4/兄と妹の初対面
「いってきます!」
と、張り切って家を出たまではよかった。家をでてすぐに加奈子さんからもらった地図を広げる。
「なんだこれ?」
なんってアバウトな略地図。目的地に×印、現在地も×印。これは分かった。だがしかし、どっちも×印じゃどっちがどっちかわかんねーよ! これはなにかの嫌がらせだろうか? それともただの天然なのか? 張り切って家を出てきてしまった手前、今から戻るのはちょっぴりカッコ悪い。
まぁ、なんとかなるか。知らない町を歩くというのはワクワクするものだ。俺は探検家気分で歩き出した。
15分後
あっれぇ!? 地図によるとここのはずなんだけどな。俺が道間違えたのか? しょうがない、人に聞くか。
「すいませ〜ん! 俳桜学園にはどうやって行くんだ? ふむふむ。この道をまっすくいって、右に曲がって、左に曲がって、また右に曲がってまっすぐね? ありがとうございます」
なんだよすぐそこじゃないか。
更に10分後
おかしいな。右に曲がって右に曲がって、まっすぐいって……。どっちにいくんだ?
更に5分後
まずい! まずいまずいまずい!!!
完璧に迷った。もう俺がどこにいるのかも分からない。はたして俺はこのアバウトな地図上にいるのだろうか? 加奈子さんがこんなアバウトな地図を渡すから悪いんだ! 決して俺が方向音痴だとかそういうわけじゃない。うん、そんなことは決してない。いったいどうしたら……。こんな時、ドラマや漫画では、近くに交番があったりするのに。俺は一応周りをきょろきょろ見回してみる。交番は発見できなかった。
ならば今一度人に聞こう! とまたきょろきょろしてみる。公園で遊んでいる小さな子供ならいた。総勢2人。詳しく言うと、男の子1人に女の子1人。もしかしたら学園の場所を知ってるんではないだろうか? だがしかし、あんな小さな子供に道を聞くなんて俺のプライドが許すわけがない。
否、俺のプライドなんて女の人の前で号泣した時点でズタボロさ。今さらなにを恐れることがある。冷静でクールな蓮なんてゴミ箱にポイだ。それに、俺は孤児院での経験から、幼い子供の扱いは慣れていると思われる。よって、少し暴走気味だが、子供たちに道を尋ねることに決定した。
「ねぇ、君たち、お兄ちゃん、道に迷っちゃったんだけど、俳桜学園ってトコ知らないかな?」
俺はちょっと困った顔をして、更にかなり謙虚にいった。完璧だ。ここまで困ってる人を見捨てる子供はいまい。
「はぁ? あんた誰?」
え?
「もしかしてナンパ〜?」
ナ・ナン……!?
「おい、俺の香織に手だすんじゃねーよ」
「はぁ!?」とついに俺は間の抜けた声を出してしまった。や、だってねぇ、まだ小学校低学年くらいの子にこんなこと言われたら誰だって……。やばい、ちょっぴり泣きたくなってきた。ってかできてんの?こいつら。っていうか何が悲しくてこんなちんまいガキをナンパせにゃならんのだ。一息にここまでつっこんだら疲れたな。
よし、この際、つっこみどころ満載なガキの発言は気にせず、学園の場所を聞き出すことに全力をかけよう。俺は冷静でクールな蓮をゴミ箱をから拾い上げ、尋ねた。
「や、だからね、学園の場所を「やだ〜怖いよ和君」「大丈夫だ、香織。俺がついてるぞ」
「学園の場所を「香織には指一本ふれさせねぇ!」「和君……!」
おいおいおい、何俺を無視していい雰囲気になってんだよ。しかも、これだと俺が悪役的ポジションだしね。一応これの主人公なんですけど……ゲフンゲフン。
こいつら、駄目だな。ったく、藤宮夫妻といい、この町はこんなやつばっかりか。俺はなんだか悲しくなって、道を聞くのをあきらめ、踵を返して公園を出ようとした時、女の子、香織が俺に声をかけた。
「っと、冗談はこのくらいにして、お兄ちゃん、どこに行きたいんだっけ?」
そう言いながら俺にとことこ近づいてくる。後ろでは、口をパクパクしながら「冗談だったの!?」と連呼している和君。なんだかちょっぴりかわいそうだ。けど俺は何も言わない。なぜって? 俺を無視した罪は重いからね。
俺は、香織ちゃんと同じ目線になるようにしゃがみこんだ。
「俳桜学園に行きたいんだけど、分かる?」
俺は努めて優しく言った。
「分かるよ〜!」
元気に笑顔で返してくれる香織ちゃん。
「どこかな?」
「そこ」
と香織ちゃんが指を指した先には、学校がありました。ガーン! という効果音が出てるんではないかと思うほどうなだれる俺。後ろでゲラゲラ笑っている子供2人。この温度差のせいか、俺は今すぐこの公園を去りたい気持ちになった。多分こんなちんまいガキに笑われて恥ずかしいからだろう。
「ありがとうね」と俺は香織ちゃんの手に、ポケットになぜか入っていた飴玉をお礼変わりに乗せて、いまだに爆笑の渦にいる和君を一睨みしてから公園を後にした。
***
さて、今は学校の校門の前です。生徒はまだ授業中の様子。
待つか。と、俺は校門の前でしゃがみ込んだ。
***
「おっそいなぁ〜〜」
待ち始めて、30分ほど(ほんとは5分)たった頃、俺は待ちくたびれてその場で行ったり来たりを繰り返していた。その時、校内に鐘が鳴り響いた。多分授業終了の鐘だろう。緊張してきました。ついに妹と対面です。
さらに30分(何度も言うが、5分)ほどしたところで、生徒が校門から次々と出てきた。俺は校門から出てくる生徒全員に目を通すが、見当たらない。
う〜ん、いないなぁ。どこにいるんだろ、結衣ちゃん。写真を確認する。ちょっと幼い、いや、かなり幼いが、なかなか可愛い子だ。いや、いくらなんでもこれ幼すぎない!? ほんとに中学生!?
と俺がいろんな角度から写真を眺めていると、不意に声をかけられた。
「あなたが、蓮さんですか?」
俺は声の主に目をやる。とても可愛い子だった。そう、例えば加奈子さんを若くして、さらに可愛くしちゃった感じだ。うん、加奈子さんより可愛い。俺の知ってる女性の中で一番可愛いと思う。髪型は栗色のセミロングで、少しパーマがかかってる。輪郭はきれいな卵形で、目はぱっちりした二重だ。
え? 加奈子さん似?
「そうだけど」
「初めまして、藤宮 結衣です」
「え? そんなはずは……」
確実に写真の子ではない。俺は、写真に写ってる子と目の前の美少女を並べてよく見比べる。うん、どことなく写真の女の子の面影が目の前の美少女にはある。あっはっは! なるほどね! っていつの写真渡してんだよ加奈子さん! 家に帰ったら説教だな。
そして、一応確認を取る。
「これ、君?」
俺は写真を結衣ちゃんらしき人に見せる。
「そうですよ〜! こんなのどこで見つけたんですか?」
「それはあとで加奈子さんに聞いてよ」
俺の発言に結衣ちゃんはきょとんとしてしまった。だってね、説明すると長くなるし。
「とりあえず、自己紹介しようか。俺は浅田 蓮。これからよろしくね」
と、俺は右手を差し出す。
「む〜!」
なんだか結衣ちゃんが訝しげな目で俺を見てくる。
「な……なにかな?」
「もう、藤宮 蓮でしょ?」と、説教ぽく言われた。
「……だね。藤宮 蓮です。よろしく」
なんだかとても照れくさいが、なかなか新鮮で嬉しかった。ただ新しい姓で名前を名乗っただけなのに、俺にも家族が出来たことが再確認され、それが心から嬉しかった。そして、改めて手を差し出す。
「藤宮 結衣です! よろしく!」
結衣ちゃんも手を握り返してくれる。っと思いきや、腕に絡みつかれた。なぜ!?
「ちょっ、どうしたの?」
「別にいいじゃないですか! 兄妹だし」
や、兄弟って腕組んだりするもんなのか? っというかそういう問題の前に俺が恥ずかしいのでやめてもらいたい。妹といっても、一応女の子だし、嬉しいけど恥ずかしい。あぁ、周りからの視線が痛い。結衣ちゃん、可愛いからなぁ。きっと俺の顔は赤くなってることだろう。結衣ちゃんが俺の顔を見て「か〜わい〜い」と言った。なに? 親子そろって。俺をいじってそんなに楽しいんですか?
「じゃあ、帰ろうか。結衣ちゃん。」
俺は出来るだけ平静を装って言った。
「あ、妹にちゃん付けはやめてくださいよ〜。呼び捨てにしてください!」
「じゃあ、結衣も俺に敬語使わないでくれないか? 家族なんだから」
「わかったよ。ね、お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「いいよ」
「やった〜! お兄ちゃん!」
「なに?」
お兄ちゃんか、なんだかめちゃめちゃ恥ずかしいな。
「ん〜ん、呼んでみただけ!」
ま、結衣がめちゃめちゃ喜んでるからいっか。