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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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127 第二次スティングの戦い(3)

 装甲車の中に閉じ込められて一安心、というわけにもいかなかった。

 車外から爆発音と衝撃が絶え間なく響き始める。

 俺たちが逃げる方向へ向けられたそれは、紛れもなく本気で攻め込む証拠だ。


『ああクソッ! 砲撃だ! 当たるんじゃないよツーショット!』

『この音は迫撃砲だな! あいつらどんだけ持ってやがる!?』


 運転手のハンドルさばきは止まらない、行く先々の爆発を潜り抜けるように車体がふらりと蛇行する。

 俺たちはまだいい、爆風も破片も気にしなくて済む。

 屋根に張り付いたままのボスたちが気の毒だ、まあ二人なら大丈夫だろう。


『こちらシエラ、次の防御線についたが既にひでえ砲撃を食らってる。どうにかしてくれる親切な砲兵はいねえか?』

『こちら親切な第二迫撃砲分隊、カウンター砲撃をご希望なら「どうにかしろ」じゃなくおおまかな敵の位置を教えろ』

『うちの天才殿がだいたいの位置を割り出した、放棄した陣地より南へおおよそ900、西寄りだそうだ』

『最南部より南西――丘があった場所か、了解した。これより返礼準備を行う、たっぷり返してやるから少し待ってろ』

『それとスタート地点に敵が集結してる、突撃される前に手前に照準を合わせろ。シエラアウト』


 無線からルキウス軍曹と砲兵のやり取りが届いた、どうにかしてくれそうだ。

 早くこのクソ忌々しい迫撃砲の雨をどうにかしてくれ、と思ってると。


 ――がぎんっ!


 至近距離で爆発が起きたかと思えば、ちょうど尻の下で嫌な音がした。

 金属がねじ曲がったような……実際その通りだったのか、車がぐらぐら変な動きを始める。


『い、今の音って……!?』

「……すごい音がした、大丈夫じゃなさそう」

「ああ、良くない音のは確かだな」

『畜生至近弾喰らったか! 足やられた! ボスどもは無事か!?』

『無傷だよ! このクソデカイ銃がなかったら振り落とされてたね!』


 ボスは無事か、じゃあノルベルトも大丈夫だろう。

 びっくりするミコとニクと寄り添いながら、とまらぬ車の行く末を待つ。


『こちらシド! ジニー、無事か!』

『こんなのでくたばると思ってんのかい、そっちはどうなってる?』

『第二防御ラインに全員たどり着いたようだな。敵は最南部の陣地を奪取した、歩兵も展開されているためあちらの行動はより複雑になるぞ』

『オーケーだ相棒、この無線が聞こえるやつは良く聞きな。これより敵が突撃してくるから砲撃を加えて阻止しろ、敵が雪崩れ込んでくるまでどんな手段を使ってでも食い止めろ』

『補足のコルダイトのおっさんだ、聞こえるか? 市街地のあちこちに捨てられた車両や赤いドラム缶に偽装した爆弾を設置した、銃撃で爆発するほど敏感でひとたび起爆すれば周りに破片がすっ飛ぶぞ、気を使ってくれ』

『聞いての通りイカれた野郎がとんでもないもん設置してやがる、近づくんじゃないよ』


 ボスたちのやり取りからは二度目の戦闘が起こることが分かった。

 コルダイトのおっさんのクソ素晴らしい報告も混ざると、ぐらつく車が停まる。


『足回りがやられた! 装甲車を放棄、全員降車して次の防御陣地へ行け!』


 言われるがまま降りると、迫撃砲やらで滅茶苦茶になった住宅地が見えた。

 敵は見えなくなったが攻撃が続く音だけはまだはっきりとしてる。

 しかしあくまで一見しただけの場合だ、わずかに眺める間にびすっと足元に弾が落ちた。

 続けて近くにあった民家も炸裂、戦車砲の餌食となって面積を減らす。


「この様子だと西と東は大丈夫そうだね、こんだけヘイト買ってんだ!」


 装甲車から飛び降りたボスが向かう先は、小高い土地に立った一軒家だ。

 さぞ南の方が良く見える立地条件で、向こうからも狙いが定めやすいと思う。

 しかし防御はしっかりと作り込まれてた。

 周囲には長い塹壕が作られ、土嚢に廃材も加わり周囲の色に溶け込んだ守りが作られてる。


「砲撃止んでるっす、どうしたんすかね?」


 次の陣地へ向かってると、目の前でロアベアが不思議そうにしていた。

 本格的な攻撃が来る前に急ぐ身だが、言われて感じてみれば派手な爆発がない。


「俺たちの部隊がやってくれたことを願おうじゃないか、そうじゃなきゃ――」

「敵が本格的に突っ込んでくる兆候か、だね。あんたはどっちがいい?」

「うちは首切れればどっちでもいいっすね、アヒヒヒ……♪」

「くそっ、なんでこんな殺人鬼加えちまったんだい私は」


 ツーショットの言う通り向こうの迫撃砲を潰したならいいニュースだ。

 悪いのは準備完了、突撃開始のオチだ。どうか前者であってくれ。


『ボス! 一号車戦線復帰したぞ! ついでに物資持ってきた!』

『二号車補給完了! 西側民家の陰から迎撃するぞ!』


 要塞と化けた民家に登ろうとしたところで、北の道路から戦車が二両下りてきた。

 魔改造戦車は西へ、砲塔からドワーフが見える装輪式の戦車がこっちに近づき。


「武器弾薬のお届けじゃ! 届けにきたぞ!」

「補給だって!? 第二陣地にちゃんと備えてあるのに何で持ってきたんだい!?」

「義勇兵が無駄打ちしとるようでな、後方の奴らが気を効かせただけじゃ! それと三号車が指定されたエリアに照準を合わせとる、指示があり次第吹っ飛ばすだとさ!」

「良く分かった、感謝するよ!」

「それじゃうちら配達が終わり次第、東の掩蔽壕で狙い撃っとるから! ほれドライバー、さっさと次行くぞ!」


 側面に括り付けられていたコンテナをがごん、と落としてから東へ向かっていく。


「ブルートフォース! そいつを運びな! あんたの大好きな力仕事だ!」

「その名に恥じぬよう働こうではないか。さて急ぐぞ」


 それをノルベルトが軽々と担いで、俺たちは次なる陣地に駆け上がった。


「おっ、やっと来おったな」


 最初に俺たちを出迎えたのはスピネル爺さんだ。

 弾を避けれる程度には周囲を守られた民家の前には、使ってくださいとばかりにグレネードランチャーや機銃が据えてある。


「ボス、いろいろ用意しときましたよ。ここでアラモ砦でもやりますか?」

「報告よ、ボス。他の陣地の義勇兵が弾を使いすぎて戦闘行動に支障が出てるそうよ」

「ここで死ぬつもりはないよ馬鹿もん。それとラシェル、気の利いたやつが武器弾薬の補給をしてくれたよ。ブルートフォース、積んでやれ」


 ボスは指示を飛ばして民家の中へと入っていく。

 「了解したぞボス」とノルベルトがトラックにコンテナを詰め込むと。


「ストレンジャー、お前のために街中から引っ張って来たぜ」


 ヒドラが銃座の方の前についてちょいちょい、と俺を誘ってきた。

 いつぞやの自動擲弾発射機だ。どうもこいつで敵を撃てってことらしい。


「またお前を使うなんてな」

「なにか縁があるみてえだな」

「忘れるかよ、こいつで街の建物ごと敵を吹っ飛ばしたんだぞ」


 三脚の前についた。土嚢越しにさっきまで俺たちがいた場所が見える。


「なあに心配するな、今度は味方さえ撃たなきゃ何してもいいんだ。使い方はもう分かるよな?」


 俺は「それくらい知ってる」と得意げな顔を作って40㎜弾を込めた。

 満足したヒドラはアーバクルの弾着を見に行くそうだ。


「スピネル! 観測ついでにこのデカブツを見な! 撃ちすぎるとあっという間に異常加熱しちまう!」

「了解じゃボス! で、どうじゃった対戦車小銃の威力!?」


 今度はドワーフをお供に狙撃か、ボスが消えたのを見て照準を立てる。

 敵が来たとして隠れそうな民家は300mほど先にある、距離を設定していつでも撃てるようにすると。


「……ん。ぼくが見てあげる」


 ニクがそばにちょこんと座った。さっき見失った単眼鏡を持ってる。

 グッドボーイと頭をなでてやると。


『みんな良く聞きな、敵がまた前進したよ。ここから300mほど先にある民家が見えるね? あの辺に敵が集まるだろうね」

『こちら三号車「ヘルファイア」より! 敵の侵攻ルート上に照準をあわせとるぞ!』

『こちらシエラだ! こっちからも敵が見えた! ヘルファイア、民家のやや後ろに落とせ!』


 二度目の戦闘が始まってしまった。

 ずっと後ろの方でばばばばばばしゅっ、とすべるような発射音が響く。

 その音源たるものがすぐ頭上を飛んでいく――薄く白い線を描いて、ロケット弾が南側にばら撒かれる(・・・・・・)


「すげえなあれ! 50㎜ロケット弾の一斉射撃とか始めてみるぜ!」

「それにしちゃ散らばりすぎじゃねーのかあれ」

「おーすっごい飛んでるっす~」


 左へ右へ、しかし間違いなく照準で押さえていた民家へと砲弾の雨が散らばった。

 五秒後ほど、当たって欲しい場所のずっと後ろで次々と爆発が起きる――外れだ。


『ヘルファイア、外れだ。ずっと後ろに命中、逆に敵が侵攻しやがったよ』

『くそっ! はずしおったか! 待っとれすぐ装填する、全員早く弾込めろ!』


 しかも最悪なことに、それをきっかけにばすっと近くの土嚢に弾が当たる。

 最初は一発、次は十発、次第に斜面の下で野太い爆発が起きた。


「ご主人、民家から敵が出てきてる」

「アーバクル! 民家の中に敵いやがるぞ! 一階の窓に打ち込め!」


 ニクとヒドラのそれぞれの声を聞いて、引き金を絞った。


*DODODODODOM!*


 40㎜弾のお届けだ。合わせてアーバクルも50口径を撃ち始めた。

 背中から20㎜級の馬鹿でかい銃声も混じる。周囲からも小火器が放たれた。

 当たってるかなんて分かるものか。だけど向こうは撃ってくる、だから撃ち返す。


『敵部隊を補足! 散らしとくぞ!』

『こっちも敵戦車を捉えた! ぶっ放すぜェ!』


 配置についた戦車からも攻撃が始まった、景色の一部に砲が打ち込まれる。


『二射撃目いけるぞ!』

『さっきの弾着は50mほど奥だ! 今度は敵が前進中、100m手前に撃って阻止しろ!』


 遠い姿に薄っすら、本当に集中しなければ分からないほどに人の粒が見えた。

 照準をわずかに動かしてまた連射する。戦車のシルエットだって見えてきた。

 そこにまた頭上をロケット弾の嵐がかっとぶ。

 ちょうど、どうにか肉眼で捕らえた姿へと散らばった。遠い向こうにいらっしゃる列に爆発が起きた。


『命中を確認したよ。敵の車両の動きも止まった、お見事』

『了解じゃボス。発射で位置バレて弾飛んできおった、陣地転換するぞ』

『こちら砲兵部隊! 105㎜砲のお届けは必要か?』

『南から300mほどの通りの前にある民家、そこに敵が隠れてる。吹っ飛ばしてくれるかい?』

『もうそこまで来やがったか。了解、照準調整後ただちに砲撃開始する』


 40㎜を更に打ち込むが、敵の攻撃が弱って来た。

 いったん手を止めた、隣でじっと座り込むニクの背中を突いて。


「ニク、敵は見えるか?」

「……民家の裏にいるけど、ご主人」

「どうした」

「遠くの方で砂嵐が起きてる」


 敵の場所を探ろうとしたのだが、妙な単語が返ってきた。

 砂嵐? どういうことなのかと向こうの景色を見直してみるが。


「……おいおいおいおいなんだありゃ? 砂嵐じゃねーか!」

「はぁ? なんでこんな時に……どうなってんだよ」


 隣のヒドラたちがそういうもので、その通りの景色があちらにあった。

 敵のはるか後ろ、さっきまで俺たちが戦っていた場所から先で、濃い土煙がウェイストランドを覆っていた。

 いや、あれじゃ砂嵐というよりは砂の壁だ。

 外の世界を阻むかのごとく、西へ東へ広く続く砂がスティングを遮ってる。


『あー……なんだいありゃ、敵の方ですごい砂嵐が起きてやがる』

『こちらからも確認できた。ようわからんがひとまず砲撃を開始するぞ』

『……いちクン、あれって砂嵐なのかな? まるで壁みたいに広がってるよ……』

「俺も思ってたところだ、なんか妙だぞあれ」


 なんともいえない、だがあれは妙な感じがする。

 謎の現象が気になるところだが、そうしてるうちに後方から砲声が何発も響く。

 着弾までしばらく――視界の中にあった土地の一部に黒煙と爆発が横並びに起きた。

 お見事、命中だ。見晴らしのよくなった民家が無様な姿を晒してる。


『着弾を確認。素晴らしいね、民家が吹っ飛んだよ』

『了解、もう一発お見舞いしようか?』

『しばらくしてからまた――いや待ちな! なんだいありゃ!?』


 そこに攻撃を加えようかどうか悩んでいると、無線越しのボスの声が焦り出す。

 その場にいた全員が何事かと振り返ると。


「おい、おい……! いや、なんだってんだ……ふざけてんのかい!?」

「ボ、ボス!? どうしたんじゃいきなり!?」


 開いたドアからボスの上半身が生えてきた。

 双眼鏡を手に南をガン見してる。しかし一体どうしたのかと誰かが言うよりも早く。


「……ご主人! 見て、南に……!」


 ニクも同じような反応をしてしまう。

 どうしたんだ? そんな言葉を投げかけるよりも早く猟銃を覗く。


「どうした? 何かあったのか?」


 まさか悪いニュースだろうか? そう思ってみた先にいたのは――

 人だった。そう、向こうの景色、砂嵐から人影が出てきた。

 そんなシルエットから逃げるように、土煙の壁から戦車たちが早足でぞろぞろと疾走してるが。


「……人?」


 いや、まて、おかしいぞ。

 おびただしい戦車の群れはともかくとして、その輪郭はあまりにも大きすぎた。

 真っ黒な金属めいた肌を持つ、かろうじて人間だと分かるほどの巨体が映ってる。


「ま、待てよ……なんだよありゃ、デカすぎんだろ……」


 そんな異様な姿のスケールを把握したヒドラがそういうんだ、あれは人の姿をした戦車よりデカい何かだ。

 そしてこの疑問は。


「なんてこった! オブシディアン・ゴーレムじゃ! なんでこんなところにいやがんじゃ!?」


 双眼鏡をひったくったスピネル爺さんの一言が答えを表していた。

 オブシディアン・ゴーレム。どう耳にしてもこの世界たらない異世界の名前だ。

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