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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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75 休む間もないカーチェイス


 ハーヴェスターとハヴォックに引き上げてもらい、荷台に乗り上げるとトラックは走り出した。

 既に先客でいっぱいだったみたいだ、足元には拳銃、小銃、散弾銃と言ったいろいろな武器が敷き詰められていて。


「出せ、ひとまず宿に戻るぞ!」

「了解、ハーヴェスターの旦那! 振り落とされんなよ!」 

「振り落とすような運転は控えろ……といってる場合でもないようだな」


 銃声騒がしい住宅街から離れていくと、大量の排気音が追いかけてきた。

 今度はバイクだ。黒づくめの兵士が乗ったそれが乾いたうなりを上げながらこっちに走ってくる。

 その数――数え切れない。走れば走るほど増えて、両手じゃ数えきれないほど揃ったのは確かだ。


「おじさんたち、支援は来ないの!?」


 車体側に寄り掛かってその光景に向かうと、ハヴォックが短機関銃を撃った。

 確かに当たった。先頭の奴にぱすぱす当たったはずだが、それだけだ。

 痛そうに怯むとまた何事もなかったようにバランスを整えて接近、こっちにぱぱぱぱっ、と短機関銃を点射してきた。


「一番近いのは二号車だ! じきに来るから持ちこたえてくれ!」


 運転席からの方も銃声がした、横目に拳銃を連射する運転手の姿が見えた。

 横に寄せてきたやつがタイヤをぶち抜かれて愛車ごとアスファルトに飛び込んでいく、見事だ。


「こいつら防弾装備だ、いいもの着てやがるな」

「そりゃそうだよ! この兵士どもみんな付けてるよ、お金持ちだね!」


 そんな光景を腹を抑えつつただ見てると、周囲のどこかにばちっと弾が飛んできた。

 ハーヴェスターは足元に転がったレバーアクション小銃を使い始めてる――俺も、何かしないと。


「……武器……!」


 足元にはいろいろある、自分でも使える何かはないかと探すが、


『いちクン、無理しちゃダメ! ここはみんなに任せよう!?』

「武器ならセルフサービスだ、好きなの使いな!」


 ツーショットとミコの相反する言葉のせいで更に迷った。

 だけどタダ乗りはごめんだ。どれを取ろうか手を迷わせていると、


「いいか、怪我人は大人しくしてろ。そいつで身を守れ」


 銃弾に煽られながらも、ハーヴェスターがこっちに拳銃を蹴ってきた、

 自動拳銃のフレームにいろいろな銃の部品を継ぎはぎにした世紀末物だ。

 スライド代わりに備えられたチャージングハンドルを引いて装填、トラックを追い越し始めたバイクに向かって射撃。


*Papapapam!*


 反動からして九ミリだ。数発分の速射をどうにか受け止めた先で、撃たれた兵士が慌てて距離を置く。

 こっちにまっすぐ突っ込んでくるバイクを目視、ヘッドライトに向かって撃つ。

 適当に撃ったが向こうは相当驚いたみたいだ、失速して後ろを巻き込んでいく。


「大人しくしろの意味が理解できないのかお前は。ちゃんと教えておくべきだったな」

「言われた通り身を守ったぞ、文句あるのか?」


 何発も打ち込んで強引にバイクを無人にしたハーヴェスターに嫌な顔をされた。


「それにタダ乗りは良くないと思っただけだ。そうだろ運転手さん?」


 俺はグリップで車を叩いた。「良くしつけられてるだろ!」と笑いが返って来た。


「まったく、こいつらは……!」


 エプロン姿がもっと呆れたようだ。愚痴の表情のまま自動小銃を拾って撃ち始める。


「さすがダーリン、上手だね!」


 代わりにハヴォックが賞賛してくれた。今のところ短機関銃のバースト射撃が敵を追い払ってるようだ。

 俺も続いて何発か撃つ――ガチっと空撃ちした。弾切れか。

 しかしすぐに気づいてくれたみたいで、連射を中断して弾倉を差し出してくる。

 古い弾倉を振り落として交換、薬室に弾を送って次の獲物を銃口で探った。


「近道行くぞ、全員捕まりな!」

「ツーショット! まさかアレが近道だとでも言いたいのか!?」


 するとトラックが急カーブ、敵もそれを真似するようにうまく機動する。

 二人のおっさんのやり取りが気になって後ろを向いてみると――車体はある建物へと向かっていた。

 戦前の安っぽいホテルだ。年月のせいで朽ち果ててはいるがまだ原型はある。

 問題は既に敵らしき奴らがお待ちになってた点だ。二階の通路から何人もの敵が小火器でお出迎えしている。


営業中(・・・)なのはまあちょっと予想外だったな――行くぞ!」


 「来た!」とか「突っ込んでくるぞ!」といった反応と銃声が向けられ、弾が車や地面を叩く。

 なのに車はホテルのど真ん中、柵に囲われた庭の中へと突っ込んでいて。


「総員対ショック! 特にダーリン!」


 トリガから指を放すと同時に、ハヴォックに抱き倒された。

 実際いいタイミングで、二人仲良く伏せるとがこんがこんと障害物を押し倒すのを感じた。

 追いかけてくる奴らもだいぶ難儀してるようだ、急な路線変更についていけず転倒したのもいる。


「うおおおおおおおおおおお……!」

『あばばばばばばばばばばっ、ど、どこ走ってるのこの車……!?』

「こいつの言う近道だとさ。これだからプレッパーズは……」


 腹が震えてずきずきする、しがみつくのに必死だがハーヴェスターは余裕そうだ。

 追跡を緩めた連中に自動小銃をここぞと叩き込んでいた。数台が犠牲になった。


「ハッハァー! ついてこれるかぁ!?」


 ホテルの庭を開放的にしたトラックが、がくんとまた揺れる。

 今度は先にある坂道を下り始めたらしい。怪我人の配慮はないのかこいつ。

 しかしまあいい判断だ、無意識に飛び込む急な坂道に何人かが派手に転んだ。


「ちょっ、負傷者! 負傷者いるんだからもっと優しく!」

「諦めろ坊や、今のこいつに何言っても無駄だ」


 クッション代わりになってくれたハヴォックが短機関銃を構えるも――カチっと弾切れ、あきらめて散弾銃を拾い始める。

 まだ追手がいるってことだ。寄り掛かって銃を構えた。


「もう少しだ、辛抱しろよ!」


 タイヤが乾いた地面から広い道路へと移り変わる。

 揺れは収まったが、遠くからライトを付けた物々しい車両たちが重いエンジン音を響かせてきた。

 装甲車数両に、その前を堂々たる姿で走る――なんてこった、あの武装トレーラーだ。


「辛抱しろってあれをか!? ふざけんなあんなもんまで持ち出しやがって!」

『あのトレーラー、この前襲ってきたやつだよね!? まだあったの!?』


 さすがの俺たちも状況も忘れて抗議の声を上げた。

 あの時はノルベルトもいたが今回はなしだ、現に向こうはグレネード弾をお見舞いしに来ているご様子で。


「何あれ!? 趣味悪いなぁ!」


 ハヴォックの感性の問題はさておいて、俺たちの周りがぼんぼん爆ぜ跳ねる。

 破片と爆風に煽られるがハンドルさばきでどうにか持ちこたえてる感じだ。

 小火器と人間を積んだだけのトラックじゃ対処できない問題の山が迫ってきている。


「ハチの巣を突いたらとんでもない化け物が湧いて出たわけか。泣ける話だ」

「余裕そうだねおじさん!? あんなの来るなんて僕聞いてないんだけど!」

「心配するな、ここまで来れば――」


 全員で撃つ、不満や余裕が飛び交おうがかまわず撃つ。

 銃座だらけのトレーラーがフルスロットルで突っ込んできた、運転席めがけて撃ち尽くすが止まらない。

 何か武器は、せめてグレネードランチャーぐらい積んどけ、くそ止まれ!


『もう駄目……ッ!』


 ミコが腹でそんな声を出すが諦めない、足元の猟銃を曲げた膝に乗せて――


 照準器に運転席の黒い姿を重ねたのと同じタイミングだった。

 狙いの先でこっちにも届くほどの、鈍い粉砕音が鳴った。

 フロントウィンドウに小難しいひび割れ模様が生まれており、その先に居た誰かが横たわるのも見えて。


「よっしゃ! さすがボスだ!」


 ツーショットの口から、聞きたかったあの名前がようやく聞けた。

 いるんだな、ボスが。この街のどこかで俺たちをずっと見てたんだ。

 そういうことか、やっとわかった。あの時見たビルの反射光はもしかして。


『おばあちゃんがいるんですか!?』

「ああ、ずっと見てたぜ。急ぎで来たもんだから準備に手間取ったけどな」


 それが本当ならこの状況も納得だ。

 おそらくボスがやったんだろう、制御不能のトレーラーが妙な動きに変わって荒野に突っ込んでいく。

 横向きになった車体に何両かが対応できずに大事故に早変わりしたらしい。

 たった一発で何人巻き込んだんだろう、大戦果だ。流石ボスだ。


「随分遠くから撃ってるようだな、何ぶっ放してるんだあのばあさん」


 ハーヴェスターも関心と驚きが入り乱れてる、そりゃ一人の狙撃でこれじゃな。


「ラプアマグナム弾だよ、エンフォーサーのとっておきだったんだけど全部持ってかれちゃった」

「請求書だとかの問題は心配するな、後で出世払いするさ」

「ちゃんと払ってくれるならいいんだけどさあ……誰が払うの?」

「そこのストレンジャーだ」

「冗談きついぞ、ナガン爺さんにも出世払いの約束してるんだぞ」


 しかも勝手にエンフォーサーに借金まで作らされてる始末だ、まあいい、せいぜい生きて身体で返そう。

 トラックがだいぶ道路を走ると、さすがの追手も少なくなったようだ。

 しかしまた乱入者が現れる。お次は横から別のトラックが割り込んでくるのだが。


*BABABABABABABABABAM!*


 俺たちに並走するようにつくと、荷台から誰かが上向き弾倉の軽機関銃を敵に向けてぶっ放していた。


「ヒャハハァァ!! 戦闘だ、戦闘だァァァッ!」


 陽気に叫んで乱射する赤毛の男といえば――アーバクルだ!

 ひどいざまでいる俺に気づくと「元気か!」と手を振ってきた。


「アーバクル! お前かよ!」

「哨戒任務ご苦労さん、後は俺たちに任せな!」

「俺もいるぜストレンジャー、いつにもなくひでえザマだな!」


 いやそれだけじゃない、ヒドラもいる!

 装甲車が加速するのにあわせて、荷台から自慢の火炎放射器で迎え撃っていた。

 エンジンごと火あぶりにされた一両は不意の炎にかなりビビったようだ。パニックになって荒野にすっ飛んだ。

 予想外の火力を叩き込まれて相当(こた)えたんだろう、追手は未練がましく失速して離れていく。


「ハーイ、お二人さん。元気にしてた?」


 やっと後ろからの脅威が引き離されると、高火力を積んだトラックが寄せてくる。

 俺たちも良く知ってるやつだ、ラシェルがハンドルを握ってた。

 気さくに挨拶をすると後ろについてくれた、「殿(しんがり)してやるから安心して進め」だそうだ。


「よーし、名誉の負傷に良く耐えたなストレンジャー。このまま拠点に戻るぜ、安静にしてろよな!」

「これだけボロボロなのに良く生きてるなお前は。まったく二度も死にかけやがって」

「大丈夫だよダーリン! もう大丈夫! ほんと頑張ったね! 看病してあげるから気合で生きてね!」

『いちクン、しっかりして! 大丈夫、わたしたち助かったよ……!』


 ようやく気が抜けると知って、もうなんだか変な笑いしか出なかった。

 撃たずに済んだ猟銃を捨てて大の字に転がる……こんな経験もうしたくない。


「――助かった、ありがとう」


 この場にいる誰かに向けてつい感謝してしまった。

 返答は左座席からの「そいつは生きて帰ってからだろ?」だった、分かったよ。


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