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第一部最終話/YAKUSOKU

第一部完結です。


もし番外編についてリクエストなどがあれば、メッセージや感想などをくれると嬉しいです。

夜の病院。それは、とても不気味で、怪奇現象なんかがたくさんおきて…。でも、そんなのは嘘だ。実際には患者や看護師が廊下を行き来しているし、病室内では楽しそうな笑い声が響いている。

病気で入院している人。怪我で入院している人。理由はさまざまだけど、皆完治を信じて精一杯生きている。だから、笑顔になれる。

この人たちは、もし自分の病気がどうしたってどうにもならないと知ったら、一体どんな顔をするんだろうか。

苦しい顔?泣き顔?どれも全て違う。本当にそうなった時は、きっとどうでもよくなるんだと思う。

今の、俺のように。



***



俺は502の病室を目指し、廊下をゆっくりと歩いていた。

その時、俺の目的としている病室から、人影が出てくるのが見える。誰かな?とよく目をこらしてみてみると、この間の涼とか言う結衣のクラスメイトだと言うだと分かった。

涼はあからさまに嫌な顔をして、舌打ちをしながら目線を合わせないように歩く。

すれ違う瞬間、俺は涼にこう言った。


「結衣を、よろしく頼む」


俺は、そのまま振り返らなかった。だから、涼がどんな顔をしているのかはよくわからない。でも、舌打ちだけが小さく聞こえた。

俺は、ゆっくりと結衣の病室の扉を開ける。


「結衣?」


「あ、お兄ちゃん!」


両足を釣られている結衣は動けないが、弾けるような笑顔でこっちを見る。

どうやら本を読んでいたらしく、手の中にある本にしおりを挟むと、ポンといい音を立てて閉じ、膝の上に置いた。


「具合はどうだ?」


「まぁまぁ。毎日お兄ちゃんが来てくれるから暇しないで済んでるけどね」


結衣は入院してから、今まで以上に甘えるようになった。きっと、結衣も寂しいのかもしれない。


「そのことなんだけど…今日は大事な話があるんだ」


俺が急に真剣な表情になったことを察してか、結衣も真剣な表情になる。


「俺がさ、浅田の家族に一緒に暮らさないか?って言われてるのは知ってるよな?」


「うん。お母さんから聞いたよ」


結衣が少しだけ顔を伏せる。


「俺、浅田の家族と一緒に暮らすことになったんだ…」


泣くでもなく、動揺するでもなく、結衣はこう言った。


「どうして…?」


なぜ?本当にそういう顔で、不思議そうにこっちを見た。


「どうしてって…」


「…結衣が怪我したから?それとも…元の家族に強制されて?」


「そんなんじゃない…。もう決めたことなんだ」


俺は結衣に背を向けて言った。これ以上見ていたら、殺したはずの強い感情が流れ出てきそうだったから。


「そんな…せっかく…家族になって…仲良くなれて…それなのに……もう、さよならなの…?」


やっと状況が理解できたのか、結衣の頬を涙が伝う。背を向けているので見えないけど、そんな情景が容易に想像できた。


「…」


俺は、何も言えなかった。


「また…会えるよね…?」


「…」


口を開こうとしない俺に、結衣は俺のシャツを引っ張り、更に言葉を続ける。


「もう会…えないなんて絶対嫌!…なんとか言ってよ!…こっち向いてよぉ……」


ダメだ。ここで振り向いたら、俺の心が折れる。そう思った。けど、振り返らないと…結衣が…。


病室内に、結衣のすすり泣く声だけが響く。ぐすんぐすんぐすんぐすん。

もうすぐ秋なのに、なまあたたかいそよ風が病室のカーテンを揺らす。ベッド脇には、香奈ちゃんと桜ちゃんが2人で折った千羽鶴が、少しだけ風に揺れる。カサカサカサカサ。

その時、ベッドが一瞬きしみ、俺の腕の中に結衣がいた。


――無意識だった。


言っちゃいけないのに、勝手に口が動く。


「結衣。これから先、多分しばらくは会えない、会っちゃいけない。でも…俺が過去を断ち切れて…。それで結衣も過去を乗り越えられたら。迎えに来るよ」


「絶対…?」


「絶対」


それだけ言うと、結衣は安心したのか、ゆっくりと体の力が抜けていき、ついには俺の腕の中で寝息を立て始めた。慣れない入院生活で疲れていたのかもしれない。俺はそっと結衣をその場に寝かせ、ゆっくりと布団をかぶせると、鞄から一通の手紙を出し、風で飛ばないようにコップの下に置いた。

ゆっくりと足音を立てないようにし、できるだけそっと病室の扉を開ける。

振り返ると、俺の大切な人がベッドですやすやと寝息を立てていた。少しだけ笑い、小声でこう言う。


「ばいばい。俺の……」


言いかけて、俺は病室の扉を閉めた。

ゆっくりと廊下を歩き、エレベーターに乗り、ロビーには、訓さんと加奈子さん。その横には、俺の実の父親、あつしが立っていた。


「もういいのか?」


「あぁ」


俺はロビーに置いてあった荷物を担ぐ。


「たまには、顔見せに来てよね」


加奈子さんが、少し名残惜しそうな、微妙な顔をしながら言う。


「それより、タマとハルの世話…頼んだよ」


「任せて!」


加奈子さんは顔の横でVサインを作り、笑った。


「蓮、就職に困ったらいつでも藤宮カンパニーに歓迎するぞ!お前ならコネで部長にしてやる!」


笑いながら訓さんが言った。この人なら本当にやりかねないので、適当に流しておく。


「まぁ、それは最後の手段にとっておくよ」


「蓮、そろそろ」


「わかってる」


そろそろ…つまり、新しい新居へと移動。ぶっちゃけて、アメリカ。流石に現実でこの展開はいかがなものか。ベタっていうか、王道というか。

とりあえず言わずとも相当遠いので、飛行機での移動となる。その時間が、差し迫ってるってこと。


「じゃあ」


俺は訓さんと加奈子さんに手を振り、病院を出た。

敦は、お礼を言ってから俺の後を追ってくる。

敦は最後の最後まで謝るか、お礼を言うか。それしかなかった。どれだけ感謝してるんだって話で、他に言うことはないのかとも思った。

敦はすでに再婚もしていて、会ったことはないが相手にも子供がいて、なんと俺の姉に当たる人物となるらしい。

妹の次は姉か。俺の人生、なかなか笑えるような作りになっていると思う。


俺と敦は車…といってもレンタカーに乗り込み、空港へと発進させる。実は、昨日彼方と桜ちゃん主催のお別れパーティーを実施してくれて、とてもいい気分でここまでこれた。

この俳桜も、俳桜に住んでる人たちは皆気持ちよくて、大好きだった。

だからこそ、俺は去らなくちゃいけない。


これはただの言い訳かもしれないけど、こうでもしないと俺の心が折れてしまう。俺の心は本当にちっぽけで、弱っちいから。俳桜との別れ、俳桜に住む人たちとの別れ、結衣との別れ…。これだけの負荷に耐えるには、何か前向きなものが必要だった。

それを教えてくれたのも、この町。


俺はもう、この町のこと以外どうでもいい。


はっきり言って、母の死もどうでもよかった。父の所に戻るのも、他に行くところがなかったから。


ただ…怖い。俺のせいで、大切な人が傷つくのが怖い。大切なものを失うことは、何よりもつらいから。

それはまるで何も見えない暗闇を全力疾走しているような感覚で、そう思っただけで鳥肌が立ち、発狂しそうなほど頭が痛くなる。

だから俺は、大切なものの何もない場所へ行こうと思う。


「ここから空港まで何時間?」


「うーん、一時間くらいかな」


敦は少し唸りながら答える。機会音痴らしく、カーナビとにらめっこしているさまが少しだけ可笑しかった。


「じゃ、着いたら起こして」


「おっけー」


と返事をよこした。


俺は目をつむり、少しだけの睡眠へと入った。



***



神様…今日、俺は約束をしました。


絶対に果たされることのない、無意味な約束。


そんな俺を、許してくれますか?


ははっ、無理ですよね。わかってます。あなたは俺が大嫌いなんだから。


いつもいつも俺に嫌がらせばかりして…。


だから、俺もあなたが嫌いです。


でも、1つだけ俺と約束してください。


結衣は…結衣だけは、嫌わないであげてください。


本当にいい子で…誰にでも優しくて…笑顔の可愛い子なんです。


そんな彼女を、どうかどうか嫌わないでください。


どうかどうか、結衣が元気に健やかに、これからの人生を明るく楽しく歩んでいけますように。






 ついにここまで来ました。第一部完結です。


 ここまで執筆してこれたのも、読者さんや評価をくれた人にパワーももらったお陰です。

行き当たりバッタリな小説でしたが、ここまで読んでくれた皆さん。本当にありがとうございます。


 ちなみに、まだ2部が残っていますので、「姫と騎士と彼女と俺と」が完全に終わったわけではありません。

 前書きにも書かせていただきましたが、せっかくそれなりに読者さんがいることですし、「こいつのこんな過去話が聞きたい!」とか「この話の別の人の目線で見てみたい」など、

番外編のリクエストなんかがあったならばメッセージや感想を送ってくれたら嬉しいなぁ…なんて思います。多分、こないだろうなとは思うんですが、無くても僕が勝手に考えちゃいます!笑)

 更に言うと、30話と最終話の間の部分は僕がいずれ番外ということで予定しています。


 いやぁ、本当に、ここまでこれてよかった。

 

 これからも、「姫と騎士と彼女と俺と」をよろしくお願いします。 


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