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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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17 キッドタウン(4)

「やってやろうぜシエラ!」


 と、誰かが言うべき台詞を勝手に奪いながら敵へ繰り出した。


「あっお前、俺のセリフもってきやがったな!?」


 すぐに後ろから本来口にするべきだった人物から怒声が飛んでくる。


「あーあ、先を越されたなイェーガーおじさん! もう年か!?」

「うるせえぞ! お前だって俺とあんま変わらないだろ!?」


 イェーガー軍曹と皮肉屋のほうの伍長の掛け合いを受けながら、次の遮蔽物めがけて低い姿勢でざくざく走った。

 弾がすぐ近くを掠めた、足元に至っては何かが当たって弾けていた。

 敵の姿は目の前だ、そのまま相手のバリケードに滑り込もうとしたが。


「クソッ! 馬鹿かあいつら!? なんでまっすぐ突っ込んで来やがる⁉」

「こんなやり方すんのはシエラの連中しかいねえぞクソが!」


 まずい、距離が遠すぎた。

 金属鎧を着たレイダー二人から銃口が向けられる――だからどうした。


「――それとストレンジャーもな!」


 アスファルトの上を滑り込みながら、改造された三連散弾銃を構える。

 左の男に向けてクイックファイア、喉元から上にヒット。

 もう一人に向けてトリガを引く、リボルバーを握っていた手が吹っ飛ぶ。


「がぁぁぁぁっ!? こ、このやろっ」

「ガウッ!」


 遅れてやってきた犬が片手を失った重装レイダーへ飛び掛かる。

 足狙いだ。防御の薄い部分に食らいついて体の構えを崩していく。


「なんだこの犬!? 離せ! あっちいけ!」

「ワンッ!」


 ところが転んだ男に覆いかぶさっていたニクはすぐ戻ってきた。

 見れば男が着けていたであろう頑丈そうなヘルメットを咥えている。

 防御力ダウンだ。弾種選択スイッチでライフル弾に切り替えて、


「よお、お前の頭ってちゃんと防弾仕様になってるか?」

「っ……う、撃つんじゃねえ……!」


 倒れたレイダーのむき出しの頭めがけて三発目をぶっ放す。

 助けを求めるように掲げてきた手ごと、45-70の弾が頭を貫いた。


 そこへ銃声、擦過音、さらに向こう側から敵の銃火が襲い掛かる。

 慌てず体をコンクリート壁の裏に引っ込めてカバーに入った。


「はん、ミリティアの連中に比べたら大したことないわね!」


 すぐ横にノーチス伍長が機関銃をぶっ放しながらやってくる。

 布を引き裂くような銃声の先で、運悪く巻き込まれた何人かが甲高い悲鳴を上げた。


「まあ確かにな、アルテリーぐらいの手ごたえしかない」


 散弾銃を折って散弾とライフル弾を詰めて次に備えた。

 向こうで倒れた車から敵が顔を出した、大雑把に散弾を撃って制圧した。


「そういえばあの人食いカルトどもと戦ってたっていうじゃない、どんな感じだった?」

「ボスの訓練のほうがよっぽど危険だ、なんでかは分かるな?」

「同情するわ、ストレンジャー」

「そりゃどうも」


 連続した銃撃が返ってくる、コンクリートからびしびしと感触が伝わった。


「お前ら援護しろ! 敵の機銃手が邪魔だ!」

「どんどん押し込め! このまま街の外へ追放してやる!」


 しかしお構いなしにバンダナ男と角刈り男が遮蔽物を乗り越え、肉薄していく。

 ノーチス伍長が「援護!」と身を乗り出す、俺も続いた。

 停車したバギーの上から機関銃をめちゃくちゃに撃ちまくる男を捉えた。

 銃身を置いて照準器を合わせ、車の骨組みの間から見える胴へトリガを引くが。


*BRTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT!*


 それと同時に耳元から狂暴な連続射撃音が始まった。ノーチス伍長の機関銃だ。

 思わず耳を塞ぎたくなるほどの銃声に『ひゃっ!?』とミコが小さく悲鳴を上げる。

 向こうの機関銃は黙り込んでしまったようだ、永遠に。


「フラグ投下!」


 向こうでイェーガー軍曹がダメ押しの手榴弾を掛け声と共にぶん投げる。

 遠くの方でパニック状態のレイダーたちが派手に吹っ飛んだ。

 道が開けた、隙を見計らって遮蔽物をニクと一緒に飛び越えた。


「シエラ部隊と天才様のお通りだ! どけド低能ども!」


 前線を押し上げているとカーペンター伍長も追いついてきた。

 途中で敵が民家の上から小銃を何発も撃ってきたが、彼は慣れた動きで自慢のレーザー銃で同じ分だけ撃ち返す。

 敵の首から上が焼き抜かれた、お見事。


「シエラに続け! 勝利は我らに!」

「あの訳の分からないミュータントもいるんだ、負ける要素ゼロだ!」

「あいつらを全員制圧しろ! 突撃!」


 振り向けばエンフォーサーたちも続々と後を追ってきて、戦場はかなり滅茶苦茶なことになっている。

 その反面、レイダーたちはアクシデント続きでかなりピンチだ。


『フーッハッハッハ! 暴力はお好きかな!? 俺様は大好きだ!』

『あああああぁぁぁぁっ! 足が! 俺の足がぁぁぁ!』

『来るな! 来るな! 頼むからこっちにぎゃああぁぁぁっ!』

『もう駄目だ! 望みが絶たれた!』

『あいつらこんなミュータントを手なずけてやがったのか畜生!?』


 オーガのやつは勝手に一人で奥へ行って敵の後方に回ってるようだ。

 しかも強化外骨格が使っていた得物を振り回している、鬼に凶器状態だ。

 道しるべとして切り落とされた手足や血肉がそこらじゅうに転がり、ちょっとした地獄絵図となっている。


「ワオ、うちの筋肉ババァよりおっかないぜ、ありゃ!」


 もっともカーペンター伍長はというか、シエラ部隊の愉快な連中はそんな恐ろしい光景に平然としていた。

 そしてだんだんと追い詰められていく敵へ迫っていくと――


「死ねェェェ! てめえだけでも道連れにしてやらぁぁぁ!」


 突然側面にある民間の壁がぶち破られた。

 ちょうどオーガが通れるほどの穴から、重い駆動音と共に人型がやってきた。

 エグゾアーマーを着た男だ、全身を覆うほどの盾と大ナタを持ってる。


「おいマジかよこっちくんなッ! やるならこのジャンプスーツにしとけ!」


 ブロンド髪の伍長の悪態と共にレーザー銃が放たれるが一向に止まらない。

 『SWAT』と血文字で書かれたライオットシールドが全て防いでいるのだ。

 自暴自棄になった男は切り刻もうと必死に迫るものの――


『セイクリッドプロテクション!』


 いいタイミングでミコの防御魔法が展開。

 ワンテンポ遅れて外骨格のパワーを乗せたナタが振り下ろされるが。


 ――がきんっ。


 結果だけ言うと叩き切られたカーペンター伍長は無事だった。

 戦闘服の周りを漂う青盾が、錆びだらけのブレードをはじいていたのだから。


「――はっ? なんだこりゃ、奇跡の業か!? なんかくるくるしてやがる!」

「な……弾かれただと!? なんだこりゃ!? まさか奇跡の――」


 非科学的な現象に困惑する二人の間めがけて、クナイを抜いた。


「よくやったミコ、後は任せな」


 狙いはすぐ目の前でうろたえるジャンクドレスの人影。

 硬い地面に浮かんだ黒色へと乱暴に刃先を叩きこんだ。

 すると次の一撃を繰り出そうとしていた外骨格が腕を振り上げたまま停滞。


「……動けない、だと……!? くそっ、ミリティアのやつら不良品でも渡しやがったのか!? 動け! 動けこのっ!」

「ジャンクドレスの影縫い添え一丁上がりだ。後はご自由にどうぞ」


 俺はミコの防御魔法のエフェクトが付きまとう伍長に促した。

 外骨格ごと固まってしまったレイダーを手で案内すると。


「……忍術といい魔法といいまるでファンタジーだぜ。なあそこのレイダーくん、お前もそう思うだろ?」


 この世で一番意地悪そうな笑みを浮かべて、カーペンター伍長はレーザー銃のプラズマセルを交換しながら迫った。


「まっ……待て分かった降参だ、見逃してくれりゃチップをやるよだから」


 ヘルメット越しに怯えるような呼吸が聞こえてくる。


「いやなこった。ところでテメエの顔面は頑丈か? 確かめてやんよ」


 すぐに処刑が始まる。

 ヘルメットの隙間からレーザー銃をねじり込んでぶっ放した、それだけだ。

 ぼふっと破裂するような音を立ててジャンクドレスは持ち主を失った。


「どうよストレンジャー、焼き加減は焼きすぎ、オゾン臭を添えてだ」

「そいつが料理だっていうなら最高の失敗作だな」

「ああ俺の最高傑作だ。ドッグマンの餌にすらならねえだろうがな!」


 俺たちはそびえたつ現代アートになった機械の鎧を置いて先へ進む。

 敵に追いついたみたいだ、ちょうどルキウス軍曹が逃げ遅れた敵の胸を銃剣でめった刺しにしていた。


「おせえぞお前ら! なにしてやがった!」

「悪い、先輩とのはじめての共同作業に手間取ってた」

「最後のひと手間はレーザーで中までこんがりだぜ! それより敵は――」


 返り血でべっとりしている部隊長に近づいた時だった。

 急に前方からずどん、と砲声――積み上げられていたくず鉄の山が爆ぜた。


「がっ――!?」


 もろに食らったわけじゃないが、爆風の熱と破片が顔面を掠った。

 まずい、足元が少し浮いて、頭が揺らぐ。切り裂かれた頬が熱くなる。

 硬い石が内側から爆ぜたような音が耳奥に響いて、一瞬意識が遠のきかけた。


『いちクン!?』

「くそっ! ストレンジャー! 伏せろ!」


 ルキウス軍曹たちに引っ張られて放置された車の陰に転がった。

 どうにか意識をつなぎとめていると、裏からまた爆音と衝撃が届いてきた。


「おいおいどんだけ撃ちまくってんだよあれ! 頭おかしいんじゃねえの!?」

「味方がやられてパニック起こしてるみたいよ、きっと中は大混乱でしょうね」


 意識がふわふわする。耳元でイェーガー軍曹とノーチス伍長の声がした。

 頭が熱くなってきた、ひどい耳鳴りもする、それでもどうにか身体を起こすと。


「くそっ! あのバカどもどっからあんなの持ってきやがった!?」


 シエラ部隊の隊長が言うものの正体がつかめた。

 ずんぐりした形の砂漠色の戦車だ、砲塔が二つもついている。

 分厚い正面装甲をこっちに向けたままだが、良く見れば履帯が千切れていた。


 しかし向こうも必死なんだろう、味方から見放されてしまっている。

 敵を近づけまいと主砲と副砲を手あたりしだいにぶち込んでくる。

 だが敵はほとんど残っちゃいない、オーガの暴虐には耐え切れなかったようだ。


「あっ…………たまにきたぞ、クソ野郎! てめえら皆殺しにしてやる!」


 だが俺はそれどころじゃない、クッソ腹が立っている。

 頭の中で淹れたてのコーヒーみたいに熱々の血が渦巻くのを感じた。

 ミコが『落ち着いて!』とかいっていたが無視して立ち上がる。


「おい! あいつをぶっ殺してくる、いいか!?」


 血まみれの顔面をぬぐいながら隊長にたずねた。

 ルキウス軍曹は硬い表情で「なにいってんだこいつ」と目で言っている。


「できるもんならな。で、なにかプランでもあるのか?」

「おいおい、ストレンジャー様がキレてやがんぜ!」


 カーペンター軍曹に茶化されたが構うものか、ゴーサインとみなして。


「プレッパータウン流でぶちのめしてやる! 援護してくれ!」


 周りにそう告げて足元にクナイを思いきり叩きつける。

 『ニンジャバニッシュ』が発動、この世から姿を消した。


「……おい待て、お前、今一体何を」

「ストレンジャーが消えたぞ!? どこいった!?」

「おい、マジかよ!? あいつ本気でニンジャの末裔だったのか!?」

「……もうなんでもありね、この世界」


 呆気にとられた仲間を離れて、効果が切れる前に戦車へと全力疾走。

 すぐ上で重い砲弾が通り過ぎるのを感じた、だがそれくらいじゃ怒りは収まらない。

 眼前の鉄の怪物を見た――固定された大型の砲と、備え付けられた砲塔から伸びる小口径の砲を向けている。


「覚悟しろ××××野郎! 今日からそこがおめーらの棺桶だ!」


 どう調理してやろうかと横に回り込むと戦車の側面にハッチがあった。

 しかしどう考えても開けられそうにないぐらいがっちり閉まってる。

 ……いや、開ける方法ならあったじゃないか。


「オーガ! 手伝え!」


 俺は戦車のずっと後ろで残党を切り刻んでいるであろう鬼へと叫んだ。

 すぐに返り血で真っ赤なオーガが飛ぶように戻ってきてくれた。


「――おお? どうしたのだ?」

「ここに隠れてる馬鹿がいる、今すぐこじ開けろ!」


 オーガは恐るべき理解力と馬鹿力でハッチを掴んで、


「なに!? なんと卑怯な、ならばこじ開けてやろう!」


 スナック菓子の袋を開けるような感覚でべぎっとこじ開けてしまった。

 途端に戦車の中から悲鳴が聞こえる。


「うわぁぁぁぁぁっ!? どうなってんだハッチが破られたぞ!?」

「く、くるな! ちくしょう! あっち行きやがれぇぇッ!」


 狭苦しい車内から六人分はありそうな男どもの罵声が飛んで来た。

 パニックになった乗組員たちが中から滅茶苦茶に銃を撃ちまくる、もちろんオーガにはノーダメージだ。


「むーん、こんな場所に隠れていたのか。おい、籠ってないで外に出てくるがよい! 外で死ぬ方が気持ちいいぞ!」

「ひぃぃぃぃっ!? なんだこいつ!? 銃が効かねえ!?」


 もはや周りには敵はおらず、非常識な光景に呆れる味方しかいない。

 というかもう敵はこいつらだけだ、見渡す限り屍の山である。


「良く聞け! お前らにヴァルハラか地獄か好きなほう選ばせてやる! 猶予は一秒ぐらいだ喜べクソ野郎!」


 ギザギザとした手榴弾を手に取った。

 戦車の中をかき回そうとするオーガを「離れろ!」と押しのけてピンを抜く。

 安全レバーが弾ける……1、2、いまだ!


「フラグ投下!」


 肉体派マスターキーで開いたハッチの中へと熱々の果物を放り込んだ。

 戦車の内部から慌ただしい声が漏れだす中、急いで離れて地面に伏せると。


 ――バコンッ!


 そんな独特の、まるで金属を打ち鳴らすような音が響いた。

 誘爆はしていない。すぐに散弾銃を手に開放感のある戦車へと戻るが。


「こ――のやろう……なんてこと、しやがる……」


 まだ生き残りが何人かいた、銃身を突っ込んでトリガを引く。

 閉鎖空間にぶっ放された散弾は文字通りそいつらをズタズタにした。


「……むーん、出てこなかったではないか。かわいそうに」

「でも棺桶の予約はとっくの昔に済んでたみたいだな」


 つまらなさそうにするオーガと、六人分の死体を乗せた鉄の棺桶を背に仲間のもとへ戻った。

 散弾銃の空薬莢を弾き飛ばしながらルキウス軍曹のもとへ近づくと。


「で、どうだ。戦車なぶり殺しショーは楽しかったか?」


 酷い茶番でも見ていたかのようにその場で怪訝そうな顔をされた。

 三発の弾を手早く込めながら答えることにした。


「すっげえ楽しい。またやらせてくれ」

「……やっぱりお前もあの街の立派な住人だ、イカれてやがるぜ」


 こうしてレイダーどもは文字通り全滅した。

 その後、『キッド』の危機を救いにニンジャの末裔と鬼が現れたという伝説が後世まで語られたらしい。


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