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13/突然現れるのが流行っているみたいです。

『結衣の都合なんか知るか、俺が会いたいから会うんだ』


「……とは言ってみたものの、どうすりゃいいんだ?」


 俺は、コーヒーカップの向かい側に居るシュナに向かって問いかけた。


「自分で考えてくださいッ」 


 シュナは楽しくて仕方が無いというような様子で、とても真面目に相談など出来なかった。さっきのメリーゴーランドと違い、このコーヒーカップは極々普通のコーヒーカップだった。特にやることも無いので、俺はシュナの為にカップの中心についているハンドルをグルグルと回した。最初はそれにはしゃいでいたシュナだったが。


「あ、私もやりたいですっ」


 あー、シュナってこんなんだったか? 俺の中でシュナのイメージが素クールな外国美少女からただの気分家に代わりつつあった。そんな思考もそこそこに、俺はシュナにハンドルを渡してしまったため手持ち無沙汰にな……た?

 な、なんだ!? 景色が……景色が凄いスピードで回転していく!


「ちょっ……シュナ! 止め……」


「あははははっ!」


「シュナ……話を……」


「あはっ! あははは!」


「……止めろォ!!!」


 急に叫んだ俺に、シュナが目を丸くしてハンドルから手を離した。


「今俺真剣に考えてるのッ! そんな回ってたら考えられないだろ? つーか、こんなんじゃまた吐いちまうでしょ! わかる? ユーアーアンダスタンッ!?」


「い……イエス」


 俺の心の叫びが届いたのかどうかはわからないけど、とりあえずシュナはカップを回すのを止めてくれた。ったく、そう何度も何度もトイレでリバースしたくないんだよ。


「で、話し戻すけど、どうすりゃいい?」


 ハンドルを無理矢理取ってしまったせいか、シュナはそっぽを向いて答えてくれない。なにそれ? 新しいアビリティのつもり? 誰か攻略法教えてくれ。


『ものでつるといいですよ』


 背後から聞こえた声に、バッ! と振り返った。が、そこには誰の姿も確認できない。どっかで聞いたような声だったが……。まさか、な。とりあえず、従ってみようか。


「あー、わかった。今日一日中付き合う。だから、夜か明日にでもしっかりと相談に乗ってくれ」


 そう言ってハンドルを放すと、シュナは嬉しそうに笑みを浮かべてカップをグルグルと回し始めた。その後、繰り出される絶叫アトラクション攻撃に、なんとか俺はトイレに駆け込むことだけは避けることができた。



***



 その後、さんざんシュナにつき合わされ、やっと帰宅できた夜9時ごろ。


「何回見ても……驚きます」


 目の前に聳え立つ周りの風景にまるで溶け込んでいない無駄に広い敷地を持った豪邸を、ポカーンとした呆けた顔を覗かせていた。昨日も、似たような表情でシュナは呆けていた。


「……ここ、日本ですよね?」


「まぁ、そういう感覚については同意見だな」


 驚くことはそこそこに、シュナと藤宮家へと入っていった。加奈子さんは、暖かく俺とシュナを迎え入れてくれた。


「あら、おかえり。蓮ちゃん、シュナちゃん。遊園地どうだった?」


 さも当たり前のように聞いてくる加奈子さんだけど。


「……とりあえずなんで俺達が遊園地に行ってたことを知っているのかから聞こうか」


 流れで行くことになったため、加奈子さんに遊園地に行くとは言ってない筈なのだ。


「だって、さっき結衣が言ってたわよ?」


「あー、なるほどね。そういうことか」


 結衣がね、うん。……はぁ!? ……ということは!?


「結衣帰ってきてんの!?」


「えぇ、帰ってきてるわよ」


 さらっと言うところじゃあないんだよ加奈子さん! こんなの一大事ですよ。今日はもう何事もなく終わる気がしてたのに……。どうして昨日は帰ってこなかったのに今日は帰ってくるんだよ! あぁ、でもここは結衣の家だからそんなこと言える立場じゃないか……。ならせめてこっちが覚悟してる時に帰ってきてくれ! そんな言い訳を脳内で言い続けていた時、俺の背中に圧力を加える人物がいた。いわずもがな、シュナである。


 ドン!


「なんだよシュナ」


 ドン!


「シュナ、わかったから」


 早く行って来いやボケ! という意志の現れであろう背中アタックは、回数を増やすごとに比例して威力も増しているように感じる。


 ドン!


「はいはいはい。わかったよ! わかりましたよ」


 俺はとりあえず靴を脱ぎ、リビングへと向かった。シュナが付いてくるのを確認しつつ、ソファーに腰掛けると、シュナに座るよう促した。


「どうぞ、おかけください」


 シュナは訳が分からないというように顔をしかめる。もう一度言ってやるよ。


「どうぞ」


「は……はぁ」


 俺の真剣な意が伝わったのか、シュナはぎこちなくソファーに座った。オーケー、場は整った。


「では、無事着席頂いたところで、会議を始めましょう」


 加奈子さんはいつのまにか台所で皿洗いをしているので、シュナと二人きり。好都合だ。


「ようするに、結衣さんにどんな顔をして接すればいいのかわからないから相談に乗ってくれ。ということでしょうか?」


 俺は無言でコクンとうなずいて見せた。察しが早くて助かる。


「とりあえず、いってみたら案外なんとかなるかもしれませんよ?」


 ふっ。簡単に言ってくれるぜ。


「俺はなぁ。自慢じゃないが、このまま結衣の部屋まで直行しようものなら、テンパって会話することはおろか、まともに人間として節度ある行動ができない自信がある!」


「そんなことに自信持たれても……」


 シュナは本気で呆れたような顔をしているが、実際そうなんだから仕方ない。


「いいから、さっさとお部屋を訪ねてください。こういうのは打算で動くとロクなことありませんよ? それに、私より結衣さんについてはあなたの方が知っている筈でしょう?」


 まぁ、シュナの言うことはもっともだ。俺にどうしたらいいかわからないんだから、シュナにもわからないのかもしれない。しかしだね、女の子目線的な意見というかなんというか。そんな感じの目でシュナを見ていると、大きな溜息の後に冷たい口調で言われた。


「いつまでもウジウジ気持ち悪いですね。昼間の勢いはどこいったんですか?」


「そういう問題じゃなくてさぁ」


「そういう問題なのです。蓮様」


「ほォぅ!?」


 急にした背後からの聞き覚えのある声に、俺は驚いて変な声が……って、なんだすみれさんか。


「なんだすみれさんか?」


 ……最早あなたがいつどこで現れようが驚きませんよ。ただ、急に背後に立つのは止めていただきたい。寿命が縮む。そんな俺のことを放っておいて、すみれさんは真剣な表情で話し始める。


「あなたが思っている以上に……。事態はよくない方向に進んでいるのかもしれません」


 そんなすみれさんに反撃したくて、俺は反抗を試みた。


「あのさぁ。急に出てきて、真剣に話してるところ悪いんだけど……。とりあえずいきなり現れるの止めてく――」


「そんなことは今はどうでもいいでしょう!」


 ピシャリとすみれさんが言い放った。


「……なんか、テンション高いね。久しぶりの登場だから、張り切ってる?」


 パチン!


「痛ッ!」


 おでこ叩かれた。何故かシュナに。すみれさんならわかるけど、シュナに叩かれるのはわからない。


「とにかく、結衣様に会ってみることです。話はそれからですよ」


 すみれさんの一言で、とりあえず部屋へいってみるというとりあえずなプランが確立した。


「じゃまぁ、とりあえず行ってきます」


 なんかもう、本当とりあえずだな。会ったって何はなしたらいいんだ。俺としては、明日明後日に予定していた対面が、唐突に訪れてしまったわけだからな。まぁ、どうしたらいいのかわからないってのは、明日明後日も一緒だろうけど。そうこうしてる間に、もう結衣の部屋の前だ。俺がドアノブに手をかけようとしたその時。


「おい」


 とかいいながら手を掴んでくる輩がいた。


「……」


 こういう登場の仕方、流行ってるんだろうか? 今度すみれさんに聞いてみよう。それはともかく、俺の手首を掴んで放さないクソ野郎は、涼だ。どうしてここにお前がいるんだ。さっさと家に帰らないとダメじゃないか。


「結衣に何か用か?」


 妙に睨んでくる涼に、俺は少し腰が引けた。目が、結衣に近付くなと、何か強い力で訴えているように思えた。それはとても暗くて、深くて、恐ろしいと思えた。初めて本気で向けられる敵意。それに俺は臆したんだと思う。そんな内心とは裏腹に、俺は平然と答えた。本心を悟られるのが嫌だったからだ。


「まぁあいさつ、だな」


「させないぜ」


 即答、ですか。どうして? とすぐさま聞き返したい気持ちだったが、涼の目を見て、なんとなく、これは一筋縄じゃ会わせてくれないような予感がした。


「悪いが、あんたと結衣を合わせるわけにはいかない」


「……」


 その涼の主張を無視して、俺はもう空いている方の手をドアノブかける。


「止めろ!」


「……」


 そう叫ぶ涼の剣幕はなかなかのもので、俺はドアノブにかけた手を回すことが出来なかった。それは。今にも殴りかかってきそうな涼に臆したわけでも、結衣とどんな顔をして会えばいいかなんて根本的な理由じゃない。俺にはよくわからないけれど。涼の目が敵意から懇願に変わりつつあるのを、なんとなくだけどそう感じてしまったからかもしれない。しばらくにらみ合いが続いた後、先に口を開いたのは涼だった。


「……あんたに、話があるんだ」


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