4.信じるしかない
「き、きき金貨3枚ッ!?」
「そうだ。金貨3枚を明日中に用意しろ。話はそれからだ」
「どうして急にそんな話になるんですか!? お金は先ほど、銅貨450枚を払ったでしょう!?」
「それは鑑定の代金だ。お前のユニークスキル『魔法少女』を発動させるためには、莫大な金がいる。これはそのための対価なんだよ」
オーファンは顔をニヤつかせながらも、きっぱりとそう告げる。
ロキは思わず椅子から立ち上がって、焦燥の表情を浮かべてオーファンを見た。
「そ、そんな大金、明日中なんて絶対に無理ですよ!」
「方法ならあるぞ」
オーファンは待ってましたと言わんばかりに、にやりと悪どい笑みを見せる。
ロキは、嫌な予感がした。
そしてその予感が当たっていることに、ロキはすぐに気が付くことになる。
「ちょうどこのギルドに、報酬が金貨3枚の依頼がきているんだ。それをやれば、金貨3枚が手に入る」
「金貨3枚が報酬って……依頼のランクはいくつなんですか?」
「たしかAランクの依頼だったな。ワイバーンの討伐だ」
何てことないように、オーファンは言う。
ワイバーンの討伐。
とてもロキ一人で、達成できるようなレベルではなかった。
何しろワイバーンはAランクのモンスターだ。サポートタイプである、Bランクの錬金術師がソロで戦えるモンスターではない。
そもそも、ルーラぐらい強くなければ、Aランクの依頼など複数人で行くのが定石だった。
「ワイバーンの討伐なんて、無理ですよ! 僕はBランクの錬金術師なんですよ? パーティからも追い出されたばかりだし……」
「何だお前、ソロなのか? なら、なおさら都合がいいじゃねぇか。パーティで攻略したら、報酬は山分けになっちまう。だから、お前がソロで達成するしかねーんだよ」
「む、無理です! 死んでしまいますよ!」
「できる」
オーファンは、きっぱりと言い切った。
その言葉は、どこか確信を持っているように、感じられた。
「これは、お前のユニークスキルを覚醒させるために、絶対に必要なことなんだよ」
「こ、これが必要なこと、ですか……?」
「ああそうだ。俺を信じろ」
真剣な表情で、オーファンが告げる。
――いやいや、とロキは首を振った。
信じられるわけがない。何しろ、オーファンとは会ったばかりで、どんな人物なのかも分からないのだ。
もしかしたらいつもこうして、無知な依頼者を騙して、金を騙し取っている可能性だってある。
(そうだ。オーファンさんが本物なのか、僕の鑑定スキルで見てみれば……)
そう気が付いて、ロキは自身の『鑑定』スキルを発動させる。
オーファンの顔の周りに、文字が浮き上がった。
鑑定 :S
人材教育:A
危機感知:A
剣術 :B
体術 :B
ものすごいスペックだ。
そのへんにいる冒険者よりも、ずっと強い。
少なくとも、Sランクの鑑定スキルを所持していることは間違いないらしい。
それに、人材教育と危機感知のAランクも所持している。
ロキは再び椅子に座って、考えた。
この際、Aランクの依頼であるワイバーンの討伐については、考えなくていいような気がした。
考えるべきはオーファンを、信じるのか、信じないかだ。
もし、オーファンに悪意がなく、全てはロキのユニークスキルを覚醒するために言っていることなら、言動の全てに意味があるのだろう。何しろ、人材教育と危機感知のAランクも持っている。言うとおりにすれば全てうまくいくはずだ。
しかし一方で、オーファンに悪意があるのなら、ロキはワイバーンに殺されてしまうだろう。
ロキはごくりと唾を飲み込む。
オーファンに騙されているのか?
信じるのか、信じないのか。
その答えは、もう決まっていた。
「……分かりました。僕は、オーファンさんを信じます」
ロキはそう答えた。
残りの金はもう、銅貨36枚しかないのだ。
後戻りはできない。
それに、少し接しただけだが、オーファンは信じられる人物のような気がした。
ロキの答えを聞いて、オーファンはにやりと笑った。
「賢い奴で助かるぜ。じゃ、話はここまでだな。受付で依頼を受注してきな。ちゃんと準備してから行けよ」
「はい。ありがとうございました」
「――行っておくが、最後はお前に賭かってるし、運の要素も強い。そのときはおとなしく諦めろよ」
最後にそんなことを言われて、ぞくりとする。
ロキは両手をぎゅっと握って、オーファンに一礼して部屋を後にした。