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27/デート日和、俺は妹の救世主

占いの館を出てから、俺と結衣の間には、なんとも形容し難いが、簡単に言うと付き合って数日で2人で出かけたときのような、初々しい雰囲気が流れていた。

っていうか、本当の所を言うと、初々しすぎてなんとも会話が…でも、会話なんてなくても十分楽しいみたいな、矛盾しまくりの無限ループみたいな…もういいや。

兎に角、午後は午前とは打って変わって、おだやかなアトラクションに乗り、俺が期待していた穏やかなる遊園地ライフをエンジョイしていたのだが、段々と日が落ち、一番人気の店長が気分で作りたい物を作ると言う、いろんな意味で意味不明なレストランで夕食を終えた頃には、完全に日が暮れてしまっていた。


「結衣、もう遅いけど、どうする?」


「うん…じゃあ、最後にあれ乗ろうよ!」


結衣は、天高くそびえ立つ?大観覧車を指差す。


「あぁ、あれか。あれ、夜になったら乗りたいって言ってたもんな」


「うん!なんかね、夜景が凄い綺麗らしいよ。うちの近くの繁華街まで見えるんだって!」


「へ〜、随分遠くまで見えるんだな」


「じゃあ、早速いこっ!」


そう言って結衣は俺の手をとり、小走りで駆け出した。夜の、しかも夜景の綺麗な観覧車となれば、行列が出来ることは簡単に想像できるから、なおのこと急ぐべきだろう。



***



想像していた通り、行列が出来まくっている。ここから観覧車まで少し距離があるが、行列の人の多さが目に見えて分かる。


「早く並ぼうよ」


「あぁ」


早速結衣と一緒に並ぼとした時、受付付近に居た係員に呼び止められた。


「引換券はお持ちですか?」


「え?」


「すいません、大観覧車は夜になると酷く込みますので、日中に引換券を配布していて、それがないと乗れないようになっているのですが…」


係員は申し訳なさそうに言う。

ちょっと待ってくれ。そんなの聞いてないぞ。


「そんなの知らなかったな」


「パンフレットや入り口付近に注意書きがあるのですが…」


自分のバカさに嫌気がさした。


「今からはどうしても乗れないんですか?」


「はい。引換券がないと…。申し訳ございません」


「…そうですか」


俺は、結衣の手を取り、小またで歩き出した。結衣はさっきから顔を上げない。どんな顔をしているのか…。何を考えているのか…。


「…乗りたかったなぁ…観覧車……」


そう言って手を強く握ってくる。

いろんな後悔が、頭の中を駆けずり回る。

どうして気付かなかったんだろう、パンフレットを見ればすぐに分かったはずなのに。さっきの係員に、無理矢理にでも頼み込めば、何とかなったかもしれないのに。

何もかも俺がバカなせいで、本当に嫌になる。

でもそれは、今さら言ったってどうしようも無い話。

一週間前、一緒に遊園地に行くと決めてからずっと言っていた、今日の予定。

最初に立てられたのが、夜に大観覧車だった。それが、結衣にとってはきっと特別な意味をもつんだろう。他の日でも、俺の以外の誰かでもなくて、今日、俺と乗るこの観覧車がきっと大切なんだろう。そう、直感的で分かった。それは、俺の妄想に過ぎないかもしれないし、ただの独りよがりかもしれない。でも、結衣と観覧車に乗りたいと、そう心から願った。


「あの、すいません」


どうにかして観覧車に乗れないか、それだけを考えていた。


「あの?すいません!」


「え?」


不意にかかった一言に、呆けた返事をしてしまう。


「さっき、観覧車の引換券がどうのって話してませんでした?」


そう言ってきたのは、20歳くらいの赤いメガネを掛けた、金髪の今時って感じの女性。


「はい、してましたけど」


「よかった!実は、急用が出来ちゃって、今すぐ帰らないといけないんですけど、私の変わりに、観覧車乗りません?」


救世主の登場に、気分がどんどん上昇していくのを感じる。結衣を横目で見ると、信じられないのか、目を丸くしている。


「本当ですか!?」


「もちろんです、じゃあこれ、はい」


女性がバックの中から引換券を取り出し、未だに目を丸くしている結衣の手を取り、両手の中に滑り込ませる。


「ありがとうございます!」


やっと、思考開始したのだろうか、結衣が女性に向かって深深と頭を下げる。


「じゃあ、急いでいるのでこれで」


女性は本当に急いでるようで、すぐに場を立ち去ろうとする。去り際に、女性は俺の耳元でこう言った。


「あんなに可愛い子、手放さないようにしなさいよ」


言い終えると、早足で消えていった。


「言われなくても、そうするさ」


「え?何?」


俺の独り言に結衣が反応する。


「いや、何も。それにしても、なんか、凄いな。こんなことってあるんだな」


「本当だよね。じゃ、今度こそ並ぼうよ…蓮君!」


「え?」


「いいからいいから!」


今、お兄ちゃんって呼ばなかった。それは、どう言う意味で解釈していいんだろうな。

結衣は、泣きそうなほど、っていうか、ちょっと泣いているところから、相当嬉しかったんだろう。そんな結衣を見てると、俺もどんどん嬉しくなり、結衣と観覧車まで競争して走った。



***



2人に引換券を渡し終えた彼女は、別段急いでいる訳でもなく、ただ人ごみから向こうからは見えないように2人が観覧車の方に走っていくのを見守っていた。


「全く、手のかかる人たちですね」


彼女は2人を見送ると、木の陰に隠れ、金髪のカツラと、赤いメガネを外しながら呟く。一瞬で服を脱ぎ捨て、たちまちメイドのような服になった。


「さて、私の出番はここまでですね」


カツラとメガネを外した彼女は、強い口調で、凛とした雰囲気の、クールな女性だった。



***




俺と結衣はもう一度行列に並び、係員に見せ付けるようにしてから引換券を渡し、後は待つだけ、しばらくして待ちに待った順番が来た。


「では、どうぞ、前へお進み下さい」


俺と結衣は、指示通りに観覧車に乗り込む。


「天空での長旅、どうぞごゆっくりご堪能ください。どうか、くれぐれも本当に天に上らぬよう、ご注意くださいませ」


「「…」」


この係員はこの遊園地での方針、すなわち係員マニュアルに従って言葉を発しているだけなんだ。この係員に突っ込んでもしょうがない。

と、俺と結衣はアイコンタクトで話し合い、お互いに突っ込まないということで頷きあった。と同時に、扉が閉まり、観覧車が動き出す。


「やっと、これに乗れた…」


結衣が独り言のように呟く。目は少しうつろになっていて、様子が少しおかしい。


「この観覧車、何か思い出でもあるのか?」


「分からない。思い出そうとしたら、いつも頭が真っ暗になるの。モヤモヤして、頭が重くなって…」


結衣が、痛そうに頭を抑える。俺は、ただ結衣の背中をさすり、落ち着かせるようにこう言った。


「なら、思い出さない方がいいってことなんじゃないのか?忘れるくらいだから、たいしたことじゃないだろうし」


できるだけ、難しい方向に考えさせないように、陽気な感じで言った。でも、それがいけなかった。


「そんなんじゃない!…そんなんじゃなくて…何か…何か大切なことを忘れてる気がするの…私にとってとても大切な…でも、思い出すのも怖いの…」


とても辛そうな結衣、ついに、肩が小刻みに震えだした。俺は、ただ見ていることしかできなくて、ただ背中をさすり続けた。

どうしてそんな怖い思いまでして、この観覧車に乗りたかったんだろう?


「なら、どうして乗ろうと思ったんだ?」


「あなたが、一緒だったから…」


「………え?」


俺は、一瞬思考が停止し、意味が理解できない。


「本当はね、ずっと悩んでたの。でもね、あの占いで、あなたと一緒なら、きっと乗り越えられるって…そう思ったから」


「結衣…」


結衣は、本気で俺と一緒ならなんでも乗り越えられると…そう思って思い切ってくれた。それなのに俺は、この子にどうすることもできない。っていうか、俺にどうしろって言うんだよ…!

俺は精神科の医者じゃないから、記憶とか、そういう知識は全くないし、結衣の恐怖を止めてやれる魔法のような力も無い。ごくごく普通の対して取り得も無い俺に、どうしろっていうんだよ…!

俺に出来ることといえば、これしかない。

こんなの、気休めにしかならないと思うが…。


「結衣」


頭を俯かせて、肩を震わせていた結衣が、一瞬顔を上げた。

それを肯定と勝手に解釈し、俺は精一杯、力いっぱい結衣を抱きしめた。文字通り、本当に、手加減なしで力いっぱいだ。


「わ、びっくりした…」


「どう?元気でた?」


「うん。ちょっと…」


「なら、もうちょっとだな」


俺は、もう少し力を加えようとした。


「ちょっと、もうちょっと優しくほしいな、苦しい…」


結衣が思いのほか本当に苦しそうだったので、少し力を緩める。


「でも…」


「でも?」


「あったかい…」


結衣が、この日一番の満面の笑みで言う。


「そっか。どう?落ち着いたか?」


「うん……でも」


「またでもか、何?」


「もうちょっとこのままでいい?」


まるで子供のように、俺の胸に顔をうずめてくる。


「もちろん」


俺は、快く承諾した。前にも、こんなやりとりを聞いたことがあるような気がするのは、俺の気のせいではないんだろうな。


しばらくして、頂上から少しづつ下がっていき、ついに、もう少しで到着というところまで来てしまった。


「結衣?そろそろ終点だぞ?」


「…」


「結衣?」


俺は、結衣の顔を覗き込む。


「なんだ、寝ちゃったのか」


結衣は、寝ていた。とても気持ち良さそうに、笑顔で、可愛らしく。不思議と俺も笑顔になった。俺は、家まで背負って帰ることを決意する。

なぜって?こんな顔で眠られたら、どんなやつでも、どうしてもそのまま寝かしておいてやりたくなるさ。

俺は起こさないようにそっと、慎重に結衣を背中に背負う。それとほぼ同時に、観覧車は到着し、扉が開いた。


「長旅、ご苦労様でした。地獄から、2名が生還です」


と、そんな係員の声は力の限りスルーし、家路を急ぐ。随分遅くなってしまったし、加奈子さんが心配して待ってるかもしれない。


「加奈子さんにも、この寝顔、見せてやりたいな」


そう呟いて、俺は足を速めた。






これから、電車に乗って、数駅で俳桜駅について、そのころには結衣も起きていて、門限の時間に少し焦って、小走りで、少し息を切らせながら家に帰る。

家に帰ったら、加奈子さんに少しだけ時間の注意を受けて、でも、笑顔で家に迎え入れられ、結衣と加奈子さんに今日の出来事をおもしろおかしく話し、眠くなったら寝て、明日は登校、また結衣と登校中にたわいも無い話をして、彼方たちとあって、授業を受けて、少し遊んで、家に帰る。

そしたらまた、美味しい夕飯を作って待ってくれている加奈子さんに、結衣と学校での話しをおもしろおかしく話しながら、一緒に夕飯を作り、そのうち訓さんが帰ってきて、非番なのになぜかうちにいるすみれさんと、5人で夕飯を食べる。

食べ終わったら、ハルとタマの遊び相手をしてやり、結衣は少し嫉妬し、俺とハルとタマは焦って結衣にじゃれつく。最初はいやがってた結衣も、そのうち笑顔になって、2人と2匹で遊ぶんだ。遊びつかれたら、ソファーで少しだけ寝て、加奈子さんに起こされて結衣が風呂に入り、その次が俺。

そしたら、結衣と俺の部屋でカードゲームやボードゲームをして、眠くなるまで遊び、12時ごろに就寝。



そんな毎日が、これからもずっと…ずっと続くと、そう思っていた。













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