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5.シヤハの森


「ロキさんがソロでワイバーン討伐ッ!? 無理無理、絶対無理ですよッ!」


 ロキはさっそく受付に行き、ワイバーンの討伐依頼を受注しようとした。

 しかしギルドの受付嬢――エマは、とんでもないとばかりに大きく首を振る。

 第三者から見ても無謀なのかと、エマの反応を見て、さらに不安になった。


「やっぱ、無理ですかね……?」


「ワイバーンはAランクのモンスターですよ! アタッカーでもない、Bランクの錬金術師であるロキさんが、ソロで討伐できるモンスターじゃありません!」


「危なくなったら逃げるので、受注だけさせて頂けませんか?」


「何を言ってるんですか! ワイバーンはとても速いモンスターです! 一度見つかったら、人間の足では逃げられませんよ!」


 エマは声を荒らげた。

 ギルドの受付嬢ならば、今までに顔見知りの冒険者の死は、何百回と見てきただろう。

 しかし、確実に死ぬと分かる討伐依頼を受注させるのは、さすがに気が引けるようだ。

 

(どう説得しようかな……)


「受注させてあげればいいじゃない!」


 ロキが考えていたとき、突然背後から聞き覚えのある、高飛車な声が聞こえた。

 振り返ると、見知った顔がニヤニヤと馬鹿にするようロキを見ている。

 昨日までロキがいたパーティのリーダー、Sランク女冒険者のルーラである。その後ろには、昨日までパーティを組んでいたメンバーもいた。

 できればもう二度と会いたくなかったロキは、思わず顔をさっと逸らした。


「あ、ルーラさん! おはようございまーす! 今日もお綺麗ですねー」


「おはよう、エマ。あなたこそ、今日もすごく可愛いわね、男臭いギルドに可憐な花が咲いているようだわ。話を戻すけれど、受注させてあげなさいよ。A級ランクの依頼は、B級以上のスキルを所持している者なら、誰でも受注できるはずでしょ?」


「そ、それはそうですが……いいんですか? このままじゃ、ロキさんは99.999%、死んでしまいますよ。パーティの大事な錬金術師でしょう?」


「こいつはもう、私のパーティメンバーじゃないわ。新しいAランクの錬金術師――メアリーちゃんが入ったから、こいつは昨日限りでクビにしたの」


「えっ、そうだったんですか……?」


 それを聞くやいなや、受付嬢のエマは、気の毒そうな視線でロキを見た。

 知られてしまった。

 ロキは気まずくて、目を合わせられなかった。


「こいつは馬鹿だけど、さすがにそこまで馬鹿じゃない。ワイバーンに殺されるぐらい分かるはずよ。それでも、このAランクの依頼を受注した。つまり、私の華やかなパーティをクビにされたことがショックで、死にたいのよ。死にたがりには、死なせてあげればいいじゃない」


「ち、ちがうよッ!」


 あまりの酷い言いぐさに、ロキは口を挟む。

 ローラの薄紫色の瞳をキッと睨んだ。


「僕にだって、考えがあるんだ。黙って死ににいくわけじゃない!」


「あらそうだったの。でも、アタッカーでもないあんた一人でどうやって、ワイバーンを討伐するつもりなのかしら?」


 ルーラは心底楽しそうにそう言った。

 そこに、ロキとの永遠の別れを心配する様子はない。

 短い間ではあったが、一緒に行動をしていた元仲間だというのに、これほど非情になれるものなのかと、ロキは悲しくなった。


(僕は、ルーラが死んだら悲しいのに……)


 ロキはくちびるを噛んで、振り返ってエマを見た。


「……エマさん。僕にも考えがありますから、ワイバーンの討伐依頼、受注させてください」

 

 はっきりとそう告げる。

 すると、エマはおずおずとうなずいた。


「うう……そこまで言うなら、分かりましたよ。では、改めて依頼について説明しますね。この依頼は、この街から南東に進んだシヤハ森に生息しているワイバーンを討伐するというものです。難易度はAランク。成功報酬は金貨3枚。契約金は銅貨35枚です」


「はい」


 ロキは返事をして、銅貨35枚をエマに渡した。

 依頼には必ず、契約金が発生する。

 達成すれば全額戻ってくるが、失敗や撤退した場合、戻ってこない。冒険者ギルドは、冒険者が払う契約金や、依頼主とのマージンで生計を立てているのだ。

 

 ロキの残金はこれで銅貨1枚。

 もう何もできないような、有り金だ。


 ロキは、相変わらず馬鹿にするように笑っているルーラと目を合わさずに、立ち去ろうとする。

 ギルドの扉を開けようとしたところで、元パーティメンバーの三人と、新しくロキの代わりに入った、錬金術師のメアリーと目が合った。

 

「ロキちゃん、ワイバーン討伐するの? たぶん死んじゃうと思うけど、気を付けてねー」

「ロキさんっ! ファイトです! 0.01%ぐらいの確率で生きて帰ってこれますよ! がんばってください!」

「ロキ、バイバイなのです!」

「後は後任の私にまかせろー」


 上から、ヒストリア、スノー、レイス、メアリーだ。

 心配しているのかしてないのか、よく分からない声をかけられて、ロキはぎこちなく笑った。

 嫌われてはいないようだが、扱いがとにかく雑すぎるのだ。



***


 ギルドを出てすぐに、ワイバーン討伐に向けての準備をはじめた。

 錬金術に必要な道具は携帯していたので、広場の人気のない草むらで、こっそりと回復薬を作る。

 十分ほどして、ポーション(B)が5つできた。

 ポーションも、出来栄えや効能で、ランクがEからSまであり、ロキが作れるのがBランクのポーションだった。これを飲めば、体力が8割回復し、少しだが身体強化の作用もある。

 ワイバーン討伐の道具としては、かなり頼りないが、ないよりはマシだろう。

 

 ポーションを布製の肩掛けカバンに詰めて、ずっと使っていなかった短刀を腰に差す。ないよりマシだと、弓も背中に背負った。

 ロキは立ち上がって、両頬をぱちんを叩いた。


「よし、行こう」


 ロキは街を出て、シヤハの森へ向かった。

 


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