7.魔法少女誕生
「ぐ……っ!」
目を開けていられないほどの眩しい光に、ロキは両目を覆った。
やがて、身体を覆っている光が晴れていき、おそるおそる目をひらく。
見慣れない両足が視界に入り、危険な状況も忘れて、ロキは固まってしまった。
そこにあったのは、見慣れない白く細い足だった。
太ももギリギリの、モコモコとした素材の白いショートパンツに、太ももまである白く長い靴下。靴は、同じくモコモコのショートブーツを履いている。
ロキも痩せ型ではあるが、明らかに自分の足ではない。
そもそも服が全く違う。
ロキは衝動的に、胸を触った。
――ある。
控えめなふくらみが、ある。
「は……?」
ロキは興奮するでもなく、青ざめた。
女性になっている。
一体何が起きているのか、全く分からなかった。
上衣はショートパンツと同じ、モコモコ素材の半袖パフスリーブの服。襟元に真っ赤なリボンが装着されている。
髪は金交じりの白髪で、肩ほどの長さのショートボブ。小さな耳も生えている。
ロキの面影はなく、とても可憐な少女の姿である。
「そ、そうだ、ワイバーンは……ッ!」
思い出したよう叫んだ声は高く、可愛らしい少女の声だ。
ワイバーンはすぐ近くにいた。
しかし先ほどロキから放たれた凄まじい光のせいか、眩暈状態になっており、頭をふらつかせ、動けないでいるようだった。
ロキは慌ててカバンから煙幕を取り出して、放り投げた。
再び、白い煙が周囲を包み、すぐに草陰に身を隠す。
(な、なにが起きてるんだ……!)
ロキは混乱しつつ『鑑定スキル』で自分の能力を確認する。
光に覆われる前、『ユニークスキル、魔法少女、発動』と聞こえたような気がしたからだ。
自分の所持スキルが、文字となって目の前に現れる。
魔法少女誕生:U
■絶望している生き物を魔法少女にすることができる。
錬金術 :S
鑑定 :A
剣術 :B
弓術 :C
体術 :E
「は……?」
スキルが全て、二段階も上がっている。
鑑定スキルがAランクになっているおかげか、ユニークスキルの詳細まで確認することができた。
「……ッ、今は、ボーっとしてる場合じゃない!」
煙幕の効果が切れつつあることに気がついて、慌ててカバンの中身をひっくり返した。
今から逃げても遅い。
煙幕が晴れたら、再びワイバーンに襲われてしまうだろう。
理由は分からないが、今、ロキの錬金術のランクはSになっている。
ならば、対抗できるアイテムを調合できるはずだ。
ロキはすさまじいスピードで調合を始める。
先ほど森で採取した、ヒカリ蟲と手持ちの薬品を混ぜる。ものの数十秒でそれは完成した。
煙が晴れたのと同時に、ロキはそれをワイバーンの目前に投げる。
Sランクの閃光弾。
それは凄まじい光を放ち、再びワイバーンたちを眩暈状態にさせた。
これであと数分は時間をかせげる。
ロキは再び、調合をはじめた。
採取したドクドク草を溶かし、薬品と混ぜたものを、手持ちの弓の矢先全てにたっぷりと付ける。
今、ロキの弓術はランクC。
この距離なら、当てるぐらい、造作もないことのはずだ。
弦を強く引き、眩暈を起こしているワイバーンの一匹に照準を当てる。
ワイバーンの弱点は目だ。
ロキは弦を離した。
矢は真っ直ぐに、ワイバーンに向かっていき、金色の目に貫通した。
ワイバーンのすざましい悲鳴が響き、森が揺れる。
ワイバーンは毒状態になったようで、ふらついた後、やがて動かなくなり、地面に伏した。
ロキは続けて、もう一体のワイバーンに向かって矢を放つ。二度外して首に刺さったが、三度目で目を貫通し、同じく動かなくなった。
残り一体。
しかし、矢も残り一本だった。
集中して矢を放つも、矢はワイバーンの瞳を外れ、胴体に刺さってしまった。
しかし毒状態にはなったようで、ワイバーンは口から血を吐きはじめた。
眩暈状態が解けて、正気に戻ったらしいワイバーンは、ギロリとロキを睨んだ。
――もう、一か八かだ。
ロキは地面に転がっていたポーションを飲み干した。
ロキの剣術は現在、Bランク。ポーションのおかげで少し身体強化されているはずだ。
対して、相手は毒状態のワイバーン。
いけるはずだ。
ロキは地面を蹴って、思い切りワイバーンに向かって、短刀を振りかぶった。
「うわああああああああッ!」
刃先が、ワイバーンの目に埋もれる。
途端にワイバーンは凄まじい悲鳴をあげて、その衝撃でロキの身体は吹き飛んだ。
慌てて身体を起こすと、ワイバーンはゆっくりと地面に倒れ、動かなくなった。
地面には、三体のワイバーンが力なく倒れている。
「と、討伐できた……僕が、一人でワイバーンを……」
ロキは信じられないように、そう呟いて、地面に倒れ込んだ。