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小さな時物語

浮遊時計

作者: 時 とこね

 今日から、人間が空を飛ぶのも難しくなくなった。

 理由は簡単で、近年の魔導科学が発達が著しい事である。

 なじみのない人も多いかもしれないが、今では誰でも魔導を手軽に使うことが出来る時代である。例えば、ちょっとした道具を使えば、マッチ位の火力を一瞬だけ生み出すことが出来る。これが自分の体力の続く限り可能であるから、大抵のライターやらマッチやらを作る会社は倒産してしまった。私の知る限り、今も生き残っているのは一社だけだ。

 景気の悪くなった業界の影には、見紛うほどの急成長を遂げる魔導産業界があるのだ。

 特に、科学系魔導事業で今や世界最大手になったAlpha社はその象徴とも言えるだろう。

 いち早く魔導の科学化を提唱し、自社の社運を賭けた大研究の末に現代社会を成り立たせているといっても過言ではない。現代において魔導とはそれほど注目され、重要視されている。

 そこで初めの話題に戻るが、今日から人類が単体で空を飛ぶことも難しくなくなった。Alpha社の開発した「浮遊時計」は、人体の魔導を位置エネルギーに変換して、物体を浮遊させるという。私も科学に詳しいわけではないので良く分からないのだが、とにかく、体力は使うが宙に浮けるのである。この時計を使えば、イライラしながら信号を待つことも、ゆったりと遅いエレベーターの到着を待つことも無くなるだろう。それは言い過ぎた。普通の人間であれば十秒も浮遊できればいい方だ。才能とか装置の問題ではなく、生物エネルギーを位置エネルギーに変換するという割に合わない事をしているので、大目に見よう。

 ただ、今日から問題も発生しているようだ。登山家なんかがこの装置の購入者に多いらしいのだが、早速一名が転落死したらしい。この一件に関して当のAlpha社は、製品には一切の問題は無い、としている。

 確かに製品に問題は無かった。この浮遊装置はきちんと働いていたのだから。地上何キロからの落下の運動エネルギーを、生体エネルギーを使って位置エネルギーに変換する。まあ、落下中に落命したらしいからこれはこれで大発明だ。

 結局のところ、彼の死因は衰弱死だった。

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