8 シェルターにいるのは誰だ
どれくらい経ったんだろうか。
けっきょく、冷蔵庫の中みたいに寒い部屋で引きこもっていた。
やっぱりあの世紀末ゲームの中なんだろう。
ここまできたらもう認めるしかない、そう割り切ってやる。
この世界に来てしまったのはなんとなく分かった。
自分がシェルターの住人で擲弾兵という役割を与えられたのも理解した。
それで、この世界は俺に何をさせようとしているんだ?
最初に思ったのは自分がここにいる理由だった。
だが一人で考えたって時間は無駄に過ぎてしまうだけだ。
そこでこの『PDA』とかいうデバイスの出番だ。
こんな状況で情報を得られるとすればこいつしかなかった。
さっそく手に持って画面に指を触れてみると、
『P-DIY1500へようこそ!』
緑色のインターフェース上に緑の文字でメッセージが表示された。
画面にはゲームさながらのステータス画面が表示されている。
名前は『112』でレベルは1ということになってるようだ。
次にあの時割り振りさせられたステータス値が見えたが、
【筋力7 耐久力5 感覚8 技量7 知力6 幸運3】
数値を見た瞬間、違和感を覚えた。
そう言えばこうなる前、タカアキと話しながら俺は何をしていた?
そう、確か初期ステータスを決めろといわれて自分で分配した。
最大三十点を自由に振れというものだったはず。ところがこの数値はどうだろう?
合わせてみると三十六点もステータス値があることになるじゃないか。
「……で、それがどうしたっていうんだ?」
分かったのはそれぐらいである、以上。
他に変わった点といえば役割という項目に擲弾兵と記載されてるぐらいだ。
というか俺、こんな状況なのにやばいぐらい冴えてるな。
次はスキル画面を開く。確かに投擲と重火器にレベルが1ずつ振り込まれてる。
今度はステータスを見た、『PERK』という項目があった。
PERKとは『半永久的に得られる特殊な能力』とかそういう意味だった気がする。
洋ゲー発祥の単語だったか、まあとにかくパッシブスキルみたいなものだ。
さっそく開いてみると空っぽ……なはずが二つも習得していた。
まず一つ目は『過酷な旅路』というPERKだ。指でつつくとメッセージが表示されて、
【どうやらあなたは過酷な運命をたどらないといけないみたいですね。そんじょそこらの人よりも多くの困難が立ちふさがるでしょう! でもご安心を、すべてのステータスが永続的に1増加しますから】
とある。なるほど、だからこんなに増えてるのか。
それがどうした、こっちは過酷すぎてもう心が折れそうだってのに。
その下にあるのは『マナ・クラッシャー』というものだ。
【不思議なパワーお断り! あなたはいわゆる異能絶縁体みたいなものです! あなたに襲い掛かる異能の力はなんの被害ももたらしません。魔法が使えず有益な魔法も効かないつまらない人生になりますがご心配なく、人生を楽しむ手段はいくらでもありますから……】
良く分からない怪文書だった。以上終わり。
どうやら特殊な力を二つも手に入れてたようだが、だからなんだって話である。
おまけに説明文に励まされてるのがなんだか腹立たしい。
更に……『死亡回数』まで記録されている。一回死んだことになってる。
「死亡回数? くそっ、余計なもん記録しやがって……大きなお世話だ」
次に『DATA』ボタンを押す。今度はいろいろな情報が整頓された状態で表示された。
「クラフト」だとか「資源」だとか「マップ」といった感じで並んでいる。
写真撮影とかラジオ機能もあるしメールも使えるみたいだ、何の役に立つんだ。
「……ん!?」
いや、待った。よく見るとPDAがメールを受信していた。迷わず押して開いた。
お祈りメールがない清潔な受信箱に、一件だけメッセージが届いている。
件名はnullで送信者の名前もnullだ。
『元の場所へ。フランメリアへ。歩みだせ』
残念なことにただの怪文書だった。
良く分からないが、できることなら元の世界に帰りたいさ。
こんな寒くて埃くさい場所もうんざりだ、新鮮な空気が吸いたい、さっさと外に――そうだ扉があった。
「……やっぱりこれしかないよな?」
ハンドルのついた鉄の扉に近づく。
船のかじを取るようにくるくる回すとあっけなく開いた。
その向こうではどこに続くかも分からない階段が闇の中へと延びている。
間違いない、こいつは外の世界へと通じている。
不安より好奇心が勝ってしまって、わずかな光を頼りに階段をのぼり始めた。




