鹿みたいに撃ってたのに、何もしてこないな」


 そんな姿がゆっくり前進するのを見てると、ダスターが疑問を挟んでくる。

 確かに。一見すれば向こうの人と戦車の海は慎重になってるように見える。

 しかし本当にそうだとすれば、わざわざこんな場所に来ないはずだ。

 住宅街は気持ちの悪いぐらい静寂に包まれ、妨げるものすら現れないのだから。


「私だったらこんな怪しい場所、通るのであれば大体の見当をつけた上で主砲を使ってあぶりだすだろうがな」


 近くでこっそりと双眼鏡を覗いていたホームガードの軍曹も同じ気持ちか。


「さて、ではそれができない理由とはいかなるものかな?」


 窓際で立つチャールトン少佐は手持ちの迫撃砲に弾を込めだしている。


「もうそんなことしてる余裕ないんじゃないんすかねえ、あひひひっ」


 ロアベアが弾を込め終えたらしい、自動拳銃をホルスターにしまってた。


「やつらにとってどれほど"予想外"が重なったのだろうな。そう思えばこの動きの鈍さにも結び付くと思わんか?」


 ノルベルトもがこんと砲弾を詰め込んでいる、ひどい歓迎会になりそうだ。

 周りの連中が手持ちの武器を起こすのを見て。


「つまり絶望的なぐらい思い通りに行かなかった結果がこれってことか」


 住宅に挟まれ、武器を構えながら進む一団に顔を向けた。

 戦車に随伴した歩兵――いや賊たちが気を休めぬまま進行している。

 反射光に気を付けて単眼鏡をのぞけば、混成部隊が周囲に気づき始めていた。


『クリューサだ、報告することは二つ、これ以上負傷者を増やすなということと、今奴らが見渡せる場所にいるんだが』


 動きが変わった連中を見ているとお医者様からの無線が入る。


『目視する限り、殆どの奴が中毒症状がみられる。一体どうしてあれほどの大所帯がヤク漬けになっているのか誰か説明してくれないか?』

『お医者様かい。あんたの所見について聞きたいんだが、奴らの様子を見てどう思う?』

『一目で分からないか? 効果が切れ始めて集中力が散漫している。あんなたいそうなものを在庫処分のごとく振舞う理由はこちらが知りたいものだ』

『連中だって東側のドラッグの副作用ぐらい分かってるはずさ、短期決戦で片づけるはずが長引いて効果が切れちまったんだろうさ』

『それか、それも承知で死に物狂いなのかどちらだな。どの道奴らにすすめられる処方箋はないぞ』

『医者らしくおすすめの治療法でも浮かばないかい?』

『あるぞ、「息の根を止める」という対処療法だ。早急に施して俺の仕事の負担を減らしてくれ』

『上等だ。あんたの勤務環境を改善してやろうじゃないか』


 言われた通りに観察してみれば、確かに連中は正気じゃなさそうだった。 

 緑服の兵士たちは戦車と仲良く足を早めて、ここを通り抜けようと必死だ。

 あのどん欲なレイダーですら、まだうまみと形を残す民家を通り過ぎている。

 全員気が立っている。どこにいるか分からない敵に苛立ってるような。


「よしお前たち、久々のエンチャントといこうじゃないの」


 迫りつつある敵の群れに仕掛けるタイミングを待ち続けてると、背後でドワーフの声がした。


「おい爺さん、オメーそんなの使って大丈夫なのかよ?」

「直接身体にマナ注ぐとか身体に悪いぞ絶対、俺だったらやんねえよ」

「心配すんなエルフども騙して試させたちゃったから!」

「なんてひでえことしやがんだこのドワーフ」

「エルフもエルフだがドワーフもドワーフだな……」


 スピネルの爺さんだ。

 手には青い注射器を手にしていて、何人もの獣人が何かをしているらしく。


「ではゆくぞ!」


 好奇心旺盛なドワーフが手首に針を突き立てる。

 そしてマナ色な液体が注がれて……良く分かった、マナを注射してる。

 獣人達の中でスピロスさんとプラトンさんがものすごく心配そうに見守る中。


「おお……これは……マナポーションの味が身体に渡って……」

「おい爺さん!? 身体に注射して味がするとかやっぱ普通じゃねーよ!?」

「やめとけってマジで! んな身体に悪そうなもん打つな!」


 無事に補給完了したらしい、空になった注射器を捨てて満足気味な顔だ。


「よっしゃ! 魔力満ちてきおった! こいつはトぶぞ!」

「変な薬とか混じってねーよな……」

「なんてもん生み出すんだこっちの世界の連中は……」

「そうとなれば儂の近くに来い! 久々のエンチャント決めてやるわ!」


 そこへ牛やら熊やら豚やら狼やらのケモノな友達(フレンズ)がぞろぞろと集まっていく。

 青い注射の効能に心配しつつもケモノ度高めな暑苦しい空間が生じると。


「ゆくぞ獣人ども! ガンガンに焚いてやらぁ! 【赤熱纏い】!」


 床にマナの青い線が広がって、それが周囲の足元に達して……がんっと手にしていた大きなハンマーを打ち鳴らす。

 すると一体どういうことか、青い光がそれぞれが手にする得物にまとわりつく。

 斧が、槌が、槍が、大剣が、刃に頭に穂先に真っ赤に熱される。

 触れたら火傷じゃすまないほどの熱された武器が完成してしまった。


「あっっっつ!? いや何してんだあんたら!?」

「こいつがドワーフのエンチャントか、すげーぜ。俺の斧が真っ赤だ……」

「でもよ、金属製だぞ? こんなに温まって大丈夫なのかよ? 折れたりしねえよな?」

「心配せんでいいぞ、どうせ仕組み話しても無駄じゃから大丈夫しか言えんわ! あっでも火薬とか爆発するかもしれんからみんな距離おいてね」

「大丈夫じゃねーだろそれ!」

「もっと気の利いたエンチャントはねえのかよ! 雷とか風とか!」

「だってドワーフいったら鍛冶、鍛冶といったら火じゃもん!!」

「時と状況をわきまえろって言ってんだよ!」

「お前ら移動するぞ、このままじゃ事故起きちまう」


 呪文通り赤熱した武器が何本もあるせいで室内が温まってきた、一番近くにいたオレクスが気の毒だ。

 真っ赤に加工されてしまった武器もろとも獣人どもが玄関に向かっていくと。


『あー、待ちなあんたら。敵の動きが止まっちまった』


 ボスの報告が来た、敵の大群が向こうで止まってる。

 あそこは確か味方がそれなりに隠れてるはずだ、いつでも奇襲はできるだろうが、可能ならもっと引き寄せたい。


『くそっ、なんでそんないいところで止まってんだよ。もう少し来てくれりゃクレイモア地雷の殺傷範囲だってのによぉ』


 しかもコルダイトのしかけた罠の手前らしい、別に期待なんてしちゃいなかったが惜しいのは確かだ。


『こちらハヴォックだよ、待ち伏せポイントの手前から動かないんだけどどうするの? このまま攻撃する?』

『なんだかお帰りになっちまう雰囲気だね、あっちに潜んでるやつらに攻撃させてこっちから行くしかなさそうだ』


 単眼鏡を見ればさっきよりも事細かに向こうの様子が伝わってくる。

 停車した戦車のそばで兵士たちが戸惑ってる、まるでこの住宅街の異様さに気づいてしまったような……。

 もっと細かく見ればかなりの量の車両が入り込んでいるようだ。

 唐突に留まった先頭のせいで、後続の部隊が遅れている――そんな中間的な部分に装輪式の歩兵戦闘車があり。


『……おい、あいつは……!』


 その砲塔に陣取る姿を見た瞬間、驚くボスの声が重なる。

 立ち往生するその上で、手ぶりと指の向きを交えて周りに何かを伝えている男。

 今にも砲塔から出ていきそうなその見た目は、すっかり疲れが浮き出て苛立ちをまき散らしているところだ。


「……ヴァローナ!」


 俺はその姿をほんのわずかでも忘れたことはない。

 ヴァローナだ。どうしているのかは謎だが、こんなとこに迷い込んでやがった。

 しかし我が身の可愛さが先回りしてすぐにハッチに隠れてしまう。


『ははっ、ヴァローナのやつめ。もしかして切羽詰まってこんなところまで押し出されたってことかい?』

『ヴァローナ? あのヴァローナか? あいつがいるというのかジニー?』

『そうさ相棒、あの腐れ野郎だ、まだくだらない思想を振りまいてやがる。次顔見せたらぶち抜いてやるよ』

『だとしたらこれはチャンスだな。敵の指揮官がわざわざここまで足を運んでくれたわけだ、反撃のリスクを覚悟で殲滅するしか――』


 ……そうか、お前も来てやがったか。

 ボスの言う通りだ、セオリー通りの戦いなんてここにはない。

 あるのは人類の積み上げてきた常識が通用しないウェイストランドのルールだ。

 動きを止めたまま次を見失うそいつらを見て、俺はすぐに決めた。


「こちらストレンジャー、おびき寄せる餌が必要なんだな?」


 ニクは理解してくれた、不安そうにうなずいた。

 安心した玄関に向かう。熱々の武器と共に身構える獣人たちをすり抜けて外へ。


『おいストレンジャー、あんた何考えてんだい』

『い、いちクン……? もしかしてだけど』

「向こうに合わせて挨拶してやるだけですよ。誰も出迎えてくれないから俺が行ってきます」

『あんた正気か――いや正気じゃなかったね、止めてほしいかい?』

『ボス、いつも思うんだがあんたってほんと弟子思いだよなあ。まあ俺は賛成だ、面白いから見届けてやるよ』

『はっはっは! おい見ろよハーヴェスター! あいつ囮になるってよ、おっさんびっくりだぁ』

『ああ、俺もまさかここまでイカれてるやつだとは思わなかった』

『こちらクリューサ、即死以外だったらどうにかしてやる』


 別に止めるやつはいないようだ、よかった。

 ベルトにクナイをねじり込んで、俺は堂々と道路を進んだ。

 案の定、家の中から出てきた擲弾兵の姿に兵士の海が軽くざわつく。


「悪いなミコ、まただ」

『……まただね。もう何も言わないよ』

「冷たくなってない?」

『大丈夫だよ。だってなんだかもう分かってきたし』

「一応聞こうか、何が分かった?」

『うん、いちクンってなんやかんやでうまくいく人だから』

「だったら今回もうまくいくさ」


 伏兵とクレイモア地雷に挟まれた道路を歩く。

 戦場とは思えない昼下がり、青空の下の緑服と賊どもは一体何を思ったのか。

 こっちに歩いてくる姿をしばらく見た後、遠くで誰かが銃を構えるのが見えた。


 ――ぱんっ。


 撃たれた。音からして小銃だ、耳元をひゅんと掠めた。

 更に近づく。目を凝らさずとも人の輪郭が分かるほどまで近づくと、また遠くから銃声が。

 今度は後ろで着弾。なお近づくと敵の群れが目に見えるぐらいざわめく。

 二発も外した? じゃあ三発目はどうだ?


「……どうした? 俺はここだぞ? わざと外してるのか?」


 声は伝わらずとも、放った言葉が分かるぐらいに口を動かした。

 なんだかおもしろくなってきやがった。

 するとまた発砲音、頭上をかすめた、もっと近づくと軍勢が一歩退く。


『……ジニー、私は何を見せられているんだ? ここは本当にウェイストランドなのだよな?』

『ひょっとしたらもうこの世界も変わっちまったんだろうね、ファンタジーだ』

『ストレンジャーがあそこまでイカれてるとは思わなかったが、いやほんと今年は最高だなボス。こんなおもしれえのが来てくれるなんて』


 敵もボスたちも驚いてる、もっと驚かせてやろう。

 今度は立ち止まって両腕を開いた、もし言葉にするなら「どうぞ」だ。

 車両近くで小銃を構える兵士と目が合う、ばぁんっ、と銃声がしたが横をすり抜ける。

 無線から歓声と口笛も混じってきた、『マジかよ』とか『次も当たらないだろ』とか呑気な声も届く。


「ヴァローナ!」


 果たして届くかどうかはさておき、俺はその名を叫ぶ。

 身構えていた敵が、車両が、ぴたりと止まった。

 その中に居るであろうそいつは姿こそ見せないが、きっと俺に釘付けだ。


「また会ったな! お前の邪魔をしにきたぞ! 文明人気取りはやめてウェイストランドらしく戦おうか、お前がビビッてなければの話だけどなァ!」


 たぶん俺は今までの人生の中で、最高の笑みを浮かべてるんだと思う。

 二度と忘れられないぐらいにっこり作り――最大の侮辱を示すサインを送る。

 それでも姿は出てこない、きっとあいつのことだ、ボスの魔の手にびびってるのさ。


【次は片腕じゃなく頭を吹っ飛ばしてやる】


 あらんかぎりの表現力を使って身振り手振りでそう奥へと伝えると、敵の群れはしばしの迷いの後――動いた!

 先頭の車両が重たい腰を上げて進み、うろたえていた有象無象も歩みだす。

 これでいいか。腰のクナイを抜いて目の前でぶらさげると、先頭の兵士たちが何事かと銃口もろとも訝しむが。


「お前たちはもう生きて帰れないぞ、覚悟しろ」


 もう一度侮辱の印を手で送ってから、白いテープつきのそれを放り投げる。

 【ニンジャ・バニッシュ】発動。破裂の後、スモーク・クナイの煙と共に俺は消える。

 挑発はもう十分だ、姿を消したままオレクスたちのところへ戻っていく。

 すると後ろから銃声が重なる。どうやら俺のいた場所を撃ってるみたいだ。


「……ってことでただいま」

「うおっ!? 坊主か!?」

「お前忍術使えたんだな……ったく、無茶しやがってよぉ」


 半ば開いたドアを開けると獣人のおっさんたちに驚かれた。

 ほどなくして姿が戻るとなおさらだったが、「よくやった」と気持ちよく叩いてくれて。


「はっはっはっは! そうか、貴公もそういう人種だったか!」


 奥で待ち構えていたみんな――特にチャールトン少佐は一際砕けている。


「あー、豚の少佐殿? そういう人種っていうのはどういうことだ」

「世の中には矢玉の当たらぬ人間が時おりいるのだよ、自警団殿。そういった人間はたいていは偉業をなすものだが、そうかやはり貴公はその類であったか!」

「……す、すごかったなストレンジャーさん……命知らずっていうか」

「わっはっはっは! やりおった、やりおったわこいつ! やっぱお前さんアバタールかなんかじゃろ!?」

「……おかえりご主人、やってくれるって思ってた」

「あひひひっ♡ 敵さんおこっすよ~♡」

「お前もオーガ族に匹敵するほど肝が据わって来たではないか、良きことよ」

『もうわたし、いちクンがこれ以上人間やめても驚かないよ……』


 反応はいろいろだが、外からは敵の進軍を示す轟音が響いてきた。

 完全にペースを乱された人が、車両が、あの憎たらしい奴が一つとなってこっちに迫っている。


『オーケー、どこぞの馬鹿があっちの馬鹿を引き付けてくれたおかげで元気に行進してらっしゃるよ』

『おーおー、おいでなすったな。射程範囲に入ったぜ、完全にカバーするまでもう間もなくだ』

『コルダイト、あんたのセンスに任せるよ。起爆後迫撃砲もった馬鹿どもは一斉射撃、間違っても道路から外すんじゃないよ?』

『嬉しい指示をありがとよ。散弾が飛ぶから身を隠せ、10でおっ始めるぞぉ』


 勢いづいた敵が住宅街の道路を踏み鳴らす。


『10、9、8、7、6』


 収まりきらない車列は民家の玄関すら蹂躙しつつも、立ちふさがる敵は滅ぼすとばかりに火器を向けている。

 今にも四方八方に鉛玉を散らしそうなほど張り詰めた連中の顔が近づく。


『5、4、3、2――』


 その場にいた全員が身を潜めて、散弾の範囲から隠れる。

 向かいの建物の屋根に潜んでいたエルフたちが衝撃に備えて逃げ出す。

 50――25――!


『1!』


*zzZZbbBBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAMmm!*


 その時、あちこちで鋭い爆発が無数に起こる。

 幾つにも束なったクレイモア地雷の爆発だった。

 さぞたくさん仕込んでくれたそれの一斉爆破の余波がこっちまで飛んできて、家の窓がばりばり吹っ飛ぶ。

 弾代わりのネジや釘が家のもろい部分をぶっ飛ばした後、


『――いまだモンスターども! 81㎜ぶっこんでやれ!』


 ボスの指示が飛ぶ、まず亜人たちが手持ちの迫撃砲を窓から突き出し。


「一斉射撃だ! 敵の足元を狙うのだ!」

「歓迎するぞ賊ども! 楽しもうではないか!」

 

 あたりからがきんがきんと尖った砲声のあと、それだけの爆音が広がる。

 背にしていた壁や窓枠が衝撃で弾けた、どうであれ車列に十分なほどぶちかまされると。


『6割ぐらい残ってる! 続けざまに閃光弾をぶち込め! 全員目を潰されるな、いけ!』


 ダメ押しの斉射が再び始まる、水平射撃の砲声が幾つにも重なり。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAAM!*


 今度は榴弾とは違う破裂音だ。窓からまばゆい光と音が差し込むほどの強烈な衝撃が届き。


「――者ども! 吶喊するは今なるぞ! 吾輩に続けェ!」


 チャールトン少佐が動いた。

 迫撃砲を捨てて剣を抜くと、窓の枠をぶちやぶって飛び込んでいく。


「よっしゃああああああああ! 俺たちの出番だ! 切り込むぞプラトン!」

「待ってたぜ! 一番近い戦車からぶち壊すぞ!」


 獣人たちも飛び出ていったようだ。

 屋根に潜んだエルフたちも、周りに潜んでいた義勇兵から何までが姿を現している。


「――行くぞ! 俺たちも殴り込む!」


 すべきことは遠くからの射撃でも搦め手でもない、突っ込むだけだ!

 雄たけびを上げながら突っ込むフランメリア人を追い、ハイド短機関銃を構えて飛び出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話はちょいちょい読み返してます。 イチ君の胆力の魅せっぷりは気持ちいいので個人的に神回な1つです。 敵味方問わず度肝を抜かれた反応も良き。
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