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8.本物でした


 ワイバーンを三体、討伐した。

 その安堵から、ロキは急に力が抜けて、しばらく地面に倒れこんでしまった。しかし、すぐに思い出したように勢いよく身体を起こし、自分の身体を確認する。

 

 丸みをおびた細く小さな身体。

 両手で頬に触れると、弾力があり、すべすべとしていた。

 茶髪だった髪も、白金髪になっている。

 やはり、少女になっているのは間違いない。

 

 これがユニークスキル『魔法少女』なんだろうが、状況が全く分からない。

 絶望している人を魔法少女にできるとあったが、一体どういうことなのだろう。


 モコモコの服を確認していたとき、ロキはあることに気が付いた。

 ――服が、脱げない。

 別に、少女になったのをいいことに、いやらしいことをしようとしたわけではない。

 ぴったりと肌に張りついて、ほとんど動かすことができなかった。


「え、トイレとか、どうするんだろ……?」


 状況に混乱しすぎて、もっと大切なことがあるはずなのに、そんなことを呟いてしまう。

 少し考えて、自分が女性になっていることに顔が熱くなった。

 ロキは、女性パーティにいたものの、免疫はなく、恋人がいた経験もなかったのだ。


「そ、そうだ! とりあえず素材を剥ぎ取らないと……!」


 混乱しながらも、持っていた短刀で、ワイバーンの身体を剥いでいく。

 まだ温かいワイバーンの身体から、血が噴き出て、ロキの白い服を汚した。

 

 ワイバーンのような上級のモンスターには、核となる魔石が体内に埋められている。

 一人では、素材まるごとは持って帰れないため、今回はその魔石のみ持ち帰ることにした。それが討伐の証明になるだろう。

 体内から握りこぶしほどの魔石を見つけて、すでに汚れている服で拭き、カバンの中に三つ入れる。


 ロキは、すぐに街へと向かった。

 森を抜けるまで、Eランクのスライムやスケルトン、Dランクのゴブリンなどが襲いかかってきたが、一蹴できるほどに強くなっていた。

 やがて森を抜け、ようやく高ぶっていた心が落ち着きはじめる。

 

(このまま帰っても、この姿じゃ僕って分からないんじゃ……)


 今さらそう気がついて、青ざめた。

 ロキは別に、少女として生きたいわけではないし、16年間使ってきた元の身体にも愛着はある。

 まさかこのまま、この身体で、少女として生きていかなくてはいけないのだろうか?


「ど、どどどうしよう……! も、戻れ……戻れ、戻れ」


 不安になって念じていたら、突然ふっと力が抜けて、元のロキの姿に戻った。

 痩せて、青白くはあるが、男の身体だ。服も元に戻っていた。


「あ、戻った! よかった……」


 ロキはほっと息を撫で下ろして、再び街へと向かった。



***



「あ、ロキさんじゃないですか! よかった。ワイバーンの討伐はやめたんですねっ!」


 冒険者ギルド『黒龍(こくりゅう)(まくら)

 扉を開けた途端、受付嬢のエマに大声で叫ばれ、ロキは、ギルド中の注目を浴びることになった。

 しかも、ちょうど昼時で、ギルドには冒険者が数多くおり、不運にもルーラパーティのメンバーもそろっていた。

 きっと、ロキがクビになったことは、顔なじみの冒険者たちに知られてしまっているだろう。

 エマに悪気はないだろうが、少し空気を呼んでほしいと、ロキは思った。


「いえ、行ってきました」


「えっ、行ってきたんですか!? じゃあ、途中で引き返されたんですねッ!」


「いえ、何とか討伐できました」


「そりゃあそうですよ! ロキさんはサポートタイプですし、Aランクのワイバーンなんて……って、今何て言いました?」


「ギリギリでしたけど、討伐できました。確認をお願いします」


 ロキはそう言って、ワイバーンの魔石を3つ、ごろりと受付のカウンターに置いた。

 エマは目を丸くして、魔石をまじまじと見る。


「こ、これは……! すごい! 本物そっくりですね!」


「い、いえ、一応本物ですけど……」


「またまた! 本物なら、どうして3つもあるんですか?」


「ワイバーンは3体いたんですよ」


「なるほど3体……えっ、3体ですか……?」


 エマはドン引きしているような表情で、ロキを見た。

 嘘を言うにも、盛りすぎたという顔をしている。エマはロキがワイバーンを討伐したとうことを全く信じていないようだった。


「嘘みたいなんですけど、本当なんです……」


 近くにいるルーラにあまり聞かれたくないのか、ロキはだんだん小声になっていく。

 背後から痛いほど、ルーラの視線を感じて、早くこのギルドから立ち去りたかった。

 案の定、楽しそうな表情をしたルーラが近づいてきて、ロキはげんなりした。


「今朝ぶりね、ロキ! そんなニセモノ、どこで作ってきたのかしら?」


「……ルーラ。これは本物だよ。がんばって、ワイバーンから剥ぎ取ったんだから」


「嘘を言いなさい。あんたがソロで、ワイバーンを討伐できるはずがないでしょう。今に大恥をかかせてやるわ! エマ、その魔石が本物か、鑑定してきてちょうだい!」


「あ、はい……じゃあ鑑定してきますね、ロキさん……元気出してください……」


 ルーラの言葉に、エマは気の毒そうな表情でロキを見て、裏へ去っていく。

 数十秒後、慌ててエマは戻ってきた。


「ほ、ほ、本物でした!」


 エマの大声に、ギルド内がざわついた。

 ルーラも信じられないような目で、ロキを見ている。

 ソロでワイバーン3体を討伐できるような冒険者は、この場ではルーラぐらいしかいなかったからだ。


「ふ、ふん! どうせ強い冒険者を雇ったんでしょう? Bランクの錬金術師に、ワイバーン3体の同時討伐なんて、できるはずがないわ!」


「……別に信じてくれなくていいよ。運がよかったのは本当だし。それよりエマさん、報酬を頂けますか?」


「あ、そうでしたね! こちらワイバーン討伐報酬の金貨3枚と、契約金銅貨35枚の返金です」


 差し出されたお金を受け取って、ロキは目を輝かせた。

 金貨など、手にしたこともない。しばらくの間、まじまじと見つめたあと、はっとして、慌ててカバンにしまった。


「あの、オーファンさんに話があるんだけど、今いますか?」


「いますよ。あの人、ここに住んでますからね。じゃあ、どうぞこちらへ」


 エマさんに案内されて、再びギルドの中へ入っていく。

 その間、ルーラはずっと不審にロキを見つめていた。



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