表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

28/天気予報は当たらない。

ご無沙汰しております、蓮です。


結衣と遊園地に行ってからもう一週間ほどが過ぎ去りました。


現在の時刻は放課後。

一人寂しく家路を急いでいるのだが、なぜ放課後に一人寂しくトボトボ帰っているかというと、今朝までさかのぼる必要がある。

今朝、遅刻寸前でバタバタしている玄関先で、加奈子さんに言われたのだ。今日は大事な話があるから、寄り道せずに一人で帰ってきなさいと。多分、一人っていうのは、結衣は置いて来いってことだろうと思う。幸い結衣は、いつものメンバーでカラオケだそうだ。なぜかしら俺も誘われたのだが、加奈子さんの話の方が重要なので、丁重にお断りしたわけである。

それはともかく、朝は時間の関係から、深く聞き返さずにただ頷いて家を出たんだが…。

俺には全く心当たりが無く、こんなに改まって話があるなんて、余計に気になるじゃないか。ここ一週間は特に何事もなく過ごして来たのに、まさかまた何か面倒事じゃないだろうなぁ、頼むぜおい!

とかなんとか、心の中で無意味な抵抗をしてみる。

さっきからやけに暗いと思ったら、天気予報が完璧にはずれ、生憎の曇り空が広がっていた。


「降ってきそうだな」


そう呟いて、足を速めた。



俺はまだ気付いていなかった。


この後、また歯車が狂い出すことを…。




***



家につくと、家の中がいつもと違って見えた。朝、この家を出たのは、間違いない。でも、まるで他人の家のような、そんな錯覚に陥った。

リビングに入ると、加奈子さんがソファーで何そするわけでもなく座っていた。


「蓮ちゃん、おかえり」


「ただいま」


俺は、向かい側のソファーに腰掛ける。


「んで、話って何?」


「あんまりいい話ではないの。蓮ちゃんにとっては、どうか分からないけど」


「さっさと本題に入れよ。あんたらしくないな」


はっきりしない態度に、なぜだかイライラしてしまった。

そんな自分に腹が立つ。

一呼吸置いて、加奈子さんが一度口を開きかけて、また閉じた。そして、今度こそッとばかりに、言葉を口にする。


「結論から言うわね。あなたの家族が見つかったの」


体が冷え切った気がした。全く頭が回転せず、ただ時間だけが過ぎていき、頭の中ではどうしようもなく加奈子さんの言葉が鳴り響く。


「え?」


何も理解できなかった。だから、素っ頓狂な声を上げてしまったんだと思う。


「少し休む?何か飲み物持ってこようか?」


まるで小さな子をあやすように言う加奈子さん。ふざけんな。俺を、子供扱いしないでくれ。


「大丈夫だ、続けてくれ」


「わかったわ。それでね…どうしても…あなたとどうしても暮らしたいと言っているの」


7年前の記憶がよみがえる。まだ姉が生きていて、家族で笑いながら過ごした日々。でもそれは、姉の死という形をもって終止符が打たれた、過去の記憶。思い出。7年前ではあの笑顔の家族は、今では俺を捨てた赤の他人。


「何を…今さら…!」


イライラが頂点に達したような気がした。俺の知らない間に、いろんなものの時間が進んでいて、俺はまだ、あの日のまま一歩も前に進めてなくて…。進んだ気でいたけど、結局は何も変わってなくて…。俺は、どこまで運命の荒波に流され、いつになったら嵐は止んでくれるのだろう。


「それとね、あと1つ、あなたに言わなきゃならないことがあるの…」


加奈子さんが俺の頬に触れ、どうしようもなく悲しい顔で言う。その顔を見ただけで分かる。今これから告げられることは、俺にとってどれほど大切で、どれだけ残酷なことなのか。


「…何?」


「…あなたのお母さん、一年前に亡くなられたんですって…」


いくらなんでも、流石に自分の耳を疑った。立て続けに起こる予想外のイベント。いよいよ頭がショートしてきたような気がした。頭がついていかないっていうより、何も考えられない。何も分からない。ただ、1つだけ分かることがあった。


「!?」


俺の頬には、一筋の涙が流れていた。そっか…俺は、悲しんでいるんだな…。


「大丈夫?」


心配そうな顔で言う加奈子さん。なんでか、加奈子さんまで泣きそうになっていた。俺は、涙をぬぐってから答える。


「だいじょう…ぶ…」


ぬぐってもぬぐっても涙は止まらない。俺は腹にぐっと力を入れてこらえた。こらえて、こらえて、それでもどうしようもなく溢れてきて、俺は考えるのを止めた。


「………部屋で休むよ」


俺は、比較的早足でリビングを後にし、階段を上った。


「蓮ちゃん?あのね、ここに残るか、向こうに戻るかは、蓮ちゃんの自由だから!誰にも強制なんてさせないから!」


加奈子さんの少し鼻声のような声が聞こえる。もしかして、俺のために泣いてくれたんだろうか?その言葉に、随分助けられた。


「ありがとう、加奈子さん」



バタン



部屋に入った俺は、まずベッドに倒れこんだ。去り際に加奈子さんが駈けてくれた言葉に、どれだけ助けられ、救われたことだろう。

かなりショートしてた頭が、少しづつ機能し始める。それと同時に、母が死んだ事実がどんどん現実の化身となって、俺に襲い掛かってくる。

なぜ?いつ?父はなにしてたんだ?病死?事故死?それとも自殺?

いろんな疑問が頭の中を駆け巡る。

結局、何も分からない。


「嘘だろ…」


俺は、こらえた。

他に何も出来ないと思ったから。

ただ我慢した。

それじゃ、これまでと一緒だとは、微塵も気付けなくて、ただ、腹筋が割れるほど力を入れ、口の中が切れ、歯が悲鳴を上げてしまうほどに力を込めた。




***




暗い暗い闇の中。

俺は、一人でうずくまって…一人で泣いていた。そんな俺を、少し離れたところから見つめる1つの影。


「昔の…俺?」


そこには、昔の、7年前の俺が立っていた。

その姿は、鬼のような鋭い目で、まるで殺してくれと言わんばかりだ。そして、あの日の服を着ている。

それが確認できたと同時に、真っ暗だったはずの周辺が、いつのまにかあの日の良く晴れた交差点の風景に変わった。昔の俺が、俺の隣に移動し、語りかけてくる。


「お母さん、死んだのか。いや、おの女は俺を人殺しと呼んだんだ。そんな女を、お前は母親と呼べるか?」


お前は、呼べないのか?


「呼べないね。むしろ、死んでせいせいしたじゃないか」


本当にそう思ってるのか?


「当たり前だ!俺のことを…簡単に捨てたんだぞ!」


確かにそうかもしれない。でも…。


「でもなんだよ!お前は俺で、俺はお前なんだ」


…そうだな。


「もう誰も、俺たちを信じちゃくれない。もう誰も、俺たちを救ってはくれない」


違う…。


「俺たちは、一生を呪われて生きる運命なんだ。信じたら裏切られるぞ」


確かに昔はそう思ってた…。でも…違うんと思うんだ…。


「裏切られるくらいなら、信じなきゃいい」


違う。


「何が違う?本当はそう思っているんだろ?」


違う…!


「だって、俺たちは、お姉ちゃんを…! …殺したんだ!」


違う!




***




俺は、ある場所に行こうと決め、勢い良く起き上がった。

そこからは、ただ本能のままに動いたって感じ。

急いで私服に着替えると、サイフをポケットにしまい、急いで玄関に向かった。


「蓮ちゃん?」


後ろから、加奈子さんに呼び止められる。その声には、悲しみしか含まれていなかった。


「俺さ、昔は相当ひねくれてたんだよ。本当にさ…どうしようもないくらいに」


「そう…」


「うん。そいつがさ、今、苦しんでるんだ。ずっと、苦しさに耐えてきたんだ…」


加奈子さんはもう何も言わない。けど、俺は一方的に思いつくままに言葉を口にした。


「俺は、藤宮の家族のおかげでまた笑うことができた。7年前に止まってしまった俺の時間が、やっと動き出したんだ。けど、そいつは今も7年前のあの日から抜け出せないでいる」


矛盾してるってことは、分かっていた。


「俺が笑ったあの日から、2人になっちまったんだよ俺たち」


俺は、靴の紐をがっちりと閉め、立ち上がる。


「あいつは否定しながらさ、待ってたんだ。いつか救われる日がくるのを、俺が救ってくれるのを。…気付いてたけど、知らないふりしてたんだ…。気付いてるってことにも気付こうともしなかったんだ…」


なぜだか、よく分からないが、ヒーローってのは、こんな気持ちなのかな?と、そう思った。


「でも、あいつは俺を待ってくれてる。だから…」


俺は加奈子さんに振り返り、笑顔で言った。


「行かなくちゃ」


数秒の間隔ののち、加奈子さんが俺の手を握り、両手を重ね、強く握り締める。


「今度は逃げないで、しっかり救ってあげなさい。彼にあなたが必要なように、あなたにも彼が必要でしょう?」


そして、まるで本当の家族が、朝遅刻寸前の息子の背中を押すように、急げと、加奈子さんは俺の背中を押す。


「その子に、よろしくね」


俺の矛盾ばかりの話、ちゃんと伝わったみたいだ。

俺は、結局加奈子さんに後押しされ、家を後にした。

でも、それでいい。

足りない分は、みんなで分け合えばいい。


「ここから孤児院まで、相当距離あるよな」


みんな、一人で立っていられないものだから。


「一番速いのは、多分電車かな」


みんな誰しもが過去に囚われ、過去を背負って生きていく。


「よし、走るか!」


でも、きっとそれは、とてもとても大切なこと。

それに気付けることも、きっと大切なこと。




***




「ふふ、頼もしい背中になっちゃって」


蓮を見送った私は、リビングで一人お茶を飲んでいた。


「あれじゃ、まるでヒーローみたいね」


想像して、妙にしっくりきてしまうのが、また笑えた。


「なんだ、ぴったりじゃない。ヒーロー。ピンチの時に現れて、自分を救う、自分だけのヒーロー………素敵ね」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ