新任教師
死神を中心にして繰り広げられる壮絶な戦争。その《平和大戦》から数年経った世界。科学技術の進歩にともなって豊かな文明を築いてきた国、超次元帝国。世界三大学院の一つスカルフォース学院に新任教師としてやって来た陰宮レイ。そこで出会ったのは優秀すぎる生徒たち。
ゼン大陸の中心に位置する国、超次元帝国。
約8000平方kmにもおよぶ世界一面積の広い超巨大国家である。そしてその国全体を覆うように透明な魔術防壁が施されている。
人々の生活の場は高度な科学技術と魔術がうまく調和しあって、お互いの長所を活かした独自の生活習慣が築かれていた。
『シャドウ?』『誰それ?』『平和大戦の隠れた英雄』『5人目出現』『シャドウカッコイイ』『本当?』『噂だろ?』『最強あらわる』『幻の英雄』────────。
ネット上で突如呟かれた、その得たいの知れない存在に人々は注目していた。
テレビのなかでもさまざまな学者たちが議論している。
『そんな噂を真に受けるとは』『なにを言う!もしそんな契約者がいたなら国家を揺るがす大問題だぞ!』
『いや、もしかすると世界さえも破滅する力を持っているかもしれん』──────。
超次元帝国入り口 ── 巨大な正門前に、黒のワイシャツに三日月に黒い目の模様がはいった青い色のメッシュのネクタイを着けている黒髪の男がたたずんでいた。
「いや~あっちー、つーかやっと着いたわ」
男はグッタリしながら、正門を一番上まで見上げると、入国手続き窓口で身分証のスキャンし正門が開かれた。
外の景色とはまるで別次元で、そこには高層ビルや完璧に舗装された最新鋭の電磁式道路、その上を電磁浮力で走るこちらも最新のライトモデルカー。どれもこれもが最新で今や他の大陸との世界貿易の中心となっている。
「活気あるな~」
しばらく正門前で立ち止まって町並みを眺めていると、とある建物の一角で叫び声が響いた。
「助けてー」
「いやー!はなしてください!」
「堅いこと言うなよ。俺らとちょ~っと遊んでくれれば良いんだよ」
「へっへっへ、俺らとカラオケでもいこうぜ」
金髪でホストのようなスーツ姿の男が、嫌がる女子学生の片手を掴んで強引に引っ張って、そしてもう一人の筋肉質の五分刈りの男が少女の後ろに回って逃げ道をふさいでいるかたちだ。
「おいおい物騒だな。」
するとすぐに正門前の黒のスーツに身を包む監視員二人が不良二人を取り囲んだ。
「その人を放しなさい!」
「あん!なんだよおっさんやんのか!おらー」
金髪のスーツ姿の男の方が死神の力を発動して殴りかかってきた。黒スーツは軽くかわして逆にストレートパンチで金髪をふきとばした。
一撃で金髪は気絶して動かなくなった。
「おごぁ!」
不意に叫び声がすると思ったらもう一人の黒スーツが血を流して倒れていた。
不良の五分刈りの方が力を使って暴れている。そして今度は端の方で怯えていた少女に迫る。
「まずい!・・くっ」
黒スーツが急いで助けに入ろうと駆け出したが間に合いそうにない。
「クソがー!」
少女に向かって豪腕を振るう。恐ろしさで目を瞑る少女、だが次の瞬間なんの痛みもこないことを感じるとゆっくりと目を開ける、そこには知らない男の人が立っていて五分刈りの拳を片手で受け止めている。
「なんだてめーは!」
筋肉ダルマが激しく激昂し、男の胸ぐらを掴もうとタックルの勢いで手を伸ばし迫る。しかし、その手を軽く受け流してかわした。勢いあまって筋肉の固まりはそのままとある店のガラスを突き破って倒れこむ。
「て、てめー!」
今度は殴る体制になってまっすぐ突っ込んできた。「はぁ~」とめんどくさそうな顔でため息を吐く男。
男の素人丸出しの大振りの豪腕を半身反らしてかわすと、まったく無防備な懐にわずかに力を発動させて拳を叩き込む。
五分刈りくんの巨体が宙に浮いて20メートルほど離れていた建物の外壁まで吹き飛ばされて激突した。
「ほらなにやってんの!早くこいつらを縛って連行しろ」
男は黒スーツの男にそう促すと「は、はい!」と素の返事をして不良二人を速やかに連行していった。
「やれやれ。今どきナンパなんてする時代遅れの骨董品が未だに生き残ってるなんてな~」
男は服に付いたほこりを落としながらさきほどの少女の元へ駆け寄った。
「あははは!まったく困っちゃうよねー。怪我なかった?」
「はい。ありがとうございます、おかげで助かりました」
その少女は白に若干薄紫色が入った長髪に藍色の瞳が吸い込まれるように煌めいている。
「そんじゃ俺はここで、さよなら」
「待ってください。良ければ何かお礼をさせてもらえませんか?」
「え~・・・」
さっきのお礼ということで屋台でクレープを奢ってもらい小さな公園のベンチに座って二人でいた。
「それで君は、その服装はスカルフォース学院の制服だよね?」
「あっ はい。今年の春に入学したばかりで、あっ私 村崎シャルルといいます」
「そっか~、俺は陰宮レイ。実は俺も今年からその学院で新任教師として赴任することになったんだ」
「え!、、、先生?なんですか?」
その娘が少し驚いた様子でこちらを見てくるので、(俺ってそんなに先生っぽく見えない?)と少しへこんだ様子を見せると。
「あっ、違いますよ。べつに先生っぽく見えないとかじゃなくて、同じ学校の関係者がこんな偶然な巡り合わせをしたと思うとちょっと不思議に思って・・・」
「そういえばそうだね。う~んとそれでこれから学院に向かうところだったの?」
「そうです。あ!一時間目が始まっちゃうどうしましょう。時計を見るのを忘れていました」
彼女が突然慌て出して俺も時計を見ると8時42分。確か50分から一時間目のスタートか。
「テレポート使えば一発だろ」
「私はまだテレポートで移動できる範囲が少なくて、学院まではまだ3キロほどありますしとても無理です」
「仕方ねーな。今回は特別だ。俺が送ってやるよ」
「え?でも先生も学院に行くのは今日が初めてなんじゃ」
「大丈夫だって。方角だけ分かれば良い。ここからどっちの方角だ?」
「南ですけど・・・」
レイは南の方角を向きながら懐からなにやら虫眼鏡のようなモノを取りだし、じっと見据えながら側面に付いているダイヤルを回して倍率調整をしていくと・・・。
「お!あったあった。そんじゃ行きますか」
そう言いつつ、少女をいきなり抱き上げる。これには彼女も目を丸くした。
「え、先生なにするんですか?」
「テレポート」
その瞬間、レイと少女の体が紫の粒子となり消えた───。
少女が目を開けるとそこは学院の生徒昇降口だった。
「え、うそ・・・」
「ふぃ~、ついたついた。よっと」
ゆっくり彼女を下ろしてやった。
「先生どうやってあれだけの距離を移動できたんですか?あんな距離を一度に移動できる契約者は学院でも学院長と理事長だけだと聞いてます」
「さーてね」
はぐらかすようにそう言いながら校舎に入っていく。
「君も早く教室にいった方が良いよ」
「そ、そうでした。もう1分しかない、間に合え~」
そして彼女は自らのテレポートで教室へと転移したようだ。そのあわてふためく様子で消えるのを苦笑いしながら見送ると、「さて」とレイは廊下を奥へと進んで学長室の前で止まった。
「失礼しま~す。学院長に挨拶を・・・・」
「おお、君が新人の・・・」
そこにいたちょび髭の小人みたいなハゲ丸出しのおじさんと俺はお互い驚いた顔で固まった。
ひとまず落ち着いて高級そうな来客用のテーブルと椅子に腰掛け、コーヒーをすする。
俺はこの学院長と面識がある。この人の名前は鉄中=ヒッチ大佐。いや今はただの学校の長だが、かつておこった、《平和大戦》で敵の政府と交渉して頭脳戦において手を尽くしてくれた。功労者の一人だ。
「久しぶりだねヒゲポン。まさか学院長をしてるなんてね」
「お前こそ、大戦後姿を消してどこにいたんじゃ。一人でよく生き残ったの~」
「まぁねー。他の連中はみんなどこに行ったんだ?」
「それがの~大変なんじゃ。実はの」
ヒゲポンは俺に耳を貸せとジェスチャーして、そこで知ったとんでも事実に身震いした。
「悪い冗談やめろよ。リリスがこの学院の理事長?」
「それがマジなんじゃよ!」
人差し指をたててシリアスな顔で言う学院長。
俺は天井を見上げて「マジか~」と呟く。俺とヒゲポンがなぜこんなにも渋くて嫌な顔をすのかと言えば、さきほどのリリスという人は平和大戦で背中を会わせて戦った契約者の一人だ。
美しい黒の長髪に闇色の瞳に妖艶さを持ち合わせている。見た目だけならこのうえない誰でも心を惹かれる女なのだが、それが問題だ。その美しさ故に一定時間見つめられた人間は男女関係無く虜にすることができる。
これはべつに魔術を使っているわけでも死神の力でもない。純粋な彼女の魅力である。
つまり俺たちが言いたいのは、ただの魅力だけでここまで人を操れる人間が学院というひとつの教育機関のトップに立ってしまっていることが非常によろしくない。
「ま、まぁ分かった。そんで他は?」
「他はみんなこの学校で教師をしておる」
「は!え!全員?みんな?」
「うむ」
俺はさっきかつての俺を知っているのは少ないと言ったが、どうやら知ってる人だらけのところに来ちまったらしい。オーマイガー。
「まぁしばらくは久しぶりの仲間に挨拶回りと自分のクラスへの挨拶が今日と明日のお前の仕事じゃな」
そう言って、ヒゲポンは俺の胸に出席簿をぺちぺちと当ててきた。
「そのようだな。めんどくせ~」
レイはだるそうに立ち上がり軽く挨拶して学長室を後にした。
「さて、まずは生徒の挨拶からか」
そうしてあるクラスの教室の前まできていた。
「2年4組、人数は・・7人しかいない!?」ぶつぶつ言いながら「こんにちはー」と勢いよく扉を開ける。
入室すると同時に生徒全員の視線が一気に集まる。うわ~気まずいわー。
「えー、今日から君たちの実戦科を担当する陰宮レイです。」
すると「ガタッ」と一人の少女が勢いよく立ち上がった。
「先生?」
その少女はさっきの娘だった。
「あ、さっきの・・このクラスだったんだ」
「はい。さきほどはありがとうございました」
「なに?シャルルこの人知ってるの?」
するとシャルルの隣の席の少女が不思議そうに聞いてきた。
「うん。正門前で怖い人たちに連れていかれそうなところを助けてもらったの」
「ふ~ん」
バラ色のエアリーボブの髪に前髪に一本長めの髪の束が垂れている。ジト目で怪しい人を見るように見つめてくる。
「シャルルの友達か?」
「シャルル?あんたら呼び捨てで良いくらい親しいの?」
その娘は疑いの目を向けて睨んでさえいた。
「べつに良いじゃん。これからはいつも呼び捨てになるだろうし、良いかなシャルル?」
レイはニコッと顔でシャルルに問う。
「私はかまいませんが、その~、この娘には敬語の方が良いかと」
シャルルが指差したのがさっきの隣の少女だった。
「ん?なんで?」
「この娘は超次元帝国皇帝陛下の御子息なんです」
「へぇ~。それが?」
キョトンとしているレイを見て逆に驚いているシャルル。
「えっと、驚かないんですか?」
「いやだって俺、皇帝陛下とは旧知の仲だもん」
その一言にシャルルはもちろん他のメンバーも驚いていたが、一番表情が変わっていたのは御子息様の方。
「あんたが私のパパの古い知り合い?・・・」
「うん。だから姫様だからって特別扱いはしません!そんじゃ出席とるぞ~。虹織ユイ」
「はいはーい!はじめまして先生。最初に言っとくと私とユアは姉妹です」
「へぇ~、ユアの方がお姉ちゃんかな?」
元気いっぱいの妹のとなりでおしとやかに頷く姉。
「姉妹でずいぶん温度差があるな・・」
「そこが良いでしょ!」
ユイは人差し指をたててウインクしてくる。
「確かにな、んじゃ次は、虹織ユア」
「はい。はじめまして先生。妹はこんなですがどうぞよろしくお願いします」
いまいち抑揚がない声で同じあいさつをしてくる。そういうところは姉妹だな。二人とも黒髪の後ろで三編み結いをしている。顔もよく似ていて見分ける方法は表情しかない。
「はいよろしく。次、眠露ラム」
「はい。私のことはラムと呼んでくださ~い」
一番前の席の耳が垂れ下がったウサギの白い着ぐるみ着用。藍色のクセっ毛で眠そうな少しおっとりした感じの娘だ。
「なんで着ぐるみ?暑くねーの?」
「ぐっはー」
すると突然机に顔を突っ伏して倒れこんだ。
「え、なにー!?」
レイの目の前でラムは顔を真っ赤にして汗だくになっている。
「これはまさか!新しい自分に生まれ変わる前兆か~」
「熱中症の始まりだよ!脱げばいいだろが。シャルル保健室連れてってくれ」
「は、はい」
「う~」と唸りながらシャルルにおぶさって教室を出ていった。
「はい次~、・・和京リン」
俺はさっきの気の強い少女にまた視線を移した。
「あなたからはたっぷり聞きたいことがあるわ!」
「あっそ、ちなみに俺は皇帝陛下とタメ口で話せる仲です!」
「はぁ?!タメ口?そんなの許されるはずないでしょ!私のパパはあんたみたいなパッとしない人間なんて興味すら持たないわよ」
長机をバンと叩いていってくるがレイはまったく動じない。
「机は叩くもんじゃありませ~ん。ていうかそんなに信じられないなら今度俺をお前のパパに会わせてくれよ。そうすりゃ一発で分かると思うけど」
レイの自信ありげな顔を見て、またもムッとするリン。
「次~、天文時サイカ」
「はい。僕の好きなものは宇治抹茶です。茶道部にも通ってます」
糸目で刀を机に立て掛けている少年。
「渋い趣味持ってんな。嫌いじゃないけど」
「まぁいいや、次で最後だな。天奉リンネ?ん?天奉ってもしかして」
「その通りだよ先生。俺の父は帝国治安部隊の隊長、天奉ジンテツだ」
その声の主はなんともイケメンのひとことに尽きる、鋭い目付きに銀髪に制服も着くずしている少年。
「ほ~、すごいな」
「そういやアンタ、学院長の誘いでこの学院に来たんだろ?」
「ああ。それが?」
すると
「実戦科担当ってことはそれなりに戦場で実戦を積んでるってことだよな?近いうちに手合わせしたいね」
さすがジンテツの息子といったところか、とても学生とは思えないほど自信に満ち溢れた顔をしている。
「いずれ機会があればな。そんじゃ今日は顔見に来ただけだから授業は明日からな。おつかれー」
レイは教室を出ると顎を擦りながら考える。
(なるほど、確かに個々の優秀性がありすぎることが問題だな。
コイツらとこれから2年間一緒か・・・・・・心配事しかねーよ!)
学院の敷地内にある図書館の管理人室で、ある男の履歴書をみて笑みを浮かべる女。
「生きてたんだ。・・・よかった・あ、明日顔見に行こうかな~、でも私あの頃に比べてさらに美人になっちゃたから誰だか分からないかも~うっふふ」
独り言を長々と誰もいないのに頬を赤らめている。
「は~、早く会いたいな~」
その女管理人は履歴書を胸に当てて赤く染まる空を見上げていた。
えー、端末に不具合が起きてしまい、しばらく書けなくなっていました。ですが最近ようやく直り、急いで書きました。今回もなかなか頑張ったと思います。ぜひ読んでみてください。