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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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84 モンスターズ・パレード!

 迫撃砲を処理して――さっきよりもずっと騒がしさの削がれた戦場を進む。

 俺たちは今、線路に沿って敵の支配地域である西側へ向かっていた。

 どうしてかって? 『帰ってこい』なんてまだ言われてないからだ。

 それにまだまだやれる。もうふた騒ぎぐらい起こすつもりだ。


「ルキウス軍曹、現状の説明を頼む。今どうなってんだ?」

「さきほど敵の足が止まりました、現在部隊の一部が反抗に転じてます。まったく、一体どこのどいつがやったんでしょうな」

「ははっ、誰の仕業だろうなぁ?」


 敵の気配が薄くなった場所を横切っていると、ツーショットとルキウス軍曹がそんな会話をかわしていた。

 二人のやり取りにはなんだかこう、堅苦しいものも交じってる。

 それにツーショットじゃなくて『デュオ少佐』だって? 呼び方も妙だ。

 肩の短剣と「なぜ?」と顔を合わせると、


『ツーショットさん? 『少佐』って呼ばれていますけど、どうしてなんですか?』


 ミコが尋ねてくれたようだ。

 そんな質問に少佐殿と軍曹は「とうとう聞いてくれるか」という様子で。


「知らないのかミコ。このクソ素晴らしいお方は俺たちの上司、シド・レンジャーズの隊員だ」

「そういうことだぜ、いつ気づいてくれるか楽しみだったんだが、やっとか。俺はプレッパーズとレンジャーを兼業してるのさ」


 二人でネタ晴らしをしてくれた。実はレンジャーでもあるってさ。

 今ようやく知ったわけだが、シエラ部隊の面々は「やっとか」みたいな顔だ。


『ツーショットさん、レンジャーだったんだ……!?』

「おい、初めて聞いたぞ? どうして誰も教えてくれなかったんだ?」

「お前がいつ気づくかで賭けてるやつでいっぱいだからさ」

「何人いるかは聞かないでおいてやる。で、当たったのはどいつだ」

「食堂のおばちゃんとドクだな、きっとお前に感謝してるぜ」

「よりによってあの二人かよ……まあ、恩返しと思っておこうか」

『またいちクンが賭け事に使われてる……』

「はっはっは、まあなんだ、お前は期待されてる競走馬みたいなもんだ。せいぜい走り続けてくれ」


 ボスですら教えてくれなかったのも、それだけ賭け事としての価値があったからだろう。

 だからってさんざん世話になった二人が『鈍い』方に賭けてるなんてな。

 心境は複雑だけどこれで恩を返せたと思おう、おめでとう二人とも。


「ったく、プレッパーズの皆様は呑気なもんですな、少佐殿。俺たちが敵を蹴散らしてる間にギャンブルとはねぇ?」


 敵の姿を探し求めながら移動してると、カーペンターが挟んできた。

 ご本人は死んだ敵を剥ぐに剥いだ挙句、なぜか迫撃砲の弾を何本も背負ってる。

 もし何かあったら周りを巻き込んで盛大に吹っ飛びそうだが、当然そんな姿をもう一人の伍長が良く思ってるわけもなく。


「カーペンター、あんた一体何考えてるの? 砲弾だけ持って何するつもり?」

「色々使えるだろ? 俺は工兵なんだ、お前ら脳筋歩兵どもとはわけが違うんだぜ? こいつは戦前の迫撃砲弾だ、少し弄れば爆弾にも地雷にも早変わりだ」

「ああ、そうね、あんたのことだし最後の手段に自爆でもするのかと思ったわ」

「もっといい手段があるぜノーチス、お前みたいなメスゴリラに括り付けて敵に突っ込んでもらうのはどうだ? 心配すんな爆破は俺がやってやるよ」


 今日も二人は仲がよろしいようだ。

 イェーガー軍曹が「誰かこいつら黙らせろ」と嫌な顔をしている。


「ま、ご覧の通りだストレンジャー。お前らが暴れてくれたもんだから、俺たちもだいぶ戦いやすくなってる。良く戦場に戻ってきてくれたな」


 それから相変わらず気さくな様子で、ごつい突撃銃の側面を突き出してきた。

 いきなり銃を近づけられて「えっ怖」みたいに周囲を伺ってしまったが、ツーショットが「やり返せ」と促してきた。

 ――そうか、こういうことだな。

 律儀にも待ってくれる相手のために散弾銃を抜いて、


「待っててくれてありがとう、イェーガー軍曹。元気になって戦線復帰しにきたぞ」

「律儀な奴だなお前は。傷はもう大丈夫なのか?」

「肉食ったらなんか治った」

『いちクン、その説明気に入ってるんだね……?』

「バケモンかよお前は、さすがプレッパーズの一員だ」


 銃の横側をごつっと軽くぶつけた、こういう形の挨拶らしい。

 戦場での再会を喜んだところで、ぱぱぱぱっ、と短い連射がどこからか聞こえた。

 少し離れた場所からだ、場所的に荷卸ししたガソリンスタンドの近くか。


「あの方向はマーケットだ、てことは今頃全品100%オフの真っ最中だろうな」


 ツーショットの物言いからして、今やあの市場はレイダーどもの絶好の餌場になってると思う。


「おいおい勘弁してくれよ、あそこで買い物すんのがささやかな楽しみだったんだぜ俺はよ」

「そういえばあそこのガラクタ売り場があんたの友達だったわね」

「電器店だ、クソゴリラ! 何度も何度もわざとらしく間違えやがって!」

「うるさいぞお前ら。どうであれ敵がいるんだ、ぶっ殺して平常運転してもらうぞ」


 喧しい伍長二人が部隊長に大人しくさせられたところで、俺たちはぞろぞろと民家の間に入り込んだ。

 そのまま南に進めば、あのマーケットが見えてくるはずだ。

 各々できる限り敵を探しつつ、銃声のした方向に近づくものの。


『行くぞお前ら! あの化け物どもにお見舞いしてやれ!』

『クソミューティどもが向こうにいるぞ! 俺たちの邪魔をしたことを後悔させてやる!』


 一度路地を挟んだところで、そんな声が横から聞こえてくる。

 先頭にいたツーショットの「待て」の合図にぴたりと止まると。


「あー……皆様あちらをご覧ください。群がる暴徒どもがいらっしゃるぞ」


 その元凶を見てほしそうにするので、軍曹たちと一緒に物陰から伺うことにした。

 いつぞやのガソリンスタンドに通じる道路を更新する『塊』がいた。

 ロケット砲を積んだトラックがのろのろ走っており、その周辺に思い思いの銃器を手にした数十名がまとわりついている。

 レイダーだ。興奮が収まりきらないのかぱぱぱっ、と空に向かって弾を無駄打ちしていた。


「あの品のなさは間違いなくレイダーだろうな」

「あんな無防備にバカ騒ぎする人種はあれくらいだ。で、どうする」


 いかにもマーケットへお邪魔しに行く体のそれを見てると、ルキウス軍曹が「どうにかするぞ」の路線になってきた。

 俺は三連散弾銃や手元のクナイを見て何ができるか考えた――

 ダメだ、数が多すぎる。爆発するクナイ程度じゃビビらせるのがせいぜいだ。


「全員で奇襲を仕掛けるのが定番じゃないか?」

「向こうだって重火器やら持った集団だ、舐めてると痛い目見るぞ。命を持って知る方のな」

「俺様が突っ込んでこようか? あの程度なら蹴散らせそうだが」

「いい考えだなミューティ、だが散らばったらなおさら厄介だ。ひとまとめにぶち殺す方向で行くぞ」


 ノルベルトが喜んで突撃してくれそうだが、ルキウス軍曹の言う通り下手に分散されると厄介だ。

 一斉に攻撃しようにもどうやってその形を作るか、などと考えてたら。


「よし、じゃあうちの隊長殿の案でいこうじゃねえか?」


 突然、カーペンター伍長が背負ってた迫撃砲の弾を下ろし始めた。

 何を始めたかと思えば手持ちの工具で先端やらをカチカチ弄っており、


「カーペンター、あんた何するつもりなの!?」

「知ってるか? 迫撃砲は何も打ち出して使うだけじゃないんだよ、まあちょいと安全装置を弄ってやれば……」


 ノーチス伍長の制止も効かずに砲弾の信管を弄ってるようだった。

 ああ、つまり、爆発するきっかけを与えてるわけだ。

 どこに敵地ど真ん中、それもヒャッハーな連中の間近なところで爆発物弄るやつがいるんだふざけんな。


「おいおいカーペンター君、一応聞くが何考えてるんだ?」

「何って一網打尽にするんですよ、お望みどおりにね」


 そういって工兵の器用さで砲弾が起爆準備良しの状態に変わっていくが、ツーショットは「なるほどな」と納得してる。


「なにしてるんすか~? それ危なくないんすか工兵さん」

「おいこのアイルランドの化け物を近づけんな! いいか、昔迫撃砲弾は緊急時には手投げ弾としても使えたんだ。んでこいつも同じだ、お前らの脳みそを労わって細かいことは省くが、投げて使えるようにする」

「つまりそいつをぶん投げろってのか。俺たちごと吹き飛べっていうのか天才野郎が」

「ちげえよルキウス! 確かにぶん投げてもらうわけだが――」


 メイドを気味悪がる伍長は部隊長の言葉に構うことなく、そんな準備万端の即席手榴弾を慎重に持ち上げる。

 その先にいるのは俺でもノーチス伍長でもなく。


「なるほど、俺様にそれを投げろというのか」


 理解力のある姿でどんと待ち構えるノルベルトだった。

 迫撃砲の代わりになってくれ、だそうだ。ご本人は嫌な顔どころか歓迎ムーブだ。


「不服かよ、ミューティ」

「喜んで投げよう、皆殺しにしてしまっても構わんな?」

「自信たっぷりでいい返事じゃねえか。よし、お届けしてやれ」


 カーペンターとノルベルトが一応許可を求めてきたが、満場一致で「やれ」だ。

 オーガの太い腕は軽々と、手榴弾を放り投げる直前のような格好で構え始める。

 俺たちは巻き込まれてたまるかとばかりに民家の陰に隠れて、


「では遠慮なく使わせてもらうぞ! せぇぇぇぇいッ!」


 行進する敵の群れめがけて本当にぶん投げる姿を見送った。

 おそらく人間のパワーじゃ数メートルほど先にしか投げ飛ばせないであろうそれが、空高くすっ飛んでいくのが見える。

 みんな仲良く身を低くして備えると。


*bBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANGG!!*


 道路の方から迫撃砲の着弾音が聞こえた。絶対に近くに居ちゃいけない方の。

 爆風と雑多な破片がこっちまで届いてくる、おまけで誰かの手足もだ。

 迫撃砲の温かさを感じつつもひょこっと様子を見ると、砲弾が良く働いてくれたのが分かった。


「……壊滅だな。よくやったミューティ、イカれてやがる」


 ルキウス軍曹の一言が示す通りだった。

 ロケット砲を積んだトラックは叩き折られて、その周りにいた数十人に及ぶ何かはみな等しく肉の山だ。

 その反対側で増援としてやってきたであろう別のレイダーの一団が、足をもつれさせながら帰ってくのも見える。


「ははははっ! すげえや! 大当たりだぞでっかいの!」

「見たか! 跡形もなく吹っ飛んだぜ! やるじゃねえかミューティ!」

「フーッハッハッハ! 綺麗に片が付いたな、すがすがしい気分だ!」


 そんなすっきりする光景をツーショットやカーペンターが通り過ぎていく。

 大戦果を挙げたノルベルトもご満足の様子だ、これからステーキを食べるたびにこの光景を思い出しそうだ。


「うお~……バラバラっすねえ、人間でパズルができそうっす、あひひひ♡」

『……う゛っ……』

「感想は後にしろ! ミコもいるんだぞ!?」


 俺も死体の山にふらふら興味を示しに行くロアベアを抑えながら進んだ。



「出てこいミューティどもがァ! 良くも俺たちの邪魔をしてくれたじゃねえかぁ! ええ!?」


 ぞろぞろ道路を横切っていると急にそんなお怒りの声がした。

 以前目にしたガソリンスタンドに敵が陣取っているようだ、武器を手にしたレイダーやミリティアどもが無防備を見せつけたまま。


「バケモンの分際でそいつらを守ってんじゃねえぞ! 早くそこを引き渡せ、さもないとマーケットごと吹っ飛ばしてやる!」


 現場のリーダー格と思しき男が、近くのマーケットに向けて叫ぶ。

 ありあわせの装甲を張り付けたエグゾアーマーに身を包んでいて、唯一快適そうな髭面で攻撃の指示を飛ばしてるようだ。

 雑多に作られたバリケードの裏では、思い思いに武器をぶっ放す機会を待つご同類がいっぱいいたものの。


「十数えるぞ! 死にたくねえ奴はさっさと失せろ! 10! 9! 8ぶっっっ」


 ……ぼすっと音を立てて、そいつのむき出しの頭は弾ける。

 遅れてたーん、と遠くから銃声がした。誰かさんの狙撃だろう。


「はぁッッッ……!? お、おい狙撃ッ」


 その隣で『お手伝い』をしていたであろうミリティアが射線から逃れようとする。

 すると今度は――近くの民家の塀を飛び越えて誰かがやって来た。

 銃声賑やかな晴れた青空の元、やたら目立つ黒づくめの忍者もどきだ。

 誰とは言わないさ、とにかく忍者を主張する何かが守りに割り込んで。


「なんだ今度はァァ!?」

「て、敵だッ! 突っ込んできたぞ!? 何考えてやがるこいつ!?」

「【黒槍の術!】」


 そこに銃撃が加えられる中、うまくくぐり抜けながらも何かを構え唱える。

 空気が揺れて青い光が消え散った。間違いなくマナの作用だ。

 そして構えを解くなり俊敏な動きで地面を殴りつけた。

 はたからみれば敵の前で止まってうずくまるような馬鹿な真似に見えるが、問題はここからだ。


 そいつの足元に青白い筋のようなものが走ったかと思えば、アスファルトの上が爆ぜたように盛り上がる。

 鋭さすらあるような質量が次々と、忍者もどきの周りから突き出てきたのだ。

 人の胴体をぶち抜くには十分なほどの黒い槍が、周囲にいた敵を追いかけるように生えていく。


「――ど、どうなってんだこりゃなんか生えてきてアアアアアアアアッ!?」


 地面を突き出た黒光りする槍はミリティアの一人を串刺しにしてしまった。

 周りの連中もしつこく追いかけ回されて、逃げきれなかった奴は背中やら脇腹を貫かれる。

 運よく免れた奴の頭も突然弾けて大混乱だ、一瞬で防御は崩れてしまった。


「……なんだあの黒いのは」

「アレクだ。修行したらああなったらしいぜ」


 ルキウス軍曹の呆れに対して、ツーショットは容赦なく答えてたが。

 あいつもだいぶイメチェンしたらしいな、内実共に。

 そんな姿を鑑賞されてることに気づいたようだ。慌てて地面に何かを叩きつけて――パンッという音と閃光を発して消えた。

 ニンジャバニッシュだ。良かったなアレク、お前はもう立派な忍者だ。


「……あいつ、ニンジャバニッシュも覚えたのか」

『アレク君、ほんとにニンジャになっちゃってるよ……』

「アレク坊やが? そういえばあの子ニンジャになりたいとか言ってたわね、無事なれたのかしら?」


 どう見てもどっかの世界の【アーツ】としか思えないそれを披露されて混乱したところに、ノーチス伍長が自前の機関銃を向けた。


*Brtttttttttttttttttttttttttttttt!*


 早すぎて継ぎ目を感じないほどの連射で残党が薙ぎ払われていく。

 便乗して突撃銃やら散弾銃やらをぶっ放して後片付けをすると。


「貴公ら! 良く闘っているようだな!」


 姿を消した世紀末世界のニンジャの代わりに、軍服を着たオークがやって来た。

 拳銃と剣で武装した連中もぞろぞろきた。雰囲気からして一戦交えた後か。


「おお、チャールトン卿ではないか! そちらも良く徳を積んだようだな!」

「うむ、ここは良い狩場――良き戦場である。早急にここに来るつもりだったが、いや敵が多すぎてな」


 チャールトン少佐は派手に殺してくれたノルベルトにも負けず劣らずの様子だ、服も両手剣も返り血だらけだ。

 いかにここまで賊を殺してくれたか分かるが、それでも足を止めずに進み。


「おい、豚のミューティ。どこにいくつもりだ?」

「聞けばそこのがらくた市なる場所で同郷の者たちが人々を守っているようでな」


 ルキウス軍曹が呼びかけるが、軍服姿のオークはマーケットへと向かっていく。

 付き合わされてるホームガードの連中はだいぶお疲れの様子だが、誰一人文句は言ってない。或いは言えないのか。

 仕方がなく俺たちも続くが――


『……新手が来たぞッ!』

『懲りずに来おって! そんなに儂等が気に食わんのか、賊どもが!』

『良いでしょう、もう遠慮などしませんよ! 死にたい者からかかってきなさい!』


 …………この世界でもっとも不可解な現象が待ち受けていらっしゃった。

 確かにあの時見たマーケットの姿は綺麗に保たれてはいるが、ヤバイ。

 ヤバイという言語でしか表現できないんだ、なんてったって死体だらけだからだ。


『……ひぇっ……!?』


 マジで何考えてるんだろう。ミコが押し殺したような悲鳴を上げてしまった。

 あれだけ賑やかだった戦前の倉庫は無数の『人間だったもの』で囲まれていた。

 それだけならいいさ、そうなるだけ殺したっていうならいい。

 入口周りは侵略者たちをふんだんに使った飾りが施されていた。

 例えば死んだ人間がいたとして、そいつの手足やらをもいでしまえばだいぶコンパクトになるよな?

 それを串にでもさして立てておけば――オーケー、もういいだろ?


「落ち着け、同郷の者たちよ! 吾輩が何たるか分かるか!?」


 おそらく守られているであろうそこに、チャールトン少佐が踏み込んだ。

 巨体の横から覗くにマーケットは無事だ、商人やらが商品もろとも追い込まれた羊みたいに固まってる。


「……待て! あの大剣、あの顔、チャールトンの親父か!?」

「なんじゃいあのオーク……いや、もしや気狂いチャールトン!?」

「全員構えを解け! 敵じゃないぞ! 同郷の者だ!」


 都合よくそんな彼らの守護者になってくれたであろう奴らはそこにいた。

 あるいはこんなスプラッターハウスを作ってくれた元凶かもしれないが、この世界のものじゃない面々が確かにいた。

 エルフ、ドワーフ、ミノタウロス、オーク、RPGでしか見れないような多種多様な異種族がぞろぞろと飛び出てくる。


「やっぱりそうだ! チャールトンの親父じゃねえか!」

「チャールトン卿!? どうしてここにいるんですかい!?」


 真っ先に駆けつけてきたのは黒い皮鎧を着た二人のオークだった。

 槍やら大槌やら手にした屈強な灰色の豚人間はいかにも知り合いといった感じだ。


「お前たちも来ていたとはな。どうだ、細かいこと抜きで共に徳を積まんか?」

「それなら話は早い。同郷のよしみだ、こき使ってくれ」

「やっぱりあんたはまだまだ戦士だ。ここで共に戦いましょうや旦那」


 やっぱりフランメリアの奴らだ、高い理解力と決断力で仲間になってしまった。


「なんじゃ、お前さんも来てたのか暴れ豚!」

「久しいではないか、鍛冶屋の親父殿。やはりここは良き場所だな、我らにまた戦えと言うておる」

「一体どうなっているのですか? 先の内戦の英雄様がいらっしゃるなんて、やはりここはあの世か何かだと?」

「はっはっは、まだ我らは死んでおらんぞ長耳の者よ。どうだ、今こそここで武功を立てんか?」


 ちっちゃいおっさんやいかにもなエルフといった面々が次々出てきた。

 その数――いったい何人いるんだ、見てくれも成り立ちもバラバラすぎて数えきれない。


「聞け、フランメリアの同胞たちよ! ここはいいカモども――ああ、いや、悪き賊どもが狼藉を働いているぞ! 徳を積むは今なるぞ! 貴公らもついて参れ!」


 そんなまとまりそうのない連中をどうやって束ねればいいか、異世界のミューティは身をもって教えてくれた。

 馬鹿デカイ声でそう主張して、血まみれの剣をまっすぐ掲げるだけだ。

 本当にそれだけだ。一声を受けた異種族たちは倉庫からぞろぞろと出ていき。


「久々の実戦だぁぁ!」

「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」

「ようやく戦えるぞ! 親父殿に続け、フランメリアの戦士たちよ!」


 血気盛んなご様子でチャールトン少佐の指揮下に入ってしまった。

 シエラ部隊の面々も顔色を悪くするほどの勢いを持って、戦豚の率いるバケモンのパレードは足並みをそろえ始めていく。


「――少佐!? 何を考えているんですか!? 我々はあくまで現状を保つための援軍であって、これ以上の攻勢は」

「軍曹、しかと覚えよ! 勢いを削ぐなら今こそだ! さあ、行くぞ歩兵ども!」


 ……本当に行進を始めてしまった。

 どこに行くのかはともかく、すっかり意気揚々になったオークは俺たちを見ると。


「ということで少々悪者を懲らしめてくるぞ。貴公らは休んでいるといい。はっはっはっは……!」

「先の戦いで活躍できなくて無念だったが、ようやくか」

「いいねえ、久々の実戦だ。夢がかなったぞ、もう泣きそうだ」

「またここに帰ってこれるなんて……長生きはするものですね」

「儂等退屈じゃったからなあ、人生によーやく刺激が……」


 血に飢えた武装ファンタジー集団はがやがやと語り合いながらどこかに行ってしまった。

 ……具体的に言えば敵のいる方角へだが。

 取り残された俺たちは「どうしよう」と本気で互いに悩んだのはいうまでもない。



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