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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
192/580

103 神にはそれ以上ヤバイやつをけしかけろ。


 いつもの宿屋に戻ってきたところ、何人かの顔ぶれがテーブルを囲んでいた。

 褐色十五歳児やクリューサ、あの吸血鬼や男エルフといった面々が――中央に置かれた青く輝く瓶を前にして。


「間違いありませんなあ。これは世にまたとない工芸品、精霊紡ぎの霊薬というものですぞアレク殿」


 ロアベアよりも濃い緑の髪を伸ばしたエルフが結論を口にしていた。

 夜分遅く物資を分捕りに行ったとき、あの白装束が持ってたあの薬か。


「精霊紡ぎの霊薬……なんなのだそれは。マナポーションみたいなものか?」

「そんな並大抵の薬と並べられないほどの逸品ですな。その価値たるや……フランメリアの上等な土地で、立派な屋敷と土地と名声の満足な組み合わせが人生五回分は堪能できる、といったところでしょうか。いやはやまさかこのようなものを実際に目にできる機会が訪れるとは……」

「……そ、それはかなり値のあるものということにならないか? 本当に良いのか、そのようなものが己れが貰ってしまっても……」

「くくく……フランメリアでは早い者勝ちだぞ褐色の、これは貴様の物だ」

「良かったですなあ、大当たりですぞアレク殿」

「いや、このようなものをもらっても困るのだが……大体どんな薬なのだこれ」


 男エルフと吸血鬼に挟まれたアレクは困り果ててる。

 話の内容からして俺がまたとんでもないものを引き寄せたのは間違いないだろうが、一体どこまで世のバランスを崩せば済むんだろうか。


「これは精霊を作る薬ですな。長い年月を経て注がれた魔力に、相応の材料をこれまた魔女様の作る料理よりも凝った工程で加えて、清らかな土地で自然の魔力を纏わせた……ごちそうのようなものです。その効果たるや、生きとし生ける物を精霊に変える奇跡の薬とでもいいましょうか」

「精霊を作る薬だと? どういうことだ?」


 流暢に、少し早口で語るエルフにクリューサがとうとう食いついた。


「例えば誰かが大切に飼っていた馬にこれをひと瓶飲ませるとしましょう。すると精霊になります、以上説明終わりです」

「……本当にどういうことだ!?」

「どうもこうも、人工的に精霊を生み出すための薬ですぞクリューサ先生。魔女の使い魔のそれのように、より密接な意思疎通を図るために動物を進化させる――あるいは我々の都合よく改変するとんでもないお薬なのですよ」

「何もかも信じられないぞ。あちらの世界でそんなものが普通にあるというのか」

「こんなものが世に出回っていたら今頃精霊だらけですなあ。いやそれはそれで興味深いですな……世に満ちる精霊たちが我々社会に、いや一つの歴史にどのような影響を与えるのか、中々そそるテーマなことで」


 世紀末世界の医者ですら近寄りがたい薬の行く先はアレクだ。

 目の前に近づけられたそれに「どうしようこれ」とご対面している。


「しかしエルフの男よ、貴様は確かフランメリアに仕える役人であろう? このような宝を国に持ち帰ろうと思わぬのか?」

「現物を持ち帰るよりも実際にどのような効果を及ぼすか、事細かに記録するのが私の仕事なものでして。可能であれば何かで試したいところですな」

「え? 一応これ国宝だぞ? 貴様いいのかそんなので? 大丈夫なの?」

「国からは現物よりもデータを集めろという使命を担わされておりますゆえ、持ち帰れなどという選択肢は生憎ないものでして」

「貴様らエルフは本当にどうかしているぞ。どうしてこう価値あるものにそこまで無頓着なのだ、あの聖剣だって一切の躊躇も見せず破壊しおって。我あれ欲しかったのに……」

「あんなものを手に入れてどうするつもりなのですか吸血鬼殿、自宅の飾りにでもするつもりですかな?」

「うむ、客人に見せびらかすコレクションにしようかと思ってたのだ」


 そんな貴重なお薬の前で男エルフとあの吸血鬼が掛け合うところに、アレクは手元の薬と俺の方を少し見比べてから。


「この精霊の薬とやらをミコに使えば、元の姿に戻せないか?」


 そんなことを言ってきた。

 精霊を作る薬とやらがどこまでの効果なのかは分からないが、言われてその線はあるのかなと思った。


『も、戻れるのかな……?』


 肩の短剣の口ぶりだって、こうして見えた希望に明るく困ってる。

 事情を知ってる周りの連中の視線も集まってきた、俺だって「もしかしたら」だ。


「ミコは確か短剣の精霊だよな? じゃあ精霊の薬とやらがあれば」

「そちらの肩のお嬢さまは――なるほど、この世界の魔力がまだ足りていないようですな」


 クソみたいなことが立て続けに起きたが、ようやく明るいニュースが来たかもしれない。

 そう思って食いついた先にあったのは男エルフの否定混じりの首の動きで。


「ストレンジャー殿、これはあくまで血が流れ心のある生ける何かに使うものでして。ひと瓶丸ごと注いだところで元に戻りはしますまい。元々精霊であるそのお姿に使っても無意味ですぞ」

『……そうですか』

「元の姿に戻りたくば、この世界により強くマナが満ちるか、あちらの世界に帰るか、ですな」

「そうか。じゃあ使えないゴミってことだな」

「ゴミ。確かにその言い分は間違ってはおりませんな。何せこれは入念な下準備も必要なものでして、魔力をじっくりと蓄えさせた意志強き獣でなければ砂糖水も同然なのです。そもそも、今やそこまでして精霊を生み出す理由などフランメリアには――」

「分かった、よくわかった。そこの砂糖水のうんちくはもうしなくていいぞ」


 俺は良く喋るエルフを黙らせた。

 悪いニュースがこれでまた連続したわけだ、俺もミコもため息しか出ないほどに。

 それから席に着いた。今や自分は持ち帰りたくもない情報を山ほど抱えている。


「クゥン……」


 荷物を下ろしていると黒い相棒が見上げてきた。

 親指と人差し指の間で顎をくいっとした。心配そうな顔でこっちを見つめてる。

 カルト教団のクソ活動から魔法世界の真実を知ってしまったストレンジャーにここまで付き合わせて申し訳ないと思う。


「どうした二人とも、良からぬことでもあったのか?」


 次に気にかけてくれたのは瓶片手に近づいてくるノルベルトだった。

 たっぷり仕込んだドクターソーダを「飲むか?」と渡してきた。


「重い話と誰にも言えないレベルの絶望的な話がある」

「むーん、何かあったのか? お前がそこまで言うなど相当なものではないか」

「ボスが来たら重い方を話す、絶望的な方はお墓まで持ってくつもりだ。いや俺だったら墓とは無縁か」

「少し気を落ち着かせろ、イチ。そうして気が立ったままではいざという時判断を間違えるぞ」


 そうまで言われて出かけた言葉が「俺の何が分かる」だった。

 危うく口にするところでとどまったが、その通りだ。


「もう間違えてるかもな」


 ドクターソーダを口にした。この薬臭さのあるあんず風味も、誰かさんが創造したものなんだろうか。

 理解しがたい真実の一部を知ってしまった今、目に映る全てにあの言葉がどうしても重なる。

 例えば地球を滅ぼしたとして、じゃあ一体誰に謝ればいいのか、そんな考えだとかがずっと浮かんでるぐらいだ。


「――あら、こんにちはストレンジャー。面白いことになってるわね、ここ」


 使い道のなくなった青く輝くだけの瓶を眺めてると、最近よく耳にした声が届く。

 宿の玄関か。振り向くとそこに、また俺の知るやつらがいた。

 白衣姿の白人の姉ちゃん……メディックだ、こんなとこにメディックがいる。


「また会ったわねストレンジャー、ミコさん。ファンタジーな連中が騒いでるけど、やけになって街をあげてのハロウィンパーティーでもしてるわけ?」


 それに作業着を着たヒドラ似のブロンド髪も隣に居て、すぐファイアスタータ―だということも分かった。


「当機も本日より作戦に組み込まれることになりました。皆さまどうか気を楽にしてください、なんてことはありません、ただの喋る機械ですよ」


 機械の身体にボディアーマーを重ねたロボットも入ってきた、イージーだ。


『あっ……メディックさんにファイアスターターさん、イージーさん!』


 ミコの声にメディックが背中のバックパックを見せつけてきた。

 白衣の細身には見合わない赤くて大きなそれは「医療道具が入ってます」といかにもな感じで説得しにきている。


「医療知識がある人員が不足してるから呼び出されたのよ、退屈してたのもあるけれども」

「あんたらブラックガンズのメンバーをここで揃えるつもりなのか?」

「もう揃ってるわよ。一人別行動中だけど」

「サンドマンか」

「ええ。もう既に街のどこかに潜伏中」

「流石だなあのおっさん、もうやる気か」

「敵に顔を覚えられたくないって言ってたわよ。それよりどうしたの? 気分というか機嫌が悪そうな顔してるけど」

「病みそう」

「あらそう、薬で治る方?」

「不治の病だろうな、出番はないから安心してくれ」


 サンドマンもしれっと来てるようだ、これでブラックガンズ全員集合か。


「――おいおいその声もしかして!」


 そんな人員の追加に、店の裏口からヒドラがずかずかやって来る。

 兄と再会したファイアスターターは嫌そうでも好意的なものでもない、なんとも微妙な顔のまま。


「援軍に来たわよ馬鹿兄貴」

「へっへっへ、遅かったなクソ妹。もう三つも燃やしたぜ」

「あんなのただ燃やしてるだけじゃない。私だったらもっときれいに燃やししてる」

「ほ~、きれいにね。何持ってきやがった?」

「WPよ。ヒドラショットもあるわ」

「WPか! 最高だなお前! ラシェルも連れていっぱい焼こうぜ?」

「こんにちはファイアスターター、こうして実際に合うのは初めてね」

「ラシェルさん。いつもうちの馬鹿兄貴がお世話になってます」


 それらしく抱き合って挨拶をしたようだ。

 放火魔がこれ以上増えないことを願おう。


「……やれやれ、また騒がしくなっちまったね」


 モンスターどもに負けないぐらいの戦力が揃ってしまったところで、ようやくここにボスがやって来た。

 いつもの面々を連れてだ。ようやく情報がまとまったらしい。


「さて、もし各々めぼしい話があったら今この場で聞かせてもらうつもりだ」


 ボスが席に着くと、誰に言われるまでもなく全員が集まってきた。

 この人は今じゃすっかり人間魔物問わずに一番信頼されている。さて、情報の共有を始めよう。




 みんな同じ気持ちだろう、すべきことはあの『白狼教会』への対処だ。

 スティングを開放するにはこいつらがどうしても邪魔になる。実際、今こうしてる間にも白装束は街をうろついているのだから。


「まず俺からの報告だ、ボス。新入りをつれて制圧した地域を巡回してたんだが、この信者どもが熱心に活動してるところに鉢合わせたぞ」


 自警団の代表をやらされてるオレクスが最初に報告してきた。


「はっ、活動ね。神の教えがどうこうとか説いてるところなら私だって見たさ」

「もっと力のこもった方だぞ。連中、ここの市民に化けて信者の住んでた家に押し入ってやがった。金目の物やら食い物やらを徴収してたところだ」

「そりゃずいぶんと荒っぽい寄付の求め方じゃないかい」

「ああ、同行した義勇兵の知人の家だったんだがな。家主は救いを求めて修道院とやらに行ったきり行方不明らしいんだが、信者の奴らが合鍵片手にお邪魔してたぞ」

「やっぱりそういうところだったわけだ。で、捕まえたのかい、逃がしたのかい」

「捕まえたぞ。親切な吸血鬼のお嬢さんに任せようとも思ったんだが、デリケートなもんだから手作業でお尋ねしたところだ」

「むう……仕方ないであろう。そういう生き物なんだし、我」


 そうか、引き込んだ信者は現世に帰すつもりはないらしいな。


「手短に話すぞ。あれはライヒランドの手がかかった連中だ、あいつらが手引きして連れて来たんだ。あの工場に市民を次々押し込めてやがる」


 嫌な知らせもあってオスカーのことが気になるが、そこでオレクスが続けた。


「それくらい分かるさ。じゃあなんだってそんなことをしてるかって話だが」

「そこで神の教えを長々説いてるそうなんだが、それよりも気になるのがそこで儀式(・・)をやってるって話だ」

「儀式だって?」

「ああ、あいつらは一体何考えてやがるのか、あの工場にドッグマンをかき集めてるらしい」

「なんだってあんな気味の悪いバケモン集めてんだい。適当に嘘でもついてるんじゃないかね?」

「そこの信者が言うには、神を作ってるだの、神になれるだの訳の分からない言葉ばっかでな。それ以上聞こうにも「神が天罰を下す」だの「悪魔ども」だの熱心な言葉しか返ってこないんだ」

「他に何か分かったことはないのかい?」

「エルフの兄ちゃんが会話を記録してくれたみたいでな、事細かなことは書類に書き記した。スティングに活動中の信者が山ほどいて、私財を「現世との未練を断つ」だとかいう理由で接収して、俺たちを悪魔扱いする正義の連中だってことは確かだ」

「はっ、いつぞやの人食いカルトどもの方がだいぶ気楽だね」

「やっぱり儀式だとかは嘘で、工場を占拠してあいつらの手助けをしてるだけだろうな」


 そこまで話を聞いてようやく俺の話ともつながった。

 『工場に何かを運んでいた』『家畜輸送用のトレーラー』『獣臭い』


『……儀式をしてるっていうのは、本当かも』


 おそらく同じ考えがあるだろうミコがそう言って、周囲が信じられなさそうな、あるいは信じたくもなさそうに見てきた。


「ああ、マジだろうな」

「どういうことだいあんたら、まさか連中本気でおまじないでもしてるってのかい?」

「マーケットに行った際に地元民から聞いたんですが、工場に定期的に何かが運ばれてたり、家畜輸送用のトレーラーが来てたとかいう証言がありました」

「じゃあなんだい? あんな場所で飼ってるとでも?」

「オレクス、街にドッグマンは出没したことはあるか?」

「いいや、街どころか郊外にすらそんなの出たことないぞ。なんたってスティングはミューティに厳しい街だからな、そうやすやすと寄ってこないさ」

「となると、もし運ばれたとしたらそのドッグマンは今頃――」

「今なお元気に育ってらっしゃる、とでもいいたいのかストレンジャー」

「その通りだ。動物愛護精神をもってかわいがってるんじゃないか」


 あのカルトは本気でイカれてると思う、ドッグマンを集めて何かをしてるのは間違いない。


「ボス、ついでにもう一つ。信者は自分の子供をこき使ってましたよ、文字通り鞭打って(・・・・)布教活動やらに従事させてました」

「……はっ、一番最悪な知らせだねそりゃ」

「見た感じサボってないかしっかり監視されてますね。他の子供も連帯責任で仲良くやってるようです」

「つまりあそこにはガキもいるってことかい。150年経ってもクソみたいなやつらはいるもんだね」

「あと勝手なことをしたので謝らせてください。可哀そうな子供に必ず助けると約束してしまいました」

「確かに勝手な行いだねそりゃ。罰として責任もってやり遂げな」

「了解、ボス」


 一通り言いたいことを言い終えると、誰かに背中をぽんと押された。

 コルダイトだ。どうせ「少し肩の力を抜け」みたいな感じだろう。


「じゃあ次は僕から報告だよ。その工場について良くないのが何件か」


 その次はハヴォックだ。

 テーブルに広げた写真はあの手この手で撮影された工場の様子があって。


「まず一つ、工場周辺に遠隔操作式の機銃があったんだ。こいつが厄介なんだよね、五十口径の機関銃が何門も張り巡らされてるんだけど……誰かが後ろで休むことなく操作してるから隙が無いんだ」


 外壁に転々と銃座が組み込まれてるのが分かった。

 ケーブルと接続された五十口径はまだ撮影者に気づいてないようだが、センサーの光が稼働してることを伝えている。


「そして困ったことに犠牲者が出た。好奇心で近づいた義勇兵たちが撃たれちゃったんだ」

「近づいたって? どれくらいだい?」

「400mほどかな。相当神経質に見張ってるんだと思うよ、見晴らしがいい場所だからその気になればもっと遠くも狙えるだろうね」

「……躊躇なくうちらを撃てるのはどんな理由なのかね、クソッ」

「それとねボス、警備状況も調べたよ。正門を通る時に必ず顔を見せるようにしてるんだ。だから顔を隠した程度じゃ誤魔化しきれないし、ミュータントなんて見たら問答無用で悪魔払いしにくるだろうね」

「小細工は通用しないってことかい」

「あいつら、街のあちこちで僕たちのこと監視してるでしょ? 念入りに顔を叩き込んでNGリストも脳内で完成させてるかもね」

「つまりトロイの木馬(・・・・・・)は無意味だね。ったく、どこのどいつだいキチガイにおもちゃをくれてやったのは」


 ここまで厄介にしてくれた誰かにボスが大変面倒くさそうな顔をするが、ハヴォックの手は一枚の写真を引き出して。


「ライヒランドなのは間違いないね。こんなやつがいたんだから」


 俺たちによく見えるように置かれたそれには、記憶に焼き付いた姿があった。

 工場の正門近くに停まった軍用車両のそばでにこやかに笑む男が一人。

 白装束と緑服に囲まれながらも、写真越しでも嫌に伝わってくる馴れ馴れしい笑顔をどこかに向けている。

 間違いない、あの時の男――エゴールだ!


「エゴール……! いやがったのか!」

『この人……!』

「こいつは……確か現場の指揮官の一人だったね。まだいたのかい」

「うん、僕たちの警戒網を潜り抜けて最南部あたりから迂回してきたみたいなんだけど……ちょっと寄ったら南に向かったよ、線路を沿うように移動したから本軍と合流しにいったんだろうね」


 できることならそいつが見えてる間にぶち抜いてほしかったが、そんな無理強いするわけにもいかないか。


「んで、更に悪いニュースはこの白狼教団とかいう連中の動きが派手になってるってことだ」


 ツーショットも続いた。


「今、スティングは義勇兵たちの力添えもあってようやく各地の統制が取れてきてるわけなんだけどな。信者の方々がずっと監視してるし、偽りの預言を貼りまくってとても迷惑してるんだ。俺のカンだが、これから何かやらかすぜこりゃ」

「それだけじゃない、強引に住民を連れ去る姿も確認されたぞ」


 ホームガードの軍曹も難色を示してた。


「我々の目をかいくぐって勧誘してるようだが、やはり私も妙に思っている。焦っているというのか、何か慌てて活動しているような感じがするぞ」

「ホームガードの旦那もそう思ったか、俺もだよ。街の奪還が近づいて焦ってるのかもしれないが、それにしたってここの市民を連れ去る理由は? まさかあいつら人質のつもりなのかね」

「つまりあの工場に立てこもって徹底抗戦でもするつもりか?」

「ああ、ドッグマンと仲良くな。とにかく工場ごと派手に吹き飛ばすプランはもう使えないってことさ」


 つまりカルトが何かをたくらみ、要塞同然の工場にドッグマンと立てこもり、街の人たちが連れ込まれ「ドカーン」で済ませない状況か。

 今までみたいにこそこそ忍び寄るの難しく、正面突破も困難、さてどうする。


「吸血鬼のお姉さんに頼んで眷属を送り込んで……ってのはどうかな!」

「むう、実をいうと既にやったのだがな……奴ら躊躇なく殺したぞ」

「ドワーフに穴を掘らせるのはどうだ、それで地下から……」

「わしらをなんだと思っとんじゃ馬鹿者」

「誰か空を飛べるやつとかいないのか? それか犬っぽい奴でも送るか」

「いないのですよこれが、参りましたなあ」


 ……いろいろと話が飛ぶが、話は中々定まりそうにない。



 けっきょく決まったことは、街の信者どもをどうにかするということだった。

 完全な黒だと分かったけれども「見つけ次第殺せ」とまでは進んでいない。

 見かけ次第殺すのは賛成だが、派手にやりすぎでもしたら工場に居る市民はどうなる?

 その分だけひどい目に会うとしたら? うかつにトリガを引けないのだ。

 ひとまずは「捕まえろ」だそうだ。

 問題はその信者どもが神出鬼没で、すぐに逃げるものだからそう簡単に捕まるわけじゃないってことだが。


「……その信者どもとやらが堂々とのさばってるんだけどな」

『……うん、さっきより見られてるよね、わたしたち』


 すっかり夕暮れ時だ。日の光が失せてきた外で、俺は見まわした。

 人通りは少なくなってるものの、確実に誰かからの視線を感じている。

 宿からすぐ出たばかりなのにどこかから間違いなく見られている、そいつは誰だと探るのだが。


『……いちクン、あそこ……』


 違和感の正体はミコが感じ取ったらしい。

 声の向かう先を視線で追うが、そこにいたのは――


「……あれ、オスカーか?」


 いた。道路の向こうで薄いブロンドの子供がこっちを見ている。

 まさか逃げて来たのか? いや、何かあったのか?

 どちらにせよせっかく来てくれたんだ、じっと見つめるその姿に近づこうとするが。


「……!」


 一瞬、見えてしまう。

 また会えたというのに、あの時見た顔には頬いっぱいに青い痣ができていた。

 あともう少しで手が伸びる、といったところで背を向けられて駆け出してしまった。

 普通じゃない、一体どうしたんだ。


「おい、オスカー! ちょっと待て!」

『オスカー君!』


 絶対何かがあったんだ、捕まえて話さないと。

 わかってる、確かにこんな状況じゃおかしいだろう。でもそんなのを見せられて黙ってられるような人間じゃないんだ。

 毒親育ちってのは本当に面倒くさいな、クソッ!


「お、おいストレンジャー!? どうしたんだよお前!?」

「悪いツーショット! 後で話す! 行くぞニク!」


 後ろからツーショットに呼び止められたが、無視して追いかけた。

 

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