13 パスタアポカリプス
シェルターは相変わらずクソ寒いが。外の暑さに比べればまだマシだ。
ともあれこれでやっと食べ物にありつけるのか。
「……確か軍が使ってる糧食、だったか?」
拾ってきた戦利品をベッドの上に広げた。
記憶が正しければこの緑のパックは戦闘糧食とかいうやつだ。
死ぬほどまずいとか食べると腹壊すとか聞いたがもうなんだっていい。
頑丈そうな包装を引きちぎった。けっこう重たいが素手でさっくりと開いた。
中身をひっくり返すといろいろとあふれ出てきた。
スパゲッティ(ミートソース)と書かれたパック、ベジタブルクラッカー、チーズスプレッド、チョコケーキバー、プレッツェル、粉末コーヒー、あとは浄水タブレットやタバスコ、塩といった調味料などがある。
久々の食事にしてはいいほうじゃないだろうか?
当然、食器なんてないからそのまま食べなきゃいけないわけだが。
「別にいいさ、どうせ俺一人だ」
冷え切った部屋の中でクラッカーのパックを開封した。
十字の切れ目が入った大きな正方形が何枚か入っている。
端っこにかじりついてみると……ぱさぱさでベジタブル要素なしの味がした。
次はこの事実上プレーンのクラッカーに使えとばかりのチーズスプレッドだ。
パックを裂いてみると刺激を感じる塩辛いチーズ臭がする――少し抵抗感がわいた。
「まあ食ったって死にやしないだろ……」
中身を絞り出すとオレンジ色の固形物がにゅるっと出てくる。
見た目がすごくアレだが、食べてみるとちゃんとチーズのような何かだった。
塩味もしっかりしてて意外とうまい、ボリュームも増すしちゃんとしたチーズの味もする、ただやっぱり喉が渇く。
「……脱水症状で死なないよな?」
さあ、メインディッシュといこう――スパゲッティのパックを開封した。
赤いドロドロの中でミミズの死骸みたいなものが中でいっぱいおぼれてる。
「…………」
パックをそっと閉じた。
自分の目がまだ正常なら冷たいパックの中で地獄を垣間見た。
地獄の住人が解き放たれないようしっかり閉じてこの世の平穏を祈った。
……さっきのは気のせいだよな、きっとそうに違いない。
そう思ってもう一度パックを開いた。
世紀末にふさわしいこの世の終わりみたいな麺料理が見える。
もしこいつに名前を付ける権利が与えられたら、迷うことなく「黙示録の後のパスタ」と素晴らしい名を授けようと思う。
じゃねえよ、なんだよこれ。
三度見して、備え付けの先割れスプーンを突っ込んでみた。
べっとりとした赤いソースにちぎれた太麺が混ざってる。
不思議とトマトの香りがするし、細かい肉片も入ってるみたいだが。
「嘘だろ…………」
一目見て口から出たのは絶望のものだったのは言うまでもない。
しかもかき混ぜたときの感触もやばい。
粘土のようにもったりとしたソースの中でぶよぶよの麺がぶちっと切れるのだ。
ええい、どうせくたばっても生き返るんだ食ってやる!
食べたら死ぬだろこれとか思いつつ一口だけかっこんだ。
「……………ん、んふっ」
いったいどうしてスパゲッティを食べて口の中の水分が奪われるのか。
麺が茹で時間盛大にミスったみたいになんかもちもちしてる。
そのくせソースは濃くてただ酸っぱくて塩辛くて油っこい。
オーケーもうやめよう、これ以上考えても先へは進めない。
「そりゃ殺意も抱くわちくしょう!!」
あの紙に書かれてることがこうしてよくわかった。
もう自らの命を投げ捨てるぐらいの覚悟でMREをかっ食らった。
ねちゃっとしたスパゲッティとクラッカーを食べきったところでひどい胸やけを覚えて、俺は寝込んだ。
誓おう、こんなもん二度と食わない。
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