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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
136/580

48 NewSkill(3)

 コルダイトは言った。

 爆薬が爆発にいたるまでのプロセスは複雑に見えて実に単純だと。


 ここに来るまでの間、俺は手に入れた手榴弾を何気なく起爆させて投げていた。

 今日はその仕組みについて教えてくれるらしいが……。


「思うに爆弾ってのは作るのは簡単なんだ。だがそいつを起爆させる理由を作るのが一番難しいって話さ」


 教室代わりの倉庫の中、作業台の上に広げた品々と共に彼は教えてくれた。

 外側にネジを切った金属製の円筒、小口径弾用の雷管、チューブやバネといった品々が整列している。


「で、今日は何をするんだ?」

「起爆についての授業だ、ストレンジャー。こいつを見てみろよ」


 ライトブラウンの髪色をしたおっさんは無邪気に何かを見せてきた。

 手のひらに隠せるぐらいのプラスチック製の筒だ。

 しかし中ではバネが圧縮された状態で、それを抑え込む芯が飛び出て安全ピンで固定されていた。

 もしもピンを抜けば、中にある撃針が勢いよく撃ちだされるだろう。


「なにこれ? おもちゃか?」

「最高のおもちゃさ。こいつは自家製の点火用信管だ。お前が見やすいようにプラスチック製にしてある、使い捨てだけどな」

「信管っていうと……こいつが爆薬を起爆させるやつ?」

「今から説明してやるよ、見てろよ?」


 信管っていうのは分かりやすく言えば起爆装置というやつだ。

 例えばこの手作りの信管はピンを抜けば撃針が落ちて、なんらかの理由で発火して、その周りに火薬があれば爆発を引き起こすのだが、俺は今まで使ってきた手榴弾がどうして数秒遅れて起爆するのかまだ知らない。


「まず仕組みはこうだ。これはもっとも単純な仕組みなんだが、ピンを抜くとバネが解放されて撃針が押し出される、その先にある小さな雷管が叩かれて発火する。そこまでは分かるな?」

「よーく分かる」

「よーく覚えてるな。じゃあさっそくこいつに雷管をセットするぞ」


 コルダイトは説明しながら、ピンの先に小口径拳銃用の雷管を取り付けた。

 それを作業台につけられた万力で挟むと、安全ピンに紐をくくりつけて。


「さあさあ起爆の時間だ。こいつを抜く名誉をお前に与えよう」


 信管とつながれたそれをこっちに手渡してきた。


「そりゃ光栄だ、いくぞ!」

『だ、大丈夫だよね……? もうちょっと離れたほうがいいんじゃないかな?』

「心配すんなミコサン、俺たちごと吹っ飛ぶ力なんてないから気楽に見てろ」


 不安がるミコと一緒に一メートルほど離れて、俺は思いきり紐を引いた。

 途端にピンが抜けて何かがかちりと抜ける感触が伝わったかと思えば、


*Pam!*

 

 拳銃の発砲音を縮めたような音と共に、筒から細い火が噴き出る。

 プラスチックの破片が飛んできて、ジャンプスーツにぺしっと当たった。

 もちろん仕組みは分かる、バネが解放され、筒の中で撃針が落ちて雷管をぶっ叩いたようだ。


「どうだ? こんな感じでピンが抜けると雷管を叩き起こすわけだ。」

「ああ、でもこれくらいなら分かるぞ」

『……あの、こっちに破片飛んで来たよ……?』

「よし、じゃあ応用編に移るかぁ。さて質問だ、この信管を火薬でいっぱいの缶に刺してさっきの起爆装置に使ったらどうなると思う?」


 怯えるミコの物言いに構うことなく、次のお題が目の前に置かれた。

 コルダイトの大きな手はエナジードリンクの空き缶を呼び出したようだ。

 缶の口に指を突っ込みながらにやっとしている。答えてみろとばかりに。


『……爆発しちゃいますよね』

「……先に言われたけどそれじゃ爆発するよな、抜いた瞬間に」


 ミコに先を越されてしまったが、もしさっきの信管を刺してピンを抜こうものなら火薬で一杯の缶は人類の敵と化すだけだ。

 単純なクイズは正解だったみたいだ、コルダイトは弱くうなずいて。


「まあそうだな、俺たち死ぬわけだ」

「そして棺桶が必要になるわけだな」

「それだと困るだろ? でだ、そいつを防ぐためにもっと賢くなる必要があるぞ。さあ、ではこの手榴弾予備軍を立派な戦士に変えるにはどうすればいい?」


 こっちに空き缶を渡して来た。

 なんでも詰められるだけの缶を見て、俺は少し考える。

 ピンを抜いて数秒後に爆発させるにはどうすればいいか――たとえば、信管を数秒後に起動させる作りにするとか?


「……さっきの信管のバネを数秒経ったら落ちるようにする?」

「んー、それもありだな。だが俺の理想の答えじゃないな」


 考えたことをそのままぶつけてみたが違ったみたいだ。

 答え合わせにコルダイトは――台の上にあった細いチューブを手に取った。


「正解はこうだ、導火線をくっつけて確実に遅延信管にする」

「……つまり雷管の発火で導火線に点火して、爆発させるってことか?」

「そうだ、それで数秒経ったら爆発する。だがこれじゃ爆薬の感度(・・)によっちゃ起爆しない、だからお前に教えるのは……」


 そして答えを教えてくれた。

 金属製の発火装置、チューブ、そして2㎝ほどの小さな筒だ。

 爆弾魔の教師はそれらを台の上に広げて、横一列に並べて完成した。


「こういうことだ。まずは発火装置、次に導火線、その先に起爆のための起爆薬をセット、そいつを炸薬とくっつけてやれば手榴弾の完成だな」

「起爆薬ってこのほっそい筒?」

「そうだぞ。そいつは起爆すると小さな爆発を起こすんだが、そいつが本命の火薬に訴えかけてくれるのさ。火薬ってのは感度があって爆発しづらいのもあるんだが起爆薬があれば一緒に仲良くドカーン!だ」

「えーと、まとめると信管で発火させて導火線に火をつけて、その先にある起爆薬を爆発させると炸薬がドカーン、なんだな」

「そうだ、回りくどいように思うがこれが正解だ。これから使い方と作り方を教えてやるよ」


 二日目の授業は俺の予想以上に物騒なものだった。

 ウェイストランドに対していまさら何も思うことはないが、まさかこんな危険物の製造法まで学ぶことになるとは。


「で、作り方を覚えたら履歴書に「特技は爆発物製造」って書けばいいのか?」

「間違えても希望職務の項目に「テロリスト」とか書くなよ、白い目で見られるぞ」

『……二人とも、楽しそうだね』


 まずコルダイトは黒い砂みたいなものが入ったカップと、熱収縮チューブの山を引っ張ってきた。


「導火線ってのは自分で作れるんだぜ。黒色火薬と熱収縮チューブだ」

「まさかこいつに火薬を詰めるのか?」

「ああ、もちろんなんでもいいわけじゃないぞ。じっくり燃える信頼性のある火薬を詰め込んで、加熱して圧縮、これで導火線の完成だ」


 やり方も教えてくれた。

 まずチューブに火薬を詰める、次に両端をテープで覆ってヒートガンで遠くから全体を熱して完成だ。


「こいつを熱で収縮させる方法はいろいろあるが、黒色火薬の発火温度を頭に入れときゃ楽勝だ。間違えてもマシュマロみたいに火であぶるなよ?」

「思ったより簡単だな。でもなんかいけないことしてる気分」

「大丈夫、このスリルがクセになるんだぜ。次は起爆筒だ」


 お次は小さな筒を見せてきた。

 見た目は本当にただの筒だが、これが起爆のきっかけらしい。


「そうすると導火線はその先にある起爆薬を叩き起こしてくれるって話だ」

「こいつには何が入ってるんだ?」

敏感(・・)な火薬さ。ちょっと頭を使えば自作も簡単だ」

「そしてこいつで火薬を巻き込んでどかん、か。重要なパーツなんだな」

「そう、どかん、だ。じゃあどんな仕事をするのか実際に見てみようぜ。見やすいように燃焼時間の長い火薬にしておいた、よーく見てろよ?」

『あの……実際にってもしかして……』


 ミコはすっかり怯えているが、お構いなしにまた物騒なものがどんと置かれた。

 中身が見えるようにくりぬかれた手製の手榴弾だ。

 一体どうやって作ったのか、それはまるでホールのケーキから一人分切り分けたように開いていて。


「この説明調に切り抜かれた爆弾は? 本物じゃないよな?」

「大丈夫さ、お前の授業のためにわざわざ作った特別な一品さ。中のトリニトロトルエンも見やすいようにテープでせき止めてある」


 ……今なら分かるが、思った以上に簡単な仕組みだった。

 球体の中は淡黄色の火薬で満たされ、その中を突き抜けるように信管セットが刺さっている、ただそれだけである。

 ピンを抜けば発火、導火線が火を最後まで運んでくれたら終わりだ。


「手榴弾の中ってこんな見た目だったんだな」

『思ったより単純なつくりなんだね……。だけど……あの、これ……』

「じゃあいくぞぉ、見てろよ?」


 コルダイトのおっさんはそれは楽しそうにピンを抜いた。

 それで撃針が落ちると、ぱちっと音を立てて導火線に火をつけた。

 丸見えの導火線はじりじりと燃えながら起爆薬でいっぱいの筒めがけて――


「……質問、起爆薬の横にあるのって本物の炸薬じゃないよな?」


 じっくりと燃える導火線を見て、俺は不意に疑問をぶつけた。

 まさかそんなわけないよなと思ってたが。


「……すまん、おっさんリアリティ求めすぎたみたいだ。つまり爆発する」


 爆弾魔はこっちに向けてイカれた笑顔を引きつらせていた。

 つまりこのままだと爆発するってことだ。クソ野郎。


『…………えっ!?』

「――なんでもかんでもリアリティあればいいってもんじゃないんだぞ」

「ああ、そうだな――伏せろォォォッ!」


 あともう少しで派手に吹っ飛ぶ手榴弾から逃げてしまった。

 俺も急いで――と思ったが、


『ちょっ……いちクン! 逃げてェェェェッ!?』

「安心しろ! こういう時は――」


 慌てず人類の憎き敵になる寸前の手榴弾に触れて『分解』した。

 爆風と破片が拡散する前にすっと消えた。まだ友達のままに。


「この手に限る。俺がいてよかったな」


 と、少しカッコつけていったが正直内心ではかなり焦ってる。

 爆発事故が阻止されるとおっさんが「あれ?」と疑問と一緒に帰ってきて。


「……まあ、つまりだ。例えばこの手榴弾の起爆は三つの力を利用している、一つは雷管の爆発力、二つは導火線の火薬の燃焼、三つは接続された起爆薬の衝撃ってわけだ。分かったか?」


 何事もなかったかのように説明を続けた。

 このミスはお茶目なおっさんのキャラに免じて許してやることにした。


「さて、ハーヴェスターのやつには黙っておいてくれるよな? バレたら今年一番の厄介ごとになるんだが」

「俺のいいところは寛大さって周りに伝えておいてくれるよな?」

「そういうの得意だから任せとけ。最高だなお前」

「その代わり分かりやすく教えてくれよ」

「任せろ。作り方から運用法までみっちり教えてやるよ」


 こうしてコルダイトは爆発物の扱い方を教えてくれることになった。

 さっそく作業台を囲んで指導を受けようと思ったが、


「おっと、その前にそこの線を踏んでみろ」


 椅子に座ろうかと思った直後、少し離れたところにあるコンテナに「そこ」と指を向けられた。

 なんのことかと思って『集中』すると、確かに足元に何かがある。

 黄色と黒の警告色をしたロープが足元を横切っていた。


「線?」

「そうだ、まあ踏めば分かる。やってみろよ」

「言っとくけど俺が死んだらこの世界がやばいからな?」

「大丈夫だ、早くいけ。おっさんを信じろ」

『……さっき爆発させかけたのに』

「さっきの所業は二度と忘れないからな」


 いわれた通りにそれに近づいて、踏む前に一度だけ見た。

 白く塗られた分かりやすい線はコンテナの壁を張っているようだ。

 ぱっと見る限り行方は分からないが、先生を信じて思いきり上から踏んでみた。

 

*Pam!*


「うおっ!?」『にあっ!?』


 ……なんか爆発したぞ。

 急にコンテナの壁の方で何か爆発したみたいだが、良く目を凝らすと。


「……おい、これってこの前の指向性地雷か」

『思いっきりわたしたちのほう向いてるよね、これ!?』


 あった。コンテナと同じ色に塗られた自家製地雷のケースが。

 壁の上で煙だけを吐き出すそれから視線を戻すと、


「びっくりしただろぉ? 今日はトリップワイヤとか使った罠の使い方も教えてやるよ。条約違反の心配はしなくていいぜ、このご時世どうせ誰も守っちゃいないしな」


にやついた顔が嬉しそうにこっちを見ていた。この野郎。


「きっと俺を罠で殺したやつも引っ掛かってくれて嬉しかっただろうな、あんた見てるとそう思う」

「へへへ、おっかないだろぉ? でも心配すんな、今日からお前がひっかける側だ」

『……悪用厳禁ってこういうことだったんだね……』


 こうして爆弾魔による徹底的な爆発物のトレーニングが行われた。

 晩飯の時間前には【製作】のSlev(スキルレベル)が4に、【罠】のSlevが2に上がっていた。

 それと爆発物のレシピも覚えた。おめでとう俺、爆破テロ予備軍だ。



『……いちクン、ぐったりしてるけど大丈夫?』

「……なんか知っちゃいけないこと知っちゃった気分」

『……わたしもまさか爆弾の作り方とか教わるとは思わなかったよ』

「聞かなきゃいいだけだろお前は……」

『どうしても耳に入っちゃうんだもん……コルダイトおじさん、楽しそうに話すし……妙に頭の中に入ってきちゃうよ……』

「言い得て妙だ、もう二度と忘れられないだろうなこれ……」


 陽気な爆弾魔からたっぷり知識と技術を叩きこまれた俺たちは、そりゃもうぐったりしていた。

 物覚えがいいと褒められたが、覚えすぎて気持ちが悪い。

 さらに怒涛の晩飯テロだ、肉をたっぷり食わされてもう動けない。


「クゥン?」


 ベッドの上で死体のようになってると、ニクが来てくれた。

 見れば尻尾を振りながら「どうしたの?」とこっちを見ている。


「ニク、お前に重要な任務を与える。学び疲れたから癒してくれ」

「ワンッ」


 顎の下を撫でてそう無茶振りをすると、シェパード犬は顔を近づけてその長い舌で頬をべろべろしてきた。

 舐められてべっとべとになったが、彼なりの優しさは確かにあるはずだ。


『……ふふ、この子って賢いわんこだね』

「こいつは俺より賢いさ。なあ?」

「ワゥン」


 お返しに頬をさすってやると、ニクが謙虚にほおずりしてきた。

 銃も魔法も使えないが、優秀な犬として活躍してきたグッドボーイだ。

 感謝を込めて彼に口元を緩ませると、その場でぺたっとくつろぎ始めた。


「……変な気分だ。今の俺、なんか充実してる」


 頬を拭いて机を見ると、紙の上で短剣が横たわっているのが見えた。

 紙には柔らかい顔つきの――本当のミコの表情があるはずだ。


『……奇遇だね、いちクン。わたしもだよ』

「お前もか。なんでだろうな? 飯がうまいからか?」

『なんでだろうね? ふふっ』


 そんな彼女はいま、なぜだかとってもご機嫌だ。

 微笑み続けるかわいらしい女の子の絵があるせいか、なんとなく、いまどんな表情なのか『感覚』でイメージできる。

 きっと顔があれば幸せそうにくすっと笑っているはずだ。


「お次はファイアスターターってやつからいろいろ教われだとさ。明日に備えて早く寝ようか」


 満足感が薄れる前にさっさと眠ることにした。

 照明を落としてさあ寝ようと思っていたが。


『……あの、いちクン? お願いがあるんだけど、いいかな?』


 その寸前で机の上からおっとりとした声が向けられた。

 やけに力がこもってるというか、思い切ったような調子の声だ。


「どうした?」

『えっと……』


 鞘の中で眠る相棒を見ていると、少しなめらかさのない調子で。


『……今日はいちクンのそばで寝たいなって。だめかな……?』


 少し自信がなさそうにそうお願いしてきた。


「じゃあ今日は眠くなるまで付き合ってもらうぞ、覚悟しな!」

『わっ……』


 俺は迷わず物いう短剣を持っていくことにした。彼女の顔と一緒に。

 ニクを踏んづけないようにベッドに戻って、枕元に鞘を置いた。


「これでいいか?」

『うん……あっ、危ないって思ったら戻してくれてもいいからね?』

「隣にコルダイトのおっさん置くよかずっと安全だ」

『なんでコルダイトさんが比較対象なの!?』


 仰向けに倒れて、女の子が書かれた紙を持ち上げた。

 鉛筆で書かれたミコの顔だ。こうしてじっくり見ると、ウェイストランドでは伝説扱いされそうなほどかわいい子だと思う。

 あともう少し目を細めればにっこり笑ってくれそうなそれを目にしていると。


『……いちクン? な、なんでわたしの似顔絵持ってきてるのかな?』


 ご本人がすぐ耳元で困惑していた。

 誰かさんが言った通り、押しに弱そうな美少女の顔をそっと降ろした。

 深い理由なんてない、強いて言えば目の保養だ。


「いや、覚えておきたくて」

『……わたしの顔を?』

「ああ、寝る前に見ればいい夢見れそうだと思ったんだ」

『そ、そっか……。でもなんだかわたしが見つめられてるみたいで、照れちゃうよ……』

「裏面のやばい方のミコは絶対見ないほうがいいだろうな」

『それ、ぜったいわたしじゃないからね!?』


 うっかり裏返そうものならリム様の書いた恐ろしいミコが待ち構えている。

 俺はしばらくミコの顔を眺めてから紙を降ろすが。


『……ねっ、いちクン』


 どこか安全な場所にそれを置いたところで、ミコが耳元でささやいてくる。

 「どうした?」と顔を向けると、枕元の短剣はうれしそうに教えてくれた。


『わたしね、こんな姿だけど……いちクンにかわいいっていわれて、ちょっとうれしかったよ?』


 それはいつもの調子から想像できないほど元気な声だった。

 俺はすぐ近くの棚に置かれた紙を見てから、


「念のため伝えとく。別にお前の顔を知ったからって接し方は変わらないぞ? 俺たちはいつだってフェアだ、中身が美少女だろうがミュータントだろうがミコはミコだ」


 こつっと柄のあたりを指でつついた。

 くすくす笑う声が返ってくる。


『ふふっ、知ってるよ?』

「ならよかった。おやすみ」


 最後にむき出しの刀身を撫でて、俺は布団を被った。

 その前にちょっとだけ棚の上に置いた紙をめくり返してみた。

 紙の上で手足と白い顔を生やした巨大な黒い球体が俺を見ている。


「……でもこっちの核ミサイル落としても倒せそうにない方のミコはちょっと受け入れられないわごめん」

『だからそれわたしじゃないよ!?』

「ノルベルト、なんでお前違う紙に書かなかったんだ……」


 俺は寝る前に異形ミコを裏返した。おやすみ相棒。


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[良い点] 面白かったです!やっぱオープンワールドは最高だぜ!
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