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2.ユニークスキル

 

 日が暮れて、辺りが薄暗くなっていく。

 ロキはひとり、人気のない広場のベンチに座ってパンを食べていた。

 パンは大きなバケットで、酒場で拾い集めた銅貨を2枚使って、先ほど買ったものだ。


 酒場で拾った銅貨は、全部で488枚だった。

 几帳面なルーラはきっちり500枚入れていただろうから、きっと拾い忘れがあったのだろう。今のロキには、その拾い忘れた12枚すら勿体なく感じた。

 残りの金は銅貨486枚。

 銀貨1枚と銅貨100枚の価値が同じなので、全財産は銀貨5枚弱ということになる。

 

「ルーラにしては……けっこうくれたな……手切れ金……」


 そうひとりごちてから、ロキは思い直すように、大きく首を振った。

 そもそも今まで、報酬の分け前を全くもらえなかったのだ。それを考えると足りないぐらいだった。

 思い返すとモヤモヤしてきて、感情を打ち消すように、一気にパンを口に放り込んだ。そのせいでむせてしまい、慌てて水をごくごくと飲む。


 ルーラのパーティに入ったばかりのとき、ロキは夢心地だった。

 何しろ、ルーラはSランクの冒険者で、女性でありながら勇者候補の一人だったからだ。

 数少ない錬金術師でよかったと、心から思った。


 この世界には、ダンジョンと呼ばれる迷宮が乱立している。

 冒険者たちはダンジョンの攻略や、冒険者ギルドからの依頼を請け負って、その結果によって冒険者としてのランクを競っていた。

 難攻不落のSランクダンジョンは、この世界に3つあり、未だかつて誰も攻略に成功していない。

 その3つのダンジョンを攻略した人間が、勇者の称号を手にすると定められており、冒険者たちはこぞってこのダンジョンの攻略を目指していた。

 Sランク冒険者のルーラは、今一番勢いがあり、いつかSランクのダンジョンを、攻略するのではないかと期待されている。そんなパーティに、ロキはいたのだ。

  

「これからどうしよう……」


 全財産は銀貨5枚弱。

 堅実に生きるなら、冒険者として生きるのは諦めて、錬金術師のはしくれとして、ポーションなどのアイテムを作って、生計を立てるのが一番だろう。

 しかし、ロキの錬金術スキルはBランク。

 高品質のポーションAやSはとても作れず、市場で飽和しきっているような、並みの回復薬かそれよりマシ程度のものしか作れない。

 貧しい暮らしになるのは、確実だった。


(……そうだ。久々に、自分のスキルを鑑定してみよう。上がってるかもしれないし)


 ロキは何となくそう思い、もう一つの所持スキル『鑑定』を発動させた。

 自分のスキルが、目の前の空間に文字となって現れる。

 

 魔法少女:U

 錬金術 :B

 鑑定  :C

 剣術  :D

 弓術  :E


 以前見たときと全く変わっていない。スキルアップはしていないようだ。

 ロキはがっかりして、うなだれた。


 ちなみにスキルランクはE~Sまであり、最上位のSランクは、とても珍しい。

 才能と努力を兼ね備えないと、Sランクにはなれないと言われていた。


「それにしても、この魔法少女って……一体、どんなスキルなんだろうなぁ」


 うなだれたまま、ロキはひとりごちる。

 魔法少女、というのは、ロキが生まれたときから所持している、ユニークスキルで、詳細は不明だ。

 ユニークスキルというのは、『剣術』や『魔法』のような固定スキルとは違い、普通では取得できないスキル。つまり唯一無二の生まれ持った特別なスキルのことだ。10万人に1人程度の確率で発生すると言われていた。

 ロキは所持スキルを調べることができる『鑑定』スキルを所持しているが、Cランクでは、ユニークスキルがどんなものかまでは分からない。

 ユニークスキルの詳細を知るためには、Sランクの鑑定士に見てもらう必要があり、結構な金がかかるため、貧乏だったロキはその機会がなかった。

 男なのに『魔法()()』という名称から、ルーラにも馬鹿にされそうで、このことは早くに他界した両親以外、誰も知らなかった。

 

 ふと、ロキは生き抜くための、もう一つの案を思いついた。

 今ここに、銀貨5枚分の金がある。

 この金で『魔法少女スキル』をSランク鑑定士に鑑定してもらうというのは、どうだろう。

 もしこのユニークスキルが特殊なもので、需要の高いスキルだった場合、これから金に困ることはなくなる。

 

 しかし、ユニークスキルといえど、ハズレは多々ある。

 むしろ、ハズレの方が多いぐらいだ。

 ロキが今まで会ったことのある、ユニークスキル所持者は、『対象者の背中をかゆくするスキル』や『対象者の毛髪を抜けやすくするスキル』など、何てコメントをしていいのか分からないほど、微妙なスキルだった。

 もし金にならないユニークスキルだった場合、貴重な金をほとんど失うことになってしまう。


(……かなり微妙な賭けだけど)

 

 ロキはそう思いつつも、もう心は決めていた。

 このままBランク錬金術師として、アイテムを売ったところで、貧しい生活のままだ。

 ずっと気になっていた、ユニークスキルを調べるチャンス。

 パーティをクビにされたことで、自暴自棄になっていたロキは、そう決めた。

 Sランクの鑑定士は、パーティ時代によくお世話になっていた、街一番のギルド『黒龍(こくりゅう)(まくら)』に在住している。

 明日一番に、鑑定してもらいに行こう。

 そう思った。


「そうと決まったら、今日はもう寝よ……」


 ロキはベンチに寝そべって、薄い白衣をかぶる。

 広場で一夜を明かすことにした。



★補足★

銅貨1枚=100円

銀貨1枚=10,000円

金貨1枚=1,000,000円

ぐらいの価値のイメージです。

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