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29/無免許運転にご注意ください

4時間も電車を乗り、やっとこさ着いたのは少し前まで住んでいた町。

田舎というほど田舎でもなく、都会というにはあまりにも何も無い微妙な町。

たった一ヶ月程度居なかっただけだというのに、随分と様子が変わっているような気がする。

俺は駅から、慣れた道で孤児院を目指す。

いつも買出しをしていたスーパー。彼方と仲良くボコられた公園。子供たちにお菓子やジュースを買ってあげたコンビニ。どれもこれもが懐かしい。

コンビにを過ぎた曲がり角。そこを曲がると、おなじみの孤児院。

時刻はもう子供たちにとっては深夜と言っても過言では無いので、呼鈴を鳴らすのは少しだけ心苦しい。

ま、躊躇ったってどうしようもないし…とのことでさっさと呼鈴を押す。


「久しぶりだね、蓮。遅かったんじゃないの?」


呼鈴を押してすぐに、院長が出てきた。なにやら俺が来るのを知っていた感じ。預言者か?


「よく俺が来るって分かったな」


「加奈子ちゃんから連絡あったからね。蓮をよろしくお願いします!て」


預言者って線は無いらしく、まぁ普通のつまらない結果だった。もうちょっとこう、何かないのかなぁ…なんて、無理難題を考えてみる。


「まぁ、どこに行きたいかはわかってるけどさ。今日はもう遅い。あんたの部屋まだいじってないから、今日は寝て明日にしたら?」


「そうはいかない。こっちだって急いでるんだ」


「…しょうがない子だねぇ」


院長がそう呟いたときだった。バタバタバタバタと、聞きなれない騒音がする。


「おや、珍しいねぇ。ヘリがこんな田舎にくるなんて」


「本当だな」


言われてみれば、この孤児院に居た時はヘリの音なんて聞いたことがなかったような気がしないでもない。俳桜に居る時は時たま聞いていたが…。

ヘリの音はどんどん大きくなり、孤児院の上空を飛んでいった…と思いきや、なんでだろうなぁ?孤児院の上空で止まっている。おいおい、なんだかハプニングの予感がしてきたよ。


「なんで?」


思わず口からだしてしまった。おいおい、もしかして着陸するつもりか?ここには駐車場兼公園っていう子供たちの遊び場があるため、できないこともないとは思う。

あ、やっぱり降りてくるんだ。俺として、一刻も早くここから逃げ出したい。これさ、サットとかそういうのじゃないよね?俺、射殺されたりしないよね?されるとしたら院長だな。俺の人生、やましい点なんて一つも無い…それはないか。

とかなんとか思っていると、無事にヘリが孤児院に着陸した。いや、フラッフラしていたところを見ると、全然無事ってわけじゃないんだろうけど。


「子供たち、起きちゃうわねこれ」


院長は、今のこの意味不明で奇奇怪怪な状況よりも子供たちが心配らしい。院長?確かに子供たちもいいけどさ、自分の心配もしよう?


「起きてきちゃったらあんたのせいだからね蓮」


恐らく俺のせいにしたいだけなんだろう。もはや、この人を射殺してくれ。

ヘリから人が降りてくる。その人は…。


「またあんたか」


「はい、また私です。全く、どこまで世話が焼けるんですかあなたは。いい加減にしてくださいよ」


凛とした口調、クールな雰囲気、毒舌。その人はすみれさんだった。

もはや何も驚くまい。この人ならいつどこでどんな格好で現れたっておかしくは無い。つまりは神出鬼没の変人だ。いや変態だ。

そう心の中で呟いた俺を横目に、すみれさんが院長に話しかける。


「では院長、私が責任もって蓮様をお届けしますので…では」


「え?あ…あぁ」


そう言って俺の首根っこを掴んだすみれさんは、さっさとヘリに乗り込む。

どんだけ強引なんだ!ちょ、首が痛い!もげるって!や、もげないけどさ。

そうしてヘリの中に連れ込まれた俺。しかし、中には操縦士の姿が無い。と思ったら、すみれさんが操縦席に座る。


「すみれさん、ヘリ操縦できるんだな」


「はい。みようみまねですけど」


「はぁ!?」


何それ、みようみまね!?はぁ!?


「待て待て待て!免許は!?」


「無いです」


さらっと当たり前のように言うすみれさん。俺の危機管理能力が告げた。逃げろ!と。


「降ろして!今すぐ降ろして!」


「では、出発します。ちなみに、今は夜なので大変危険ですので、どうか私を刺激せぬようお願いします」


俺の意見を聞くつもりはないらしく、すみれさんはプロペラを回す。声色が何気に楽しげなのはなんでだろうな?


「無理!絶対無理!助けて院長ぉ!」


俺の叫び虚しく、楽しい楽しい夜空の旅は始まった。



***



ガタン!


「バカ!前見て操縦しろ!」


ヘリはフラフラとしながら夜空の星の如く進んでいく。なぜ?すみれさんが携帯をいじりながら操縦してるからさ!…よしてくれよ頼むから。俺の精神はもはや月の表面のようにボコボコだ。


「バカ?それは聞き捨てなりませんね」


すみれさんが携帯を離し、こっちを睨む。


「何してんだ!こっち見るな!前見ろ前!バカ!」


「…一度ならず二度までも…少し私とお話しましょう」


ついにすみれさんが操縦桿そうじゅうかんを離し、こっちに身を乗り出してきた。


「あぁ!操縦桿放すなぁ!!」


「そんなに文句があるなら自分で操縦したらどうですか?」


「できるかぁ!!!」



***



「はぁ…はぁ…はぁ」


「やっと着きましたね。随分遠出でした」


長い長い空の険しい旅路を終えた俺たちは、藤宮カンパニーの支社とか言うところにヘリを止め、やっとこさヘリから降りた。

わざわざ険しい旅路にした張本人は、さも涼しい顔でいる。それに比べて俺は、見も心もズタボロだ。


「では、私はここで待っているので。さっさと用を済ませてきてください」


むすっとしてはいるが、多分俺ためにきてくれたんだ…。と思う。というか、信じたい。


「わかった」


俺はそういい残して、ビルを降りた。正直、あの場所なんて言ってるけど何しろ7年前の話だ。正確に覚えているわけが無い。そう思っていたんだけど、なにやらここには見覚えがある。どうやらあの場所は目と鼻の先らしい。俺はまたまた偶然にも向かい側にあった花屋で適当に花を買う。どれがいいのかなんて全く分からないし、本当の本当に適当に買った。

そうしたら、あの場所へ向かった。

ハッキリ言って町の風景は本当にうるおぼえになっていて、あまり久しぶりという気がしない。それに、多分俺が大きくなったからだと思うけど、町の風景が違って見える。

でも、一箇所だけ鮮明に覚えているあの場所。俺の不注意から、運命の歯車を狂わせてしまった悪魔の場所。そこだけは昔と何も変わってない。曲がったガードレール。傷の着いた電柱。


「昔のままだな…」


そこに俺は一歩一歩近づいた。胸が痛む。体が熱い。それでも、俺は近づいた。

そこにいるから。姉でも、俺でも無い。”俺”がそこにいるから。今も、後悔の念に囚われ、あの日の地獄を見続けているから。それは、俺であって俺じゃない。

過去の俺と現在の俺。現在の俺が笑うと、過去の俺が泣く。現在の俺が苦しむと、過去の俺が微笑む。


…違うな。


こんなの言い訳だ。俺は俺であって他の誰でも無い。結局のところ、過去の俺の考えも今の俺の考えも今俺は両方を肯定して生きてるんだ。

だから、どうしても不安定。俺の中に考えが2つある以上、答えが出ることは無い。

だから今日俺は、自分自身に新たな一歩を踏み出すための誓いをしにきたんだ。

大事なことは心で決める。俺は、これから自分のしたいように生きる。これが、俺の答え。でも、それを過去の俺は許しはしない。そうやって今日まで生きてきた。


…けど……それも今日までだ!


「俺は、過去に囚われ今も浅田蓮として生きてきた!」


俺は、まばらにいる人目もはばからずに叫んだ。俺の魂に誓う決意の言葉。


「今まで受けてきた恩と罪を背負い、俺は俺として生きていくことを、ここに誓う!」


もしかしたらこんな俺を身勝手と言う人がいるかもしれない。もしかしたらこんな俺を哀れと嘆く人がいるかもしれない。


「それでも、守りたい約束があるから、俺は行く!…以上!」


姉との約束。結衣との約束。俺には、それらを守る魂の責任がある。今こそ、その恩に報いる時。

俺は、花束とともに誓いの言葉をその場に置くと、文字通り逃げるようにそこから去った。

はっきり言って、こんなに恥ずかしいことをしたのは生まれて初めてだ。でもまぁ、それもありかな。なって、そんな風に思えた。


「帰るか。みんな心配してるかもしれない」


俺がそう呟いた時、朝靄あさもやの向こうから血相変えて慌てて走ってくるすみれさん。

息も絶え絶えで、相当焦っているようだ。


「お…落ち着いて…聞いてください」


「や、あんたが落ち着けよ」


「結衣様が…」


何か…嫌な予感がした。


「結衣様が…交通事故にあったそうで…今、病院に搬送されたそうです…」


今、決別したはずの過去の記憶がよみがえる。トラック…交差点…ピーポーピーポー。


「な…んで?」


なんで?そんなの分かりきってるじゃないか。


色々ありすぎて、すっかり忘れてたよ。


俺は…神様に嫌われたんだったな…。




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