表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/580

16 Day5

 翌朝、すぐに街の中へ向かった。

 雨上がりだからか、それともPERKのせいか、何度も来たはずのそこは別世界に見えた。


「おはようボルタータウン」


 俺は町中にあるやたらとデカいヤシの木の陰でかがんだ。

 まず集中(フォーカス)した。自分の感覚が広がって周囲の状況が伝わってくる。


 一見すれば通りには誰もいないように見えた。

 だが今なら分かる、ここには厄介な奴がいると。

 前にアルテリーのやつが襲われたレストランの屋根に、何かがいる。


「……まさか、ドッグマンがいるのか?」

 

 気配といえばいいんだろうか、まあそんな感じだ。

 今まで何度も感じてきたあの「嫌な予感」に似た感覚。

 あれがあいまいな形じゃなくはっきりとした形で見えるのだ。


 全身の感覚が建物の壁や天井越しにドッグマンを感じ取っている。

 なんとなくだが、そこに風と一緒に独特の獣臭さがやってきて確信した。

 屋根にあいつがいる、しかし姿は見えない、たぶん待ち伏せか、あるいは寝ているか。


「まあ、どっちにせよ近づくなってことか……?」


 確かに気配は感じる、判断材料もある、でもいちいちそれを探ってたらきりがない。

 ドッグマンがいそうな屋根を見上げながら少し考えてると、


「……ハンズリー様は相当機嫌が悪い。とうとう部下を殺しやがったぞ」


 離れた場所から足音が二人分、聞き覚えのある声がした。

 もっと細かく感じ取れば、衣服の擦れる音や息遣いすらも感じる。

 姿勢を低くしてまた集中する。


「ドッグマンのせいで物資集めもロクにできてないからだ。どうなってんだここは」

「生贄も見つかっちゃいないしな。早く新鮮な人間を食わないと死ぬとか叫んでたぞ」

「だからって生贄集める奴に当たるかね。よりによってチェーンソーだぜ」


 物陰からそーっと覗いた。

 あの時の弓使いに槍持ちか。かなり気だるそうだ、注意力が散漫してるように見える。


「それよりお前が言ってた骨の怪物とやら、マジでいたな」

「ああ……ありゃなんなんだ? 新手のミュータントか?」

「骨だけのミュータントなんてありえねえだろ。ありゃ本物の化け物だ、地獄の底から蘇ったやつに違いない」

「まあお前の弓でヘッドショット! だったがな。さすが元猟師だ」

「俺の弓の腕もまだまだ捨てたもんじゃないな。次出たら俺に任せろよ」


 だらけた様子の二人が何も知らずにレストランの前を通りかかる。

 ……手元にある空き瓶に目が付く。さっき飲んだばっかりのドクターソーダのものだ。

 そうだ、アルテリーのやつらがちょうどいいところにいる。


「――この前のお返しだ、受け取りやがれ」


 オーケー。身を起こして、右腕を引いて、二人の頭上めがけて空き瓶をぶん投げた。

 向こう側でガラス製の瓶が赤い壁に着弾、ばりんと音を立てて落ちる。


「なっ……なんだ!? まさか敵か!?」

「注意しろ、今のは攻撃だ! 近くに敵が潜んでやがるぞ!」


 敵は慌てている。見つからないようにじっと息をひそめた。

 案の定、レストランの屋根で大きな黒い塊がむくりと起き上がっていた。


「出てこい! どこにいやがる!」

「誰だか知らんが喧嘩を売る相手を間違えたな! 俺たちはシープハンター、アルテリーの狩人だ! 頭もぎとって食肉に加工してやる!」


 二人の怒鳴り声が聞こえる。

 その頭上でドッグマンが姿を現して「何事だ」とばかりにきょろきょろしている。すぐに黒い犬人間は獲物を見つけたようだ。


「くそっ! どこだ!?」

「さっきのはあっちからきたぞ! 見てくるから弓で援護しろ!」


 槍持ちの男がこっちに飛び出てくる。

 そんな勇敢な奴の後ろで、とうとうドッグマンが屋根から飛び降りた。


「任せろ! どうせロクな武器なんか持って――」


 矢をつがえていたやつも立ち上がろうとした時、


「グルゥゥオォォォォォォオオオオオッ!!」


 そいつは潰された。

 正しくは突き刺されたというべきか、落ちてきたドッグマンが串刺しにしたのだから。


「あっ――」


 仕上げに押し倒した弓使いの首に噛みついて大人しくさせた。

 俺を殺した時みたいにぶちぶちと首の肉をはぎ取っていくのが見える。


「な、な、なんでドッグマンがいやがるんだうわあぁぁぁぁッ!」


 もう一人もあっという間にやられた。

 槍で突き刺そうとしたところにタックル、押さえつけて喉を噛み千切った。

 これでドッグマンはしばらく食事には困らないだろう。


「……グルゥゥゥゥゥゥ……」


 ここまではまあ予想通りというか、想定内というか。

 手際よく二人を仕留めた怪物の目はたぶん、こっちに向けられている。

 いや完全にタゲが移った、槍男を離して思いっきり近づいてきた。

 今すぐにでもをこちらを食いちぎろうとばかりに口が半開きだ。


「……おっ……」


 灰色の目と視線が交わって思わず、


「おっ……おい、俺なんかほっといてくれないか?」


 相手の目をじっくり見ながら、胸を張って堂々と向き合った。

 何をやってるんだ俺は。だがなんとなく、自分の感覚がこれがいいと思ってしまった。

 肝心のドッグマンはというと微動だにせずこっちを見てる。

 正直これはもう死んだと思った、なので死ぬ覚悟でやり遂げよう。


「……さっさと行けよ。見なかったことにしてやる」


 俺は震える声を絞り上げて、じっと見つめてくるドッグマンの後ろを指で示した。

 はたからみれば犬の化け物と会話してる変なやつに見えるだろうか。

 今にも襲い掛かってきそうなそれをまばたきもできずに見続けていると、


「……グル、グフゥ」


 興味を失ったようにくるりと振り返った。

 もう一度だけこっちをにらんで、新鮮な死体へと戻っていく。


 ……や、やったか?

 相手が下がるのを見て、眼前まで迫っていた死が遠ざかっていくのを感じた。

 よし、よし、上等だ、今のうちにここから離れて――


「ドッグマンを見つけたぞ! クソッ! またやられちまってる!」

「いや待て人間がいるぞ! ありゃシェルターの格好だ!」

「どっちもやっちまえ! もう逃がすんじゃねえぞ!」


 逃げようとした先からアルテリーのやつらがぞろぞろやってきた。

 しかも容赦がない。銃が、クロスボウが、既にこっちに向けられてる。


「……いいかよく聞け。お前らなんか大嫌いだ、野蛮人ども」


 逃げる暇もなく、拳銃が、散弾銃が、クロスボウが、一斉に放たれた。

 全身をぶち抜かれる寸前、哀れにもドッグマンもめった撃ちにされてるのが見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ