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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
202/580

113 リージョン・オートマチック・ピストル

「よう、メルカバ。プレッパーズの第二のたまり場にようこそ」


 そんなノリは軽いが仕事には熱心そうな男に、我らがプレッパーズのへらへらとした男が気さくに声をかける。

 メルカバを名乗るそいつはツーショットを見るとますます明るくなり。


「やあデュオ、稼ぎ時と聞いて飛んできたぞ、次のセリフは分かるよな?」

「そうだな、お前なら『こんにちは皆さま、金づるは他におられますか』か?」

「おいおい勝手に私の品位を下げないでくれよ。それに金づるぐらい自分で見つけられるさ」

「はははっ、それもそうだったな。まあお前が無事で何よりだ、そこのストレンジャー様に助けてもらえよ」

「そうさせてもらうよ。スティングの前に私を救ってもらおうと思ってたところだ」


 親しさが主成分の軽いハグを交わした。それからこっちを見てくるが、


「あんたがファクトリーに関わる人間なのは分かるが、信用できるんだろうね」


 ボスは「なんだこいつ」と疑っている。俺も同じ気持ちだ。

 対してツーショットは商人を称する男の肩を軽くたたいて。


「こいつは俺のいとこだよ。最近この事業に参加したんだが、まあ運悪く戦いに巻き込まれちまったのさ。心配すんなよ、こいつは良い男(グッドマン)だ」

「その通りだよボス。北部へ帰ろうにも橋は占拠され、手元には売る機会に恵まれない可哀そうな武器がいっぱい、そこでウェイストランドで一番信用できる連中に売り込みにきたんだ」


 口と体でこう表現している。こいつは不幸だが信頼に値する人物だと。

 あとは勝手にしろと言わんばかりにプレッパーズのボスが下がると、そいつは下品にならない程度にニコニコしながら。


「まあそういうわけなんだ。人助けも兼ねてお買い物でもしないか?」


 重たそうに持っていた大きなケースを近くのテーブルの上に置いた。

 どん、とそれなりの重さを響かせるのだから相応の何かがあるのは確かだ。


「頼めば買ってくれそうな親切なやつがいるって聞いて、こうしてわざわざ売り込みに来たのか?」

「そうじゃなきゃこんなおっかないところにこないさ、なあ?」


 男の訪問理由を辿るが、大体あってたらしい。

 この喜劇が似合いそうな明るい男は、個性豊かな顔ぶれの待ち受ける宿屋にこうしてやってくる度胸はあるんだろう。

 だから「それだけのものはあるぞ」と商品をとんとんしてきた。


「あんたのうわさはいろいろ聞いてるよ。だからこそ私は来たんだ、そう、『もしもし? 仕事が捗る死の道具はいかが?』って感じにね」

「どこまで聞いたんだ?」

「どこまでもさ! 『ストレンジャー皆殺し日記第一章』の人食いカルトの息の根を止めたところから、最新章のドッグマンカルトの教祖様を血の煙に変えたところまで根こそぎ知ってるよ」

「良く知ってるようで何よりだ、誰から聞いたかは後で聞いてやる」

『皆殺し日記……』

「それとあんたの相棒の喋る短剣――慈悲深い(ミセリコルデ)お嬢さんのことも知ってるよ。そうだ、お供の牧羊犬はどうした? 世にも珍しいプレッパーズのタグ付きわんこはどこだ?」


 ここまで俺の身の回りを知ってると流石に身構えてしまうが、


「うちのわんこか? 不思議な力でああなった」


 ストレンジャーに付き添う犬を目で探すこいつを少し困らせたくなった。

 なので触診中のニクを指す。ちょうどこっちに耳を立てて訝しむところだった。

 それを目にした商人は最初理解できぬまま固まり、少ししてうなずき。


「えーと……うん、まあ人生は数奇なものだよ。私みたいに売り時だと思ってスティングに来たらこうしてきな臭いことに巻き込まれて立往生を食らうこともあるんだ、だったら犬が可愛い女の子になるぐらいあるんじゃないか?」


 そうコメントを残して受け入れたようだ。


「そういう潔さは好きだ」

「そりゃ嬉しいね、じゃあ私の商品だって好きになるはずだ」

「その前に一つ質問、俺たちのことを知った経緯とかの話だ」

「なら安心してくれよ。こう見えて顔は広いんだ、風のうわさで聞くこともあれば、あんたのところのツーショット、ナガン爺さんからも良く話してもらってたからな」

「ナガン爺さんを知ってるのか?」

「私を商人にしてくれた恩がある程度の関係さ。あの人の教えはこうして受け継いでるよ」


 あの名前が出てきてはっきりしてきた、それならこいつは信用できる奴か。

 明るい男はスーツに書かれた商売の秘訣を強調してから、その中身を見せびらかすに至ったみたいだ。


「――まあ、こんな状況だ。スティングにライヒランドが攻めてくる、でも武器を売らなきゃ商売あがったり。そこであんたを頼りにきたわけ」

「そりゃ気の毒だな。つまり困ってるから買って人助けしてくれと」

「そういうことだ、さあ見てくれ。ファクトリーで作られた武器を売ってるんだが、こんな事件に巻き込まれて売る暇もなくてね。そしたらようやく落ち着いて、こうして売りたい相手が見つかったのさ」


 土埃色のハードケースが開くと、そこには周りの連中の視線が集まるほどの品が籠っていた。

 ぶつかり合わない程度に押し込められた拳銃たちだ。回転式、自動式問わず「十人に渡せば殺し合いができる」ほどはある。

 だけど注目すべき点は数じゃない。どれも品質が良すぎる。

 世紀末世界で生まれた――その場しのぎだったり創意工夫の塊だったりするのとは違う、戦前を色濃く残すデザインだ。

 それだけじゃなかった。銃に応じた付属品や専用のホルスターなど、その他のサービスも充実してる。


「……これ、全部リストアした戦前の銃か?」

「いいや違うよ。ファクトリーで作られた最高品質の銃さ、一つ一つ手作りだ」

「そういえばファクトリーってなんなんだ? 武器やら作ってるすごいところだってのは良く耳にしてるけど」

「ファクトリーっていうのは――技術屋ばっか集まる北部のコミュニティだよ、ガラクタを溶かして質のいい装備を作ってるんだ。例えばあんたのその銃剣、そいつのおかげでどれだけいい品を扱ってるか分からないか?」


 そういって鞘に収めた銃剣を指摘されると、目の前に並ぶ銃の価値が上がった気がする。

 ナガン爺さんから買って以来ずっと世話になってるこいつの出所か。それならこの武器の信頼性も相応なものだと思う。


「そこの……そう、ホームガードのお兄さん。あんたらの武器もそうだし、その軍服に至ってはベーカー将軍のお母さまが丹精込めて制作してるだろ?」


 武器商人の視線と指は宿にいたホームガードの軍曹にも向けられる。


「ああ、我々の装備もあそこが頼りだったからな。今では封鎖されてしまったせいで補給が滞っているが、その質は間違いなくウェイストランドで一番だと信じているよ」

「聞いたな? だから品質に関しては心配しなくていい、使ってるのは最高品質の再生鋼、技術者が念入りにテストした上で安全と信頼を確保した良品ばかり、コンセプトは『強く頑丈に』だ。繊細さだけが取り柄の銃なんて扱っちゃいないよ」


 あの軍曹がそういうのだから、この品々の価値はもう揺るがない。

 すっかり興味が出てしまってスーツの中を覗いてしまった。大小さまざまな拳銃たちが敷き詰められて模様を作ってる。


「もちろん他にも買ってくれる親切な奴がいるよな? そういうやつも大好きだ、是非ともご覧あれ」


 そういってメルカバは収められた得物をすすめてくる。

 戦前の洗練された造形はどこから手を付けていいか分からないほどだ。

 一つはっきりしてるのは、どれもこれもが実戦的な銃ってところか。


「……色々あって迷うな」


 最初の客として近づくと、武器商人は急に俺の手をとった。

 一体なんだと身構えるが相手は軽い調子のままで。


「いいか、武器商人にはルールがある。稼ぎたければ相手の足元を見るんだ。うまくやっていきたかったら――相手の手を見るんだ。手だよ、手」

「手?」

「そう、そいつの手に相応しいものを売るんだ、もちろん適正価格でな。ちなみに私は今後ともうまくやっていきたい方のセールスマンさ。で、どんな銃が欲しい?」


 こっちの手を確かめながら「おすすめ」を選んでくれそうになったが、


「商人さん商人さん、どんなの売ってるんすか?」


 そこに最初に興味を示したのは暇そうにしてたロアベアだ。

 ウェイストランドに似合わないメイド服にちょっとだけうろたえ、すぐにそっちに切り替わった。


「ああ、ようこそメイドさん。何でもあるよ、ポケットに収まって静かに相手をぶち抜くものから、真正面から堂々とボディアーマーを貫くデカいやつまで大体はある」

「手軽に使えて強い銃が欲しいっす~」

「お手軽にぶち殺したい? だったらこの38口径のスナブノーズは? お仕事中に来た不埒なお客様の脳天にバンッ!だ、おすすめするよ」

「ちっちゃすぎるのは嫌っす」

「おお、そうかそうか。そこのメイドさんはもっとパワーが欲しいのかい? だったら357マグナム? 44か? いや45-70弾をぶっ放すやつだってあるが」

「あんまりでっかい銃は好きじゃないっす」


 メイドのわがままにあれこれと差し向けられるが、どれもお気に召さないのかわがままにお断りされてる。

 しかしメルカバとかいうやつもあきらめない。

 ロアベアの手を見てから、幾つもある銃器の中で一際変わった形を取り。


「手軽で強い……欲張りめ! そんな銃といったらこれしかない!」


 『どうにかお手軽』といった具合の大きさの拳銃が突き出された。

 全体的にほっそりとした造りだ。グリップだけは少し太く、鋭く斜めを向いている。

 なのに銃身は細長く突き出てる、銃口の太さからそれほど口径はなさそうだ。

 たぶん自動拳銃なんだろう。しかし装填に使うためのスライドはない。


「あんたのご要望に応えられそうなお手軽な拳銃がこれだ。トリガは軽く、作動方式はストレートブローバック、昔懐かしい品をウェイストランドなりにアレンジした的を得た銃だ。これぞNeoRuger(真のルガー)ともいうべきか?」


 そんな品を売りたい男は、銃の後部にあるボルトをしゃきっと軽く引いた。

 ロアベアの手でも簡単に握れて構えやすいかもしれないが、本人はいまいち納得いかない様子だ。


「口径がちっちゃいのもいやっすー」

「おいおい、まあ聞けよメイドさん。この銃はな、戦前にボディアーマーをぶち抜きまくったあの忌まわしき5.7㎜弾を使うんだ」

「それって強いんすか」

「もちろんさ。小さく鋭い弾を高初速でぶち込むんだから、その貫通力はすさまじいぞ? 人体に当たった時のダメージもそりゃエグい」


 そんな様子に、ケースの中から弾の入った紙箱も取り出してきた。

 中から出てきたのは小さな弾だ。胴回りは九ミリ弾より細く絞られてはいるが、長さはずっとある。


「こいつはいいぞ。精度良し、メンテナンス性良し、過酷な環境にも耐え、ファクトリー規格のアタッチメントも簡単に取り付けられる。弾倉には5.7㎜弾が十一発入るが正しくは十発だ、一発余分に入るようにしてあそびを作ってる。装弾不良防止のおまじないだよ」


 興味津々になってきたロアベアに見せるように、グリップに合わせた太さと角度を持つマガジンにカチカチと弾が入っていく。

 十発分がするする入っていくが最後の一発はかなりきつそうだ、けっきょく入れないままになったが。


「私が思うにこいつはスマートな銃だ。メイドさんの格好にも合うんじゃないか?」


 それだけいって見せびらかすと、ロアベアはすっかり目を輝かせていた。


「買うっす!」

「よし、こいつの魅力を分かってくれたみたいだな。じゃあそうだな、専用のホルスター込みで5000チップでどうだ」

「弾もいっぱいほしいっす!」

「よしよし、だったら50発入りの箱を二つで800チップってところか。羽振りのいいメイドさんは嫌いじゃないから弾倉も何本かおまけしといてやるよ」


 アラクネのグローブよりぶっ飛んだ値段だが、ロアベアは何の躊躇いもなくチップを支払ったみたいだ。

 手書きの説明書つきの拳銃一式を手にしたメイドは「どうっすかどうっすか」と見せつけに来た。


「そこの……お医者さんはどうだい? 患者さんの安楽死に使えるよ」


 その次に狙いを定めたのは、どうやら近くで見ていたクリューサらしい。

 それにしてもひどい口上で売り込みにかかってるが。


「残念だが、患者の安楽死は薬で安らかに眠ってもらうのがポリシーでな」


 ……その返しも中々にひどい、多分だがその言葉は本気だ。


「オーケー、オーケー。じゃあこうだ、気にくわないやつとか、憎たらしい奴だとか、そういうやつの安楽死ってのはどうだ? 例えばそう、咄嗟に取り出し片づけられるお掃除の道具だ」


 そこから繊細な動きの白い手を見て導きだした答えというのが、銃身の短いリボルバーだった。

 ケースから取り出した拳銃は「その気になれば手のひらに収まる」サイズで、撃鉄が隠れてる。

 ポケットから取り出して一撃。そんな状況のための銃だ。


「スナブノーズか。口径はいくらだ?」

「お医者様の手にぴったり九ミリ口径のリボルバー! こいつはいいぞ、9㎜の19をそのまま使えるクリップレスの最新モデルさ。ああもちろん戦前世界基準での最新って意味だけどな」

「リボルバーに九ミリ? ウェイストランドらしいな」

「さあさあ手にしてみろ。さっと取り出して一発お見舞いしてやるんだ」


 多少はそそるのか、クリューサは差し出されたそれを受け取る。

 少し感触を確かめて握ると医者の手には十分馴染んだみたいだ、驚いてる。

 丸みを帯びたグリップを握って、何度か構えては下ろすと満足したようで。


「……手に取りやすいな。それに持ち上げやすい、人間工学に基づいているし撃鉄も隠れているから引っかかりもない」

「そこに気づくなんて流石お医者様だ、こいつにはグリップに一味加えてある。軽すぎちゃダメ、重すぎたら不便、こいつは適度に重くて構えやすいんだ。ちっちゃすぎたり軽すぎるってのは分かっちゃいない、こういうのが実戦向きだ」

「まあ、身を守る道具を忍ばせておくのも悪くないだろう。もらおうか」

「さすがお医者様、良く理解しておられる。で、もちろん財布の中は潤ってるよな?」

「いくらだ」

「3000チップだ」


 ポケットから取り出して気楽に人を殺せるそれを購入した。

 クリューサにここまで言わせるんだから相応に質がいいんだろう、俺もどれを買うか目星をつけようとするが、


「――私も何か欲しいのだが!」


 カウンターで焼いた肉をかじっていたクラウディアもやってきた。


「そこの日焼けしたエルフのお姉ちゃんも何かご所望かい?」

「ふむ、クロスボウはないか?」

「……クロスボウだって?」


 しかしいきなり所望したのは銃でもない品だ。

 空気を読まない要望にクリューサも最大限の呆れを浮かべてるが――


「そりゃよかった、そういう静かな武器をお望みのお客様がいると思ってたんだ」


 メルカバはにこやかさを損なわないまま、ケースにしまった雑多な品を取る。

 そして黒塗りのパーツをいくつかテーブルに並べると組み立て始めていく。

 拳銃のグリップになりえる部品に、後ろに強く反った滑車つきのリムが乗る機関部を乗せて固定。

 完成形はたしかにクロスボウだ。それも拳銃サイズで、引くための弦がかなり堅そうに張ってるが。


「ファクトリー製のハンドクロスボウだ。こういうのを欲しがる客も案外いるもんでね、それなのに威力が欲しい貫通力が欲しいとかゴネるもんだからこんなのが生まれたのさ」

「む、こっちの世界のクロスボウはここまで小型化できるのか」


 出来上がったばかりのそれを受け取り、早速引こうとするクラウディアに「待って」の手が差し出される。

 武器商人の手はグリップの真上、クロスボウ本体の後ろ端についているレバーを掴むと。


「違う違う! そいつは弦が強靭なもんだから別の方法で引くんだ。そう、この後尾にあるレバーを引けば……」


 思い切り引く、すると乾いた音を立てて弦が絞られたらしい。

 リムは更に硬く狭まって発射準備ができていることを伝えている。


「おお、ここで引くんだな!」

「そう、そのとおり! 後は太矢を据えてぶっ放せば骨もぶちぬけるよ!」


 ダークエルフの指がトリガを引くと、がちゃりと質量のある空撃ち音が響く。

 その後メルカバは鉛筆ほどはある矢を束ねたものを見せてきた。殺傷目的の鋭い矢じり付きのだ。


「クロスボウっていうのは意外と売れるもんなんだ。たいていはデカくて殺傷力の高いものが求められるんだが、小さくて確実性のあるものだって需要はある。今回みたいにね」

「買ったぞ!」

「日焼けエルフのお姉ちゃんとは気が合いそうだな。太矢もつけて3000チップでどうだ」


 クラウディアも納得の性能にまた商品が売れたらしい。

 繁盛しだした武器商人はご満悦だ。今日がまるで人生最高の日だとばかりに全身を嬉しそうにしてる。


「まったく、今日は奇跡だ。こんなに売れる日なんて人生において最初で最後かもな」


 誰にもとられないようにチップをしまいながら、今度は俺を品定めしてきた。

 こっちはまだ悩んでる始末だ。堅実さのあるリボルバーに咄嗟に使える自動拳銃、あれやこれやと目が定まらない。


「で、そちらのストレンジャーさんは何かお決まりかな?」

「……正直に言わせてほしい、何を買えばいいか悩んでる」

「そういう時は「おまかせ」はどうだ? ちょっと手を見せてくれ」


 どうしても決まらない。ということで「武器商人のおすすめコース」を頼む。

 手を広げて突き出すと、陽気な顔のまま指先から手首にいたるまでじっくりと調べ出し。


「……こりゃすごい」


 人の手をあらためて出てきたのは驚愕だ。目を丸くしつつ感心している。


「どうしたんだ? 手相に驚愕の運命でもかいてあったか?」

「似たようなものさ。こいつはすごい、リボルバー向きか? いや違うな、必要最低限のものだけを詰め込んだようながっしりとした筋肉、指や肘のくせ、それでいて直感的に敵の方を向く上半身の作り……」


 てっきり手だけを見るかと思えば、そいつの興味は肘から肩まで伸びてしまい。


「あんた、ただもんじゃないね。天性の戦いの才能が詰まってるよ」


 二の腕から手首の血管あたりまでを事細かに調べると、深く感心された。


「確かに怪物(ばけもん)呼ばわりされまくってるけどな」

「今まで何人も仕留めてきたのが分かるよ。どんな銃使ってた?」

「銃なら分捕って何でも使った。特に撃ったのは散弾銃だ」

「そうか、だからこんなに筋肉が覚えてるのか」

「筋肉が覚えてる?」

「色々な銃の反動やら癖を経験してるってことだよ。あんたの身体にはそれだけ刻まれてる(・・・・・)んだ、あらゆる銃をも扱える理想的な形だ」

「基本的な銃の使い方はプレッパーズタウンで叩き込まれたからな」

「あんたの土台にはそういった良い教育があるのもデカいだろうが、いや恐れ入ったよ。経験に勝るものはなしというのを体現したような手だ」

「触診でそこまで分かるなんてすごいな。で、結論から言って俺は何を使えばいいと思う?」


 ここまでべったべたに褒められるとかえって気持ちが悪いが、そいつはひたすらに人様の手の良さを語ってから。


「そんなお客様に朗報だ、あんたにぴったりの銃がある。見るよな?」


 ケースに並べられた品々の中から一つ選んで持ち上げる。

 薄黒い自動拳銃だ。それも一目で戦前のデザインだと分かるような形だった。

 錆もなく、角ばりを持ち、肉厚で堅牢なつくりのそれは人を撃つことに特化した銃だろう。

 かといって余計な飾り気もなく、スライドの前後に刻まれた滑り止めと、余裕と軽さを含ませた細身のトリガもひたすら実戦に向けた証拠だ。


「……こいつ、ほんとにウェイストランドで作られたのか?」


 その出来の良さは思わず手が伸びてしまうほどだ。

 メルカバはそんな俺に「さあどうぞ」と自慢の品を差し出してくる。


「こいつは最近作られたばかりの拳銃、その名も"リージョン"だ。口径は45ACP、クラシックな自動拳銃を最新の形まで持ち直した素晴らしい銃だ。まあ持ってみろよ」


 すすめられるがままに握った。構えればすっと持ち上がるし、重量のバランスが良くて両手が素直に動く。

 照準も見やすくて精密さが求められた時には頼もしいはずだ。

 なによりでかいのが直感的に銃口を向けられるところだ。人差し指を向ける感覚で簡単に相手を狙える。


「構えやすい」

「そうだ、人間の手のつくりに徹底的にあわせたからな。片手だろうが両手だろうがしっかり掴めて、射撃時の負担もちゃんと受け止められるように調整されてあるんだ。ちょっと弾倉を抜いてみろよ、軽く振るんだ」


 俺は言われた通り、マガジンリリースを親指で押しながら軽く振った。

 すっと弾倉が抜けた。念のためもう一度差して固定されてるか確認すると、ぐらつかないのが分かる。

 これなら緊急時も片手で扱えそうだ。弾倉がスムーズに出し入れできる。


「どうだい? 弾倉はするっと抜けるし、一度装填したら強固に保持されるから装弾に関する心配事はなしだ」

「こりゃいい。何発入るんだ?」

「ここ最近ファクトリー規格の新しい45口径のマガジンが出てるんだが、そいつだと10発入る。本当は十二発だが、確実性のため二発抜いて十発」

「45口径がそんなに入るなんて十分だな」

「おっと、驚くのはそれだけじゃない、こいつは引いたトリガのリセットを短くする機能があるんだ」

「リセット?」

「あんたなら良く分かるだろ? 一度トリガを引くと、ちゃんとお行儀よく戻ってからじゃないと次の弾は撃てないよな? それをいくつか短縮して次弾を撃ちやすくするんだ」


 更に機能があるらしい、それはトリガの引きの問題だ。

 銃のトリガは一度引くと元の場所に戻ろうとするわけだが、それが戻り切らないと次は撃てない。

 ある程度離れた距離で撃ち合うならまあ問題はないだろうが、それもし近距離だったら?

 あの時のドッグマンとの戦いみたいに、至近距離だととにかく弾を叩き込まないといけない。

 撃つたびに空くほんの少しの間は敵との距離が縮まるほど命取りになる。


「ちょっと引いてみろよ、あんたの好きなリズムで素早くね」


 その通りにトリガを引くと、かちっと軽く引けた。

 続けて引こうとすれば――かちかちかちっと素早い調子を刻んだ。

 本当だ。一度引くとトリガは次の射撃に備えて短く備えるようだ。


「すごいな……トリガが短くなってる、これなら連射も楽だ」

「そう、だから素早く叩き込める。接近戦では重要だろ? 全体的な造りはとにかく人間の手にあわせられてるから、連射しても保持しやすい。余計な飾り(・・・・・)は付けられないがそれがかえって堅牢さとメンテナンス性の良さを表してるんだ」

「ああ、そういう銃は好きだ。接近戦向けなところが特に気に入った」

「こいつは戦前の青写真を元に、ウェイストランドのノウハウを組み込んで作ったファクトリー謹製の自動拳銃だ。こいつで悪者の脳天を1ダースぐらい叩き割っても滞りなく弾が出るようにしてあるぞ」

「整備性もよさそうだな」

「もちろん。素人でもどうにかメンテナンスできるようにしないと、この世界じゃすぐ使い物にならなくなるからな」


 そこまで言われて、俺にはもう納得しか残っていなかった。

 何なんだこの銃は。望んでるものが全部詰まったような理想の姿だ。


「ストレンジャー、まさか気に入ったか?」

「そのまさかだ。おいくら?」

「6000チップでどうだ? 1000チップ追加で弾倉を4本、牛のミュータントから作られたオリジナルのホルスターもつけちゃうぞ」


 即決だ。7000チップ分を取り出して渡した。

 ツーショットあたりが驚いたような口笛をあげるあたり、よっぽどお高い買い物をしてしまったに違いない。

 良い意味でのリッチな買い物だ。命を預けられる相棒がまた増えた。


「だったらいい買い物だな」

「いいね! やっぱりあんたは金払いがいい、ここに来たのはきっと運命だ。そうだろう? ほら、サービスでホルスターの付け方も教えてあげよう」


 メルカバは人生で一番機嫌がよさそうな様子だ。

 「こうつけるんだ」と黒い革製の角ったホルスターを腰につけてくれた。

 グリップが姿を覗かせるようになっていて、試しに掴み抜くとするっとそのまま構えられる。


「どうだ、カッコいいだろう? あんたはきっと人生で一番いい買い物をしたに違いないさ」

「ああ、すげーカッコいい」

「よし、よし、これで私の人生は巻き戻ってきたぞ。さあ、他に欲しい奴はいないかい?」


 そいつの言う通りいい買い物ができた。

 腰に安心できる重みを感じてると、武器商人の口上に周りから続々と人が集まってきた。

 けっきょく商品は全部売れたそうだ。メルカバという男はまったく幸運に恵まれた男だと思う。


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