一か月に一度の試練
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すこし不快に思われるかもしれませんが、よろしくお願いします。
たまの休日を、昼間まで寝過ごし、ソファーに寝っ転がって鼻くそをほじりながら、スマホでユーチューブを見ていると、ピコっとメッセージの通知が鳴った。開いてみるとそこには鬼のような長文で、「消えてしまいたい、頑張ってきた意味が無かった」的な文章が綴られていた。直視していると僕まで憂鬱な気持ちになるのでメッセージをそっと閉じた。前に一度彼女の心の闇をすべて受け止めようと思ったこともあったが、僕の小さすぎる器では全くと言っていいほど受け止めることが出来なかった。ちなみに彼女曰く、僕の器の大きさはペットボトルのキャップほどらしい。
僕には大変喜ばしいことに彼女がいる。高校生の時の同級生でなぜか彼女の方から告白してきてくれた。しっかり者の彼女はいつも凛としていて美しい。たまに抜けているところもあるのも可愛い、大人かわいいという種類の人間の中で最前列を走っている彼女を僕も好きだった。高2の時に付き合い始めて、三年以上の月日が流れて僕はクソニート大学生、彼女は短大を卒業し、スーパーサラリーマンをしている。スーパーサラリーマンとは超絶仕事ができるサラリーマンのことだ。
そんな彼女には、一か月に一度僕に対して妙に攻撃的になったり、逆に自分に対して卑屈になったり、する期間があった。それを僕は勝手に「試練」と呼んでいる。「今回こそはやってやる」と心に決めるとどこからともなく自信が湧いていた。そして今日は、土曜日だというのに頑張って働いている彼女のために僕が晩御飯を作ることになっていたはずだ。試練開始の時間は刻一刻と迫っていた。僕は英気を養うために動画アプリでかわいい女の子たちがゆるゆりする動画を見た。
後輪のタイヤの空気が毎日少しずつ抜けていっている原付にまたがり、先ほど見たアニメの主題歌を絶叫に近い音量で熱唱しながら彼女の家に向かった。歩道を犬の散歩をしながら歩いていたおじいさんにかなり怪しまれたけどそんなことは気にしない。僕の頭の中は彼女とさっき見たアニメのことでいっぱいだった。時刻は夕方の五時を回っていたが彼女はまだ帰ってきていないようだった。一人暮らしの彼女に代わって、洗い物をすまし、洗濯物をたたんで、彼女が毎晩包まって寝ているタオルケットに僕の匂いをこすりつけているときに通知が鳴った。スマホのロック画面に新しいメッセージが表示される。「会いたくない」とのことだった。「家に着いたよ」と送った直後だった。
今回は拒絶パターンとでもいうのだろうか。「考えろ僕」実際に彼女が会いたくないと思っているのであれば、僕は何かやらかしているはずだ。拒絶される所以が。僕が今日したことといえば、ちょっとめんどくさくて分別せずにお菓子のゴミを捨てたこと、妹の楽しみにしていたプリンを勝手に食べたこと、近所の小学生にサンタクロースなんていないということを論理的に説明したぐらいだった。あ、あと嫌いなピーマンだけ残したな。恥ずべき事は何もしていなかった。拒絶される心当たりが無かった。とりあえず彼女の家にもう着いていたので「遅くなるみたいだから、買い物だけ行ってくるね」と送るとすぐさま、「買い物は自分で行くからいい」、「会いたくないから帰って」と返信が返ってきた。天才的な僕の頭脳は活動を始め、即座に3つのプランを導き出した。
まずプランAは、彼女の言葉をありのままに解釈し、彼女はいま自分に会いたくないのだろうと判断、速やかに家に帰ることだ。そして僕は、ゆるゆりしたアニメの続きを見る。僕の天才的な頭脳は猛烈にこのプランAを押している。自重しろ僕のクソミソ脳細胞。仮に彼女が僕からの「帰らない、君といたいから」←イケボ、待ちだった場合、彼女が僕の家まで来て、アニメを見ながらニヤニヤしている気持ち悪い僕の顔面に右ストレートをぶち込むところまで明確に想像できた。痛いのはやだ。見送る。
次にプランBは、彼女の「会いたくない」の行間を読み「君が会いたくなくても僕が会いたいから」的なニュアンスのことを言うものだ。一見正攻法のように見えるこれは、落とし穴がある。普段は優しく、聖母のような包容力があり、クールで可愛いのだが、ハイパーやさぐれモードになった彼女は、クソニート大学三年生の僕をこれでもかと言うくらいコテンパンに潰しに来る。そんなんじゃ社会で生きていけないとか、好きなことをしに大学に行っているのにやる気が感じられないとか、正論で潰しにくるものだから、僕は生まれてきたことを彼女の前で涙ながらに懺悔することになる。もちろん僕はハイパーやさぐれモードの彼女のことも好きだ。しかし、今回はハッピーなエンドを迎えるつもりだから、プランBも見送ろう。
そこでプランCだ。名付けて一回帰ったと見せかけて作戦だ。彼女の「会いたくないから帰って」というLINEに「わかった、勝手に来てごめんね」と返信して僕が帰ったと思わせる。そして、僕に見放されたと思い、失意のどん底にいる彼女に後ろから抱き着き「おつかれさま、マイハニー」←超絶イケボ、の一言だ。か、完璧すぎる。自分の才能が怖くなってきた。帰ったと思っていた大好きな彼氏が後ろから抱きしめて愛の一言、これだったらスーパーやさぐれモードの彼女であっても、一気に癒され、僕とのスーパーいちゃいちゃモードへと移行するだろう。やっぱり僕は優しい彼女が一番好きだ。
思い立ったら即行動だ。彼女が仕事を終え疲れ果てて帰ってくるまでもう時間がない。プランCの文面でメッセージを送るとと彼女からの電話が何度もかかってきた。無視するのは心苦しかったけれど、これも優しい彼女といちゃいちゃするための布石、そしてこの試練を僕は乗り越え彼女との絆をより深いものにする。僕の英気は十分に養われていたのである。やはり、ゆるゆりしたアニメの効果は絶大だった。
11月のまあまあ寒い夜に一人で彼女の帰宅を待っていると彼女の車が帰ってきた。僕は見なくても音だけで彼女の乗っている車を当てることができた。何もない僕の唯一の特技といってもいいかもしれない。
病みまくり鬼長文ラインといい、鳴り止まないほどの電話といい彼女はかなりまいっていたようだ。仮にプランAいった場合、僕が顔面を殴られていたことは不可避だっただろう。実際に見ると彼女は痛ましかった。肩が前に落ちてトボトボ歩いている。が、その姿も可愛かった。痛ましくも、可愛かった。物陰に隠れて見ていることができず、僕よりも頭1つ分小さな彼女を抱きしめ「おつかれさま、マイ」と言ったところで世界がひっくり返っていることに気がついた。
「で、言い訳があるのなら聞いてあげるわよ?」
顔の形が変わったのではないかとおもうくらい殴られた。完璧だと思っていた僕のプランCは彼女の背負い投げからの顔面サンドバッグという悲惨な結果をもたらした。彼女は僕の顔を見て嗜虐的な笑みを浮かべていた。どうやら僕の顔面を生贄に今回の試練は終了した。サディスティックな彼女の表情もやっぱり好きだった。今回気づいたことは彼女が僕よりも確実に強いということ、そして僕はもしかしなくてもMだということだった。彼女に関する新発見と性の新たな扉の解放に僕の胸は躍っている。しかし、結果として今回も僕は試練を二人が幸せな形で乗り越えることが出来なかった。果たして僕が試練を乗り越えることが出来る日がくるかは今のところはわからない。
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