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8/ジャンボパフェの恐怖

 こんにちは、今は彼方の要望どうり、繁華街に携帯を見に来ています。この繁華街、とても広くて、賑やかです。孤児院の周りにはこんなに賑わっている場所はなかった。人が多くて、人ごみが苦手な俺としては少しため息が出るような場所です。


「蓮君はどんな携帯がほしいの〜?」


 何気なく聞いてくる瀬戸。どんなって言っても、携帯に今まで興味が無かった俺は、携帯にどんな機能があるとか、どんな種類があるとかはよく知らない。


「瀬戸はどんな携帯持ってるんだ?」


「私は、CHOKIMOのA001iだよ〜」


「じゃあ、俺もそれ」


「えぇ〜? そんな決め方でいいの〜?」


「問題はない……だろ?」


「大有りだよ」


 この決め方にどんな問題があるって言うんだ。今時の女の子が使ってる携帯なんだ。めっちゃ使いやすいだろ! 多分。って危ない、危ない。携帯見に来ただけなのになんで買う気になってんだよ俺。


「だって私の携帯コレだよ?」


 と、瀬戸は自分の携帯を俺に見せる。

 瀬戸の手には、ピンク色のなんともかわいらしい携帯が握られていた。さすがに俺がコレを持っていると…………引かれるな。間違いなく引かれる。


「…確かに問題あるな」


「でしょ〜」


 そうこうしているうちに、目的地についたらしい。


「蓮、ここがCHOKIMOショップだ。どんなのあるか見てみろよ」


 店内に入ると、若いお姉さんが俺たちに営業スマイルでいらっしゃいませを言ってきた。俺は適当にその辺にある携帯を眺める。

 だめだ、全部同じような携帯に見える。何が違うって言うんだ。形がそれぞれちょっとずつ違うくらいしか違う点は俺には見受けられない。


「……どれでも一緒じゃないか」


「や、全然違うだろ。よく見ろって」


 彼方の目にはすべて違う携帯に見えるらしい。


「違わないだろ」


「違うって」


「違わない!」


「違う!」


「うるさい!」


 神谷が俺と彼方の間に入って怒鳴ってきた。いや、正確には俺に怒鳴ってきた。なぜ!?


「全部違うに決まってる!」


 だそうだ。なんだ、こいつら気があってるじゃないか。2人によって否定された俺は、瀬戸に助けを求めた。


「違わない……よな?」


 少し迷ったように顔を俯かせたあと、瀬戸はこう言った。


「私も……違うと思うな〜、なんて」


 出たよ。そっか、俺だけか。もしかして俺仲間はずれ? 初日で早くも?


「まぁ、そゆことだから、蓮、ッフ」


 勝ち誇ったような顔で俺の肩に手を置く彼方。そして、蓮と言ったあとに鼻を鳴らしたのが妙にムカつき、俺の肩に乗せている手をありえない方向に捻じ曲げてしまいたい衝動に駆られた。まぁ、俺はそんなことをする危険人物ではないので安心してもらいたい。


「で、藤宮はどんな携帯がいいのよ?」


 神谷が俺に問う。


「どんなって、どれでも一緒「じゃないってさっき決まったじゃない」


 俺のセリフにかぶせてくる神谷。この町でこれ流行ってるんだろうか?もし今度使うチャンスがあれば実践してみよう。


「結論言わせてもらっていいですか?」


「どうぞ」


「なんでもいい」


「「「却下」」」


 まさかの3人全員に却下されてしまった。しかも完璧なまでにハモってる分なんだか威力が高い。一瞬で反対する気がうせた。

 ここで1つの疑問が俺には浮かんだ。見に来ただけだよな? 誰も買いに来たなんて言ってないよな? なんで買う雰囲気なんだよ。しかもなんで彼方がサイフの中身確認してんだよ!?


「うん、大丈夫だ」


 何が? 何が大丈夫なの!? 金が大丈夫ってこと? サイフの中に福沢さんがたくさんいたってこと? ここはバシッと言わなければ。


「おい、言っとくが今日は見に来ただけだぞ」


「…硬いこと言うなって。俺の気持ちだからよ」


「そんなものいらん。大体、買ってもらったとして月々の請求は誰が払うんだ。バカなこと言ってないで今日は帰るぞ」


 そう言って俺は踵を返し、彼方を引きずって店内から出て行った。もう本当に買いそうな勢いだったので、強制的に帰ってやる。もし本当に携帯が必要になった時は、バイトでもして自分で買おう。


「今日のところは諦めてやるよ」


 本当に諦めてくれたのだろう、俺の手を振り払い、ため息をついて言った。ため息をつきたいのはこっちの方だ。


「あぁ、そうしてくれ」


 すると、繁華街の奥の喫茶店を指差しながら神谷が言った。


「彼方、藤宮、まだ時間ある? 喫茶店寄ってかない?」


「……いや、今日は疲れたから俺は帰るよ」


「んじゃ俺も」


 俺の帰るに彼方も乗っかって、ここから男女で分かれることになった。しかし、瀬戸が予想していなかった一言を口にする。


「え〜、あそこのパフェすっごく美味しいのに……」


 パフェ? 今パフェって言ったよね。何を隠そう俺は甘いもの大好きの甘党なのだ。


「それって美味しいのか?」


「もちろん! 私のお気に入りのトコなんだ〜! 私が言うんだから、間違いないよ〜」


 その理屈はよく分からないが、瀬戸がお気に入りとまで言うパフェ。どんだけうまいんだって話で、食べてみたい。


「よし、行こう、すぐ行こう、早く行こう」


 俺の態度の変わりっぷりに呆れたのか、驚いたのか、白い目で見てくる彼方と神谷。


「……なんすか?」


「や、別に…。なぁ、司」


「…うん」


 なんだよ! 何そのなにか言いたそうな目! いいよ! 言いたい事があるならハッキリ言えよ! 分かってますよ。俺が甘党って、えぇ! ってなんでしょ。そのくらい自分でもわかってるよ。ここは隠すべきかな?


「……甘いもの好き?」


「……全然」


「素直に」


「…好き」


 隠せませんでした。神谷と彼方は顔を俯かせて笑いをこらえている。彼方にいたっては肩が不自然なほど上下している。


「ほら、早く行こうよ〜」


 この場を打開してくれたのは瀬戸だった。俺は未だに笑っている2人を置いて、先頭切って歩き出した。




***




「いらっしゃいませ〜」


 店内はクーラーがガンガンきいていて、とても居心地がよかった。


「涼し〜〜」


 彼方が椅子に座るなりテーブルに突っ伏す。そんな彼方を神谷が叱る。


「ちょっと彼方! みっともないからやめなさい!」


「いいじゃん、誰も見てねーって」


「いいからやめな!」


「ちょっと司声大きいよ〜」


 なんだかこいつらの構図が分かった気がする。少しだらしない彼方を、世話焼きの神谷が叱って、それを見かねた瀬戸が止めに入る。そうすると俺は…どうなるんだろうな。今の所はただの傍観者だ。


「で、美味しいパフェってどれ?」


「これ、ジャンボパフェ〜♪」


 なんだか幸せそうにいう瀬戸。そして、彼方が店員を呼んでジャンボパフェなるモノを4つ頼んだ。どんなパフェが来るんだろうか? 内心凄いわくわくしています。



***



「お待たせしました」


「っぶ!」


「…」


 テーブルに置かれた4つのパフェ。それを見た彼方は飲んでいたお冷を神谷にぶちまけ、俺は唖然としていました。

 パフェの大きさが半端じゃない。普通のパフェの3、4倍はあるかと思われるそれに、男2人は不覚にも驚愕してしまった。

 俺はまだいい。無言っていうありきたりな驚き方ですんだ。

 しかし彼方はまさかのお冷をぶちまけるというありきたりだが、現実に起こってしまうとかなり収集のつかなそうなことをした。

 あたりに静寂が訪れる。パフェを運んできた店員までもが動かない。俺は動かない体を無理に動かし、神谷を見た。もし漫画だったら、背景にゴゴゴゴという文字が浮かんでそうな。俺は、目で彼方に訴えた。逃げろ! と。しかし、もう時すでに遅かった。


「いってええぇぇ!!!」


 その声は、店内に響き渡り、今度は俺たちどころか店内全体に静寂が訪れた。何が起きたのか……それはあえて考えずにおこう。そして目の前の涙目で足をさすっている彼方も気にしないでおこう。もし変なことを口走ってしまった場合、彼方の二の舞になる。それだけは避けなければ。


「か、神谷さん、どうぞ」


 とりあえずご機嫌取りにパフェを差し出してみる。作戦一、パフェで気をそらせ!


「ここは普通、ハンカチとかだすでしょ、使えない」


 俺に使えないなんて酷い罵声を浴びせてから、自分のハンカチを取り出し顔を拭き始める。

 俺は少なからずカチンときてたのだが、ここは抑えた。そうじゃないと俺の命に関わる。


「……すいません」


 それからは終始無言、俺と彼方は神谷がなにかしでかさないか気を配っていた。彼方は怯えていたと言ったほうがいいか。

 半分ほどパフェを食べた頃、ある驚愕な事実に気付いた。これ、食べ切れない! 見た目以上にボリュームがある。なんでこんなにでかいんだよこの野郎。誰だよこんな無意味にでかいパフェ作ったばか野郎は! 見つけたら貞子のビデオ送りつけてやる!

 彼方もその事実に気付いたのか、俺に目線を送ってきた。なんとか口パクで会話を試みる。


(どうするこれ?)


(食えなくね?)


(女子の意見聞いてみてくれ。)


(無理無理。俺が喋ったら殺される。)


(ならジャンケン。)


(おっし、最初はグー、ジャンケン…)


「あ! くっそ〜! ……あ」


 えぇ!? ちょ、彼方バカ!? なんのために口パクだったと思ってんの!?しかも、言ってから気付いたんだな。ちなみ勝ったのは俺だ。

 恐る恐る神谷を見てみると、無言でパフェを食べていた。その顔からは感情が読み取れない。とりあえず怒ってないと判断したのか、彼方が喋った。


「このパフェ、食いきれなくね?」


「食べれるわよ」


「食べれるよ〜」


 即答で否定される。パフェが来てから終始無言でパフェにがっついていた瀬戸は、完食までもう少しというところまで食べていた。神谷も、まだ半分と言ったところだが、そのスピードは落ちる気配がない。お菓子は別腹…その意味を目の当たりにした瞬間だった。

 その後、なんとか時間をかけて完食した俺と彼方は、女性人を引き連れて帰路についた。

 もう日が暮れかけていて、町がオレンジ色に染色されている。


「今日はここで解散しようぜ」


 駅前についたところで、彼方が切り出した。


「あぁ」


「ちょっと、彼方、もう電車来ちゃうわよ」


「おう! じゃあ、またな! 蓮、瀬戸」


 そういい残して彼方と神谷は駅に走っていった。ほどなくして電車が到着し、2人が駆け込む姿が見えた。


「帰るか」


「うん」


 それから特に会話らしい会話もせず、瀬戸の家についた。なかなか立派な家で、少し年期が入っていて、おそらく生まれた時からここに住んでいることがうかがえた。


「じゃあ、また明日ね〜」


「うん、じゃ」


 そう言って家に帰ろうかと踵を返した時、気付いた。ここ、どこ?


「ちょ、ちょっと待て、ここどこ?」


「俳桜西3丁目だけど?」


「俺の家どこ?」


「え? 蓮君家? ……もしかして、帰れないの?」


「…うん」


「ん〜、それじゃあ、送ってってあげるよ〜」


 その後、俺が方向音痴で、そのせいでHRに遅れたことを教えると、散々笑われた。瀬戸に送ってもらう形になりなんとか家につけた。藤宮家はこの町では有名で、家は瀬戸も知っていたそうだ。そして、方向音痴だという認めたくない事実が加奈子さんにばれ、GPS機能が付いた携帯を半強制的に持たさせられることとなった。

 これで俺が迷うことはもうないだろう……多分。

 俺の方向音痴に加奈子さんにも結衣にも散々笑われたことは、言うまでもない。





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