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7 リスポーン地点


 ――急に意識が戻った。


「……はうッ!?」


 思わず変な声を出してしまった

 背中が張って痛い、生暖かい汗がにじんでいる。


「……俺、死んだ……?」


 思考がぐちゃぐちゃだ、拾い集めよう。

 目を強くつぶって、深呼吸をして、額の汗をぬぐって、少し分かった。


「……は、はは、はははは、ははははははっ……」


 肺の間からくすぐったい笑いがたっぷり出てきた。

 そうか。どうやら夢だったみたいだ。

 そりゃそうだ、あんな壮絶な物語が現実なわけない。

 あの部屋も、あの男も、あの変態も、あの痛みも、何もかも夢だったわけだ。


「そうだ、そうだよな、そうだその通りだ。あんなクソ夢あってたまるか!」


 変なテンションになって思わず叫んでしまった。

 夢と分かればこっちのもんだ、もう何も怖くない。

 

 しかしまあひどい夢だった。

 いつだったか、タカアキが「夢は自らの記憶から作られる」とかいっていた。

 いうには「中古のパーツをかき集めて組み立てたPC」のようなものらしい。


 だがたった今それが間違っていると証明された。

 自分の人生に世紀末ゲーの世界に転移した経験はない。

 まあ、バッドエンドだったのはともかく適度な刺激にはなった。


「……とうとう悪夢も押し付けるようになったのか、あのバカ」


 ありがとうタカアキ、おかげさまでクソ素晴らしい夢が見れたぞ。

 さて軽くシャワーでも浴びて、冷たいジンジャーエールでも飲むか。


 もう一度目を開けた。

 明瞭になった視界に白いコンクリートの天井がある。

 頼りない照明が白い光でうっすらと室内を照らしていた。


「……は?」


 なんだろう……急に変な感じがした。

 うまくいえないが感覚がとても嫌な予感をキャッチしていた。

 上半身の神経をぞわぞわ行ったり来たりするような不安に似た何かだ。


 だから俺はまず、起き上がる。

 コンクリート製の平たい壁が周りを覆っていた。

 背中の固い感触を確かめると、毛布のかかった粗末なベッドが置いてある。

 パソコンもフィギュアの飾られた棚も窓すらもない。


 ――空っぽのロッカー。開きっぱなしの冷蔵庫。錆びた台所。

 どこかに通じるドアにハンドルのついた分厚い扉。

 見知らぬものだらけの部屋の中は、ほこり臭くて凍えるほど寒い。


 ――まさか。ベッドから起き上がった。

 そこでようやく自分が裸足じゃない(・・・・・・)ことに気づく。

 見覚えのあるブーツがある。いやでも忘れられないジャンプスーツすら着ていた。 


「嘘だろ?」


 ポケットに手を突っ込んだ。

 以前感じたことのある硬くて薄い手触りがした。

 引っこ抜けば『PDA』と呼ばれた良く分からないアレが出てきて、


【P-DIY1500】


 視界にはっきりとそんな文字が浮かび上がった。

 ダークグレー色の横長方形の中で、スクリーン上に様々な情報が表示されている。


「……嘘だ」


 視線を落とした。


 ジャンプスーツのジッパーを降ろす――白いシャツが見える。

 ふわふわしてたいやな予感が硬く引き締まっていくのを感じる。

 また汗が出てきた。呼吸が制御できなくなる。手先が震え出す。


 めくった。

 胸の中心で汚い花を連想させるグロテスクな傷跡があった。

 まるで背中から胸を銃弾で貫かれたような、確かな名残がそこにある。


「嘘だろ……? なんかの悪い冗談だよな!? あの時、撃たれて……!」


 あの痛みも蘇ってきた。これは銃で撃たれた傷だ。

 とうとう足すら馬鹿みたいに震えだして、みっともなく尻もちをついた。

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