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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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129 第二次スティングの戦い(5)

 

 暗黙の了解は「振り返るな、止まるな、死ぬな」だ。

 北へ北へと走り逃げる、銃撃や砲撃が弾け飛ぶ中ひたすら逃げる。

 道や家屋のそばに見慣れぬ廃車や古びたドラム缶が置かれて、確かにそこが俺たちの退路なのだと理解できた。


 高台の拠点を捨てて逃げる背中はさぞ追いかけがいがあるに違いない。

 後ろから届くのは轟音、地を埋め尽くすほどの人の波が、追随する車両たちの唸りが、確実に押し寄せてる。 

 あんなのはもう軍なんかじゃない、俺たちが良く知っているレイダーそのものだ。


『なんだってんだあの量は!? 急に知能落として突撃しやがって!?』


 無線越しのツーショットが俺たちの気持ちを一つにまとめてくれた。

 道路を渡り、まばらな民家の間に入り込み、150年ものの庭を通り抜け。


「見掛け倒しだったわけだ!」

『なんだって!?』

「それっぽく取り繕ってただけだ! ガワがなけりゃあんなのただの賊だ!」


 それでも俺は笑った。その根源は余裕だったから。

 考えてみろよ、今俺たちを追いかけてるのはなんだと思う?

 さっきまでお行儀よく戦ってた軍隊じゃない、鼻を折られてそうするしか(・・・・・・)なくなったレイダーどもだ。


「あいつらだってこれ見よがしに戦いたかったんだろ! ずっとここまで準備しといて、それが全部無駄になって残った選択肢がこれだ!」


 ライヒランド。確かにお前らはかつて一番恐れられたのかもしれない。

 でもようやく分かった、お前らはしょせん人食い蛮族の延長線上に過ぎない。

 馬鹿みたいな数の兵士を揃えて、アホみたいな量の兵器を持ち込んで、クソ真面目に裏でこそこそやってたんだろ?

 ところがどうだ、お前たちの安っぽい目論見はたった一人のイレギュラーがぶち壊した。


「ずっと見栄張って戦前の軍隊ごっこを見せびらかしてただけだ! そんな模造品(パロディ)にビビる必要なんざあるか! ざまあみろ!」


 大挙してやって来る敵から逃げつついうようなセリフじゃないかもしれない。

 でもヴァローナ、お前は言ったな?

 俺は擲弾兵の模造品、ヒーローごっこを楽しんでるだけだと。

 その通りだ。面白おかしくやってるだけのストレンジャーだ。

 お前らみたいに思いあがって、ウェイストランドの支配者たりえるものがあると構えてるようなモドキ(・・・)とは違う。


「ここは世紀末世界(ウェイストランド)だ! お上品に戦える場所じゃないことを死をもって教えてやれ!」


 振り返った。

 何十何百と重ねられた人間の列が丘を上がり坂を下り、その足で迫りくる。

 その進撃に装甲車両も追いすがり、味方にこぎ着けた戦車が盾として立ちはだかる。

 暗黙の了解を破って散弾銃を構える、人の海に飲まれかけたボディだけの廃車だ。


*Baaaam!*


 撃った。それだけで派手な爆発が兵士ごと赤く広がった。

 一体何を詰め込んでるのかは知らないが、足止めするに値したのは確かだ。

 それでも進もうとする戦車の前面にがきっ、と青い火花が散る――


『一体誰のおかげか分からんが化けの皮がはがされちまったからね、追い詰められたのはあいつらのほうだ。生粋のウェイストランド人たる私らはそれらしくお出迎えしてやろうじゃないか』


 20㎜砲弾の狙撃だ、今のうちに更に後退、民家の陰に移ると。


『たった一人でやつらの歴史を狂わせた人っていったい誰ストレンジャーなんだろうね!』

『南端のカメラに敵の姿が映った! 自動機銃を起動する、射線に入るなよ!』


*DODODODODODODODODOM!*


 通り過ぎた民家の中から五十口径の銃声が重なって響いた。

 後ろで兵士が悲鳴混じりのざわめきを届けてきた、エンフォーサーのおかげだ。


「このまま北の住宅街まで逃げんぞ! そこさえたどり着けば……!」


 先頭のヒドラが郊外の荒れ地を突っ切り出した時だった。

 背中にばすっと衝撃が――くそっ、撃たれた!

 骨をぶち抜かれたような痛みに弾け転ぶ、背骨横の筋肉がどくどく怪しく脈打つ。


「がっ……あ゛ッ!」

『いちクン!?』

「ご主人!」


 激痛混じりの熱さが広がる、大丈夫だ、撃ち抜かれちゃいない。

 背中のアーマーが仕事してくれたみたいだ、クソ痛いが死には至らないはずだ。

 いや、それよりもまずい、こいつは流れ弾じゃない。


「ストレンジャー! クソッ、なんでお前こういうときにっ」


 ヒドラが手を差し伸べてくる、つかむが肺が締め付けられて言葉が出ない。

 「狙撃だ」と、適当な一撃じゃないことぐらいどうにか伝えようとするが。


「俺様が運ぶ! イチ、つかま――」


 ノルベルトの顔がこっちを覗いてきた瞬間だ。

 見上げる形で見ていたそれが、いきなりぼすっ!と弾けた。

 片方の目じりあたりが派手に赤く破裂して、血よりも固形めいたものが小さな爆弾のように飛び散る。


「う゛おおおおおおおおっ!?」


 喉を押し潰されたような苦痛の声がオーガから出てくる。

 目だ。片目をぶち抜かれた。

 大口径の銃弾かなんかか? いやどちらにせよ目の一部が吹っ飛ばされた!


『のっ……ノルベルト君!? ノルベルト君がぁぁ……ッ!?』

「そ……狙撃だ! 南西の方……!」


 痛がってる場合かクソが! 意地でも起き上がる。

 ノルベルトは片目を押さえたままだ、死んじゃいないのは確かか。

 抑えた手からぬちょぬちょと赤色が零れ落ちる、それでも手は放そうともせず。


「……み、ミコ……! 俺様にヒールをかけろ!」

「ノル様……! こっちっす、射線から離れるっす!」

「南東の民家あたりだな! 俺が制圧する、おめーら早く走れ!」


 痛みによる汗がにじんだ鬼のような形相でこっちを見てきた。

 肩の短剣が『ひぃっ』と無理やりに引き戻されるほどだ。

 アーバクルが機関銃をばら撒き、その隙に俺たちは南東から外れるように身を進め。


『ひっ、ヒール!?』


 その先で切羽詰まった詠唱が始まる。

 目を押さえたまま苦しむ顔に青い光がもたらされると、びきびきと嫌な音が目のあたりから聞こえ始め。


「ぬおおおおおおおお……!?」


 抑え込む掌の内側からぐちょぐちょと生々しい音が――最悪だ。

 ひどい回復音のせいで嫌な共感をしつつも、三連散弾銃を手に物陰から南東を見る。 

 犯人がどこか分からないが何もしないわけにはいかない、遠くに見える平たい民家に向けて撃ちまくる。


「アーバクル! 援護するからこっちこい!」

「狙撃されるなんざ聞いてねーぞ! ふざけんな!」


 45-70弾を撃つ、折って装填して撃つ、その隙に赤毛がのしのし歩いてくる。

 その間にもノルベルトの治療が終わったみたいだ、血まみれの顔を持ち上げて。


『の、ノルベルト君……大丈夫、だよね? 目は見えてる!?』


 濃い汗だらけの顔をこっちに見せてきた。

 ちゃんと力強い瞳が戻ってるが、狙撃の名残がべっとりだ。

 しかもそこから出てくる表情がいつもの自信に満ちたもので。


「ふふ、フハハ! 面白い、面白いではないか! この緊張感、これが戦場なのだな!」


 血まみれの顔のままニカっと笑って見せた。この前向きさは俺も見習おうと思う。

 「バケモンかお前」というヒドラのコメントはともかくとして、


「ボス、南東の方に狙撃手がいます! ブルートフォースがやられました!」


 報告しながら北を見た。坂だ、上り始めれば狙撃の視界に入ってしまいそうだ。


『なんだって!? あのデカブツは無事なのかい!?』

「片目やられましたが魔法で全治しました!」

『ひどい報告感謝するよ。お返しにこっちからもお知らせだ、敵の大群が中央に集結中、足止めが効かないぐらい集まってやがる。あんたを全力で追いかけてるところだ!』

『こちらハヴォック! 南東あたりの建造物で発砲炎が二つ確認できたよ! 制圧するから今のうちに行って!』

『エンフォーサーより! 自動擲弾発射機が破壊された! 敵の勢いが増してる!』

「了解! 行くぞお前ら! 狙撃される前に全力で走れ!」


 一通りの連絡が飛ぶと、はるか後方で五十口径の斉射が始まった。

 今のうちだ。痛む背中も忘れて民家の陰から坂の上へ。

 足元にばしっと着弾、登り切った先にある家屋がまた爆ぜて煙を立てる、無数の弾が背中を追い回す。


『おーおー見えて来たぜ、第二防御ラインにはもう誰も残っちゃいないよなぁ?』


 そこからさらに登って住宅街へ通じる道路が見えてくると、コルダイトの呑気な物言いが混じって来た。

 残ってるわけねえだろ、と言えるほどの余裕もなくひたすらに走れば。


『返答はこうだ、あんなとこに取り残されてるようなアホはうちらの味方じゃない』

『おっかねえ婆さんだなぁ、んじゃ――』


 ボスの強い選択のせいなんだろうか、背後ですさまじい爆発が起きる。

 走りながらもかろうじて見えたものといえば、さっきまで俺たちがいた民家が小高い土地ごと派手に吹き飛んでるぐらいだ。

 ついでにその周辺、横並びにあった塹壕やら他の民家やらもだ。爆発がきれいな列を作ってしまっている。


『ハッハァァッ! 俺からのプレゼントだ! これで敵に利用される心配はなくなったな!』


 ……おいおい、あのおっさん俺たちのいた陣地に爆弾仕込んでやがったのか。

 必死こいて戦ってた場所がきれいに吹き飛んで良く分かった、少なくとも再利用される心配はないがあのクソ爆弾魔め。


「……コルダイトのおっさんめ、なんてことしやがる」

『何考えてるのあの人!? 下手したらわたしたちごと巻き込まれたよね!?』

「あっ、あのおっさんやりやがったな!? いつの間に爆弾設置してやがった!?」

「っざけんじゃねーぞクソ野郎! 俺たち爆薬の上で戦ってたのかよ!」

「お~、横一列に爆発してるっす」

「フハハ! 美しき爆破だ! 景気の良い姿ではないか!」

「ぼくたちが居たところが爆発してる……」

『コルダイト! あんた何考えてんだい!? 勝手に人の足元になんてもん仕込んでんだ馬鹿野郎!』

『心配すんなよボス、砲撃ぐらいじゃ爆発しないようにしといたぜ、現にあんたら生きてるから良かったじゃねえか?』

『こちらシエラ、どうして第二防御線が丸ごとぶっ飛んでるか説明しやがれ!』

「こちらストレンジャー、コルダイトの仕業だから安心してくれ」

『了解した、あの爆弾魔をクビにさせた将軍の判断は間違ってなかったな』


 みんな阿鼻叫喚だ。人海戦術の足取りが重くなるほどの大爆発が起きてる。

 奪取した高台が陣取ってた戦車ごと跡形もなく消え去ってしまってるのだから、よっぽど情熱と爆発物を注いでくれたらしい。


『銃座残り四基! くそっ戦車がここまで突出してくるなんて!』

『こちら南部の遠隔機銃チームだよ! 残弾僅か、戦車が盾になってて効果薄! あとはどうにか頑張って!』

『砲兵部隊より、砲弾が切れそうだ! 撃ち尽くし次第我々も前線に向かう!』

『迫撃砲分隊、残弾なし! 敵が多すぎる! 放棄し戦闘に参加する!』

『二号車じゃ! エンジンをやられた! あきらめて最寄りの南西陣地に移る!』

『三号車、ロケット弾撃ちすぎてが折れおった! 戦闘不能!』

『南西陣地より、こっちに敵がまた攻めてきた! 誰か支援を――』


 無線から飛び散る報告の方は散々だ、敵の勢いに戦闘能力が落ちてる。

 せっかくのコルダイトの罠も前進する戦車の巨体の頼もしさを削りきれてない。

 それでも迫撃砲やらが飛んでこなくなったのが唯一の救いだ、ともあれ険しい道を登り切れば。


「――やあ、友よ! あいかわらず派手にやってるじゃないか!」


 いつぞやの屋敷にほったらかしにされてた装甲車両があった。

 傍らにはスーツにお堅く包まれた、無限の可能性を秘めたるへんた……男がいる。


「ごきげんよう、擲弾兵様。(わたくし)たちも助太刀に参りましたわ」


 それからメイドらしくスカートを持ち上げるレプティリアンもだ。

 運転席のハッチも開いて見張りの男の「なんで俺も」と言わんばかりの顔もある。


「――ガレットさんか!? なんであんたが!?」

「このまま君たちが負けると私の屋敷がこの世から消えてしまうだろ? それは困る、まだまだ可能性は無限大なのだからな」

「お久しぶりっすガレット様~、お元気っすか?」

「お前は自分の仕事を忘れたのか馴れ馴れしいぞ!」

「そんな~」


 「さあ乗れ」といわれてお誘いに従った、ノルベルトは相変わらず屋根の上だが。

 しかし敵だって数に物を言わせてこっちに来る、車体に弾がいくつも当たる。

 斜面に当たった砲弾が土煙を派手に上げてすらおり、そんなところに。


「リフテイル! 不埒なお客様が来ているぞ! たっぷり冷やしてやれ!」

「かしこまりましたわ、旦那様。【アイシクル・テンペスト】!」


 すっかり変……男に仕えるメイドになったレプティリアンが杖を掲げた。

 敵に向けられた呪文の一言をきっかけに、急に周囲の空気が冷え込む。

 足元すら凍り付くような音がした直後、白い嵐が敵の方へと吹っ飛んでいく。

 それは氷の塊を生み出しながら敵に届けられたようだ、直撃した戦車が白く凍り付くのすら見えた。


「はっはっは! ウェイストランドは暑いだろう、そこで涼んでいたまえ!」

「うふふ、頭も冷やしてくださるといいのですけど。さあ、行きましょうか皆さま」


 うすら寒くなる笑みに導かれて乗り込むと、装甲車が動き始める。

 狭い上にかなりひんやりしてる。走りまくって温まった身体がやっと冷めた。

 息を整えてるとガレットさんが「飲むか?」と周りに瓶を進めてきた。


「助かった、ありがとう」


 ジンジャーエールだ、一口で飲み干した。

 かなり冷えてて痛みすら覚えたがうまい、渡してくれた本人は親しい笑みだ。


「擲弾兵が戦っていると面白い話を聞いたがやはり君だったか、奴らの前にその姿で現れるとは粋な男だな」

「あいつらがさぞ嫌がると思ったんだ、どうだ?」

「似合ってるぞ。あの様子じゃさぞ効いてるみたいだがな、はっはっは」

「おいおっさん! この機関砲俺が使っても構わねーよな!?」

「誰がおっさんだ! 私は無限の可能性を持つ男、ガレットだぞ!」


 車の行く先に任せて休めていると、砲塔が動いてどどどどどっと発射音が響いた。

 機関砲の鈍い発射音をバックに見る変た……男の姿は何時にもなく頼もしい。


「これから決戦という様子だな、南側の住宅街にリフテイルの同郷の者たちが集まっていて何事かと思ったぞ」

「街の総意でそこを決戦の場にしたんだ、そこに引きずり込んで一気に倒す」

「なるほどな、あの入り組んだ場所ならやつらも自由に動けんか」

「あんたはどうするんだ」

「私も行くに決まってるだろう? スティング市民はお祭り好きなんだ」


 ガレットさんは車内に飾っていた機関銃に弾帯を噛ませた。

 レプティリアンメイドもにっこり頷いてる。二人とも楽しみにしてて何よりだ。


「ふふふ。旦那様、私めは貴方にどこまでも付いて行きますわ♡」

「おお、リフテイル! 忠実な侍女め! 私がどこまでも愛してやろう」

「あっ……い、いけませんっこんなっ♡ 皆さまの前で尻尾をしごくのはぁっ♡」

「おい運転手、できれば早くしてくれ!」

『くそっ! ストレンジャー、お前のせいでいつもこんなの見せられてるんだぞ!』


 変態とメイドのやり取りは無視して、俺は装備を整えた。

 散弾銃良し、自動拳銃も良し、クナイもあるしミコもいる。

 ニクはドクターソーダの瓶をくんくん訝しんでた、けっきょく飲まなかった。


『トカゲフェチの車も見えた! これで撤退完了だね!』

『よーし、敵軍はこっちに集中してるぞ! フランメリアの奴らに合図しろ!』

『こちらシド、部隊と共に配置につく。全員武器や腕章は大丈夫か確認してくれ』


 ボスたちの無線から準備ができたことが分かった。

 隣でヤバいことを始める変態どもはとにかくとして車が止まった、到着。


「お前ってほんと変な奴ばっか……いやもう言わねえ、何言っても無駄だ」

「これからももっと増えると思うから覚悟してくれ」

「お前と知り合った俺も変人みたいじゃねーか、まあ適当に生き延びようぜ」


 ヒドラと共に降車した、戦前の姿を残す住宅が狭く密集した大きな通りがある。

 連なる民家の前でいろいろな顔ぶれが集まっていて、それがボスやフランメリアの人々だとすぐに気づき。


「敵の侵攻上に一番近いところにつくぞ! 合図があったら切り込む!」

「向こうの家の二階から敵前を狙い打て! いいか、敵を十分に引き付けるぞ!」

「エルフどもは屋根の上で待機だ! 移動しながら撃って追いこめ!」

「誰か回り込んで逃げ場をコントロールした方がいいんじゃないの!? 適当に回しときなさい!」

「仕掛けた罠に気を付けるのだぞ! 我らが自爆したら元も子もないからな!」

「義勇兵の奴何人か貸してくれんか! 戦車の相手せんといかん!」


 そこに近づくと人間魔物混じりの群れが忙しく動いていた。

 ここに集まった戦士たちは住宅街の奥に敵を引き込むように動いてるらしい、目に見える範囲でも家屋に入って攻撃に備えるやつもおり。


「挑発は成功したな、それにしてもすごい数だったが」


 オレクスが擲弾兵姿につられてやってきた。

 ボディアーマーを着込んで短機関銃の弾倉をこれでもかと備えてる。


「挑発っていうか逃走だったぞ、絵に描いたような突撃見せてくれていい経験ができたぞあのクソ野郎ども」

「いい思い出ができたじゃないか。できることなら綺麗に勝利してもう一つ思い出作りといきたいんだが」


 兵士の海からの逃走がこれから先いい思い出になるわけないだろ、と目で返した。

 しかし相手は近くにピラミッドみたいに詰まれた武器の一つをとると。


「ストレンジャー、こいつを使え」


 それを渡される――自警団が使ってるあの独特な銃声の短機関銃だった。

 小銃の銃身を短くして、拳銃のグリップと縦長の弾倉を付けたようなつくりだ。


「前から気になってたやつだな」

「こいつはスティング自警団が使ってるハイド短機関銃だ。使用弾薬は45口径、三十発入る。ファクトリー規格だからお前の銃剣も装着できるぞ」


 手に取って軽く構えてみると、木製の銃床が肩にしっかり収まる。

 その外見通りに小銃と同じ感覚で構えられるし、狙いを付けやすい。

 試しに銃剣を銃口に通すとがちりと固くはまった、ちょっとした槍みたいだ。


「使い方はなんとなく分かるよな? 良かったらやるよ」

「やるって、いいのか?」

「使ってたやつが一人消えたからな」


 俺は使い込まれた短機関銃をもらった。

 弾倉も何本か貰ってポケットに押し込んだ、装填して右側面のボルトを引く。

 ついでに武器の山から見慣れた手榴弾と45口径の弾もいただいた。


「別にそいつの意志を継げだとか大層なことは言わないぞ、ただ有効利用しろって話だ。いいな?」

「そいつの代わりにいっぱいぶっ殺せって言われた方が本気出るタイプだ」

「じゃあ仇うちのつもりで殺戮してくれ、それと俺の家の分もな」

「任せな、お前の新築の分頑張ってやるよ」

「オーケー。これからお前と行動しようと思う、いいな?」

「ようこそストレンジャーズへ」

「安直な名前だな、お前らしいというか。まあ今はネーミングセンスの話はやめておこうか」


 何かと長い付き合いになったオレクスが加わった。


「ストレンジャーさん!」


 拝借したものをジャンプスーツに押し込んでると義勇兵の一人もきた。

 ダスターだ、俺たちと同じ短機関銃に棍棒を携える姿はだいぶ様になってる。


「命からがら戻ったぞ、準備できてるか?」

「ああ、できてるよ。遺書以外はだけど」

「こいつさっきから真面目に遺書書こうか悩んでたらしいぞ」

「ストレンジャーらしいアドバイスをするとこういう時は真面目にやるよりふざけてやったほうがいいぞ、こいつみたいに消えた我が家のため頑張るとかぐらいがいい」

「俺の不幸をここで持ち出すな馬鹿野郎」

「そいうわけだし一緒に適当にやるか?」


 まだ少したどたどしい新兵を誘った。

 俺たちを見ると少しためらいこそはしたが。


「分かったよ、俺も適当にやらせてほしい」

「それでいいんだ、心配すんなこっちには優秀な衛生兵もいるぞ」

『あ、あんまり無茶しないでね……?』

「メイドさんもいるっすよ」

「……ぼくもいるけど」

「オーガもいるのだ、案ずるな!」

「ごめん、ちょっと不安だ」


 人間以外の言葉を受けてもっと自信をなくしてしまった、頑張れ新兵。


「やれやれ、あんたはきっと誰かにケツ追われるジンクスでも持ってんだろうね」

「それでもなんやかんやで生き残ってるんだ、今回ばかりはよしとしようぜ」


 ボスとツーショットも来た、近くに脱ぎ捨てられた外骨格と巨大な銃がある。

 良く見ると対戦車小銃の銃身が花を咲かせたように割れてる、壊れたらしい。


「おかげさまでまた一つ肝が据わりました。そっちは無事でしたか?」

「最後の一発と同時に銃身が破裂しやがった。まあよくもったほうさね」

「スピネル爺さんだったらもっと改良したやつを作ってくれるだろうさ、今後に期待しようぜ」

「うちらは北の方の一番デカい家の屋根で狙撃するよ、観測はこいつに任せる」

「まあ俺たちの仕事は怪しいやつを撃ってお前らのお膳立てをするだけさ、どうか世のため人のため頑張ってくれ」


 二人は行ってしまった、「頑張れよ新兵」とダスターの背中を叩いて。


「貴公ら、良く戻ったな。実に勇敢な奴らよ」


 代わりにやってきたのは嬉しそうに俺たちに会いに来たチャールトン少佐だ。

 拳銃と剣で武装したホームガードを引き連れていて、いかにも切り込む姿なのが全体的ににじみ出ている。


「無事だったとは言えないけどな、背中撃たれてマジで痛い」

「俺様など目を射抜かれてしまったわ。ミコの魔法で治してもらったのだが死を覚悟するほどの痛みというのを初めて味わったぞ」

「はっはっはっ、戦の傷痕は良い傷痕である。良き経験だと思って受け入れるのだな」


 フランメリア人の物言いは相変わらずだが、「さて」と話を切り出され。


「これよりこの住宅街に敵が迷い込む。そうとなれば市街戦だ、我々フランメリア人の土俵である」

「言いたいことは分かる。あんたらの得意な戦いに持ち込むから一匹残らず狩って徳を詰めってことだな?」


 市街地の奥を指さすのをみて、続きを勝手につないだ。

 オークの軍人は大当たりだったのか満足そうにうなずいて。


「我々の想像以上に愚直にも突っ込んでくれるものでな、その礼としてなで斬り(・・・・)といきたいのだ。どうだ、我らと一緒に戦場に嵐を起こさんか?」

「まあ君の場合は既に歩く嵐のようなものだがな、来てくれればさぞ大惨事になるだろう」


 殴り込みのお誘いをされてしまう。

 意外なのはあの堅物な軍曹がこうして軽く口をはさんでくれたことだ、信用されてる証拠なんだろうか。

 返事? そうだな。

 俺はボスみたいに狙撃が上手なわけじゃないし、ファンタジーな連中みたいに剣やらが使えるわけでもない。

 どこぞの爆弾魔や放火魔みたいに特別なスキルにも長けてなければ、ミコみたいに魔法を唱えられるわけでもない。

 できることと言えば、今までと同じように生きて戦うだけだ。


「いつもどおりでよければ」

「いつもどおりか! 良き返事だ、ではいつもの貴公を見せつけてやろうではないか」

「フハハ、それでよいのだぞイチ。俺様が見知るお前こそが奴らを脅かすのだ、俺様も共に恐怖を刻んでやろうではないか」


 チャールトン少佐の攻撃に加わることにした。

 向かうは北、広い道路をなぞった先にある住宅街の奥だ。


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