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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
152/580

63 好色レプティリアンメイド

 案内されるままついていくと、それはもう立派な内装を目の当たりにすることになる。

 クリンの人食い屋敷をベジタリアンにしたらちょうどこんな感じだろう。

 こんな世界でこれほどの清潔さを保つのに一体どれだけの手がかかるのやら。


「――よし、ここで話そう。本当であれば腰を落ち着けてじっくり話し合いたいところなのだが、そうもいかないものでな」


 こうして急な来客として、屋敷の客間に連れてこられてしまった。

 ちょうど俺たちがくつろげる場所がそこにあるのだが、このガレットとかいうのはそれすら無視している。

 文字通り男同士の密会になったわけだが、こうして急かすものだからよほど緊急事態なんだろう。


「よっぽど大事なことらしいな。あんたのいうビジネスとやらは」

「このような対応で申し訳ない、だが本当に急を要するんだ。お前が救世主に見えるぐらいにな」


 ガレットは部屋に置かれた机に近づくと、どこからともなく写真を取り出して「これを見てくれ」とそこに並べた。

 最近取られた類のものだが、どう見てもこっそり撮影したようなやつだ。

 写真には特定の人物が様々な角度で、しかも本人が知らぬ間に映ってしまってる。

 盗撮にふさわしい有様だが問題はそこじゃなく、この話のテーマである被写体だ。


「この爬虫人(レプティリアン)を見てくれ、こいつをどう思う?」


 トカゲだ。二足で立って、人と同じ営みをしている爬虫類の姿があった。

 「トカゲのミュータント」一言で済むだろうが、魔力を思わせる澄んだ青い肌と鱗の上に、ひらひらした衣を着てるのだから異種族なのは間違いない。

 で、このリザードマンとでも言うべき何かをどうしたいのやら。


「まず最初の質問はこうだな、レプティリアンってなんだ」

「トカゲ人間のことだ、知らないのか?」

「リザードマンっていうならわかる」

「それで正解だ。たまたま出かけていたらまさにそのリザードマンがスティングにいたものでな、何度も目を疑ったよ。きっとあれは地底から侵略しにやってきたに違いない、まさか本当に実在していたなんて――」


 お堅くスーツ姿を作っていた男は、少し言葉に熱がこもり始めている。

 写真に写ってる謎の爬虫類生命体を見るたびに勝手にヒートアップしてるというか、なんかおかしいぞ。


「で、次の質問はこうだ。その信じられない存在にどうしてほしいんだ? まさか「人類を脅かすだろうから討伐してこい」だとかいわないよな」

「討伐? まさか! なんで私がそんなことを頼まないといけないんだ? 彼女を見てみろ! 本物のレプティリアンなんだぞ!?」

「……彼女?」

「見てわからないのか? 彼女はメスだ。見ろ、この体の内側の女性的な柔らかさがある肌やふくらみを。レプティリアンのメスが街を歩いているんだぞ? 由々しき事態だこれは」


 『彼女』という単語にもう一度写真を見ようとすると、ぐいっと押し付けられてきた。

 確かに、マジだ、顔が女性を感じさせるような質感を持ってるし、胸も膨らみを作って「メスです」と表現している。

 いやこれに興奮気味な姿勢で熱弁し始めるこいつの方が由々しき事態な気がするが。


「じゃあなんだ? 網でも持ってこいつ生け捕りにしてこいと?」

「生け捕り? そうだな、言い方を変えればそういう風にもなる」


 男はそわそわしながら「生け捕り」をご所望してきた。

 そのまんま拉致して来いというニュアンスじゃないが、写真のリザードマンがよっぽど気になるらしい。


「つまりこうだ、ご覧の通り私はメイドを雇っているわけだが、ちょうどいま一人分空いたわけだな」

「ああ、ついさっき一人分クビなったところだな。だからこの……たまたま見つけたトカゲのお姉ちゃんを雇用したいと?」

「いや、その、私は決してこのようなレプティリアンを欲しているわけではないのだが、どうせ新しくメイドを雇うならああいった変わり者も欲しくてな、この街のようにミュータントだろうが受け入れる懐の広い男と認められるだろう?」


 俺の質問は的を得ていたんだろう、ガレットはもじもじしている。

 更に、なんとなく写真を眺めてみた。

 被写体の爬虫類の目は、うっすらカメラに気づいているような目線だ。


「しかもこれ、堂々と撮影した感じじゃないな。まるでストーカーが気になる人を隠し撮りしたみたいな写真だ」

「まあそういうな、堂々と撮ったら失礼だろう? これほどの美……変わり者がいたらつい魔が差すものだ」


 このしばしば言葉に熱いものが漏れちゃってる硬いおっさんは、意中の蜥蜴(ひと)が映っている写真を懐にそっとしまった。

 今にも誰かに聞かれていないか窓や扉を見た後、こっちに顔を戻して。


「彼女はどうやらフリーのようでな。その、珍しいからな。雇ってメイドにしたいんだが、そう純粋な好奇心によるものなんだが」


 取り繕って続けたが、絶対これ好奇心だとかそういうのじゃないと思う。

 なるほどつまりこうだ「ものすごく性癖に刺さる女性がいた」「でも目が気になる」「フリーで動ける奴が来た」「今しかない」と。

 このストレンジャーに意中のあの人をスカウトしてくれってことか。


「で、引き受けてくれるか? 彼女は何時までいるか分からないんだ、なるべく早く捕まえてきてほしいんだが。それから、できればメイドとして雇うなどということは周りに伏せてほしい。そういう趣味があるのかと疑われそうだしな、うん」


 しかも依頼主になりかけている男は期待でいっぱいの目を向けてるときた。


「俺はいいとしても、もし向こうに断られたらどうするんだ?」

「いいや、彼女は断らないはずだ。私の長年の勘がそう囁いているんだ」

「もし間違ってたら病院いったほうがいいぞ、頭とか心とかの」

「心配するな、上も下もまだまだ現役さ。やってくれるならチップもくれてやるし、さっき言った通りに水も一生タダだ。あのメイドも欲しいならもってけ」


 仕方ない、どうせ人助けが使命だ。

 それにあのメイドに未練たらたらで給料給料連呼され続けるよりはずっといい、ということで。


「分かった、あんたの要望通りメイドさんのスカウトをしてくればいいんだな?」

「本当か? やってくれるんだな? やはり私の目は間違っていなかったな、さすが噂の擲弾兵だ」

「こういうのは初めてじゃないしな。あとメイドはいらない」

「よし、よし! お前は良いウェイストランド人だな。今すぐスカウトしに行ってくれ、必要なものがあれば何でも用意するぞ。最近は市場のあたりでよく見かけるからな、あのあたりに行けば見つかるはずだ」

「じゃあ雇用主の写真でも撮らせてくれ、それと雇用条件もな」

「もちろんだ、擲弾兵。カッコ良く撮るんだぞ。とにかく彼女にはいい条件で雇うし、君が望むものはなんで――ああいや、福利厚生も充実してると伝えてくれ、いいな?」


 俺、一体何をやらされようとしてるんだろう。

 カッコ良く取り繕った屋敷の主人をPDAで撮影しながら思った。



「ということで仕事だ。市場にいるこの女性を探してるんだとさ」


 屋敷を出てすぐに、素直になれない雇用主の代わりに一枚の写真を暴露した。

 ちなみにロアベアは部屋の片づけをしている。それから給料待ち。


「むーん、これはアイスリザードではないか。噂には耳にしていたが、実に美しいうろこだ」


 ガレットから借りてきたレプティリアン盗撮写真をちらつかせると、ノルベルトが真っ先に反応したようだ。


「知ってんの?」

「うむ、北方の寒冷地に住むリザードマン族だな。過酷な大地で厳格に育ち、氷の魔術を自由自在に操る精鋭の者だ。青ければ青いほど強き者といわれているが、これほど美しい青となれば相当の強者だろうな。して、なぜこれほどの者を探しているのだ?」

「えーと、そのお強いレプ……リザードマンとやらを雇いたいんだとさ、それで今すぐにでも誘ってほしいと」

「強きものを側に置きたいというのか? あの男、中々に戦士を見る目があるではないか」

「いやあ、まあ……見る目はありそうだな」


 問題は帰ってきた言葉からして、俺はその厳格に育った強者とやらに「君、いいうろこしてるね。メイドさんにならないかい?」と声をかけないといけないらしい。

 でも正直なところ、もし失敗しても最悪ロアベアが給料諦めてくれればそれでいい。

 あわよくばチップをもらって水も使い放題だ。まったく俺はなんて仕事を受けてしまったのやら。


『雇うって………この人、どう見ても向こうの世界の人だよね……?』


 ミコは戸惑ってる、そりゃそうだ戻ってくるなり「このレプティリアンをスカウトしにいく」って言われればそうなる。


「ああ、うん。お急ぎなようでどこかにいなくなる前に交渉してきてほしいみたいだ。喉から手が出るほどこの優秀な人材が欲しいんだとさ」


 できる限りぼかして言った。嘘は口にしてないから大丈夫だろう。


『そ、そうなんだ……ところでロアベアさんは……?』

「荷物片づけるついでに給料待ちらしい。あの野郎しばくぞ」

『……ここまでくるとすごい執念だね』

「無事に連れてきてくれたらチップも払うし水も使い放題、ロアベアの給料も払うそうだ。まあ受けといて損はないだろ」

『すごく条件がいいけど……大丈夫なのかな? こんな仕事でそんなに貰えるならちょっと怪しいよ』

「大丈夫だ、あそこは福利厚生もしっかりしてるらしいからな」

『福利厚生……?』


 俺は一枚の写真を頼りに市場へ向かった。

 一応ニクにも顔を見せたが「ウォウン?」と首をかしげていた。匂いで追ってもらえば楽なんだが。


 ……今日は行ったり来たりだな、あっちへいったりこっちへいったり。

 よく歩く日だなと思いつつぞろぞろ街並みを歩いていると、やがて幾度目の市場の姿が見えてくる。

 相変わらずすさまじい多種族の密度だ、文明崩壊後の百鬼夜行といってもいい。


「相も変わらずすさまじい光景よ。これほどあちらのものがいると、ここがウェイストランドなのかと信じられなくなるな」

『いろいろな人がいっぱいいるなー……でも、この中から写真の人を探すってちょっと無理があるよね……?』

「ワンッ! ワンッ!」


 さて、そんな様子にどう探せばいいかと悩んでいると犬が吠えた。

 ニクが尻尾を振りながら俺を見上げている――「こっち!」といわんばかりに。


「どうしたニク? なんかいたか?」

「ウォンッ!」


 黒い犬はべろっと長い舌を出して、こっちに背中を向けた。

 ふわっとした表情を見せると、俺たちからてくてく離れていく。当然その後姿を目で追うことになるのだが。


『……いちクン、あそこ見て!』


 全員でその後を追いかけると、ミコがどこかに声を向けた。

 その「あそこ」はすぐに見つかった、写真に映っている場所と寸分たがわない場所で、同じ姿の女性が佇んでいたのだから。

 本当にリザードマンがいた。しかし本当に青い、見るだけでひんやりとしてくるほどに。


「あら、かわいい犬ですこと。どこからきたのかしら?」


 そんな『彼女』は、足元に寄ってきたニクを見て微笑んでいる。

 爬虫類らしい手でわしわし撫でていたものの、すぐに俺たちに気づいて。


「……? そこのあなたたち、(わたくし)に何か御用でしょうか?」


 気の緩んだ犬から手を離して、冷たくも穏やかな様子で首をかしげてきた。

 さてどう話を組もうかと思っていると。


「あらあら、その風貌、その鋭い瞳。もしかしてあなたはローゼンベルガー家のご子息なのかしら?」

「おお、存じていたか! その通りだぞ、北からの者(・・・・・)よ。俺様わけあってこのような世界に来てしまったのだが、もしやそちらも……」

「ふふ、その大きな身体も、まっすぐな瞳もお父様にそっくりですわね。私も気づいたらこちらに来てしまっていたのですが、ここはいいところですね。フランメリアがまだ戦乱の世だったころを思い出しますから」

「そんなに似ているのだろうかな。いやしかし貴女の言うようにここは良きところだ、戦士の徳を積んでも咎められないからな」

「ええ、とてもそう思いますわ。私や貴方のようにここに誘われた者は数え切れぬほどおりますが、みな心が満たされていますもの。ふふ」


 やっぱり元の世界の者同士、この二人は気が合うようだ。ちょっと物騒だが。

 そこからどう話に割り込もうとしていると、そんな俺に気づいたのか。


「ところで……そちらの人間の方、そのご様子からして何か御用のようですが」


 アイスリザードマンとやらはトカゲの瞳でこっちを見てきた。

 トカゲの怪物と目が合うという経験はなかなかないが、感覚が不意に働いた。

 (この女性、なんで写真と同じ場所にいるんだろうか?)と。

 盗撮写真のものと何一つ変わらない場所で、同じ様子で立っているんだぞ?


「どうも。率直に話そうか、勧誘しにきた」

「あら、あら。もしかして、いつも私を見てくださる殿方からでしたか?」


 ……なんてこった、気づかれてるぞ。

 なんとなく、写真の様子がおかしいとは思ってたさ。

 微妙にカメラ目線で、撮影者に気づいてるような気がしたがまさか。


「その殿方とやらに頼まれてやってきたって言ったらどうする?」


 もう隠せないと思って、受け取った写真をちらっと見せた。

 すると蜥蜴女とも言うべき誰かはほっこり笑んだ。待ちかねてましたというように。


「ふふ、でしたら待ち続けた甲斐がありました」

「どういうことだ」

「気づいていましたわ、あの素敵な殿方が、近頃よく眺めにくるものでして。私も彼のことがずっと気になってましたから」

「どういうことだ……」

「ここにいればまたお会いできるかしらと思っていましたの。けっきょくご本人ではなく言伝を頼まれたようですが、ふふ、可愛い素敵なお方ですね」


 ほらみろ、やっぱり気づいてるじゃないか。

 とはいえこれなら引き受けてくれそうだ、あれが素敵かどうかはさておいて。


「えーと、うん、その素敵な殿方があんたに「うちで働いてくれ」ってさ。ぜひメイ……お屋敷で能力を生かしてほしいとか、いいところだから福利厚生もしっかりしてるぞ」


 肩から『今メイドっていいかけた……?』とか聞こえたが無視。

 そんな言葉を伝えると、頬に手を当てて、女性的な仕草で少し悩ましそうにして。


「それはとても光栄ですわ。でもいいのかしら? 私はもともと北方の地の儀仗兵でして、侍女には向いていないと思いますの」


 本当に自分でいいのかと、くすくすしながら言葉を受け止めたようだ。

 しかもメイドとか言ったぞ。こいつ気づいてるぞ……!

 またミコが『メイドっていった……!?』と口にしたが今は忘れよう。


「こいつを見てくれ、屋敷の主のガレットさんだ。えーと、蜥蜴が大好きみたいで、あんたのことを気にして中々踏み出せないでいたとか」


 俺はPDAを開いて、さっき撮ったばかりの新鮮な写真を見せた。

 このためにイケメン造りになったフルパワーなガレットが映ってる。

 すると画面に向けて「まあ、ふふ……」と妖しさすら感じさせる笑みをこぼして。


「それに強き者を側に置くというのは実に良きことではないか。貴女のような強きアイスリザードの従者がいれば、屋敷の主もさぞ安心することだろう」


 ノルベルトもうなずきつつ加わってくれた。こうなるとお望みのレプティリアンの女性はうれしく感心した様子で。


「分かりましたわ、ここまで殿方に求められてしまっては、断るなど不名誉なことですから。よろしければ私からも、彼に言伝を頼まれてくれますか?」


 承諾されたようだ、これであの屋敷は安泰だな。


「分かった、なんて伝えればいい? 愛の言葉でも一緒に届けるか?」

「ふふ、愛のささやきはまだまだ早すぎますよ。では、あの素敵な殿方に「準備を済ませてからあなたの侍女として馳せ参じます」とお伝えいただけますか?」

「それを聞いたら喜びそうだな、分かった。しっかり伝えとくよ。ところでちょっと撮影してもいいか?」

「……さつえい? なんのことでしょうか?」

「えーと、あんたの顔を見せてやりたいんだ。さっきの主人みたいにな」


 一応、承諾してくれた証拠として本人の写真もとっておくことにした。

 「撮影」の意味は分からなかったようだが、PDAに映った未来のご主人様を見せて説明したらなんとなく理解したみたいだ。

 すぐにその場で淑やかなポーズをとって微笑んだ――撮影完了。


「――ああ、私としたことが、つい浮かれてしまいましたわ。申し遅れました、私はリフテイルと申します。この名もこれから主人となるあのお方にお伝えしてください。それでは……」


 こうして新しい職場を手に入れたアイスリザードの女性は尻尾をふりふりしながらどこかに行ってしまった。

 見た目は氷属性なのに中々情熱的だ。雇用主もさぞ喜ぶだろう。


『……ねえ、いちクン。一体どんな仕事引き受けたの?』

「ただの求人」



「で、どうだった?」


 屋敷へ戻って客間に入ると、男同士二人きりになるのを楽しみにしてた男がいた。

 ずっとそうしてたのかまだそわそわしているところだ。


「まず報告だ。向こうはあんたに気づいてたみたいだ」


 俺は写真を返した。

 相手は「どういうことだ?」と怪訝な顔をしたものの。


「その、なんだ、このレプティリアンの方は素敵な殿方の視線をずっと感じてドキドキしてたみたいだ。あんたにまた会えると思って写真とずっと同じ場所で待ってたらしい、何が言いたいか分かるか?」


 目の当たりにしたものをそのまま伝えると、そりゃもう目を見開いた。

 じらすような言い方に興奮した様子だ。もう既ににっこりしかけてる。


「それは――それはつまり、私を待っていたというのか?」

「待ちわびてたぞ、うん」

「えっマジで!? 冗談をいっているわけじゃないだろうな!?」


 もはや取り繕う気もないぞこいつ。

 宝くじの大当たりにでも命中してしまったみたいに歓喜が隠しきれてない。

 もうこの際断言しよう、こいつはトカゲ好きの変態男だ。


「喜んで、だとさ。メイドの経験はないけど是非とも――」

「マジかよ! ああいや、一向に構わん! 私が手取り足取り教えてあげよう!」

「……準備を済ませてからあなたの侍女として馳せ参じます、だとさ」

「本当かよ! あなたの侍女(メイド)として、だって!? なんて素敵な――いや、意欲的な姿勢なんだ! さぞ優秀な人材に違いないな!」

「ほら、ついでに証拠も持ってきたぞ。こいつを見てくれ」


 もう既に興奮が吹切れてしまいそうだが、さっきの淑女が映るPDAを見せると「おお!」と感極まってしまった。

 運命の人にようやく会えましたみたいな感激具合だ。


「……本当だ、本当にあのレプティリアンじゃないか! 本当に見つかるなんて……しかもカメラ目線だ! ああ、別に、こういうのが好きというわけじゃないんだが、屋敷の見栄えのためだよ、うん」

「向こうは乗り気だったよ、あんたの顔も気に入ったってさ」

「もうヤる気なのか? なんてこった! ()()()()()()()だ! この世界の異変はきっと私のために起きた奇跡だ! すげえぞ想像が広がってきた!」

「…………うん、満足してくれたようで何よりだ。名前はリフテイルだ」

「リフテイル……いい名前だ! 文句なしの完璧な仕事だぞ擲弾兵、よくやってくれた。約束通りあの役立たずには給料は払うしチップは弾むし水も使い放題だ――おい、ロアベア!」


 仕事は大成功みたいだ、ガレットはせわしくクビにしたメイドの名を叫んで。


「は~い……およびっすか元ご主人」


 ずっと待ち構えていたであろうご本人がひょこっと出て来た。

 鞄やら杖やらを手にしていつでも出ていける様子のロアベアだ。


「よし、お前は自由ださっさと行け! 追放(くび)だ!」


 興奮中の男は退職した従業員に何枚かのチップを与えた。投げる形で。

 デュラハンメイドは器用にしぱぱっと受け取ると、うきうきしながら出ていったわけだが。


「うぇーい、お世話になりましたっす」

「さっそく歓迎の準備をせねば! これで毎晩、私の銃を磨いて――ああいや、また会おう、若き擲弾兵! この世界には無限の可能性が広がっているぞ!」

「あーうん、あんまりハデにやるなよ」

「心配するなヤバいプレイはしない!」


 肩をぽんぽん叩かれて、ご満悦のご主人様からチップをいただいた。

 合計3000チップだ、俺は相当こいつを喜ばせたらしい。


「てことでよろしくっすー、イチ様ー♡ フヒヒヒ……♡」


 しっかり報酬も受けとって出ていくと余計なものまでついてきた。

 この不良品についてはまあ仕方ないとして、無事に終わったしさっさと宿に帰るとしようか。

 こうして屋敷を後にしようとすると。


『うおおおぉぉぉぉぉっ! まだかっリフテイル! おち×××が暴発してしまいそうだ! 早くきてくれリフテイルゥゥゥゥゥッ!』


 ……どこかからくっそ汚い声が聞こえたが構わず前に進むことにした。


「お待たせみんなよしいくかー」

『……待っていちクン、いったい何してきたの!? ねえ!?』

「おお、勇ましい声よ。あの男もなかなかの戦士の叫びを上げるではないか」

「やっぱりあの人やばいっすね~、どおりで部屋中イグアナグッズまみれだったわけッすね……アヒヒヒ♪」


 仕事は自分でも完璧にこなしたと思うが、ものすごく汚い取引をしてしまった気分だ。


なんでこんなんかいたんだろう

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