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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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128 第二次スティングの戦い(4)

『オブシディアン・ゴーレム……!?』


 戦車の群れと共に現れたそれの名に、ミコが食いつく。

 だけど構ってられない。なぜならスコープの中は最悪な状況に事欠かなかったからだ。

 それは大量の人間だ。

 車両にしがみついてくるもの。地べたを狂ったように走るもの。

 地平線を埋め尽くすほどに人が海を作り、まさに人海戦術というべきもので。

 

『なんだよあれは!? 巨人に戦車に人の津波がきてやがる!?』


 無線から届くツーショットの声のおかげで、その異様さが増した気がする。

 【これからどう損害を被ろうが知ったことか、数で圧倒しろ】

 そういわんばかりの数が荒野を覆い尽くし、けれども緑色の軍服の数に匹敵するほどの、レイダーたちの雑で無骨な姿が混ざっていた。

 よほどなりふり構ってられないのか、もはやあれは軍なんかじゃない。


『ははっ……冗談じゃねえ、どこまで続いてんだあのクソみてえな数の敵はよ!?』


 同じ気持ちを共有できる場所に居たヒドラですらこれだ。

 お行儀のよさを失った軍――いや、ただの巨大なレイダーの群れと変わらぬ連中が、こっちに走ってきている。

 たぶんみんなの考えはこうだ、一体どうなってやがるんだと。


「……見惚れてる場合じゃねーぞ!? 俺たちの仕事は銃ぶっ放して少しでも引き付ける、だろ!? あそこに1000人いようがやるこた同じだ!」


 アーバクルがまた50口径を撃ち始めて、呆気に取られていた俺たちは戻った。


「お~、どうしたんすか皆さん。変なもんでも見えたんすか?」

「お化けが見えたっていえば伝わるか!?」

『あ、あのロアベアさんっ!? 大変、ずっと向こうに――』


 撃ち尽くした擲弾発射機のカバーを開くとロアベアが弾を持ってきてくれた。

 あの異様な姿がなんであろうと、どれだけ敵がこっちにこようと、赤毛の機銃手の言う通り撃つしかない。


『……いや待ちなあんたら。妙だ、敵がうろたえてる』


 レバーを引いて装填が完了したところで、急にボスの調子が戻る。

 焦りから落ち着く様子に感化した俺たちは、余計に混乱しながらもまた戦場を見た。


『……こちらシエラ! 南の方角のあのデカブツはなんだ!? ライヒランドの奴らを攻撃してるぞ!?』

『こちらオレクス! 東部防御線の攻撃が弱まった! こっちの敵が中央に方向転換してやがるぞ!』

『南西陣地より報告じゃ! どうなっとんのこれ!? 凄まじい数がわしら無視して直進しとるしオブシディアンゴーレムおるし!?』

『こちら第二迫撃砲分隊、なんだあの怪獣は!? ライヒランドの新兵器か!?』


 無線が阿鼻叫喚の言葉を体現してるが、落ち着いて見直すとやっと分かった。

 黒い巨人が逃げる戦車を攻撃してやがる。

 足元のそれを踏みつぶし、あるいは蹴り飛ばし、時には掴んで放り投げる。

 ライヒランドの奴らはそうやって砂嵐の中から追い立てられ、こっちに向かう歩兵たちだって同じ理由だったようだ。


「……こちらストレンジャー、俺の脳神経がおかしいのか黒い巨人が暴れ回ってる、気のせいか?」


 念のため確かめると。


『あんたらのボスも目を疑ってると言っとくよ。よくわからんがオブシディアンゴーレムとやらが助けてくれてるらしいね、あいつら追い回されてるじゃないか』

『シド・レンジャーズからもそうとしか見えねえらしい、あっちの世界の住人かなんかか?』

『あれは――あれは一体なんなんだ? 巨人が我々の味方をしてるのか?』


 ボスからシド将軍までも同じものを見てたようだ、良かった。


「オブシディアン・ゴーレム! あのようなものまでいるのか!」


 今度はニクから単眼鏡を借りてたノルベルトまでもが保証してくれた。

 言い方からして知り合いとまではいわないが名のある何かなのは分かった。


『ろ、ロアベアさん……!? オブシディアン・ゴーレムがいるって……!?』

「砂漠のレイドボスがいるんすか? どこっすかどこっすか」

「おいお嬢さんがた、まさかあのデカいの知り合いじゃねえよな?」


 興味津々だったメイドにも単眼鏡が回された、ヒドラはあれとの交友関係を疑ってる。

 見惚れてる場合じゃないか、すぐに距離を合わせておおまかにどどどどどっ、と弾を打ち込む。


「ミコ、手短に説明してほしいんだけどあれはもしかして」

『砂漠マップのボスキャラだよ……。すごく強いレイドボスなんだけど』

「ほんとっす! 戦車ぶん投げてるっすよ、あひひひ……」


 遠目でも人の形だと分かるそれは、向こうの荒野で大暴れ中らしい。

 走る続ける人の群れを探って撃って、またスコープを覗けば。


「あれは黒曜石で作られたゴーレムだ。生半可な魔力では生み出せんぞ」


 後ろでノルベルトが感心していた。


「じゃあ誰かがあんなもん作ったっていうのか?」

「うむ、ゴーレムとは創造物だからな。土くれ、砂、石とその根本は様々だが、黒曜石か――それもあれほど大きいとなると、よほどの魔力の持ち主が作られたのだろうな」

「とにかくすごい奴が作ったすごいやつがこっちに流れ込んだってことか?」

「あれだけ大きいのだ、肉体を維持するだけでも多大な力を使うのだから元々どこかにいたものとは思えん」

「だったらなんだ、俺が呼び出しちゃった感じじゃないのか?」

「お前の言う通り誰かがこちらの世界で作り出したのだろう、一体どれほどの魔力の持ち主なのか気になるぞ」 


 それだけの存在を良く観察してみると、黒い巨人は砂嵐から続々とび出す車両を追いかけている。

 もちろん反撃する戦車もいたようで、その巨体はけっして無事じゃない。

 逃げ遅れた戦車を潰し、放たれる弾を受け、そこに混乱をもたらしてるのは確かだ。


『二号車より! 誰じゃあんなバケモン召喚したの!? 』

『落ち着きなあんたら! どうであれ敵は乱れてんだ! それよりこっちに死に物狂いでやって来る奴らを少しでも減らすよ!』

『こちらシエラだ! 歩兵――いやレイダーも混じってやがるぞ!? 第一陣がすげえ数で来るぞ、砲撃で突破を阻止しろ! なんでもいいから第二防御線から南へ400のところに打ち込め!』

『三号車より! なんか西の陣地から敵が回り込んできとるぞ!』

『こちら一号車! 東からこっちに転換してるのも確認した! やつら中央に集中攻撃しかけとる!』


 ゴーレム、お前の処遇は後にしてやるが今は阿鼻叫喚だ!

 今度は左から右から、空気を切り裂く遠い叫びが銃弾と共に周囲を叩く。

 周囲を囲った土嚢がばぢっ!と衝撃で崩れ、飛来してきた砲弾が即席の壁を爆ぜ飛ばす。

 慌てて遮蔽物から横を向けば、工場側から、西の陣地側から、人と戦車が仲良く前進している始末だ。


「中央に敵が集中してんぞ!? どうなってんだ!?」


 せめて誰か同じ気持ちを共有できないかと叫ぶが、現実は変わりはしない。

 第二防御線にいた連中がそれぞれの方向から来る敵と交戦する音も聞こえ始めた、前も左右も敵だらけだ、クソ!


『落ち着きな! 105㎜砲、さっきより100m奥に落とせ! 三号車は直接照準で西側にぶっ放しつつ中央まで逃げろ!』

『シエラ部隊より! 第二陣地より西、市街地の端にある民家に迫撃砲をぶち込め!』

『ラムダ部隊だ! 東から敵と接敵! 一号車と共に攻撃しつつ後退する!』


 どこからか砲撃音がめちゃくちゃになり始めて、一瞬で周囲は爆発まみれの危険地帯と化してしまう。

 それだけやばいんだ、あっけにとられてる場合か、俺もやるぞ。

 銃座についてグレネードランチャーの照準を覗くと。


「ご主人! 前から何か飛んでくる……!」


 そばでニクが吠えた。

 吹っ飛ばされた民家の後ろ、そのあたりで何かが光って飛んできたような。


「……やべやべやべやべッ! 全員下がれあいつらTOW持ってやがんぞォォ!?」

「たっ対戦車ミサイル! んな貴重なモン俺たちにぶっこむんじゃねえええ!?」


 撃ちまくってたヒドラもアーバクルも全力で逃げ始めた、つまり狙いは俺たちってことだ!

 銃座を放棄して大急ぎで走る、全員連れて土嚢から離れるとノルベルトがかばってくれて。


*ZBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAm!*


 ちょうど俺たちがいた場所が文字通り吹っ飛んだ。

 爆風も破片もオーガの身体が食い止めてくれた、本人は無事みたいだが。


「皆無事か!? なんなのだ今の武器は!?」

「おかげさまで五体満足だありがとう!」

「畜生ッ! 人間に向かって対戦車ミサイル撃つかよ普通!?」

「それ言ったらこっちだって人に野戦砲ぶっこむやついたじゃねーか!」

『こっこちら一号車ァァァッ! あいつらなんか飛ばしてきおった! わしの愛車がオープンカーになっちまった!』


 東側でまた爆発音、遠くの風景で火の手が上がっていた。

 そこに砲塔が吹っ飛んで吹きさらしになった装輪車両が走ってるのが見えた、なんてこったまだ走ってやがる。


『一号車、無事かい!?』

『全員無事じゃ、車体にも防御魔法かけとくべきだった! 後退する!』

『こちら東部エリア担当の四号車! そちらを支援する、撤退しろ!』


 周囲の状況は「よろしくない」の一歩上だ、どうするくそっ!

 ひとまず猟銃を手に南へ構える、アーバクルも軽機関銃で民家の方を撃ち始めた。

 見ればゴーレムから逃げてきた兵士たちが集結している。

 崩れた家屋の陰には砲塔の発射筒を覗かせる装甲車が――


「ボス、十一時の方向、敵列そばの民家の陰に敵車両がおる!」

『あいつか! 正面からぶち抜く!』


 スピネルがボスに居場所を教えると20㎜が叩き込まれた。

 車体前面のハッチがぶち抜かれるのが見えた、こっちに指をさしている歩兵が呆然と停まる、十字線で首上を狙い撃つ。


「……ご主人、当たった」


 ニクの報告から命中だ、次弾を装填、次を探る。

 敵が多すぎる、どこを狙えば……そう思って照準を動かすと、光景にまた変化が。

 黒い巨大なゴーレムの身体に青い線が浮かんだのだ。

 複雑な青い魔法陣のようなものが腰から手先まで巡って、動きを止めている。

 一体何を? そう思って意識が向いた瞬間だった。


『おい、あのデカいの何をしてやがんだ……!?』


 ツーショットの無線越しの声とともに、ゴーレムが拳を掲げるのが見えた。

 そうしてる間にも足元にまとわりつく戦車たちの砲撃で全身ぼろぼろだ、それでも分かることが1つだけある。


『……マナの光だ……!?』

「おい、なにがおきてんだあれ!?」

『オブシディアン・ゴーレムって特殊なスキルを持ってるの! 体力が減ると使ってくる攻撃手段で――』


 ミコの口にした通りの「攻撃手段」が成されるってことだ。

 荒野に青い光を灯したかと思うと、振り上げられたそれが地面を殴りつけた。

 すると、地面が狂ったように盛り上がる。

 巨体の周りで大きな、まさしく黒曜石とも言うべき黒色の柱が間欠泉のごとく周囲に突き出た。


「やりおった! あいつ【オブシディアン・スパイク】ぶちかましよった!」


 興奮気味なプレッパーズのドワーフ曰く、そんな大層な名前の技らしい。

 周囲に群がる敵を大雑把に、余すことなく串刺しにしていく。

 無数の杭はそれだけに飽き足らず、周りの敵を一通り追いかけながら貫き回す。

 一度に多数の車両を破壊したゴーレムは拳を叩きつけたまま、周囲の黒色ごとさらさらと砂と変わっていった……。


『はっ、見事じゃないかい、美しい散り際に涙が出そうだね』

『見惚れてる場合じゃねえぞ婆さん! そろそろ撤退だ、やるだけやったら俺たちの戦場に招待してやれ!』


 その派手な散り際はライヒランドの奴らも釘付けだ、今のうちに照準をあわせて適当に撃つ。

 崩れた民家から機関銃を向ける奴にヒット、同じくしてアーバクルの5.56㎜弾も打ち込まれて制圧する。

 東側の陣地に走り込む分隊を発見、撃つ、走る目標に当たるかクソが。


「ノルべルト! 南東200に10人ほど移動中の奴がいる! 茶色い屋根の家に向かってる!」

「任せろ! この辺だな!」


 代わりにノルベルトに頼んだ、少し照準をあわせるとゴンッ!と発射音が響く。

 水平にぶち込まれる砲弾が着弾するまで僅か――そいつらのずっと前方で爆発。

 半分ほどを刈り取ったようだがまだだ、後ろでロアベアが「装填するっす~」っと砲弾を手にしてる。


「当たったか?」

「惜しい、先読み過ぎだ。でも足は止まったぞ、もう少し右」

「次弾発射っす、こういうのやってみたかったんすよねえ」


 オーガの身体がほんのわずかに右によると、メイドの両手が81㎜砲弾を詰め。


*ゴンッ!*


 トリガが引かれた。確認すると伏せたまま逃げようとするところに当たった。

 肉も骨も残さない人間跡地の出来上がりだ。


「どうだ?」

「お見事、五体不満足になった」

「アヒヒヒッ♡ さすがっすノル様~」


 俺は握った手をこつっとあわせた、この調子で頑張ってもらおう。

 次の獲物はいないかと眺めるが、すると今度は頭上に白い線が見えた。

 一本、二本、いや四本? 違う八も十六もある。

 それは遠くからこっちに向かってくるようで、そのうちの何個かもひゅるるっと風切り音を響かせながら――


『…………クソッ! ロケット弾が来やがったよ! 全員隠れろ!』

「今度はうちらが撃たれる番ってことか、なるほど――」

「感心してる場合じゃねえだろストレンジャー! 全員避難しろォ!」

「そりゃ向こうだってやるに決まってるよなァ!?」


 ボスが叫んだ。逃げる猶予が少し残るぐらいに理解した。

 一発二発目がどこかに着弾、爆発、ばぁんっ、という炸裂音からして50㎜だ。

 慌てて土嚢そばに掘られた壕の中に全員で飛び込む、ノルベルトも覆いかぶさって完全防御だ!

 そしてやって来たのは絶え間ない爆発だ、防御線にあわせて散らばるロケット弾がばんばん爆ぜて派手な煙を上げる。


『ひゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

「お~、滅茶苦茶爆発してるっす!」

「……耳が痛い」

「むーん、奴らめ本腰を入れてきたな。チャールトン殿たちは今頃無事だろうか」


 壁の一部が吹っ飛ぶぐらいで済んだようだ、防御は砲弾一発で決壊しそうなほどボロボロだが。

 ミコ以外はだいぶ余裕そうだ、安心して顔を上げるものの。


「…………はァッ!?」


 俺が出せた第一声はかろうじてそれだった。

 無理もない、砲撃が終わったかと思えば。


『突撃ッ! このまま畳かけるぞ!』

『祖国のためにッ! 突っ込めえええええッ!』

『ヒャハハァァッ! 殺せ! 殺せ殺せェ!』

『一転突破しろ! 止まるな! 走れ走れ走れええええッ!』


 南側の風景から恐ろしい数の人の姿が迫ってきていたのだから。

 賊なのか兵士なのかも分からぬぐちゃぐちゃが狂ったように走ってきている。

 その数――数え切れるか、地面が見えなくなるほどに大挙してやがる。


『あいつら何考えてんだい!? 人海戦術で突っ込んできやがったよ!』

『こちらシド! ダメだ、こっちにも殺到している! 我々は退くぞ!』

『二号車! 敵にまとわりつかれた、くそっ! 全力で後退じゃ!』


 馬鹿か? 何考えてんだ? 人が畑からとれるでもいいたいのか?

 百人二百人だとかじゃ済まない数をもって、人の姿を借りただけの数が迫ってきた。

 すぐ下から斜面を登る敵の気配だってする、まずい、肉薄された!


『――全員退くぞ! いらないもんは捨てて走れ! とにかく走れェ!』


 ツーショットの言葉を受けて俺たちは逃げ出すが。


「うおおおおおおおおおッ! 一番槍は、俺のものだぁぁぁッ!」


 崩れた土嚢の陰からライヒランドの緑服が出て来やがった。

 慌てず猟銃で撃つ、腹をぶち抜かれてお帰りになった。


「ち、畜生がッ! こいつら何食ってりゃこんなっ」

「ライヒランド万歳!」

「殺せ! 生け捕りにするな! 痛めつけろォ!」


 今度は逃げ遅れたアーバクルの後ろから歩兵が昇ってくる。

 手には自動小銃、背中に銃剣を突き立てようとして――


「やーっと白兵戦っすねえ、アヒヒヒッ♡」


 その横からするりとロアベアが割り込んで、ぶつかろうとした兵士を一払い。

 首が落ちた、もう一人が仲間の斬首に感情が止まったところに自動拳銃を向け。


*papam!*


 素早く二連射、5.7㎜弾で二度も脳を貫かれて死んだ。


「舐めやがって畜生がァァァァァッ!」


 アーバクルがキレた。東側からぞろぞろ昇って来た兵士に弾をばら撒く。

 反対側からも「ヒャッハー!」な連中が昇ってきて。


「ヒャハァァァッ! 逃がすかよォォ!」

「持ってるもん全部よこせッ! そしたら逃して――」


 この知能の低さは間違いなくレイダーだ、こんなやつらも連れて来たのか。

 猟銃を構えるがかちりと弾切れ、振りかぶってぶん投げた。

 「ほぎゃっ!?」と賊の顔を砕いたようだ、背中から散弾銃を抜いて撃つ。


*baaaam!*


 二人の脇腹を仲良く抜いた、仕上げのロアベアの射撃で完全に黙る。

 周囲を攻撃しながら民家から離脱しようとすると、


「早く制圧しろ! 全員皆殺しだァ!」


 歩兵がかさかさ登ってきて手榴弾を見せつけてきた。

 安全のための部品はない、こっちに投げられる――


「ご主人、ぼくが守るから早く」


 そんな終わりを告げるような飛来物に、うちのわんこはクールだった。

 手にした槍で軽々と撃ち払うと、持ち主に返品されたそれが向こうで弾ける。

 最後の一言は「わっ」だった、周りの奴らごとくたばった。


「ほんとお前の犬は頼もしいじゃねえか! ははっ!」


 南から本格ゾンビ映画さながらに登ってくる敵に散弾を浴びせてると、ヒドラが愉快そうに何かを投げる。

 白い筒状の手榴弾――オーケー、白リンだな。

 その通りにばしゅっと炸裂、まき散らされたそれに重度の火傷、断末魔を添えてだ。


「あああああああああああああああああああああぁッ!? 熱いイイイイ!」

「ひ、あっっあついっあっあっあっぎゃあああああああッ!?」

「嫌だ嫌だ嫌だ死にたく熱いおああああああああああああああああッ!?」

「なっなんだこいつら――いやあの黒い姿、もしかして!」

「擲弾兵……擲弾兵だァァァ!!」

「こっ殺せ! 早く殺せ! あいつさえ殺せば!」


 暴れすぎたみたいだ、少しの動揺のあと敵が武器を手に群がってくる。

 こいつらの様子はおかしい、目は血走ってるし攻撃的すぎる――クリューサの言ってたおクスリか。


「行け! 早く走れ! 次は三つ目の防御ラインだぞおめーら!」


 アーバクルの機関銃に任せながら進むが、間が悪くカチっと音がした。

 誰かがぱぱぱっと短い連射、赤毛の身体が震えて「痛ぇ!」とよろめく。

 牽制で拳銃を撃つが抑えきれない、いやとにかく走れ、ここから離れるんだ。


「――ノルベルト! 5m先で停止、反転しろ!」


 群がる敵から逃げつつ、道路に差し掛かったところで閃いた。

 高台から降りた先でノルベルトの背中に手を伸ばし、ラックから砲弾を抜く。

 意図をくみ取ってくれた、オーガは頷いて巨体をくるりと反転させ。


「焼夷弾! 敵をビビらせろ!」

「任せろ! 装填次第ぶちかますぞ!」

「おいおいお前らマジかよこんな距離でっ」


 ヒドラの制止を無視して速攻で迫撃砲弾をぶっこんだ、がこんという音のあと。


*dooom!*


 俺たちが使っていた民家に着弾、派手な赤色を広くまき散らす。

 目で分かるほどに粘つく火が広がって、周りの連中が炎に嘗め回されていく。


『――! ――! ――!?』

「確かに身も心も解けてるな、こいつ作ったやつはどうかしてる」

「そのどうかしてるやつをこんな距離で撃つ方もどうかしてやがるぞ!? 俺たちごと燃やす気か!?」

「おお、見事な炎よ! こちらまで熱が漂っているぞ!」

「次から「最低射程50m」って書いてやるからなクソ! さっさと行くぞ!」


 声もできぬほどに全身を焼かれる勢いは、そりゃ恐ろしいものだと思う。

 突然の焼夷弾にビビりちらかしたのは紛れもない事実だ、隙が生じた。

 「やったな」と肩を叩いてから、俺たちは次の住宅地の中に逃げ込んでいく。


『もう駄目だ! この世界はおしまいだ! ゲームオーバーだ!』

『確かに戦後から争いの絶えない最低の世界だが滅びるにはまだ早いぞ! 俺たちでせいぜい延命処置といこうじゃないか!』

『第二防御線突破された! 死傷者もでちまった! 第三陣地まで移れ、急げ!』


 無線の声は絶望的だ、だがここから先に広がるのは本当の戦場だ。

 目に前に広がるはスティングの入り組んだ住宅街、俺たちにとっては自由に動ける場所だが、敵からすればどうだろうか?

 ようこそ第三防御線へ。悪意と罠とフランメリアの住人たちが待つ戦場だ。


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