~オバケ嫌いな幽霊~
「んっ……」
唯斗は目を覚ました。
そこは保険室だった。
体は軽いし、傷もない。
今朝も金井に文化祭の手伝いをさせられて生徒会の仕事もあったし、きっと過労で倒れたんだろう。
そういえば変な夢を見ていた気がする。
神谷生徒会長が自殺をしようとしいて、僕がそれを助けて死んで……それで、自称閻魔の子供に妖怪学校に連れていかれて……馬鹿馬鹿しい夢だ。
……そう、馬鹿馬鹿しい夢。
そう思いたい。
唯斗は心の中でそう願いながら恐る恐るカーテンを開けた。
「あら、お────」
柔らかい優しい声をした養護教諭の言葉をほぼ聞かずカーテンを物凄い速さで閉めた。
なぜなら────
明らかに人間じゃなかった。
正確に言うと大きな蛇だったのだ。
僕は夢から早く覚めたくて思いっきり頬をつねった。
「痛っ!」
痛かった。ものすごく。
それは夢じゃないと唯斗に訴えかけてきた。
「あらあら、どこか痛むの? 怪我でもした?」
唯斗を心配した様で、蛇の姿をした養護教諭は声をかけてきた。
「うわぁぁぁー! く、来るな! 化け物!」
唯斗が後ずさりながら叫ぶと、誰かに頭を物で叩かれた。
「こら! 先生に向かって化け物はないだろ!」
その声はどこかで聞いたことのある声だった。
「お、お前は────自称 閻魔!」
唯斗の前に教科書を丸めたものを持って立っていたのは唯斗をここに連れてきた自称閻魔だった。
「自称って…僕は正真正銘閻魔だ!」
自称閻魔は腕を組んだ。
「子供でバイトなのに?」
唯斗は叩かれた状態で聞いた。
「それは関係ない!」
自称閻魔は唯斗を睨んで言った。
「だって、閻魔って巨大で怖くて地獄を仕切ってるヤツなんだろ?」
唯斗がそう言うと蛇の養護教諭は笑った。
「閻魔。言い返せる立場かい?」
「うぐ…貴女もそうでしょう!? ヤマタノオロチ先生!」
自称閻魔は赤面しながら叫んだ。
は? …ヤマタノオロチ? ヤマタノオロチってスサノオノミコトと戦った…あの?
唯斗はまたポカンとした。
「ほら、先生にも驚いてる。」
自称閻魔は養護教諭を睨みながら言った。
「馬鹿ね。本物のヤマタノオロチを見て驚いているのよ。」
養護教諭はドヤ顔した。
「正確にはヤマタノオロチの『娘』ですけどね。」
自称閻魔は呆れながら言った。
「あんたもでしょ。この出来損ない。」
「それは貴女もですよね? この出来損ない。」
二人の間にと火花が散っていた。
「あ、あのー?」
唯斗が状況を整理しているうちに何故が喧嘩が始まってしまった。
唯斗が戸惑っているとドアが開いた。
「お二人さん、もうそろそろホームルーム始めたいんだけど。」
と言いながら白衣を着た男性が入ってきた。
「あ、すみません。後籐先生。」
「今すぐ行きます! 後籐先生!」
そう言って二人はどこかへ行ってしまった。
「お前もな、加賀谷。」
「な、なんで僕の名前を……」
唯斗は立つことを忘れてその後籐先生と呼ばれた男性を見つめた。
「ん? 教師なら生徒の名前くらい把握してるだろ。」
と後籐は当たり前のようにサラッと言った。
「貴方はここの教師なんですか?」
「ああ。学級担任兼学園長だ。」
後籐は面倒くさそうに煙草を吸いながら言った。
「なら、学園長。」
「なんだ?」
「ここは本当に妖怪学校なんですか?」
「あぁ。ただし、ここはただの妖怪学校じゃない。」
「……え?」
唯斗は青ざめた。
まだこれ以上のことがあるのか?
「まぁ、そう怖がるな。そう大した事じゃない。ここにいる妖怪は何かしらの欠点を持っている出来損ないだ。お前を含めてな。」
後籐先生は唯斗を指差した。
「僕も?」
唯斗はまたポカンとした。
学校では優秀な方だったから心当たりがなかった。
「あぁ。そうだろう? 『オバケが苦手な幽霊』君。」
後籐はニヤリと笑った。
唯斗は冷や汗をかいた。
図星だ。
唯斗の欠点はホラーが苦手な事である。 お化け屋敷なんてもってのほか、機械だと知っていても失神する。
「覚悟は決めたか? といってももう後戻りは出来ないがな。」
『後戻りは出来ない』ならもう行くしかない。唯斗は覚悟を決めた。
「はい、よろしくお願いします。後籐先生。」
唯斗は唾を飲み込んで言った。
「ああ、ようこそ妖逆思学園へ。加賀谷唯斗君。」
唯斗達は握手をした。
それが恐怖だけど騒がしい新しい日常の始まりだった。
唯斗は後籐について行って教室に入った。
「ホームルーム始めっぞー席につけー」
そう言うと教室にいた人達は一斉に席についた。
「今日は新しい仲間が入る。こいつだ。」
「は、はい。加賀谷唯斗です。よろしくお願いします。」
そう自己紹介をしてお辞儀をした。
「席はあそこだな、閻魔の隣。」
そう言って後籐は空席を指差した。
唯斗は指定された席に座った。
隣では閻魔が笑顔で座っていた。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
状況を理解して唯斗は立ち上がって叫んだ。
「なんでって、クラスメイトだからに決まってるじゃん。」
閻魔は当たり前に言った。
「く、クラスメイト……?」
「何言ってるの。ここにいる全員唯斗のクラスメイトだよ。」
また閻魔は当たり前のように言った。
理解していた。
覚悟していたはずだ。
『ここにいる全員が妖怪』だと言うことを。
なのに身体は震えた。
「やっぱり、天国がいいぃぃぃー!!!」
唯斗はそう心から叫んで意識を失った。