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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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94 ダイナミックお邪魔しました

「――確かに物資が移動できないほどあるってのは耳にしたさ。だが、それにしたってこいつは……」


 想像を超える物資の量をざっと数えて、ツーショットが困り果てていた。

 情報の確認不足? 想像力が足りなかった? 単純に想定を上回っていただけだ、向こうの馬鹿のせいで。


「こんだけあると爆破するってのは勿体ねえな、流石に」

「それに……ここの人たちから奪ったものもいっぱいあるみたいね、無秩序すぎてヒドラの部屋みたいになってるわ」

「迫撃砲と一緒に寝たことはあるけどよ、流石に酒や食いモンと一晩過ごしたことはないぜ」

「それにお酒もいっぱい……はぁ、ムーンシャインが見たら「全部うちのところに持ってこい」の一言でしょうね」

「武器弾薬と飯を一緒くたにすんなよ、湿気るだろ……ったく」


 秩序もクソもない品ぞろえにヒドラは物色してるし、ラシェルは大量の食糧やらを前に呆れ果ててる。


「あのさ……普通、物資ってこんな雑に留めておくもんじゃないんだよ? ひょっとしてさ、自警団って兵站とか得意じゃない方だった?」

「馬鹿言うな、嫌がらせみたいに人ん家の隣に武器庫設ける以外はちゃんとしてたぞ。それにまあ、実を言うと俺の仕事は補給担当だったんだが」

「あいつらは君をちゃんと引き込んでおくべきだったね、うん」


 足枷になるほどの宝の山を前にハヴォックもオレクスも気が抜けてた。


「こりゃあすごいのう、管理しきれぬ量の物資を置くなんてマヌケにもほどがあるわい」

「いや……どうするのだこれ、逆に扱いに困ってしまうぞ」

「まあとりあえず好きなもん物色すりゃいいんじゃないかの、とにかく手を止めちゃいかん。おっ強い酒がいっぱい」


 ドワーフのおっさんがとりあえず、と酒に手を付けてる。

 言われた通りにアレクは死体をどかしてるが、白い男の持ってた青い瓶に「?」と疑問形を浮かべていて。


「吸血鬼の姉ちゃんよぉ、もうちょっと詳しく聞けなかったのか? 確かに物資があるってのはマジだったけどなぁ」

「むう……すまん。ああしてしまうと複雑な受け答えができなくなるのだ」


 コルダイトの苦しい笑みに、ブレイムはしょんぼりしてる。


「取れるだけ取ってもクソみたいに余るぞこれ……」

『……やっぱりもったいないよね……』

「うちはエナジードリンク手に入ったから満足っす~、アヒヒ」

「満足したか、そうか、よしお前だけ帰れ」

「そんな~」


 エナジードリンクでいっぱいの箱を大事に抱えるロアベアは置いといて、俺たちも頭を悩ませていた。

 たぶんみんなこう考えてるだろう、「もしもこれを全部奪えたら」と。

 そう思うほどの質量なんだ、派手に物色して大胆に吹き飛ばすプランがかすむほどには。


「どうする、どうする……いや、待て、間に合わないな……」


 ツーショットが珍しく思い悩んでるのを見て、俺はとにかく動くべきだと思った。

 このまま宝の山に翻弄されたらプランが全部台無しだ、与えられた時間は限られてる。


「やっぱり取れるだけとってダイナミックさようならか?」

「俺もそれしかないと思ったところさ、悔しいけどな。とりあえずボスに現状報告だけはしとくが」

「待て、外にあいつらが使ってた車両があったな」


 ツーショットに尋ねて、けっきょく予定通りに動こう――と思ったところに、オレクスが駐車場のある方を指す。

 確かにそうだ、詳細は分からないけどあいつらの使ってた車が何台もあった。


「確かにあったな。見る暇なくてどんなラインナップかは確認できなかったけど」

「おいおい、俺がそんな事考えてないと思ったか? そりゃ少しでも運ぶ量を稼げないか考えたぜ?」

「まあ聞いてくれ、そこに戦前の頃からずっと放置されてるトレーラーハウスがあるんだ。デカいのが二つもな」


 三人で話し合ってると、オレクスは急ぎ足で「ちょっとこい」と誘ってきた。

 物騒な宝物庫からいったん離れて廊下に戻ると、柵の張られた窓越しの駐車場が見えて。


「あれだ。見えるか?」


 そこから十分に見えた、出入り口の近くに二台の白いトレーラーハウスがでかでかと鎮座している。

 駐車場のルールに則って戦前から丁重に姿を構えるそれは、人工的な照明を発するほどに現役らしい。

 いやそれにしてはデカすぎる、車で引っ張れることを忘れかけて、置物か何かと勘違いするほどには。


「……けっこうデカいなオイ」

『……明かり、ついてますけど……?』

「おいおい、なんであんなデカいの置いてあるんだ?」

「太陽光発電もできてけっこう快適でな、だから整備して寝泊まりできる場所として使ってた」

「……なるほどな。なあ、ちなみにあれってまだ動くのか?」

「たぶん動くはずだが。でも中は家具ばっかでごちゃごちゃしてるぞ」


 現に都合のいい住居として使われ続けてたらしい、

 どうにかしてアレに物資を詰め込めれば、と思い浮かんできたが、


『あの、あそこにあるのって……トラックだよね?』


 肩の短剣がそういう先に、俺は目を凝らした。

 薄暗い駐車場の車列にその姿は紛れてた。言葉通りのものが二両もある。

 前輪が外されて、工具箱が死体と仲良く転がってるがありがたいのは確かだ。


「よし、よし、いいぞ、なんか閃いた……! いけるぞ!」


 そんなものを目にしてツーショットが閃いたようだ、楽し気に笑うほどに。

 なんだかその様子を見てると俺たちも希望が湧いてくるが、実際その通りで。


「ドワーフの爺さん! 仕事だ!」


 物資だらけの部屋に戻って物色中のドワーフに声をかけた。


「おお、どうした」

「車の整備はできるか? 最悪どっか壊れてても治せるか?」


 自動車なんてない世界の住人にずいぶんとひどい注文をしてるが、無茶ぶりをされた本人は強い笑みを浮かべて。


「朝飯前じゃよ。なに、仕組みが分からなくとも覚えながらやろうじゃないの」


 引き受けてくれたみたいだ、これほど頼もしい返事はないと思う。


「おい、外は制圧したぞ! そっちは大丈夫なのか!」

「物資はあったのか――ってなんだこの量、すごいな」


 そこに廊下の方から声が近づく。獣人たちが同郷の奴や自警団を連れてぞろぞろやって来たみたいだ。


「よし、細かいことは省くぜ。そこの壁壊せ」


 そんな一仕事終えた連中に、ツーショットはいきなり部屋の壁を指す。

 いきなりの頼みと、それから部屋いっぱいの物資を目に、牛と熊のコンビは顔を見合わせて。


「――なるほど、面白れえことするつもりだな?」

「任せな、俺たちが生きて帰れるほどデカい通り道でいいな?」

「もうこそこそしなくていいぜ、これより大胆に脱獄だ」


 二人はにやっと笑って、デカい斧とハンマーを掴んだ。

 というか即答で壁に叩きつけた。刑務所の壁がどんどんごんごん音を立ててぶち壊されていく。


「どういう状況ですか人間」

「おお、いっぱいだな。どうやって運ぶんだ」


 唐突な解体工事が始まる中、白エルフとクラウディアがこっちに駆け寄ってきた。


「そのことだが――全員良く聞いてくれ!」


 この場に全員が集まったところで、ツーショットは注目を集めた。

 まあ次に口にすることはなんとなくわかる、というかみんなも察し始めてる。


「プラン変更だ、今からここの物資を根こそぎ奪うぞ!」


 その案というのはここにあるもの全部いただいていくってことだ。

 妥協して少しぐらい残してもいいって感じじゃない、その言葉通りだ。

 この場に「どうやって」は必要ない、それすらねじ伏せてどうにかするのがプレッパーズの流儀だ。


「面白いことしてるところ悪いけど報告よ、こっちに『くるま』が近づいてるわ」


 タイミングの良し悪しはとにかく、そこに壁の大穴から金髪エルフがやって来る。


「数は? どんな形だ?」

「一つだけみたいだけど、私達が乗ったのと同じよ。人もいっぱいいる、汚い身なりの連中がね」


 いいニュースだったのかツーショットのニヤニヤは増している。


「吸血鬼の姉ちゃん、質問だ。あんたは何人まで雇える?」

「くくく……♪ お前が望む数だけ作れるぞ?」

「よし、アレクとラシェルはトラック持ってこい! ヒドラは爺さんと一緒に車両確保、エルフのお嬢様がたは獣人の兄ちゃんたちとお客さんを生け捕りにしろ! 他は急いで物資を外に運べ!」


 そこから飛んだ指示に全員がすぐさま動く。

 人間混じりのファンタジー集団が特大サイズの穴から飛び出て、宝の山に残った俺たちはさっそく作業に取り掛かる。


「武器弾薬を優先だ! 食いモンとかは最後でいい! 欲しいもんあったら貰っていいぞ遠慮すんな!」

「いいねえ、楽しいお買い物だぜ。さあお前ら、どんどん運ぶぞ!」

「全部奪っちゃうなんて正気を疑うよ。でもあいつら絶対悔しがるだろうからやる価値ありだね!」

「プレッパーズはいつもこうなのか? まったくひどい路線変更だ」

「慣れろ、ノリと勢いで馬鹿やらせたらすごいんだぞうちら」

『慣れてくださいとしかいえません……』

「全品無料っすね、あひひひ……♪」


 とにかく目についたものに飛びつく。

 コルダイトのおっさんが爆発物でいっぱいの箱を抱えて、ハヴォックが銃器で満たされたボックスを引きずり、オレクスが燃料の入ったドラム缶をごろごろ転がし、脱獄させていく。

 俺も何かめぼしいものがないか――トヴィンキーでいっぱいの箱だ、バックパックに詰め込む。


「ほんとに全部奪えるんすかねーこれ、アヒヒー」


 ロアベアが迫撃砲を軽々抱えていってしまった、どんな力してんだ。

 俺も負けじと対戦車地雷の入った箱を抱っこする。PERKで足腰が強化されてるせいで軽々持てた。

 獣人が開通してくれた大穴から外に出ると、ちょうどその先で。


「みゅ、ミュータントがどうしてこんなトコにいるんだよォォッ!?」


 ここまで踏み込んでようやく異変に気付いたレイダーたちが慌てふためいてるところだった。


「――お前ら離れてろ、吹っ飛ぶぞ!」


 トラックからあわてて降車し始めるその姿に、あの熊の獣人が――跳ねた。

 巨体から想像が続かないほどの勢いで飛び上がり、賊どもの懐に巨大なハンマーもろとも落ちていき。


――ゴォォォォォン……!


 アスファルトの上に重量が降り下ろされて、地面が揺れた。

 鼓膜がぶるぶる震えるほどの振動がこっちまで伝わって、その発生源に巻き込まれた奴らが飛び散る。

 まだ生きてるがかなり苦しそうだ。戦闘不能になるほどに。


「おー、一発で終わりかよ。……「とらっく」ぶっ壊してねえよなオメー?」

「見たか、これで労働力確保だぜ。出番だぞ吸血鬼」

「我々の出番なかったじゃないですか」

「むう、亜人の力には敵わないな」

「くくく……上出来だ、後は任せるが良い」


 ファンタジーどもは見事に働き手も確保してくれたらしい。

 そうしていると追加のトラックが堂々と入ってきた、アレクとラシェルだ。


「よし、手の空いたエルフはそこのトレーラー片づけるぞ! 邪魔なモンはぶっ壊して捨てろ、中に人いたら殺しちゃっていいぞー!」

「よっしゃ俺たちも戦利品漁りに行くぞ、収穫だ」

「物資運ぶのがメインだからな、忘れるなよ」


 ツーショットがエルフを連れてトレーラーのお掃除に入って、獣人たちも運搬に回ってくれたみたいだ。

 バックで入ってきたトラックに荷物を積み込む、ちょっと雑になろうがお構いなしに放り込む。

 荷台が火気厳禁の究極系みたいな恐ろしい状況になってくが、根こそぎブツを奪われて悔しがる敵の顔のためなら仕方ない。


「おいおいもう直しちゃったのかよ爺ちゃん! すげえなオイ!」

「歯車仕掛けの都市はこれよりもっと複雑なモンばっかじゃぞ、楽勝楽勝」

「どこだよそこ」


 そうこうしてる間に追加のトラックも出来上がった、これで俺たちは大量に物資を運ぶ手段を得たわけだ。

 あとは運ぶ、ひたすら運ぶ、時間が許す限り全員でブツを積み込んだ。



 条件さえ整えば、ファンタジーどもの力でゴリ押し同然に事が運んだ。

 二十人近くの眷属のマンパワーもあってあっという間に荷台は満杯、貰えるものは文字通り全ていただいた。


「待たせたなぁ、お土産しかけてきたぜ」

「へっへっへ……帰るころには派手な花火上がるぜ、これは」

「やっぱり置き土産は大事だよなぁ、ヒドラの坊主がいて捗ったぜ」


 ……代金も置いてきたようだ。ヒドラとコルダイトの悪質な組み合わせが返ってきた。

 穴の向こうでは友達じゃなくなった対戦車地雷やら砲弾やらでいっぱいの箱が残されてる。


「えーと、つまりあんたらの職場が吹っ飛ぶわけだけどいいのか?」


 死体だらけ、特大ブービートラップを添えて。

 そんな職場環境になった事務所に未練はないのかとオレクスや他自警団員に尋ねたが。


「いいんだよストレンジャー、そんなにいい思い出はないからな。跡形なく吹っ飛べばいい反撃のシンボルになるだろ」

「そうだな、オレクス。もうここは俺たちの職場じゃねえ」

「てことで景気づけに吹っ飛んでもらおうぜ」


 お世話になった職場とお別れする覚悟はできてるみたいだ。円満に。


「ひどい退職届もあったもんだな。次の就職先考えておいた方がいいんじゃないか?」

「そうだな、いつか新生自警団でも立ち上げようか。お前も入るか?」

「誘いありがとう。遠慮しとく」


 そして俺は、駐車場に立ち並ぶトラック達の姿を見る。


「――で、どうやって拠点までこれを運ぶんだ?」


 どれも荷台は満杯、トレーラーも牽引されて中々の光景になってしまってるが……。

 問題はだ、これをどうやって味方のところまで運ぶかだ。

 忘れるわけないだろ。ここは敵の支配地域だ、もう安全に通り抜けできる手段はない。

 今まで通った険しい道を満杯のトラックでぞろぞろ帰るか、俺が救出されたときに通った道路を辿るかだ。


「簡単さ。堂々と帰ればいい」


 そんな疑問へのツーショットの答えは単純だ。

 駐車場の隅に置かれていた巨大な塊を親指で示していた。

 頑丈な装甲に覆われて、履帯があって、なんなら砲がついていて――


「大丈夫だ、動くぞ。これでようやく取り返せたな」


 砲塔のハッチからオレクスが頭を覗かせてきた。

 自警団が使っていた戦車もこうして奪還できたみたいだが、一体どうして。


「へっへっへ、いい考えだなヒドラ坊主」

「コルダイトのおっさん、砲手は譲ってやるよ。昔撃ってみたいって言ってたよな?」


 野郎どもが続々入り込んでいるんだろう?


「こっちの「馬車」はからくり仕掛けか! 胸が高鳴るわい!」

「装甲車準備オーケーだよ、それじゃあ帰宅しようね!」


 なんだったら、隣で"忘れ物"の装甲戦闘車にハヴォックやドワーフも乗ってる。


「ということでだ、このまま道路に出て例のホテルをぶっ飛ばしながら帰還だ。暴れまくるぞ」


 ツーショットは車体装甲を駆け上がった。

 ただし手は俺を誘い招いている――乗れってことか。


『……ええ……』

「……え、マジ? 戦車乗れるの?」

『っていちクン!? なんでちょっとうれしそうなの!? 強引すぎだよこの作戦!?』


 発想がぶっ飛んでるが、戦車に乗る機会なんて一度もなかった。

 戦車も奪える、嫌がらせもできる、敵の前線もかき回せて、初めて戦車に乗れる――いいことづくめだな!

 俺も後に続いて車体を登った。装甲版には雑に『T25』と書かれてる。


「……これが戦車の中か」


 ハッチに踏み込むと――既に満杯だ、むさくるしいことになってる。

 こまごまとした機械にまみれて男の姿がひしめき合って、残るスペースはほんのわずか。

 できるのは窮屈な空間でどうにか座り込むか、それか身を乗り出して機銃を手にするかぐらいだ。


「よーし発進だ、ということで頼んだぜ車長」

「えっ」『えっ』


 車体の奥に座ったツーショットがそういうと戦車が動き出す――ん? 車長?

 言葉の意味を聞き出す前に前進を始めた。ただし壁に向かってな!


「あのっ、ちょっ、俺どうすれば」

「ハッハァァ! 動いたぜ! 野郎ども、ぶち殺しながらお帰りだぁ!」

「よっしゃ! 徹甲弾装填!」

「よぉし、射撃指示は任せるぜストレンジャー」

「……お前ら、遊んでるんじゃないんだぞ!?」


 重々しい車体は全速で壁に突っ込んだ、文字通り破壊しながら。

 機銃付きの特別席からあの時の道路が見えてきたが、そこには。


「……どういうことだ、戦車が動いてるぞ!? おい! 誰が乗ってるんだ!」


 タイミング悪く、四輪の装甲車が立ち止まってるところだった。

 天井ハッチからは緑色の兵士がこっちを見て喚いているようだ。


「……えーと、前に敵いるぞ」


 立ちふさがるそれを伝えると、「了解!」と陽気なおっさんの声がして。


*BAAAAAAAAAAAAAM!*


 ――ぶっ放しやがった!!

 車体が揺れて耳が爆ぜてしまいそうなほどのやかましさの先で、乗員ごと車が弾け飛んだ。


『み、耳がががががが……』

「受け取れ、俺からの祝砲だぁ!」


 ひどい祝砲もあったもんだ。ハッチに半分身を隠しながら行く先を見守ることにした。

 曲がる途中、トラックの助手席に座ったニクが心配そうに見てた気がする。


「ストレンジャー、敵がいたらそいつでぶち殺せよ!」


 ツーショットの操縦のもと、オレンジ色の朝日がかすかに昇り始めたスティングを戦車が駆け抜けていく。

 俺は言われた通りに五十口径のレバーを引いて装填、銃口を前方に向けるも。


「なんだぁ? 戦車が走ってやがるぞ」

「おい! お前らの担当はそっちじゃないぞ!」

「やっと輸送の目途が立ったのか!? いや待て、どこに持ってくつもりだ!?」


 覚えのあるホテルの姿が見えてきたところで、向こうから黒服の一団がやって来た。

 ミリティアご一行だ、どうも近くの建物から出て来たみたいだが……。


「輸送任務中だ!」

「どこにだ!?」

「任務内容はこうだ、荷物はお前ら、あて先は地獄だくたばれクソが!」


*DODODODODODODODODODODODODODOM!!*


 邪魔なので重機関銃のトリガを押し込んだ。

 急に大口径の弾をお見舞いされた隊列が弾け散った。車体の前方機銃も加わって一瞬で壊滅だ。

 なんとなく役割が分かってきたぞ。次はホテルに狙いを定めて。


「前方のホテルを狙え! 今日限りで廃業させろ!」

「了解、榴弾装填するぞ!」

「吹き飛ばしてやるぜ、喰らいなぁ!」


 その二階で銃声に気づいたやつを目視、掃射した。

 目につくものを銃口で追いかけてると戦車砲がまた爆ぜた、ホテルの一部が人間ごと吹っ飛んだ。


「もっとぶっ壊せ! お客さんだらけだ!」


 せっかくだ、敵の拠点なら時間が許す限りぶっ壊しておこう。

 足元でがらん、と金属音が鳴る中、向こうの風景で慌てふためく人影にひたすら叩き込む。

 すると後ろからどんどんと低くて太い射撃音が――ハヴォックたちの車両も機関砲を撃ち始めた。

 

「いいのがあったぜおっさん、燃やしてやれ!」

「おいおい白リン弾かよ! こいつは痛ぇだろうなへへへ」


 敵がいそうな場所を探っているとヒドラの奴が何かを装填した。

 そしてまた射撃、ホテルの一室が叩き割られて、次の瞬間ぼふっと白煙があがる。

 戦車砲と機関砲を浴びせられたそこはひどい有様になってきた、進もう。


「十分だ、前進!」


 戦車が追加の一発を打ち込んだところで、足でツーショットの肩を踏んだ。

 また履帯ががらがら動き出すわけだが、その時「かんっ」と金属音が鳴る。

 エンジンの駆動音に混じってぱぱぱ、と細かい銃声も響いてきた、撃たれてる。


「攻撃されてるぞ、ちゃんと身を隠せよ!」

『いちクン! 撃たれてるよ!? 気を付けて!』


 そうは言われても顔を出さなきゃ周囲の状況なんて分かりづらい。

 ハッチを盾代わりにかがみながら探ると、その元凶はすぐ見つかった。


『てっ敵だァァァッ!! あいつら戦車奪いやがったぞ!?』

『ふっふざけんなよ!? どういうことだなんで盗まれてるんだよ!?』


 こうして接近するまで分からなかったが、ホテルの反対側にまたホテルがあった。

 ひどい立地条件だが、やっぱりそこも敵の基地として作用してるようだ。


「敵の拠点もう一個あったぞ念入りにやれ!」

「お前らもウェルダンにしてやるぜ! 装填!」

「よおしこんがり焼いてやろうか!」


 敵は駐車場に置かれた車の陰に隠れたようだ、構わずトリガを押した。

 反動で全身が震える、砲塔が動いて狙いを定めるまで撃ちまくる、撃って足止めする。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAAM!*


 コルダイトたちは分かってくれたようだ、そこにあった車両を撃った。

 そこに真っ白な煙が立ち上がるが、その内側にいた人間が煙と火に包まれて。


『アアアアアアアアアアアアアアッ!! アアアアアアアッ!』

『熱イイイイイイイイイイイイイイイ! 誰かアアアアアアアア!』

『ギャアアアアアアアアアッ!』


 ……焼けた人間がこっちに走ってきた。

 じじじじじ、と今なお身体を焼かれながらも黒焦げになって生かされてる。

 ただ炎に炙られた感じじゃない、肉そのものが焼けてるみたいだ。車載された機銃が仕留めたようだが。

 しかし効果は絶大だ、びびって逃げ出す奴の背中が良く見える。


「ホテルも狙え! 後ろから撃たれない程度にぶっ壊せ!」


 階段のあたりからこっちに銃が撃ちこまれた、応射。

 向こうだって成すがままやられるつもりはない、銃撃に混じって二階から何かを撃ち放ってくる。

 ばしゅっ、と独特な砲声――パイプランチャーか!

 気づいた頃には後ろで爆音が響いていた、見れば電柱が崩れて、相応の威力があることを伝えていたところだ。


「二号車、敵がいそうなところをとにかく撃ちまくれ!」


 車内から運転手がそう指示すると、後方の装甲車もどどどどっ、と機関砲をホテルの外壁に撃ち込む。

 車載されたランチャーすらぶっ放したみたいだ、ロケット弾が一室を綺麗に吹き飛ばしてリフォームに成功した。

 そしてまた爆音、持ち上がった砲身の先にあった部屋が爆ぜて舞った。


「よーし、後は直進しろ! 二号車が前に出てトラックを先導、俺たちは残って見送るぞ!」


 一通り暴れると、ツーショットの言葉通りに装甲戦闘車がそばを通り抜ける。

 その後を戦利品でいっぱいのトラックの列がぞろぞろ追いかけていった。

 このまま道路をまっすぐ辿れば奪還した中央部に到着だ。


「このまま進めば後は味方がお出迎えしてくれる、それまで殿(しんがり)といこうじゃないか!」


 なるほど、こいつで見守れってことか。

 まだ敵がいるであろう二つ目のホテルにまだまだ砲撃は続く、思う限りぶち込んで閉店に追い込むつもりだ。

 トレーラーつきのトラックが先頭に、車列がこの場を抜け出していく様子を見守っていると。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAAM!*


 最後の一両がホテル横を通り過ぎるその直後、目の前で道路が急に爆発した。

 それに煽られたトラックの後輪が坂道に沿って抜け落ちるも――残ったタイヤをあてに不安定な挙動で抜けていく。


「……おいおい」


 周囲を見渡す、原因はすぐ分かった。

 通ってきた道を視線で登り戻った先に大きなシルエット――戦車だ、砲撃を終えてこっちに向かってきている。

 段々と近づけば分かるが、こっちの戦車よりもずっと近代的だ。

 砲身は長くて角ばった装甲は戦前の良さをこれでもかと表現してるようで。


「敵の戦車が追いかけてきてる! こっちに突っ込んでくるぞ!」


 慌てて指示を飛ばすも遅かった、向こうの車体が一時停止、撃ってくる。

 目の前が爆ぜた。道路が弾けて破片が顔にじくっと刺さる、目は無事だ。


「おいおいどうすんだ! ありゃ戦前の第三世代だぞ!」

「くそっ! とにかく撃ておっさん!」


 どうにか砲塔が車体ごと敵を向き直す。照準はついたようですぐに射撃が始まるが――


「……ダメだ、効いてねえぞッ!」


 コルダイトのいうとおりだ、効いちゃいない。

 確かに当たったが動きを止める理由になってないからだ、現に向こうはどんどん距離を詰めてくる。

 ハッチから誰かが身を乗り出してこっちに機銃すらぶっ放してる、かかかかん、と装甲が叩かれた。


「ストレンジャー、危ないから隠れろ! 死ぬぞ!」


 ツーショットのアドバイスには従った方がいいと思う、このまま身を乗り出せば――そうだ!


「……前進しろ! 突っ込め!」

『えっ……いちクン!? 何言ってるの……!?』


 俺はなんて馬鹿な考えを思いついたんだろう。

 この状況を前にして思いついたのが「突っ込め」だ。


「はぁ!? お前何言ってんだよ!? どうかしてんぜ!?」

「正気かストレンジャー!? 敵に突っ込めってのか!?」


 ヒドラとオレクスが流石に抗議の声を上げるものの、


「……よし、お望みどおりにしてやるぜ!」

「なるほどな、おっさんなんとなく察したぞ。付き合うぜ」


 ツーショットとコルダイトのおっさんは分かってくれたらしい。

 戦車が動き出す。敵に向かって一直線、道路を全速力で駆け上がる。


『何考えてるのいちクン!? ねえ!? わたしたち死んじゃうよ!?』

得意な方法(・・・・・)でやるだけだ」

「あっはっはっはっは! 得意か! そうか! おっさんのアドバイス真に受けやがって馬鹿野郎!」


 足元でみんなが「まさか」という空気になってる。

 つまりそういうことだ。俺はベルトからHE・クナイを抜いた。

 近づいてくる敵の戦車は最初こそ遠慮なしに前進していたが、まさか自分たちに向かって撤退してくるとは思ってもなかったらしい。

 砲撃の手を緩めるほどには。今や思い出したように後退し始めている。


「乗客の皆様、しっかりお捕まり下さい! 最終兵器ストレンジャー投下だ!」


 更に距離が縮まる。もう少しで砲身同士がぶつかるぐらいの距離になって、いつでも飛び出せるように捕まった。

 向こうは相当焦ってる、状況に気づいた緑服がハッチの中に引っ込もうとするが。


 ――ゴオオオオオオン……ッ!


 鋼鉄の質量同士がぶつかりあって、スティングに野太い金属の悲鳴が響いた。

 身を乗り出した兵士が衝撃に揺さぶられて頭をぶつけたようだ。

 当然こっちだってただじゃすまない。身構えてるとはいえかなりの衝撃が内臓まで響いた。


「――行くぞ、ミコ!」

『えっ……ええええええええッ!?』


 すかさず俺は飛び出た。

 交差するようにぶつかった砲身を踏んで、ちょうどいい近道を通って向こうにたどり着く。

 どうにか敵の車体はコントロールを取り戻して後退し始めたが、


「…………は?」


 ハッチに取り残されたライヒランド兵が、こっちを見て呆然としてる。

 我ながら思う。まさか敵の乗員が直接殺しにくるなんて想像できるか?


「よお、殺しに来たぞ」

「はァっ!? やべえッ! 戦車に擲弾兵がっ」


 そいつが状況のまずさに気づいて引っ込もうとした。

 だが逃がさない。顔面に全力で蹴りをぶち込んだ。

 ブーツ越しに顎か何かを砕く感じがして「ひょごっ!?」と変な声が上がる。顔面を押さえていいつっかえになってくれた。


「お土産だ、故郷に持ち帰れクソ野郎!」


 そんな痛がる車長の顔面に――かがんで爆発するクナイを叩き込む。肉も骨もごりっとぶち抜く。


「あっあっああああああああああああああああああああああッ!?」


 それでもまだ生きてる。顔を押さえて悶えるそいつからピンを抜いた。 

 それから踏み潰す。追加でもう一本HEクナイを放り込んでから戦車砲を辿って。


 ――ばこんっ。


 開きっぱなしのハッチ経由でくぐもった爆音が背中に届く、動きも止まった。


「ただいま、アドバイス通りにやってきたぞ」


 静かになった戦車を確かめてから、俺は戦車の中に戻る。

 特等席から見下ろせば、狭い車内でコルダイトが馬鹿みたいにニヤついてた。


「やっぱお前は最高だ。こりゃ確かにあいつらが恐れるわけだ」

「まったく、ほんとにやる馬鹿がいるかよ。これでいい土産話ができたな」


 ツーショットもあきらめたように変な笑いを上げた。満足のゆくやり方だったらしい。

 邪魔者がいなくなったところで戦車が反転して、道路をのんびり辿っていく……。


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