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10/俺に休息はないみたい

 その日。結衣は藤宮宅に帰ってくることは無かった。そしてまぁ、次の日の朝。病院にて。


「あ、蓮兄! 久しぶり!」


「あぁ、久しぶり」


 桜ちゃんが検査入院しているという病室を訪れると、桜ちゃんはベッドの上で身を起こして俺を歓迎してくれた。久しぶりに見る桜ちゃんの笑顔は、俺に少しだけ元気を分けてくれそうだ。


「体調の方は大丈夫なのか?」


「快調だよ! ただの検査入院だし」


「そっか。それにしても、桜ちゃんは変わらないな」


 微妙に髪が長くなっていたりとか、少しだけ慎重が伸びてる気がするとか、そういうのは抜きにして、あの元気一杯な雰囲気の桜ちゃんは今も健在みたいだ。


「まぁ、変わる程の年月も出来事も無かったしね」


 なんか言うことが妙に年寄りくさいのは一体どういうことだろう? が、桜ちゃんの興味は早速外人であるシュナに写る。


「そっちの外人さんは?」


「あぁ、こいつは……」


 そんなこんなで、シュナの紹介やら不在だった一年間の近況報告やら桜ちゃんの愚痴やらで、あっというまに一時間は経過していった。


「シュナさんて本当人形みたいに可愛いね!」


「そ、そんなことないです!」


 この外人、照れてやがる。それも普段絶対に使わないビックリマークまで使って。


「で、結衣とはもう会った?」


「……いや、まだ」


「まだ!? どうして?」


 こっちが聞きたい。と内心毒づくけど、それは言葉には出さなかった。


「で、蓮兄は探したの?」


「いや」


「え? じゃあ結衣に会う前に来てくれたの?」


「まぁ」


 一応、桜ちゃんの病室にいるかもっていう淡い希望を持ってたんだけど。はずれた。


「なんかさぁ、昨日の夜帰って来なかったんだよね」


 桜ちゃんに目を合わせ辛くて、病室の天井を見上げながら言った。


「全く、結衣のやつ。何してんだろ……?」


「……」


 多分、恐らく。いやほぼ確実に……。避けられてる? 


「どうしたんですか? 急に世界が終わったような顔して……」


 シュナが奇異の視線を向けるが、俺はそれに応戦する余力が無い。

 さ……避けられてる……ってか? まじかよ。何しに帰って来ちゃったの俺? 俺の半年間は一体? 寧ろこの調子だとアメリカに逆戻りだよ? そんな俺のどうしようもない思考を中断させてくれたのは、桜ちゃんの一言だった。


「とりあえず、探しに行くよ!」


 桜ちゃんはそう言うと立ち上がり、上着を羽織る。


「おいおい、いいのかよ? 勝手に抜け出して」


「いいのいいの! どうせ検査は午後からだから」


「それにしたって……」


「来ないなら一人で行っちゃうよ〜!」


 病室のドアが開く音の次に閉まる音が聞こえた。……あーあ、行っちまいやがった。相変わらずというかなんというか。直感で生きてるね、彼女。


「どうします? 行ってしまいましたが……」


「行くしかないだろ。多分ロビーで待ってるぞ?」


「そうですね。では、急ぎましょう」


「あぁ」


 そうして、俺とシュナは病室を出た。とりあえずロビーに向かっている俺に、少しだけ後ろからついてくるシュナ。おそらく、桜ちゃんはすでにロビーで待ち構えているだろう。結衣を探すってのは、俺には無い発想だっただけに少し助かった。それに、振り回されるのにはもう慣れてる。

 案の定、ロビーで頬を膨らませて待っていた桜ちゃん。それを軽く流しつつ、結衣捜索弟一班が出動となった。メンバーは3人。まず隊長に桜ちゃんと不安要素を抱えるが、結衣の親友ということで捜索にはかなりの効果が上がるだろうし、この辺の土地勘や結衣の居そうなところには心当たりがあるものと思われる。心強いね。次に俺だが、まぁ、特筆すべき特徴も特殊アビリティも無いのでスルーさせてもらう。最後にシュナ。土地勘ゼロに加え、時差ボケと旅疲れでボロボロだが、2・0という驚異的な視力によって採用。

 とまぁ、非常に頼りになるメンバー構成だ。そんなこんなで、桜ちゃんが号令を掛けた。


「じゃあ、レッツゴー!」




***




 正直なところ、シュナはお喋りではない。それとは対象的に、騒がしいを極めた桜ちゃん。もちろん気なんて合うわけもなく、それに挟まれる形となった俺は身動きが取れない状態だった。はっきり言って気まずい。

 何時の間にか目的のファンシーショップに着いていた俺たち。ビルの一階に位置するそこは、ガラス張りで外から中が見える。しかし、結衣と思しき人物はいなかった。とりあえず誰にというわけなく話してみる。


「ここにはいないみたいだな」


 ほっとしたような、残念のような。俺の一言に、桜ちゃんがため息をついた。


「ここじゃないのかぁ……」


「他に心当たりは?」


「うーん……範囲広すぎてわかんないや。そもそも、昨日から帰ってないのにこんな近場にいるかどうかから怪しいよね」

 

 桜ちゃんは顎に手を当てながら呟いた。確かに、一晩をどこか余所で過ごしたんだ。もしかしたら遠出しているのかもしれない。逆に近場にいたとすると、わざわざ余所で一晩明かす必要は無い。だとしたら……どこを探せばいいんだ?

 今横目にシュナを見てみたら、こっちは必死で考えてるってのに物珍しそうに俳桜の街並みを眺めていた。弟のピンチだってのに、呑気なもんだな。


「まぁとりあえず次いこ次!」


 桜ちゃんが俺とシュナの手を握って歩き出す。行き先は俺が心配しなくても良さそうだ。


「で、どこに行くんだ?」


 その質問が桜ちゃんの耳に届いていなかったのか、もしかしたら敢えて言わなかったのかもしれないけど、答えは返ってこなかった。




***



 それから暫くの間、俺達は結衣を探し続けた。そして、お昼時。俺の腹がそろそろ悲鳴を上げそうだという頃に、俺はある提案をした。


「今日はもうそろそろ止めにしよう。腹も減ったし」


「え? ご飯食べた後にまた探せばいいじゃん」


 当たり前のように返す桜ちゃんだけど、ここは引かない。


「ダメだ。午後から検査だろう」


「……けど!」


「ダメなもんはダメだ。それに、元々午後からはシュナとどっか出かける予定だしな」


 なんでもないという風に言う俺。しかし、それこそダメだったみたいで。


「……蓮兄はそんなんだからダメなんだよ! 結衣は、待ってるんだよ? きっと、見つけてくれるの待ってるんだよ。どうしてそれが解らないの!」


「あ、おい!」


 桜ちゃんは激昂して、止める間も無くどこかへ走り去ってしまった。


「あーあ。怒らせちゃいましたね」


 シュナの呟きが、どうにも俺を追い込んだ。ということはなく、俺は至って普通の精神状態だ。なに、気に病むことはない。あのくらいの反応は想定範囲内だ。


「まぁ、仕方ないさ。さて、午後からはどこへ行きたい?」


「……いいんですか?」


「あぁ。俺もなんだか少し疲れたからな。のんびり過ごして息抜きしたい」


「では遠慮無く。遊園地に、行きたいです」


「遊園地?」


「はい」


 ああ、シュナ。どうしてそんな疲れるところを……?


「ダメ……でしょうか?」


 こいつのまたになるこの状態。上目遣いで更に気を使うようにしてくるモジモジした仕草。反則なんだよ。


「いいよ。んじゃ、飯食ってから行こう」


「はい!」


 その後に見せるシュナにしては珍しい微笑ではなく笑顔が、俺は好きだったりするのかもしれない。

 さっきの話、桜ちゃんの、結衣が待ってるって話に戻るけど、不思議と焦る気持ちにはならなかった。あんなに桜ちゃんが怒ったのにも、大して動揺しなかった。以前の俺なら、必死になって結衣を探したり、どこかへ行ってしまった桜ちゃんを追いかけたりしただろうけど。

 怖くないわけじゃない。迷いを捨てたわけでもない。それでも、俺は前を向いていられた。

 多分、これが覚悟なんだと思う。

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