5/俺の部屋は少女趣味
こんにちは、蓮です。
今日から俺はこっちの高校に編入です。俺は新品で汚れ1つないブレザーに身を包み、ため息をしつつ無駄に広い部屋を見渡す。部屋には、俺には似合わない可愛いぬいぐるみや、アーティストやキャラクターのポスターなどが大量に飾られている。
あれは、昨夜のこと。
***
「ここが蓮ちゃんの部屋よ」
と、俺は加奈子さんに2階の端っこの部屋に連れてこられた。そして、部屋を見て驚愕する俺。
ひ、広い! 広すぎる! 俺は今まで4畳半の部屋で暮らしてきただけに、10畳は軽くあるだろうと思われる部屋に愕然とした。これが、俗に言う貧富の差ってやつか……。しかし僕、なんだか広い部屋にテンションが上がってきました。
「すっごい広いね!」
とか言いながら不覚にも2人は寝れるであろうベッドにダイブしてしまった。しまった! 落ち着け俺。いくらなんでもはしゃぎすぎだと自分でも思う。
「気に入ってもらえたみたいでよかったわ。荷物はそこにもう届いてるから。あとは自分でね好きなように使ってね」
と言って、加奈子さんは出て行った。俺はそれから10分ほどベッドにダイブしたり、広い部屋の地面でごろごろしながら過ごしている。
その時、急にドアが開いた。俺はというと、ベッドにダイブした瞬間で、もろにドアを開けた人物に見られてしまったわけで、ベッドに伏せながら恥ずかしさで顔を赤くさせていた。いったい誰なんでしょう?
「なにやってんの? お兄ちゃん」
妹でした。よりによって、妹でした。恥ずかしいので、布団に顔をうずめる。兄が部屋でベッドにダイブしてたことを知った妹ってどんな気持ちになるんだろう。嫌うかなぁ? え!? 俺もしかして暮らし始めて初日に嫌われた!? なんとかしてごまかさないと!
「や、こ、このベッドの跳ねを確認してたんだよ」
と、自分でも意味不明な言い訳をする。もっとましな言い訳をしろよ俺のバカ! ちなみにめっちゃ跳ねます。面白いです。
「ふ〜ん。で、やわらかかった?」
陽気な声で言う結衣。なんだ、さして気にもしていないみたいだ。けど妹にバカにされている気がする。俺は顔を布団にうずめているため、顔は見えないが、きっと笑っていることだろう。
「そりゃあもう。で、なんの用ですか?」
話題をそらすために用件を聞く。
「や、用はないんだけどちょっと部屋を見に来たの。まだなにも片付けてないみたいだから手伝ってあげよっか?」
なんていい妹なんでしょう。ちょっと感動。俺は顔を上げ、ベッドから立ち上がると「ありがとうな」とお礼を言って結衣の頭を撫でた。結衣は「えへへ」と嬉しそうに微笑んだ。この子は可愛い子なんだ。と再認識。
「じゃあ、始めるか」
「うん!」
それからはほとんど会話がなく、黙々と手だけを動かした。とは言っても、俺の荷物はほとんどが服なので、すぐに片付いた。
その時、結衣が当たり前というか当然なことをつぶやいた。
「なんだかお兄ちゃんの部屋殺風景だね」
んなこと言われたってね、こちとら今まで4畳半の部屋で生活してきたんですよ。その部屋でさえ殺風景だったのに、このバカっぴろい部屋で殺風景が免れると思いますか? とか思いつつ結衣を眺めていると、急に思いついたような顔をして、「待っててお兄ちゃん」とか言って出て行ってしまった。
待つこと10分。
コンコンお部屋にノックが響き渡った。「はいはい」と俺はドアを開ける。そして、目の前の光景に愕然とした。
「「お待たせ〜!」」
と、声をそろえて言う結衣と加奈子さん。手にはぬいぐるみやらポスターやらを抱えきれなくて今にも落としそうなほど持っている。
「はぁ? 何それ?」
と、間抜けな声を出してしまう俺。や、だってそれ俺の部屋に飾る気? 俺一応男なんですけど。いや、もろに男なんですけど! 嫌がらせ?
「それ、どうするつもり?」
確信はしているが、一応聞いてみた。
「「え? どうって、飾る気」」
と、これまた声をそろえて言う。そう言って、つかつかと2人は俺の部屋の中に入ってしまう。
「ちょっと待ってくれ! そんなの俺に似合わないって!」
あわてて止めに入る俺。
「あら、そんなことないわよ。蓮ちゃん無愛想だから、可愛いぬいぐるみを置けばイメージが変わるってものよ?」
や、そんな気持ち悪いイメージなんか欲してないんだが。無愛想な男が部屋に可愛いぬいぐるみを置いてたら、キモくない? 普通にキモくない? 自分のことなんだけどさ。
「そうだよお兄ちゃん。このポスターね、結衣の大好きなキミメロだよぉ♪ ちょっと、名残惜しいけど、お兄ちゃんにあげちゃう!」
「や、いらねーよ」
「ん? なんか言った?」
「別に」
それから俺と結衣&加奈子さんは色々言い合いをしたが、結局押し負けてしまった。いつもの俺なら嫌なことは断固拒否するはずなのに、なぜかそういう気になれなかった。きっと、部屋にぬいぐるみやポスターを飾る結衣と加奈子さんがとても楽しそうだったからだろう。結衣や加奈子さんが笑っていると、不思議と俺も笑っていた。これが、家族ってやつかな?
姉ちゃん、家族ってものが、ちょっとだけ分かった気がするよ。
***
といういきさつで、不本意ながら俺の部屋は豪華な女の子の部屋のようにアレンジされているわけである。数えてみると、ポスターの数全部で6枚。ぬいぐるみの数総勢27個。コレを人に見られてしまったら、俺はのイメージはキモオタク決定だな。それは非常に困るんだけどな。でも、結衣と加奈子さん、楽しそうだったし、
「お兄ちゃ〜ん! 遅刻するよ〜!」
結衣の俺を呼ぶ声が聞こえる。
「わかった、今行く!」
俺はもう一度部屋を見渡し、つぶやいた。
「ま、いっか!」
***
玄関では、俺を待っていた結衣と加奈子さんと訓さんが俺を待っていた。
「遅いよお兄ちゃん」
「ごめんごめん。じゃあ、行こうか。加奈子さん、訓さん、いってきます」
靴を履き、鏡で自分の服装を確認する。
「連ちゃん無愛想なんだから、ちゃんと愛想良くしなきゃ駄目よ?第一印象が大事なんだからね」
と、少し心配そうに俺に言う加奈子さん。この人は意外に心配性のようだ。
「大丈夫だよ、加奈子さん」
俺は心配させないように、出来るだけ明るく言った。
「蓮、私はこれからちょっと出張なんだけど、母さんと結衣を頼んだよ」
「わかったよ。訓さん」
加奈子さんが言うには、訓さんは大きな会社の重役のようで、あちこちを飛び回り、あまり家にはいないらしい。
俺と結衣は目を合わせる。そして、
「「いってきます」」
声をそろえて言った。俺の2回目のいってきますだ。
「「いってらっしゃい」」
と、声がそろって返ってきた。これも、俺が2回目に聞くいってらっしゃい。