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番外編3/『妹』ポジション

本編もあんまり進んでいないですが、番外です。例のリクエスト企画で、なんとラグ様がリクエストしてくださいました! 拍手!!! はい、なんかテンションが上がってしまいました。ラグ様ありがとうございました!では番外編第三弾、内容は蓮が養子にくる少し前を結衣視点でいきます。

 こんにちは、結衣です。今日は、桜ちゃんが検査入院から退院する日で、彼方君、香奈ちゃんと3人で桜ちゃんを迎えに来ました。でも、病室で彼方君が話しっぱなしです。


「でさ、その蓮ってやつがさ、俺がボコられてる時に走ってきてくれてさ、ちょちょいっと全員倒しちまったんだよ」


 身振り手振りを交えながら、一ノ瀬彼方君はまるで演説のように私と桜ちゃんと香奈ちゃんに蓮と呼ばれる人物について必死に伝えようとしているが、妙に話がヒーローっぽいし、しかも強すぎるんだよね。


「全員?」


「あぁ!」


「本当に全員?」


「……悪い、全員は嘘だ。でも、助けてくれたのは本当だ!」


 結局は少しだけフィクションを含まれているみたい。っていうか、個室とは言え仮にもここは病院なんだからあんまり騒がない方がいいと思うんだけどなぁ。


「そうなんだぁ」


 数ヶ月前、私の仲の良い友達の桜ちゃんに、お兄ちゃんが出来た。離婚とか再婚とか、大人の事情が沢山絡んだ話だと聞いたけど、桜ちゃんは兄が出来る嬉しさ反面、頑固なところがあるので、新しい母親とはあまり打ち解けていないみたいだけど。


「っておい桜! ちゃんと聞けよ! 大事な話しなんだぞ!」


「それのどこが大事な話しなんだよ馬鹿兄貴!」


 この通り、兄とは上手い具合にいってるんだよね。裏では超ド級のブラコンなんだけど、本人の前では恥ずかしいのか、憎まれ口ばっかり利いてるんだよ。


「おいそこ! 黄昏てないで真剣に話を聞くんだ! まだACT3までしか話してないんだぞ!」


 怒りの矛先は桜ちゃんから香奈ちゃんに移り、茜色に染まってきている空を眺めていたので、突っ込まれた様子。それもそのはず、もう一時間は話しっぱなし。正直もううんざりなんだろうね。

 でも、優しい香奈ちゃんはそんなことは言えず、どうしていいのかわからずに私を見てきた。


(ヘルプ!)


 多分目でそう言ったんだと思うけど、私は苦笑いで返すことしか出来ない。っていうか、それ以外にどうしろっていうの? 止まらないよ彼方君。もうここまできたら最後までさっさと聞いた方が速い気がするよ。


「ちなみに、今のところACT10まで出来てるからな」


 突然の爆弾発言投下! 何? 今までの一時間でやっと3つだよ? あと7つもあるの? 今ちょっと横を見たけど桜ちゃんはもう帰り支度をしてたし、香奈ちゃんは苦笑いを通り越して無表情だよ!


「おい桜、お前何帰ろうとしてるんだ?」


「もうね、面倒すぎます!」


「残念だがお前は家に帰っても入れないぞ」


「え? なんで?」


「今日、お父さんはもちろん仕事で居ない。お袋は友達と食事に言ったし、メイドの菅さんは飼ってた犬が死んだショックで未だ立ち直っていないから、今日も休暇を取ってる。つまり! お前は家に帰っても入れないんだよ!」


 蓮君が高らかに宣言すると同時に、桜ちゃんがガーン! と分かり安すぎるリアクションを取った。そして、自分が持ってる鍵を見せつけようとする彼方君は、上着のポケットを探り始めた。


「……あれ?」


 あれ?


「え? あれ?」


 あれあれ言いながら上着の全てのポケットを探り始める彼方君。これはもしかしなくてももしかしてるね。

 そして、桜ちゃんがまさかって感じで彼方君に詰め寄る。


「まさか……鍵、無い?」


「……うん、っぶ!」


 その瞬間、桜ちゃん必殺『幻の左フック』が炸裂した。が、香奈ちゃんと私はいつものことなの右から左に受け流す。


「どうするの、彼方兄?」


 倒れている彼方君に視線すらくれずに、呆れたように聞く桜ちゃん。


「んー、実はみんなもう家に居るんだよね」


「じゃあ、さっきの家に入れないってのは?」


「全部嘘」


「ちょ、待てよ桜。ちょっとしたジョークじゃん? そんな、まッ、っぶ!」



***



 無事? 退院した桜ちゃんを見送った後、私は蓮という人のことを考えていた。なぜか、妙に気になった。

 どうして? そう思うが、それを考えると頭にもやがかかったように何も考えれなくなってしまう。


「何か、大事なことを忘れてるような気がするんだよなぁ……」


 でも、思い出せない。何を忘れているのかすらも思い出せない。


「蓮……かぁ」


 何か惹かれるものを感じた。彼方君の言うことだから、もしかしたら嘘の話なのかもしれないけど、私は疑わなかった。


「多分、いい人なんだよね」


 あんなに彼方君がラブコールする人なんだから、きっとカッコイイんだよね。


「会ってみたいなぁ」




***




「蓮? 誰?」


 久しぶりの家族3人で家での食事。私は、思い切って蓮の話を出してみた。


「蓮って人がね。凄いんだよ。昔彼方君が不良7人に絡まれた時にね、颯爽と現れて全員倒してくれたんだって」


「それが本当なら、その蓮君はパパをも凌ぐ強者だぞ」


「ここだけの話し、パパは喧嘩する勇気なんて無いのよ」


 お母さんが、私の耳元で囁く。もちろん、お父さんにも聞こえるように。

 瞬間、食卓が笑い声で一杯になった。




***




「聞いて聞いてお母さん。今日彼方君に聞いたんだけど。蓮君ね、院長さんにこっぴどく叱られてたんだって。それで相当機嫌が悪かったらしいのね。その後、環さんって女の子目当てで来た柄の悪い不良がいたらしいんだけど、腹いせに飛び蹴りしたんだって」


 私はいつものように彼方君から聞いた話をする。この話で盛り上がるのは、もはや通例だった。


「また蓮君の話し? 結衣最近その話ばっかりね」


「もう、いっそ家に養子として迎え入れちゃうか!」


 冗談めかして言うお父さん。しかし、私は思わず本音を漏らしてしまった。


「そうなったら、いいなぁ」


「「え」」


 目を点にして、唖然としているお母さんとお父さん。

 まぁ、こんな反応が返ってくることは知ってたんだけどね。


「冗談だよ、冗談」




***




「家族会議?」


 久しぶりのすみれさんを入れて、4人揃っての食事。食卓についた私に掛けられた第一声は、家族会議の要請だった。


「で、なんなの一体?」


 家族会議なんて始めてのことだし、何かやましいことをした記憶は無いし。心当たりが全く無い。

 全員の視線を浴びながら、お父さんは口を開いた。


「なんと……」


「なんと?」


「うちに……」


「うちに?」


「新しい家族ができました!」


 お父さん、どれだけ溜めるの? と内心思った瞬間の爆弾発言投下! 不覚にも私はお父さんの好みそうなリアクションを取ってしまった。


「ええ〜!? それ、どういうこと?」


「言葉通りの意味だよ」


 まぁ、2人の年齢、そして私の年齢はともかく、喜んでいいんだよね? 私もおねえちゃんってことだよね!


「で、妹? 弟? それもまだ分かってないの?」


「ちょっと待つんだ結衣。流石に、お父さんもお前が14歳だと言うのに頑張ったりしないさ。まぁ、ご要望とあらばいつでもいけるんだが……」


 そして、チラッとお母さんの方を見るお父さん。今、私の中のお父さんの株が大暴落しました。最低。


「まぁ待て結衣。今のは冗談だ」


「どこが冗談なの?」


 ここまできたら敗北というのをお父さんに教えてあげるのもいいかもしれない。


「う……。まぁ、聞け。つまり言いたいのはだね」


「そうだった、子供ができたんじゃないんだとしたら何? 新しいメイドさんってこと?」


「おしい! けど違うんだなぁ」


 少しだけイラッとしたのは、もはや説明するまでも無いと思う。そして、やっとお父さんが説明を始める?


「だから、養子だよ、ようし、よ・う・し!」


「用紙、容姿?」


「違う洋紙、間違えた養子!」


「それって、養子?」


「イエスイエス、養子」


「ってなんで?」


 いきなり養子? なんで? 意味不明! 


「ちなみに、明日迎えに行ってきます!」


「明日!?」


「そう! 中等部の校門に立たせておくから、見つけてやってくれ!」


 そう言って私の質問攻めから逃げるようにお父さんは立ち上がる。


「ちょっ! 何!? なんで!? 養子って誰〜!?」


 答えること無く行ってしまったお父さん。次回会ったらどうしてやろう。




***




 キーンコーンカーンコーン


 どうしようどうしようどうしようどうしよう! 学校、終わっちゃった! 待って、落ち着くのよ結衣。あの後なんとかお母さんに名前を聞いたけど、まさかあの蓮君だなんて。

 お父さんの策略を感じるよ、うう。


「結衣!」


「ひゃあ!?」


「な、何? どうしたの?」


「なんだ香奈ちゃんかびっくりさせないでよ」


「いや、むしろこっちがびっくりしたんだけど……」


「で、何? 私今ちょっと取り込んでるっていうかなんていうか……」


「そのことだけど、そんなに緊張するんなら、一緒に行ってあげようか? 蓮さんの所」


 そっか、その手が……。いや、でも。


「いいよ、1人で行く。ありがとね」


「本当に? 大丈夫?」


「はい。藤宮結衣、行ってきます!」


 右手を上げてそう言った。




***




 そういえば、私蓮君の顔知らない……。校門に行っても、わかるかなぁ? あ、いた。

 校門の前で、生徒玄関の方をチラチラ見ながら、その場で行ったり来たりをしている人物がいた。めっちゃわかりやすいなぁ。

 瞬間、目が合った気がして柱の後ろに隠れる。


 どうしよう、目が合っちゃった。……ような気がした。


「結衣、結衣!」


 俯いていると、不意に名前を呼ばれた。私は、仕方なく顔を上げる。


「香奈ちゃん、桜ちゃん」


 2人は、少し離れたところから見守ってくれていた。香奈ちゃんはこっちに向かってガッツポーズをしていて、桜ちゃんは口パクでなんとか言葉を伝えようとしているみたいだけど、私にはわからない。

 私はそんな2人に後押しされ、ガッツポーズを返してから柱の影からでる。一歩、二歩。彼に近づくほど心臓の音が大きくなり、足が震える。

 そして、後ろに陣取ると、大きく息を吸った。


「あなたが、蓮さんですか?」


 声は震えてなかっただろうか? 怪しまれていないだろうか?


「そうだけど」


 しっかりと返事をくれたことで、私の緊張もいくらかましになった。そして、綻ぶ口元を気にせずに、しっかりと自己紹介をした。


「初めまして、藤宮結衣です!」




***




「ね、お兄ちゃんって呼んでもいい?」


「いいよ」


「やった〜! お兄ちゃん!」


「なに?」


「ん〜ん、呼んでみただけ!」


 なんか、お兄ちゃんって呼ぶの少し恥ずかしいな。

 恥ずかしいけど――


「お兄ちゃん」


「今度はなんだ?」


「これからよろしくね!」


「うん? あぁ」


 お兄ちゃんをお兄ちゃんって呼べるこの『妹』ってポジションは、世界で私だけのものだから――

 ラグさんの有難いリクエストのもとに作成した番外編、どうだったでしょうか?

 作者アバウトは、今でも随時リクエストを募集しています。気軽にメッセージなどをおねがいします。

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