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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
102/580

15 キッドタウン(2)

長くなったので分割します


 かっ飛ばした先でサーチタウンよりずっと大きな街が見えてきた。

 件の『キッドタウン』だ。道路に沿うように幾つも民家が並んでいるのが見える。

 しかし西側からは黒煙が立ち上がり、戦いの音が聞こえている最中だ。


「クソッ、まさかミリティア絡みか?」

「そうに違いないだろ。で、どうするルキウス? お邪魔するか?」

「途中で右に曲がって空港に入れ。どうせ敵は西から来てる」


 ルキウス軍曹がいうように、街の中には放置された旅客機も見えた。

 どうもここは空港があるらしい、もっとも空への旅はできなさそうだが。

 が、気づけば周りは無言で弾を込め始めていた――俺も散弾銃に装填した。


「イェーガー、前! 住人が襲われてるわ!」


 いつでも飛び出せる覚悟でいると、銃座から声がする。

 子連れの若い女性が飛び出て『ヒャッハー』な男たちに追われていた。

 先頭を走るぽっちゃりした男は、汚く煙を吹くチェーンソーで何が何でも八つ裂きにしようとしている。


「野郎、ガキも殺すつもりかッ!? ぶっ殺してやる!」


 そんな姿が見えて声をひどく荒げたのはイェーガー軍曹だ。

 途端にアクセルが強く踏み倒され、道路を横切る人たちへと加速する。


「おいおいイェーガー! 気持ちは分かるが安全運転で頼むぜ!?」

「無駄よカーペンター、大人しくやらせてやりましょう」

「冗談きついぜ、ったくよぉ! 車の中に戻れ、放り出されるぞ!」


 愉快な二人の伍長のやりとりからして何か事情があるみたいだ。

 どうであれ強化されたフロントガラス越しにそいつらの姿が近づく。

 道路に飛び出す子連れの女性、それに追いつこうとするレイダーども、車の向きはゆるやかに後者の方へずれていき。


「ストライクだ、クソども!」


 運転手の荒っぽい声と共に車体が突っ込んでいく。

 車越しにずごっと何かがつぶれる感触が、急ブレーキの衝撃と共に伝わってきた。

 これが『人を轢いた感触』ってやつか、運転免許取る前に知れてよかった。


「ぐえぁっ!?」


 進行先にいたやつらがボールみたいに吹っ飛んでいた。

 ところが肝心のチェーンソー男はぎりぎり避けてしまったようだ。

 車の左側で「なんだこいつら」とこっちを見ていたが、すぐに得物を唸らせて女性へと向かってしまう。

 窓から見れば――子供が転んでいた。まずい。


「隊長、お先に失礼!」


 迷うことはなかった、蹴り飛ばすようにドアを開けて出る。

 出てすぐのところでチェーンソー持ちのレイダーは獲物を振りかぶっている。

 唸りる得物の先では女性が転んだ子供を必死にかばうようにしており――


「クソォォッ! てめえらだけでも殺してやるぜこのクソアマァァァ!」


 そいつは回転する鋸刃を背中に押し付けようとする。

 ならこうしてやる、クナイを抜いてそいつの影へとアンダースロー。


「てめえのガキごとぐちゃぐちゃにして……おぉ!?」


 『シャドウスティング』が発動。

 間もなく人間を引き裂こうとしたブレードごと男の姿が留まってしまう。

 俺は稼働したままのチェーンソーを手に固まったそいつへ近づいて。


「なあ、なんでお前そんな面倒くさそうな武器持ってんだ? 馬鹿じゃねーの? ホラー映画に出演したいのか?」


 べちっと顔面にビンタをお見舞いしてから得物を取り上げようとした。

 ところが取れなかった。指まで固まってるせいかビクともしない。

 とりあえず子供に抱き着いてうずくまってる女性に声をかけた。


「もう大丈夫だ。こいつ動けないからさっさと逃げろ」

「うっ動けねえ! なんだこれ!? クソッ! 殺させろォォォ!」

「あっ……ありがとうございます!」


 何が起きたかさっぱりといった様子だが、二人は這いつくばるように逃げていった。

 途中で小さな男の子が振り向いて「ありがとう」と手を振るのが見えた。

 さて、こいつはどうしようかと考えていると。


「おー、すげえ。どうなってんだこれ? どうして動かねえんだ?」


 車から降りてきたカーペンター伍長が興味津々に近づいてきて、稼働中のチェーンソーの本体をいじって停止させる。

 それから必死に動こうと騒ぎ立てるレイダーをぺちぺち叩くが。


「ぬぅぅぅああああああああああああああああああぁぁぁッ!」


 そんな男の顔面にいきなり拳が突っ込まれる。

 運転席から出てきた軍曹が怒鳴りながらぶん殴ったのである。

 すると効果が切れて男がダウン、『ぐげっ』と獲物を手放しぶっ倒れて。


「ガキを! 殺そうと! しやがって! てめえ! 殺してやる!」

「ぎゃっ、ぐあっ!? た、たすっ! いっ! ぎっ――」


 馬乗りになった挙句、その顔面に右と左のごつい拳を交互に繰り出す。

 存分に殴ったあと、とどめに頭を掴んで道路に叩きつけ――割れた(・・・)

 ミコを手で隠した。スイカを地面に叩きつけたらこうなると思う。


「……うわ、グロいな」

「先輩からのアドバイスだ。イェーガーは奥さんとガキを亡くしてる、そこんところ覚えてやってくれよ」


 思わず顔を背けているとカーペンター伍長にそうささやかれて、良く覚えた。

 周りには不運にもレイダーだったものになった何かしか転がっていない。


「よし。ぶちのめしに行く時間だ、ついてこい」

「ついてこいってどこへ向かうのよ?」

「銃声が良く聞こえる場所だ。そこに行きゃ嫌でもあいつらと戦えるだろ」

「そりゃ名案だな。一人残らずぶち殺してやる」


 シエラ部隊のリーダーはそういって街の方へと向かっていく。

 殺す気満々の大きな背中へとノーチス伍長が弾帯を機関銃に噛ませながらついていき、まだ熱が冷めないイェーガー軍曹も黙って移動した。

 そしてこのストレンジャーも犬と物いう短剣をつれて――と思っていると、


「もう一つアドバイス、隙があれば敵からは装備を鹵獲せよってな」


 いつのまにかブロンド髪の伍長は死体から物色していて、こっちに何か投げて来た。

 丸くてギザギザの――手榴弾だ、当然だがピンは抜かれていない。


「こりゃどうも。ギザギザしてていい手榴弾だな」

「いいか、俺たちは投げるときに必ず一声かけるのがルールだ。ありきたりだがフラグ投下とか、これでも食らえとかでもいい、意思表示してから投げろよ」

「投げるタイミングは隊長に従えばいいのか?」

「自由だ。自爆しようが勝手だが俺たちの足元に落とすなよ?」

「おい、お前ら何してやがる! 早く来い!」

「へいへい、今まいりますよ! 戦利品ぐらい吟味させてくれよな」

「死体漁りは後にしろ、敵をぶっ殺すのが先だ」


 厳つくて低い声で呼び戻されて、俺たちは急いで隊長の後を追いかけた。

 シエラ部隊とゲストの向かう先では戦火が上がっている。


「いいかストレンジャー、こっからは戦場だ。お前への指示は三つ、足は引っ張るな、民間人を殺すな、死ぬなだ」

「了解。邪魔はしないように教育されたから安心してくれ」

「自信たっぷりだな。さあ楽しい一日レンジャー体験だ、飛ばしていくぞ」


 さっそく三連散弾銃のストックを伸ばした。

 『集中』して向かう先に顔を向けるとさまざまな音が伝わってくる。

 戦車の音、大口径の砲声と爆音、人の悲鳴に連続した銃声――いつもの戦場だ。


「……また戦場か。命令通りに飛ばしていくぞ」

『うん、気を付けてね? 何かあったら魔法でサポートするよ』

「ワンッ」


 意識を切り替えた。いつでもきやがれ、戦闘モードだ。


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