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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
209/580

120 BoomStick

 あれからしばらくのことだ。

 ボスは「ついてきな」のただ一言で俺を招いた。

 言われるがまま後を追い始めると――


「まさかこんな形で会いに行くとはね、人生で一度も考えたこともなかったよ」

「俺だってまさか、さ。ウェイストランドの歴史が変わる瞬間に身を置いてるんだ、感無量ってやつだよ」


 スティングの街並みを妙な連中がぞろぞろと進んでいた。

 ボスと、その相方のツーショットを先頭にプレッパーズの面々が歩いている。

 ヒドラとラシェルが、アレクとサンディが、アーバクルやドギーとシャンブラーが。

 そこにブラックガンズの連中も混ぜたところに、一際癖の強い奴らがいる。


『……何が始まるのかな?』


 その癖の強い面揃いの中でミコが疑問に思う。


「フハハ、俺様もすっかり一員と認められたようだな?」

「なんやかんやうちのこともカウントしてくれるんすねー、アヒヒヒ♡」


 ボスのすぐ後ろ、そこで異色を放つ集団に俺たちは混ざっていた。

 後ろを見れば『ブルートフォース』と『エクスキューショナー』もおり。


「……ん」


 真横にぴったりくっつく、距離感がバグった『ヴェアヴォルフ』がいて。

 

「――さて、そろそろあいつらも到着したころだね」


 義勇兵のベース前を通り過ぎ、北部へ進み、市街地を走る線路を超えたあたりでそれは見えてきた。

 道路の向こうでひたすら無骨な車両が、こちらを出迎えるように集まってる。

 ボスが「行くよ」と促して俺たちを進ませると。


「さあみんな、ウェイストランドの屈強な戦士たちと顔合わせといこうじゃないか」


 その向こうにいる、無遠慮なまでに実戦的な姿の連中を言葉で示す。

 ブーニーハットの男やルキウス軍曹の姿が目に入って、ようやくレンジャーの連中だと分かった。

 華やかさの代わりに戦いに必要なものをこれでもかとぶち込んだそいつらは、そこで何十人と待ち構えていて。


「ジニー! 久しぶりだな!」


 その先頭で、ボスに負けじと頭領たる姿で佇む誰かがいた。

 周囲に守られるようにしながらも、使い古した突撃銃を手にしている。

 他と違って威圧感のある格好はしておらず、軍隊色の強い服を着崩して、そこにアサルトベストを重ねた程度だ。

 カウボーイハットとサングラスで印象を作る顔は、たっぷりとたくわえた黒髭もあってか厳つさと穏やかさが混じり。


「シド。こうやって実際に顔を合わせるのは、もう何年ぶりなもんかね」


 そんな連中の最高責任者とばかりの顔立ちに、ボスが親しく近づいた。

 二人の距離が握手できるぐらいまで縮まると、お互いの得物をがちっと横に叩きつける――レンジャーらしい挨拶だった。


「だというのに君はまだまだ現役といった顔だな――いや、あの時よりも若返って見えるぞ。ずいぶんやる気みたいじゃないか」

「わたしたちはどうも戦場に引き戻されるジンクスがあるみたいだね? 大人しく余生を過ごすはずが、けっきょくあんたみたいに戻って来ちまったよ」

「ここにサンフォードのやつがいればよかったんだがな、今回は君と私だけだ」

「あいつの話はやめな、シド。ぶちのめされたいかい?」

「それだけはごめんだ。それにしても、君も丸くなったものだなジニー」


 二人が仲良く絡むところから良く分かる、戦友同士の親しいやりとりだ。

 そしてこの聞き取りやすいまっすぐとした声は、間違いなくあの人か。

 あの時、無線で話した際にイメージしたとおりの姿だと思う。

 堂々とした姿も、戦場になれた格好も、想像で働かせて作ったシド将軍とまったく当てはまってる。


「なにいってんだい、まだまだ私は厳しいよ。敵味方関係なくね」

「その割には面白い連中を仲間に引き入れてるみたいじゃないか?」


 二人の意識は近くのストレンジャーと人外たちにすぐ矛先を向けてくる。

 シド将軍は変わった顔ぶれに興味があるみたいで。


「ストレンジャー。一度君がどんな者なのか目にしておきたかったが、私の想像通りだったな」


 その中で黒いジャンプスーツが特に気になってたようだ。

 レンジャーのボスは気楽かつ嬉しそうに近づいてきたので。


「どうも将軍、初めまして。早速だけどその想像っていうのは俺にとって良いやつだよな?」

『いっ、いちクン……いきなり失礼だよ流石に……』


 プレッパーズらしく軽く返してみた。シエラ部隊の調子が良い奴が口笛で驚いた気がする。

 鍛えられた軽口と、ついでに喋る短剣の声を至近距離で受けた将軍は。


「やっぱり君の教え子だよ、ジニー。教育の賜物かわからないが、良くも悪くも育ての親に似てしまったようだな」

「当たり前じゃないかい。ここは軽口がないとやっていけない世界だろう?」

「賭けてもいいぞ。こいつは絶対に大物になるだろう、今よりもずっとな」


 ジニーに向けて喜んでいた。それから、砕けた笑いを見せてくれて。


「さっきの返答だがもちろん良い方だ。こうして君たちに会うことができてとても光栄だ」


 握手を求めてきた。視線は俺だけじゃない、ミコにも向けられている。


「俺もだよ、将軍。こっちもどんな奴なのかと思ってたけど、実際に会ってみるとやっぱり期待通りだな」

「ほう、期待通りか。それはもちろん――」

「ああ、いいやつなんだって思ってたけどその通りみたいだ。ちゃんと俺の相棒のことも見てくれてるからな」


 握って返した。けっして強すぎず弱すぎずの信頼できる握手だった。

 シド将軍は俺の手の感触に納得すると、うなずいてから。


「初めましてだな、イージス。君が私の部下を救ってくれた恩人か」


 肩の短剣にも近づいた。


『あっ、えっ、と、はじめまして……! イージスです……!』

「そう硬くならないでくれ。君の境遇はある程度聞かされてはいるが、それでも多くの人を助けてくれたみたいじゃないか。立派なお嬢さんだ」


 焦るミコの言葉をなだめるようにしつつ、視線を合わせて緩く笑って。


「善人が何もしなければ悪はどこまでも栄えていくが、君はその姿でありながらも、ウェイストランドのために懸命に良きことをしてくれたな。ありがとう」

『……は、はい……!』

「早く元の姿に戻れるといいな。もし戻れたら、いつかでいい、ジニーの奴にその姿を見せてやってくれ」


 とても満足したようにとん、と柄に触れてから周囲を見渡し始めた。

 誰かを探してるようだ。特に足元を探るあたり、きっと求めているのは。


「ところでヴェアヴォルフはどうした? 犬が加わったと聞いたが」


 言葉通りにニクにも顔を合わせようとしてるが、ここに黒い犬はいない。

 事情を知ってる連中は「どう説明しよう」と顔を見合わせはじめるものの。


「……ん、ぼくだよ。ヴェアヴォルフ、だけど」


 そばの黒い犬耳娘がひょいと犬の手で名乗り上げて、流石に面食らったらしい。

 言葉はきりっと落ち着いてるが、尻尾はぱたぱたして少し得意げだ。


「あー……君がか?」

「……おい、話に聞いてはいたがあれがあの犬なのか? 何の冗談だ?」

「ルキウス、聞いた話だと冗談でもなんでもないみたいだぞ。あれがニクだとさ、化けたらしい」

「おいおいどうなってんだ? 犬が……人……いやミューティか? つーかあいつメスだったのか?」

「……あれがニクなの? 確かに面影はあるけども……?」

「いいかいシド、私達は別にからかうつもりなんてないからね。どこぞの姉妹のとびきり優秀なやつが変なもん飲ませてこうなったんだ」

「……わたしが、のませた」

「姉者、どうしてそう得意げなのだ……」


 シエラ部隊の面々すら扱いに困るそれにボスが面倒そうに説明した。得意げな褐色肌も添えて。

 しかしそんな美少……年の首にぶら下がるタグを見ると。


「デュオ少佐、確かにウェイストランドは面白おかしくなってるようだな」

「ははっ、そうだろ将軍? あんたはツイてるぜ、生きてるうちにこんな面白いことに巻き込まれてんだからな」

「まったく、長生きした甲斐があったと思うな。この世界が化けたかと思えば、ライヒランドの奴らが再び攻め込むときて――」


 シド将軍は特に変な感情も起こさず、ニクの視点にあわせてかがんで。


「犬が立って喋るか、まさにヴェアヴォルフというわけだ。君もプレッパーズの一員としてやってくれてるようだな」


 世にも珍しいタグつきの人狼に親しく笑った。

 犬の頭にそうするように、ぽんと髪をなでながらだ。


「ん。みんなのお役に立てて、うれしいです」

「君もジニーと共に戦ってくれて嬉しいよ、ヴェアヴォルフ。これからも頑張ってくれ」


 きっと一員と認められて嬉しいんだろう、ニクは「むふん」とドヤってる。

 場違いなほどの見てくれの一員に顔色一つ変えないシド将軍は凄いと思うが。


「ジニー……この二人も新入りか?」


 とても困ったことに、その先のオーガとデュラハンメイドに謎めいてる。

 ノルベルト十五歳は言葉を待ち望んでるし、ロアベアに何かやらかしそうだ。


「本人たちの強いご希望があってね。デカいほうが『ブルートフォース』で、イングランドから来たメイドが『エクスキューショナー』だよ」

「初めましてだな将軍よ。俺様は『ブルートフォース』だ、よろしく頼む」

「どうもっす将軍さん~、うちは『エクスキューショナー』っす。今後ともよろしくっすよ~♡」


 オーガもデュラハンもご挨拶をするが、後者は自然体でひょいと首を取る。

 「なにしてんだい馬鹿もん」と背中をびしっとされる首なしメイドに、レンジャー総員もろとも将軍も戸惑ってしまった。

 さすがにキャパオーバーだったかもしれない、だがシド将軍は気を取り直し。


「これが無線で言っていた『ファンタジー』の連中か。まあウェイストランドには馴染んでいるようだな、君たちがどうであれ歓迎しよう。たとえ首がもげようが私は気にしないからな」

「フハハ、貴方のような強き姿勢を持つ者に迎え入れられるなど嬉しいことこの上なきことよ。プレッパーズの一員として腕を振るおうではないか」

「アヒヒー♡ さすがっすね将軍さん、うちの首見ても動じないなんてポイント高いっすね」

「……すいません将軍、変な奴ばっかで。おいロアベア、首戻せ」

「まあなんだ、ちょっと曲者揃いになってるが腕は確かだぜ、俺たち」


 謝る俺とフォローするツーショットにも動じず、受け入れてくれたみたいだ。


「ファイアチームの連中も元気みたいだな」

「久々っすね将軍、元気でした?」

「これはどうもシド将軍、プレッパーズはいつにもなくにぎやかだぜ」

「聞いてよシドおじさん、ヒドラの奴に彼女できたのよ」

「信じられないでしょ? でもまあおかげでいいストッパーができたわ」

「こんにちは将軍、食堂勤めのラシェルよ。私も加わったの」


 ヒドラたちにもとても親しく、まるで親戚みたいに接してるし。


「……どうも、シドさん、お久しぶり」

「シド将軍、お久しぶりです。あれから修行を積み、シノビとしてヴァージニア様のお傍で働かせてもらっています」

「……おとうとが、調子に乗ってる」

「痛っ!? こんな時蹴るなよ姉ちゃん!?」

「はっはっは、そうか、相変わらず二人とも仲良くやってるみたいだな。お前たちが相変わらずで安心したよ」


 アレクとサンディにはとびきり態度が違う、まるで家族扱いだ。

 続いて、そんな俺たちの横にいるブラックガンズの連中にも目をつけて。


「お前たちも来てくれたんだな、友よ」

「どこぞのやかましいばあさんに頼まれたからな、来てやった」

「爆弾魔が必要って聞いておっさん張りきって来ちゃったぜ」

「兄貴がスティングで焚火しないか見張りに来たのよ」

「お医者様不足だから来てあげたけど、おかげで退屈してないわ」

「こんにちは将軍、当機はスティングの勝利に貢献するように自主的にプログラミングを施しております」

「スティングの戦いのリベンジとまでいうつもりはないが、思うところがあって来た」


 ハーヴェスターからサンドマンまで、広く言葉を受けると。


「……そうか、君が連れてきてくれたんだな」


 シド将軍は感じ入るような顔持ちでこっちを見てきた。

 俺かもしれないし、ボスかもしれない、どちらともとれるように口にし。


「よし、聞いてほしい。我々シド・レンジャーズは可能な限りの戦力をここに投入することにした、つまり現時点よりスティングの戦いに参加することとなる」


 今までの柔らかさ混じりの口調から一転し、厳しくも揺るぎない口調で告げた。

 レンジャーたちが戦線に加わるらしい、それもその指導者たる将軍からシエラ部隊まで投入するようで。


「そうするにあたって、我々は君たちのボスの作戦を中心に行動する。かつてのスティングの危機を二度も繰り返すつもりはない、どうか我々と共にこの街を守らせてくれ」


 そういって、数十人もの屈強な連中は俺たちを見た。

 戦う気に満ちてる。レンジャーにとって二度目となるスティングの戦いにそれだけかけるものがあるんだろう。

 その神妙にすら思える硬い姿に、ボスは自信たっぷりに軽く笑む。


「昔みたいにやろうじゃないかい、シド。今度の私たちはひと味違うってことを教えてやろうじゃないか」

「もちろんだジニー。こういうとき、サンフォードの奴がいればもっといいんだが」

「こんな時にあいつの話はやめな、縁起が悪いじゃないかい」


 まるでその昔の出来事を懐かしむようにシド将軍に絡んだ。

 横に並んで肩を組むほどに親しい二人は、もしかしたら大昔のウェイストランドのどこかでそんな風に仲良くつるんでいたのかもしれない。


「――そういう訳だストレンジャー、あんたに頼む仕事は全部終わりだよ。後は戦争がおっ始まるまで自由にしな」


 周りの面々がスティングに散っていくと、これで「仕事」が終わったらしい。


「……え? 仕事があるんじゃないんですか?」


 さすがにどういうことなのかと問うが。


「これがあんたに頼んだ仕事さ、なあシド?」

「ああ、おかげで人生でやりたいことリストの1つが埋まったよ」

『あの、どういうことなのか良く分からないんですが……』


 さすがのミコも加わって、ボスは将軍を見ながら。


「シドのやつがあんたを見たいっていうもんでね。ついでに、こうして加わってくれた勇敢なレンジャー様たちとご対面に立ち合わせたってわけさ」


 指示を待つレンジャーたちに向けてそう言った。


「すまないな、これほどウェイストランドに影響を与える人物がどんな者なのかと気になって仕方がなかったんだ。やっぱり君はボスの教え子だ、おかげで安心したぞ」


 俺の必要性はただの顔合わせだったらしい、まあシド将軍が嬉しそうだからいいか。


「……なるほど、そりゃ確かに大事な仕事ですね」

「分かればよろしい。そういうわけだ、あんたは好きにしな。誰かを手伝おうが戦いの準備をしようがこれからは自由だ、もう強制はしないよ」


 そこから「好きにしてろ」と言われると流石に困るが、伝えたいことは分かる。

 今からストレンジャーらしく適当にやれ、気張るな、ってことか。


「了解、ボス」


 俺は力いっぱい答えた。

 人間が一人だけのチームは、各々動き出す姿にさてどうするかと取り残されていくが。


「…………そうだ。シド将軍」


 二人がどこかにいこうとしたところで、呼び止めた。

 笑いも茶化しもしない面持ちでこっちを見てくる。


「どうしたんだ、ストレンジャー」

「アルゴ神父のことだ」


 そこに、ずっとしまっていたものを引っ張り出すと二人の雰囲気は静まる。

 わかってる。こんな時に言ってほしくなかったかもしれないさ、でも三連散弾銃を抜いて。


「……あの人、あんたの戦友だったんだよな」


 刻まれた文字が分かるように向けた。

 シド将軍の穏やかそうな顔が少し険しくなって、気持ちの変わりようが伝わる。

 怒りか悲しみか計り知れないけど、少なくとも近くにいたシエラ部隊が困るほどだ。


「ストレンジャー、ブームスティックの件については良く知っている」


 だけどすぐに解けた。やりきれない表情でため息が漏れてる。

 隣にいたボスは何も言うつもりはないらしい。少なくとも、一字一句逃すことなく耳を立てるぐらいには。


「あいつは確かに私たちの戦友だ。かつてまだウェイストランドが濃い混沌に残されていたころ、秩序を取り戻さんと共に戦い続けた紛れもない仲間だ」


 そこに返ってくる言葉というのも、やっぱり身構えた以上に重かった。

 「戦友殺し」が成り立っている、でも都合よく無視する生き方は俺にはできない。


「やっぱり、そうだったんだな」


 銃の木製パーツには『TRIUMPH』と刻まれてる。勝利はまだまだ先だ。


「……決して良きところばかりがあった人間ではないのは確かだが、死ぬのが惜しまれる戦友だったのは間違いない。残念に思う」


 どこか淡々としてるような言い方に『感覚』が働く。

 目は合わせてくれちゃいない。恨んでいるのか? 悲しんでいるのか? 必死に探って、ある一つの考えにたどり着く。

 ボスが後ろめたさの混じった視線を落としていて、その隣で同じようにするシド将軍がいたのだから。


「――いいんだ、気遣わないでくれ」


 そうだったんだろうな。この二人はきっと、気を使ってくれてたんだろう。

 だけどそれに甘えるのはおしまいだ。そうするべきだよな、アルゴ神父?


「ごめん、やっぱり俺、あんたらの恩人を死なせたろくでもない奴なんだろうな」


 刻まれた文字をもう一度見てから伝えた。

 ボスが一瞬「お前は何を」と身構えるが、割り込んだイェーガー軍曹で不発した。

 シド将軍もいろいろな感情が混ざった顔だ。長い沈黙が続いている。


「だから、今だからこそ言わせてほしい。あんたらの大切な人を奪ってしまって、本当にすまない」


 だからこそ言った、するとずっと沈黙していた顔がようやく動いて。


「分かっているんだストレンジャー。確かに君がもたらしたものが複雑なのは、今この世が身をもって証明してくれている。しかし一概に君に責があると言い切れないこそ、私はこのことを責めることができないのだ」

「じゃあなんだってんだ、あんたは私らにしかってほしいってことなのかい? 残念だがありゃ仕方のないことだ、あんたを責める道理はもうこの世にないんだよ」


 そこにボスも加わって、二人そろって「どちらつかず」だ。

 じゃあそれでいいわけないだろ。あの人の死からは逃げられない。


「許してくれって言ってるわけじゃない。ただ、受け入れてほしい」

「あんたが私らの戦友を死なせたクソ野郎って認めろってのかい」

「恩人の死からもう目を背けたくないんだ」


 俺は三連散弾銃を押し付けた。

 あの日初めて目にして以来、勝利を願う言葉がずっとそこにある。


「ボス。俺、あの時こう思ったんだ。もういいやって」

「……何がだい」

「アルゴ神父を死なせただけじゃない、あんたらの仲間を無残に死なせた、そう知って諦めたんだ。目をそらしたんだよ」


 でも、馬鹿なことにストレンジャーは本心からそれから一度逃げようとした。

 あんまりにもデカすぎる責任を、手が負えないからと棄てようとしたんだ。

 その結果がこれだ。誰かが助けてくれるその瞬間まで、自分の命をあきらめた。


「怖かった。ボスは実は俺のことを憎んでるんじゃないかとか、シド将軍が恨んでるんじゃないかとか、死ぬ間際に真っ先にそう思った。俺は恩人を捨てるところだったんだ」


 怒りが込み上げてきた。そうだな、そうだとも、俺はあの人を手放そうとした。


「悔しいんだ。仇を討ったと勝手に思いあがって、あんたらの気持ちも知らずにずっとストレンジャーとして生きてた。もう、都合のいいところばっか見て生きていくのは嫌なんだ」


 刻まれた言葉を見せた後、二人はよく言えば真摯で、悪く言えば難しい顔になり。


「じゃあ聞くよ。もしも私がこれからあんたを今後一生恨むと言ったら、当然受け入れるんだね?」


 ボスはタバコをくわえながら尋ねて来た。

 今まで、なんやかんや優しくゆるく接してくれたボスが、残った人生全てを俺への恨みつらみに使うというのは辛いと思う。

 でも、それでも、アルゴ神父が最後に感じた苦しみに比べれば――?

 戦友たちを残して自分一人だけ死んでいく辛さの方がよっぽど辛いに決まってる。あの人が感じた痛みと寂しさに比べれば、どうってことはない。


「殺されたって仕方がないと思ってる」

「じゃあ今すぐにあんたをぶち殺してやろうか?」

「……それは無理だ」

「なんだい、覚悟できちゃいないってことか」

「違う。約束したからだ」

「あいつとかい?」

「ああ」

「なら聞こうか。お前はブームスティックの奴と一体どんな約束をしたっていうんだい?」


 アルゴ神父の形見をひったくられた。

 弾は入ってる。もしもボスが本気で、周りが誰も止めなかったら俺は死ぬはずだ。

 でも、死ねない。どうしてか?


「あの人は言ってた。これから先、過酷な運命が待ってるかもしれない。でも、その先で良き人々がいっぱい待ってるって。その人たちのために生きろって、ずっと遠くにある真実を掴んで勝利するって約束したんだ」


 険しい旅路がずっと続いていて、その先に俺が知るべく真実がいっぱいあるからだ。

 そこまでの道のりを示して、背中を押してくれた恩人がいた。この世界に来て初めて、俺の境遇を心の底から理解してくれた奴だった。

 ただそれだけだ。これで十分なんだ。


「俺が俺でいられたのは、あの人のおかげなんだ。だからせめて、あの人が命をかけてくれた分、俺も命をかけて約束を守る。それだけなんだ」

「……あんた、ずっと律儀にそうしてたっていうのかい?」

「これが心の奥でずっと望んでたことだからだ! ここまで来たのは、英雄になりたいだとか、誰かに認められたいだとか、そんな理由じゃねえ! これが俺なんだ! これしかできないんだよ!」


 ミコ、お前はこう言ってたよな。

 あの人はずっと独りで寂しかったんじゃないかって。

 俺もだよ。お前に会うまで俺も寂しかった、だからあの人の気持ちは死ぬほど分かるんだ。


「辛いんだよ……! あの人は、ずっと独りで寂しかったのに、俺がまたひとりにさせちまったんだぞ!? 俺が恨まれ続けてぶち殺されてそれで済むなら、ずっとくたばってやりたいよ……!」


 ボスの持つ三連散弾銃の銃身を掴んだ。

 トリガを引けば俺の身体のどこかは吹っ飛ぶだろう。

 だけど、力が籠ってない。このままひったくれそうだ。


「約束したんだ、ずっと遠い遠い旅の果てにある勝利を掴む、それだけだ。どんなになっても、俺が生きてるのはあの日からずっと何一つ変わってない」

「……それがあんたなんだね、イチ」

「俺だって、どれだけ分かっていてもまだ受け入れられないよ、ボス。でも、あの人をもう一人にしたくないんだ」


 ……散弾銃が返された。

 珍しく、ボスの姿に力が籠ってないように見えた。


「――ブームスティックのやつは、最後にいい者と巡り合えたんだな」


 この世に唯一残る形見をホルスターに収めてると、黙っていたシド将軍が口を開いた。

 また表情は変わってる。少し穏やかというか、せいせいしたというか。


「ありがとう、ストレンジャー。君のおかげでようやく、心のつかえが取れた」


 そのまま感謝の言葉を伝えられて、少し困った。


「礼なんて言われても受け取れないよ」

「いや、いいんだ。正直なところ、私は彼が死んだ悲しみを言葉に表すこともできずにいた。君に対して幾ばくかの疑いの心だってあった。でも、そうだな」


 それからどことなく、北の方を見たようだ。

 詳しく突き止めれば北の西より、もしかしたら、あの教会があった場所かもしれない。


「あいつは昔から寂しがり屋でな。君みたいな律儀な人間を知って、さぞ心が満たされたはずだ。あまつさえその寂しさもこうして理解してくれて、冥利に尽きただろう」


 そんな方向を少し確かめてから、シド将軍の顔がこっちを向いた。

 恨みだのなんだのはそこにはない。ようやく、心の底から親し気にしてくれたようなものだ。


「君を恨もうものなら――あのカタブツの変人のことだからきっと化けて私を呪いに来るだろうさ、大事なそれを託すほどに値する君が羨ましいぐらいだ。あいつめ、ようやく良き友人を持てたんだな」


 納得したように笑みながら、ぽん、と肩を叩いてきた。


「あいつが君の恩人だというのなら、君もまたあいつにとっての恩人だ。もう、ここには私の仲間を見殺しにしたような奴はいない。あの馬鹿の心を満たしてくれて本当にありがとう」


 そこにボスも近づいてきて。


「あんたのほうが、ずっとあいつのことを見てやってたんだね。まるで私がバカみたいじゃないか」


 こつっと指先で頭を突いてくる。

 気が抜けたような、今まで見たことのない落ち着いた笑顔だ。

 見ればその後ろの方で、イェーガー軍曹とノーチス伍長が緩く笑って頷いていた。


「……すいません、ボス」

「私も焼きが回ったようだね。冷たいビールでもやって頭を冷やしてくるよ、付き合いなシド」

「ジニー、お前は相変わらず勤務態度がよろしくないようだな。ではご相伴に預かって私も頭を冷やそうとするか」


 二人は仲良くどこかに行ってしまったみたいだ。

 ――なんだか、背中が軽いな。肩の力が抜けると、ノルベルトとロアベアがからかうように小突いてきた。


「そうだな、一人じゃない」


 俺は気を取り直した。さて、今からお望みのまま自由にやらせてもらおう。


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