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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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124 戦争だ、覚悟はいいよな?

 弁当の配達を終えて戻ると、宿屋の前に人だかりができていた。


「よおストレンジャー、いいところに戻って――」


 その中から目ざといツーショットがすぐ気づいてくれた。

 どこかに奇異の目を向けていた人だかりの好奇心をもはぎとると。


「いやお前、その格好どうした? いつから擲弾兵に転職したんだ?」


 物珍しそうに胴体を小突いてきた。感触は全て硬いプレートに飲み込まれた。


「親切な人に譲ってもらったんだ。戦いに向けてイメチェンした」

「そいつの出所については今は聞かないでおくけどな、こうして擲弾兵の装甲服を着るとそれなりに様になってんなお前」

「本物みたいに?」

「そうだな、これから勝って生き残れば本物になれるかもな。せっかくだしなってみないか?」

「それもいいなって思ってたところだ。プレッパーズと兼業だな」

「へへ、お前がやる気で嬉しいぜ。うちのボスもちょうどイメチェンしてたところだったんだ」


 ツーショットに「こいよ」と人だかりの中に誘われた。

 擲弾兵の姿はよほどなのか、道行く先の連中が割れて道を作ってくれる。


「――どう? 指先の感度はこれでいいかな?」


 ハヴォックやらが工具などを手にして作業にいそしんでたらしい。

 そういった人間が囲うのは、何度か見てきたあのエグゾアーマーだ。

 間に合わせで取り付けられた装甲の中にはボスが閉じ込められていて。


「あのデカブツのトリガの重さを加味すればこれくらいで十分だね」

「バッテリーも交換したが稼働時間は良くて丸一日だな、こりゃ。派手に動きゃ半日が限度だぜ」

「二十四時間ね。もうちょっとマシなのはなかったのかい?」

「しょうがねえだろ、これ以上状態のいいバッテリーが見つからなかったんだ」

「まあいいさ、どの道使い捨てるつもりだから問題ない」

「せっかくのエグゾアーマーなんだぞ!? 大事に使えよクソババァ!」


 カーペンター伍長にしつこく弄られてたそれは、とうとう駆動音を低く鳴らしながら動く。

 機械を纏った指をかちかちさせながら、あの巨大な小銃を手に取ると。


「悪くないね。自分の身体みたいに良く馴染むよ」

「だったら自分の身体みてえに大事にしろよ、せっかく整備してやったんだぜ?」

「こいつは元々消耗品さ、愛着もって使うもんじゃないだろ?」

「限りある資源はなんとやらだ、俺が丹精込めて弄ってやったんだからマジで大事にしやがれ」

「あんた、だいぶサンフォードの奴に言動が似て来たね。もう歳かい?」

「おいっ! あのクソジジィのことは言うんじゃねえよ!?」


 人間が立って扱うには難儀しそうなそれをまっすぐに構えだす。

 そんな途中にいたであろうストレンジャーに気づいた我らがボスは、ゆっくりと得物を下ろして。


「……で、そちらの擲弾兵様はなんのつもりだい?」

「奇遇ですねボス、俺もイメチェン済ませて来たんです」

「あっダーリンどしたのその格好!? 擲弾兵の装甲じゃん!」

「お前もお前でやる気じゃねーか、ストレンジャー。ライヒランドを前にそのコスプレとか皮肉が効いてんな」


 宿の前で整備中だった二人をかき分け、かしゃかしゃ歩いて来た。

 装甲を取り付けた外骨格は、ただでさえ威圧感のあるボスの長身を補って1.5倍ほど大きくしている。


「いい意趣返しじゃないか。どこで手に入れたんだい?」

「ご先祖様から借りて来ました」

「墓でも荒らしてきたのかい? 罰当たりだね」

「まあ似たようなもんですね。こいつで戦ってくれればうれしい、だそうです」

「ちゃんと許可を得てるならいいさ。私もちょうどおめかしが終わったところだ」


 頭だけはボスのそれは、からかうようにこつん、と胸を叩いてきた。

 外骨格の出力がそのまま来ると思ったが、器用なことにいつものような力加減が装甲越しに伝わる。


「狙撃仕様に調整してもらったエグゾアーマーさ。似合うだろう?」

「とてもお似合いです、ボス。もう一着あったら俺も着ていいですか?」

「こいつはちゃんと使い方を習わないとただの重たいだけの足かせだよ、今回は大人しく擲弾兵でいるんだね」

「分かりました、いつか俺も着て見せます」

「そんなに興味があるなら北部レンジャーに言っといてやろうか? エグゾアーマーに興味津々な余所者がいるってね」

「ぜひお願いします。そのためにも――」

「ああ、そのためにもね」


 俺たちは街の南側を見た。

 すっかり薄暗いのに賑やかだ。祭りの始まり、といわんばかりに活気がある。

 戦いを前にして明るいというのもおかしな話だが、誰一人死ぬつもりのない気概があれば悲劇なんて来ないだろう。


「……宿に各部隊の責任者が集まってる。最後の話し合いといこうじゃないか」


 ボスはそういって、背中に手を回して腰のあたりをかちゃっと弄った。

 すると背中を覆う骨格が機敏に開いて、自由になったボスが降りてきた。


「これが"えぐぞあーまー"か……! 機械の鎧とかロマンありすぎじゃこれ!」

「な? カッコいいだろ? でもこいつって扱いがすげえ難しいんだよ、専門の訓練を受けねえとのろのろ歩くぐらいしかできねえ」

「なに、甲冑みたいなもんじゃろ? まあこっちの甲冑は動力つきで力を補ってるようじゃが……わしもあれ着たい」


 持ち主不在の外骨格に興味津々ヒドラとドワーフは置いといて、俺はボスと一緒に宿に戻る。


「戻ったな、ボスと――擲弾兵」


 そこで待ちわびてたのはオレクスだった。

 何人か義勇兵を連れて地図に向かい、スティングの未来に悩んでたに違いない。


「貴公も戦いに向けた格好をしておるな、イチよ。似合っているではないか」

「ストレンジャー、少し見ない間に印象が変わってしまったな。この街を思っての衣替えか?」


 ホームガードの二人はこの姿を気に入ってくれたみたいだ、特に軍曹がお堅い言葉を柔らかくするほどに。


「その装甲服……もしや本物か? 模造品というわけではなさそうだが」

「えらく気合が入ってるな。どうかその姿通りの活躍をしてくれ」


 エンフォーサーの隊長とブラックガンズの指導者も俺の姿が気になるようだ。


「よもや生きているうちに戦に加われる機会が巡って来るとは、人生とは何があるか分からぬものだな?」

「いよいよって感じっすねえ、なんだかうち楽しみっす。アヒヒ……♡」

「……ん。どこまでもついていくから」

『……本当に、始まっちゃうんだね』


 人外だらけのストレンジャーズは相変わらずだ。今や犬すらこうも喋ってる。


「――さて、諸君。今回はジニーに代わり私が説明する」


 そんな面々がずらりと揃う中、シド将軍が地図を見た。


「敵は依然として橋の向こうにとどまっているが、とうとう動きが変わり始めた。北部レンジャーの報告によると既に橋を渡り、次の行動に移ろうとしているようだ」


 ボスよりもごつごつとした指は例の橋、その渡った先に向かう。

 マークがつけられていた。それはつまり、敵の一部がとうとう踏み込んできたという証拠でしかなく。


「おそらく先発隊だろうが、間もなくすべてが渡り切るだろう。なおこれ以上のサボタージュは期待できず、また音信不通のまま暗躍していたグレイブランドの部隊も姿を消してしまった」

「グレイブランドの奴らはどこにいっちまったんだかね」

「分からん、だが彼らのおかげでここまで食い止められたのは確かだ。ただ逃げたとは思えないが」


 ボスの言う通り、北部レンジャーのそばにいたグレイブランドの謎めいた連中は消えたらしい。

 行動を継続する余力がなくなったかもしれないが、ここまで邪魔してくれれば敵ってわけでもないはずだ。


「確認したいんだが、敵の戦力の仔細は分かるか?」


 地図上のウェイストランドを眺めてると、隣でオチキス隊長が手を上げた。


「厄介なものから上げよう。戦車がざっと百両だ」

「……百だって? こっちは"もどき"を含めても十五ほどなんだぞ?」

「全部あいつらが良く使ってる四人乗りのタイプだったとしても、クルーだけで400人はいるね」


 ハヴォックが補ってくれたが、戦力の五分の一は戦車だということらしい。

 それだけの戦車がどうやってやって来るのかが心配だが。


「しかし向こうだってそれだけの戦車を維持するコストを払っていたのは確かだ。長期戦はもうしない、という表れかもしれないぞ」


 オレクスは「つまり一斉にやって来る」ことを危惧してる。


「そこに兵員を輸送するための他の車両も含めてしまえばなおさらだろうな。最初で最後の一斉攻撃ということにもなりかねん」


 そして軍曹が導き出した答えもやはり一斉攻撃の準備だ。


「君たちの言う通りだ。多数の装甲車両も随伴しており、それだけの歩兵も確認された。よって二千二も及ぶ数は機甲戦力をもってしてスティングに攻めよって来るだろう」


 さて、そんな厄介な連中がどんなルートで来るか?

 その答えはこう書いてある。

 スティングまで続く長い道路を辿る道を中心に、クロラド川を辿っての街へ近づくルート、最後は荒野を突破し郊外南東に迫る手段だ。

 三方向。南東、南、南西から、あいつらはいくらでも近づくことはできる。


「地図にある通り三つのポイントからやって来ることが想定される。街の最南部が攻撃されるのは確実だ、よってそこから防御線を作った」


 南の住宅地は手が加えられて敵に備えた陣地が構えてある。

 更に南西の丘のあたりには陣地が隠され、南東は例の工場を主軸に防御線が作られている。


「南西の郊外、最南部の住宅地エリアの末端、そして食品工場周辺に敵を迎え撃つための備えをした。以後この三つでライヒランドの軍を出迎えるわけだが」


 シド将軍がそこまでいうと、述べた通りの三つの拠点の詳細も書き込んでくれた。

 対戦車攻撃になりえる手段は大体揃ってるし、ドワーフたちが改造してくれた戦車やら、地雷原までも抜け目なく配備されている。

 その上で突破された行く先には――おあつらえ向きに用意された戦場。


「それぞれの防御線にはできうる限りの装備を配置した。もちろん、これらは最悪放棄することを前提としている」

「最大の目的は街の中まで引き付けるってことさね」


 ボスが主目標を丸く囲った。

 そこは街の南部すべてだ。

 敵に荒らされ、住民たちもとうの昔に逃げ出した住宅街そのものが、あいつらの為に用意された戦場だという。


『街を、戦場にするってことですよね……?』


 丸ごと戦いの場に変わってしまうスティングの大部分に、ミコが難色を示すが。


「残った市民どもの総意だよ。街は滅茶苦茶になってしまったけど、せめて憂さ晴らしに侵略者どもに痛い目を見せてほしいってね」

「だから防御線の構築に並行して、お手すきの市民の方たちがそこを戦場に仕立て上げてくれたのさ。土地勘があるおかげで実にいやらしい配置で出迎えてくれるぜ」

「それにコルダイトのやつが主導で人の尊厳を踏みにじるような罠もしこたま作った。よって――」


 意地の悪そうな企みのあるボスとツーショットは、続きをシド将軍につないだ。

 侵攻するにあたり絶対に通らなければならない南部。

 それこそが本命であり、三つの防御陣地は誘い込むための囮に過ぎない。

 攻撃に耐えて持ちこたえる? いいや、おびき寄せて皆殺しにする。


「二人の言う通り、この防御線はあくまで敵を誘い込むためのデコイだ。そのため南側はあえて脆弱にし、ある程度敵を塞いだところで速やかに撤退してもらう」


 南西の丘に作られた隠蔽陣地、東側の要塞となった工場。

 間に挟まれて「最も防御を固めないといけないはず」の場所は使い捨てだ。

 わざと突破させて、丸ごと戦場としてつくりかえられた南部へとご招待、そして誘い込まれた敵を囲って一斉に攻撃する、と。


「幸いにも西側から続く郊外は険しい地形がどこまでも続いているだけだ、回り込もうにもそれを成すための道がない。つまりやつらは正面から迫るしかないのだ。長距離攻撃の手段を無力化された以上、ライヒランドにある手札は進むか引くか、ならば迎え入れてやろう」


 地図で分かるのは、街の下半分が罠と伏兵でおもてなしするための会場となってることだ。


「また後方にエンフォーサーたちの率いる火力支援部隊も待機している。支援が必要な際は各部隊のリーダーがしかるべき手順で砲撃要請を送るように。地図を忘れるな」


 街中には砲が転々と配置され、踏み込んだ敵のために照準を合わせてるらしい。

 そんな大掛かりな戦場をシド将軍が紹介すると、では限られた兵力をどのように配置するか、と指が動くものの。


「――おい、悪いニュース追加だ。偵察部隊からの報告によればたった今本軍が動いた」


 ツーショットが慌てて宿に入って来た。くそ、本当に悪い知らせだ。


「それは本当か、デュオ?」

「マジだ。先遣隊がさらに前進して、後方にいた奴らが早足でこっちに向かってる。ここから十キロメートル先のところで車列の先頭が見えたそうだ」


 噂をすればなんとやらがこんな時に発現してほしくはないが、思い通りの戦場なんてないんだろう。

 けれどもシド将軍は焦りもせず。


「聞いての通り二千の兵が近づいてはいるが、まだ奴らが来るまで時間はたっぷりある。各自装備を整え次第速やかに指示のもと行動しろ。市民の避難指示も忘れるな」


 手短に伝えて、俺たちに動くように命じた。

 その言葉の通りにボスがこっちにやってきて。


「プレッパーズの馬鹿ども、集まりな」


 人混みの中から馬鹿どもを集めた。

 見慣れた顔ぶれがそろうと、一通りの顔ぶれを確かめた後。


「私は今から南の方で陽動をしてくる。あんたらはどうしたい?」


 自分が敵を誘い込む餌だと口にした。

 まあ、そうだと思った。この人は安全な場所こそこそするような人じゃない。


「またいきなりっすねボス」

「今までさんざん頭を悩ませてくれたライヒランドどもに、いの一番で銃弾を届けてやりたいからね。ヒドラ、あんたは?」

「……そういやアルテリーの時も囮やってましたよね。楽しそうなんで俺も行っていいすか」

「ヒドラがそういうなら私も行くわ」


 ヒドラはおどけながらボスについてくそうだ。ラシェルも一緒に。


「アーバクル、ドギー、シャンブラー、あんたらは?」

「参加ってことで。どうせならプレッパーズらしく堂々とやりたいんで」

「思い出作りになりそうだからね」

「それなら行きましょう、いい思い出になりそう」


 アーバクルたちも来ることが決まった。緊張感のなさが逆に頼もしい。


「言っとくがあんたの隣っていう特等席には俺がいるんだ、「ついてくかい?」の質問はなしだぜボス」

「好きにしな」


 ツーショットはどこまでもついてく意志を表明している。

 けっきょくいつもの面々が志願してくれたところで、ボスは俺たちにも向く。


「ストレンジャー」

「また一緒に囮になりましょうか、ボス」

「またね。あんたと私ならさぞ敵も食らいついてくれそうさね」


 返答はこうだ、「またやってやりましょう」の一つしかない。

 どうせ死ぬほど目立つ存在なんだ、有効活用してやる。


「次はあんたらだ、イージス、ヴェアヴォルフ、ブルートフォース、エクスキュショナー」

『わたし、できる限りのことはするつもりです。だからついていきます』

「……みんなの力になりたい。だからぼくも行く」

「フハハ、プレッパーズの一員として仕事ができるのだからな、こんな誉れを逃すものか」

「イチ様がいれば大体どうにかなるんでついてくっす~、アヒヒヒッ♡」


 人外どもも嫌な顔一つしていない。


「アレク、サンディ、それからスピネル。付き合ってくれるかい?」

「ヴァージニア様、己れはどこまでも付いて行きます」

「……妹たちに、自慢したいし、いく」

「良きコードネームをありがとうボス、わし頑張っちゃう!」


 褐色姉弟はどこまでついてくだろうし、新入りのドワーフも嬉しそうだ。


「おい婆さん、うちの将軍殿の命令で俺たちも参加だ」

「陽動するならそれっぽく顔揃えた方が食いつきがいいだろ?」

「一撃お見舞いして速攻逃げるのは俺たち得意だしよ、いつも通りだぜ」

「攻撃力としぶとさならシエラ部隊がうってつけよ、任せてボス」


 シエラ部隊の面々も来てしまった。すごい面子だ。

 そこにとうとうシド将軍もやってきて。


「またお前と肩を並べて戦う日が来るなんて思ってもいなかったよ、ジニー」

「あんたも囮になるってか? 正気かい?」

「君と私が死ぬのはまだまだずっと先だろうさ。二度目のスティングの戦いに挑もうじゃないか」

「ここに擲弾兵もいるんだ、負けるもんか」

「そうだな、また擲弾兵がいる。行こうか、相棒」


 二人はレンジャーらしく武器をがちっとぶつけた。

 余所者の俺に入る余地はあったらしく、頼りにしてるぞ、と背中を叩かれた。


「よし! 全員装備を整えろ、遺書書きたい奴は今すぐにでも書いて神に祈りたい奴は勝手に祈れ! 五分以内に準備して宿屋前に集合だ!」


 いつもどおりのプレッパーズの適当な指示が飛んだ。


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