7/時代遅れの主人公
先ほどピーン! ときた蓮です。なんだか面白い展開になってまいりました! あれこれ悩んだ末、ほぼ初対面で出すぎたマネをするのはどうかと思ったが、やっぱり神谷さんに尋ねて反応を見ることが一番面白そうという結論に達しました。
では早速。
「ねぇ、神谷さん。神谷さん!」
はっとしたように振り替える神谷さん。
「神谷でいいわよ。何?」
「君さ、もしかして……」
「もしかして?」
俺は指でちょいちょいと神谷さんを引き寄せて、耳元で小声で言った。
「もしかして彼方のこと好きなんだろう 」
「えぇ!?ちょ、何言ってんのよ! そ、そんなことは……」
顔を真っ赤にさせ、急に口ごもる神谷。想像通りすぎる反応に、俺は思わず吹きだした。
「くくく……はっはっは!」
「ちょ、なんで笑うのよ!」
俺も笑うのはまずいと思って最初は耐えていたが、こらえきれなくなった。
「いや、反応があまりにも分かりやすくて」
「悪かったわね、分かりやすい女で。大体なんで初対面のあなたにそんなこと言われなきゃなんないのよ」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
おぉ、そこにつっこんだらお終いだよ神谷。でも面白かったから許してあげる。それに、笑ってしまったこっちにも少なからず怒った原因はあるだろう。
俺がどう機嫌を取ろうかと思っていた時、突然会話に侵入してきた人物がいた。俺的にはおおいに助かったのだが。
「わぁ、司ってばもう蓮君と仲良くなったの? いいな〜!」
なにが仲良いものか。今さっきそっぽを向かれた所だ。
「別に仲良くなんかなってないわよ」
ソッコーで否定する神谷さん。できればもう少しだけ迷ってほしかった。ちょっとショックだが、俺はなにかいえる立場ではない。
「そうかな〜? あ、私、瀬戸 綾。よろしくね〜」
そう言って手を差し出してくる。
なんだかふわふわした子だな。髪の毛は金髪で、クリンクリンしている猫ッ毛だ。目がとても大きく、なんだか子猫を連想させる女の子。背もちっちゃいし、胸も小ぶりだ。
それに対して神谷は、長い黒髪で、目は少しきつく、背は少し高めで、胸は大きいと思われます。なんだか正反対の2人。それでいて、とても仲が良いみたいだ。
「よろしく」
俺は手をしっかりと握り返した。その時、先生が教室に入場し、授業開始の鐘が鳴った。俺って、ほんとは結構明るい性格だったのかも。
***
キーンコーンカーンコーン
今の鐘で午前の授業は終了し、昼休みに入ります。俺の腹の虫は1時間前からなり始め、鳴るたびに咳払いでごまかしてきました。
「蓮、一緒に飯食おうぜ」
「……ああ」
「よし、決まりだ。じゃあ、そうだな。テラス行こうぜ」
「はぁ? テラス?」
なにそれ? そんなものまであるっていうのかこの学園は!
「や、そんなに驚くことなくね?」
「や、驚くだろ普通。テラスってか……テラスってかおい」
なんか意味不明になってしまった俺。そこまで驚いていると受け取ってもらいたい。
「そんなら、屋上にするか?」
俺の意味不明な言動を行きたくないと受け取った彼方は、律儀にも場所の変更を申し出てくれたが、俺としてはぜひテラスに行ってみたい。
「いや、ぜひテラスに案内してもらいたい」
「OK、案内するよ」
***
「おあ?」
場所が変わってここは購買。彼方がパンを買いに来ています。俺は今朝、加奈子さんから弁当を受け取っているので、買う必要はない。
ちなみに今の俺の声はなにかというと、購買の前に並ぶ行列。彼方の話だと、この行列はこの学園で今世紀最大のパン、「スノーマン」を欲する人たちの行列らしい。
「見た目は雪のように白く、一度口に含むとまるで溶けるかのようなやわらかさ、そのやわらかさ故、飲む瞬間には今までのパンにはなかったような滑りこむような食感が。そして最大の長所は、スノーマン、つまり雪だるまのような形に仕上がっているため、2人で分けれてしまう。ただし、数量限定であり、その人気から、手に入る確立は限りなく低い。この作品を編み出した初代購買のおばちゃんは、あまりのできに涙を流したという。そして、初めてこのパンを口にした初代校長もあまりの美味しさに涙したと言う」
長々とパンについて熱演しているのはもちろん俺じゃない。彼方だ。残念ながら俺は並んでまでパンを食べたいと思ったことはない。そしてパンに涙したくはない。
「と、熱演してみたのはいいけど俺並んでまでスノーマン食べたくないんだよね」
どうやら彼方も同じ意見のようだ。
「じゃあ、ちょっと買ってくっからここで待っててくれ」
「わかったよ」
どうやら普通のパンは定食と同じように食券を買うようだ。スノーマンは食堂の奥で個別に売られている。ほどなくして、彼方がパン2つと紙パックのコーヒーを持ってやってきた。
「さ、行こうぜ」
「あぁ」
***
さらに場所が変わって、テラスにいます。テラスは中庭にあり、木でできた机と椅子のセットがいくつか備えつけられてある。中庭は地面が芝生で結構木があり、丘のテラスみたいなデザインになっていた。しかし、案外生徒は少ない。
「みんなテラスに出んの面倒くさがって教室や食堂で食べちゃうんだよ。俺はここ結構好きなんだけどな」
だそうだ。最近の若いもんは全く。もう一度テラスを見渡すと、あまり多くない生徒の中に、知っている人物を見つけた。神谷と瀬戸だ。
彼方も気付いたようで、そっちに向かって歩き出した。そして、声をかける。
「なぁ、合席してもいいか?」
「いいわよ」
「いいよ〜」
2人とも快くOKしてくれた。俺と彼方が椅子に座ると、なんだか神谷がそわそわしているのが目に付いた。もしかして、彼方が突然現れたから緊張しているのか? 面白い。実に面白い。
「司落ち着きなよ〜」
と、瀬戸がフォローに回る。
「お、落ち着いてるわよ私は」
それのどこが落ち着いてるんだ。
しかし、なぜだか彼方ではなく俺をちらちら見てくる……いや睨んでくる神谷。なんだ? そんなに俺の存在が邪魔か? 彼方と2人きりになりたいってか? それなら瀬戸も睨むべきなんじゃないのか? なんで俺だけ?
俺は彼方と瀬戸と他愛のない話をしながら自分のへぼい脳みそをフル回転させ考えた。何気に器用な自分にビックリ。
そして導き出した答えが、もしかして俺が神谷が彼方のことが好きなことをばらしてないか疑ってるのか? というもの。
うん、絶対そうだ。俺が口をあけるたびにびくついている。面白い。けど、少しかわいそうでもあるので、さっき楽しませてもらってお礼に口パクでこう言った。
(大丈夫)
すると、神谷さんはほっとしたようにため息をつくと、俺に微笑んでから会話に参加した。なんていうのかな、今の神谷さんは輝いている。俺の知ってる適当な言葉で言うと、恋する乙女だ。
俺は心から神谷さんの恋を応援したい気持ちになった。それと同時に、遊び心で笑ってしまった自分を恥じた気持ちにもなった。
「さっきはごめん」
「え? 何が?」
きょとんとして答える神谷。どうやら本当になんのことか分かってないらしい。
「なんでもない」
俺は改めて説明すると恥ずかしいので、はぐらかした。
「変なの」
「あぁ、俺は変な奴なんだ。よく覚えといてくれ」
「なにそれ?」
「蓮君面白いこと言うね〜」
俺たちの少し意味不明な会話を眺めていた彼方が、口を開いた。
「お前、変わったな。あ、もちろんいい意味でな」
「そうか?」
俺はあえて疑問系で言ってみたが、それは俺自身が一番実感していることだ。
「うん。今のお前の方がいいよ」
俺は何も言わない代わりに笑顔で答えた。もちろん愛想笑いなんかじゃない。
「へ〜、前の蓮君てどんな感じだったの?」
「あ、それ私も少し気になる」
瀬戸の疑問に神谷も乗っかった。俺としては、あまり気の進む話ではない。それを察した彼方が、俺に気遣って話をはぐらかしてくれた。
「あ、そういや蓮携帯持ってる?」
「いや、持ってないけど?」
「え〜、持ってないの? 今時無いと不便だよ?」
と、不便と言い張る瀬戸。っというか今時無いと不便ってことは俺が今まで不便と感じたことがないってことは俺がおかしいってこと? まずい、ここは時代に乗っておくべきだろうか。でも、養子である俺がそんな贅沢を言える立場であるわけがない。
「それに、友達と連絡取ったりとかできるし便利よ」
今度はどう便利か教えてくれる神谷。
おいおいおい、俺そういえば友達と遊んだことなんてないじゃないか! これってなんかまずくない!? 完璧この平成という時代に乗り遅れてない!?
「よし! んじゃ、みんなで放課後に蓮の携帯買いに行かね?」
へ? 今何言うた? 俺の空耳か? 俺と同様に神谷と瀬戸は目を点にしている。
「スイマセン、もう一度おっしゃってくれますか?」
「だから〜、お前の携帯を買いに行くんだよ!」
「や、意味分からんて。大体俺は金がない」
「はぁ? そんなん俺に任せとけって。久々に会った記念ってことで買ってやる!」
「はぁ?」
何その金持ち発言。あ、こいつの家は金持ちなんだった。でも、そんなの彼方に悪すぎる。
「いい。そこまでしてもらわなくても」
「何言ってんだよ。俺がいいっつってんだからいいんだよ」
さも当たり前のように言う彼方。
「いいって」
「ならさ、見に行くだけな。見に行くだけ。それにお前も繁華街とかの場所とか知るいい機会だろ?」
「まぁ、そういうことなら」
なんか彼方の口車に乗せられた気もするが、まぁよしとしよう。でも気になることが1つ。
「みんなって?」
「え? 神谷と瀬戸と俺とお前」
やっぱりか。こうして俺は、この3人と携帯を見に行くことになった。まぁ、携帯見るがてらこの辺の地理を少しでも頭に入れておきたいので、俺としては助かるんだが。




