26/デート日和、姫と騎士と
「ここだよ!」
俺に行き先を告げずに、ついて来い!と言わんばかりの我が妹が向かっていた先は、なんとも女の子らしい、簡単に予想できる、っていうか、遊園地って時点で選択肢から外れていたところだった。
「占いの館…か」
それにしても、この遊園地、的が全然絞れて無いな!普通遊園地に占いは無いだろ。
名前だって、マリンランドなのに、アトラクションの名前はほとんど漢字とひらがなだし。
それっぽいのはトルネードスネークぐらいだろう。よくこんなんで話題のテーマパークと呼べたもんだ。テーマパークと言っても、特にテーマが決まってないのは、言うまでも無いだろう。
「いこっ!」
結衣は俺の手を引いて行列に並ぶ。
妹がしっかりと乙女の道を激走していることに関心しつつ、行列の人々に目をやる。
うーん、なんとも憎たらしいことに、ほとんどがカップルのようだ。わずかだが男どももまじっている。
「ね、お兄ちゃん。並んでる人、みんなカップルだね」
俺の心情を知ってか知らずか妹が言う。
「あぁ…」
なんだか俺らって場違いなんじゃないのか?っていうか、この状況、俺と結衣もカップルに見えているのだろうか?
「もしかしたら、私たちもカップルに見えてるかもね」
結衣が俺にだけ聞こえる小さな声でささやいてくる。
全く、随分と意思の疎通ができる子だこと。予想していた考えで、冷静でいられたのは大変結構なのだが、なんだか気恥ずかしいのでスルー。話題を変える。
「それで、何を占ってもらうんだ?」
「内緒!」
間髪いれずに結衣が応えた。
「いいじゃないか。どうせ後で分かることなんだし」
なんか今日はシークレットが多すぎないか?
「だから、お楽しみにしといてよ」
「わかったよ」
俺は、どうせ後でわかるっていう考えを逆手にとり、今聞かなくてもどうせ後で分かるんだからと、なんとも大人らしい思考を発動させ、結衣に深く聞き返したりはしなかった。
「ここの占い、本当に当たるのか?」
「雑誌にはね、的中率65%って書いてあったよ」
65%っていうのは、低いのか?高いのか?微妙としかいえない確立だな。まぁ、占いなんてものはただの気休めだろうし、この行列も好奇心の塊なんだろう。
「それとね、占い師さんが凄い美人らしいよ」
「あぁ、それで、ちらほら男がいるわけか」
まぁ、これも男の定めだろうか…美人ってだけで集まってきてしまうんだもんな。残念ながら、俺は占いには全く興味が無い。美人さんには、少しだけ興味があるのも事実だが…。
***
そんなこんなで、占いの順番が来た。
見た目は、紫色の大きなテント。その中は独特のなんとも形容しがたい雰囲気で、はっきり言って胡散臭いのは、これを見ただれもが感じることだろうと思う。
テントの中心には黒いテーブルクロスのかけられた丸いテーブルがあり、もちろんこのベタな内装で簡単に想像できると思うが、テーブルの真ん中には紫色の小さなクッションに乗せられた水晶玉がある。
「そこにおかけになってお待ちください」
そんな声がする方に目をやるが、奥は暗くてよく見えない。
俺と結衣は備え付けてあるイスに腰をかける。すると、奥からこれまた胡散臭い格好をした女性が現れた。
そして、俺たちの正面に腰掛ける。噂どうりの美人、綺麗に整った形の良い顔がそこには…なかった。
頭には変なターバンみたいなものを巻いており、口元と鼻は紫色のマスクのような布で覆われている。
つまり、目しか見えないのだ。これでよく美人だとか美人じゃないとか言えたもんだな。
「さて、今日は何を占ってほしいのですか?」
あれ?なんだかこの声…聞き覚えがあるな?
「あんた、どこかで会ったことあったか?」
「いえ、ありません」
なんて即答。
「で、占ってほしいことは…相性…ですね」
「はい」
結衣が目を丸くして答えた。
きっと、結衣は、「凄い!なんで分かったの!?」なんて考えているんであろうが、女の子が占ってほしいことといえば、好きな人との相性とか、もしくはどんな相手と相性がいいか、しか無いだろう。消去法で一番当たる確率が高い答えを選んで言ったに違いない。
とかなんとか、何か哲学めいたことを頭の中でささやき続ける俺に、ピーン!と来るものがあった。
この声…まさか…!
「あんた…すみれさんか?」
「いいえ、違います」
またも即答。
「そうだよ、こんなところにすみれさんがいるわけないよ」
「いや、だって…」
「違います」
「はぁ…」
違うらしい。
はて?ただの人違いなんだろうか?いや、なんだかすみれさんだと思えば思うほどすみれさんに見えてきた。
「やっぱりすみれさんだろう?」
「しつこいですね。あんまりしつこいと占い料倍にしますよ?」
はい、決まり!
絶対すみれさんだ。ってことはなんだ?藤宮カンパニーの専属メイドって儲からないのか?それとも、ただの趣味なのか?どっちにしろ何回訪ねても違うと言うだろうし、最後には占い料を倍にされて終わるだろうから、すみれさんじゃないってことにしといてやろう。
「では、あとがつかえているので、さっさと占いたいと思います」
嘘をつくな。俺たちの後ろには誰もいなかったぞ。早く帰ってもらいたいだけだろう。
「アブラカタブラ〜チチンプイプイ〜○×?☆△!”」
おいおいおい〜、なんなんだその胡散臭い呪文は!しかも、最後の方は全然聞き取れなかったぞ。
「分かりました」
本当かよ!?
「お2人の相性は、非の打ち所がありません」
「やった〜!」
結衣が歓声を上げる。俺も何故かガッツポーズ。
「しかし、これから近いうちに大きな試練にぶつかるでしょう。そこを乗り越えられるかが、お2人の将来の鍵となるでしょう」
だそうだ。大きな試練ってなんだ?気になることばっかり言いやがる。
「ちょっと待て、大きな試練ってなんだ?乗り越えられなかったらどうなる?」
「あくまで占いですので、詳しいことは分かりません。それに、所詮は占いです」
「…そうか」
だよなぁ、占いだし。的中率65%だし。
「では、そちらの方は何かありますか?」
「あ、俺もいいわけ?」
「もちろんです」
や、そんな微妙な変化の笑顔で言われてもねぇ。多分よく顔をあわせてる奴じゃないと分からないような、ほんっと〜に微妙な表情の変化だ。
って、そんなにいきなり言われても考え付かないしなぁ…。
占い…といえば、やっぱり恋愛関係か?それはさっきやったし、あとは…前世とか将来の職業とか?逆に俺の過去を占ってもらって、当たるかどうかを試すってのもいい手だと思うんだが…。さすがにそれは意地が悪いよな。
ま、ここは一番ベターなやつでいこう。
「それじゃ、前世で」
「前世?ですか…?」
「あぁ、大丈夫か?」
「まぁ、やってみます」
やってみますって何?やったことないの?大丈夫かなぁ?
「チチンプイプイ〜アブラカタブラ〜×?@○!”」
なんかさ、順番変わっただけじゃないのか?
ほんと…大丈夫かなぁ…。
****
5分経過
****
え〜、あれから5分経過しました。
占い師が、なにやら本気になって必死の形相で水晶とにらめっこしている。
もう諦めたほうがいいんじゃないのか?っていうか、1回の占いに5分もかけちまった時点でもう占い師失格じゃないのか?とか、俺が一人心の中で突っ込みを入れている間も、占いは続く。
占い終わったのは、それからもう少ししてからのことだった。
突然占い師が、とても小さな声で呟く。
「騎士…」
「「え?」」
俺と結衣は、びっくりして聞き返す。
「あなたの前世はヨーロッパの騎士です。それも、相当な腕利きの騎士です」
こんな偶然、あるんだろうか。
さっき、結衣とした会話、姫とか騎士とか…。本当に凄い偶然。
もし…これが偶然じゃないとしたら…。
「そちらのお嬢様は、一国の姫君ですね」
「私が、お姫様?」
結衣が信じられないと言った表情で聞き帰した。俺も、占い師の返事に耳を傾ける。
「はい。恐らく、恋仲にあったと思われます」
今、確信した。
偶然なんかじゃない。
俺と結衣は、きっと、前世でも一緒に歩んでいたのであろう。
そう、思わせるような何かが、占い師の言葉には秘められていた。
さっきの会話も、前世の俺と結衣がした会話だったんじゃないか…だから、あんなにも不自然さがなく言えたんではないだろうか。
現代では、あんな会話、ただの時代錯誤でしかないのだから………。
「じゃあ、そろそろ行こうか、結衣」
「…そうだね」
なんだかいつまでもここにいそうだった結衣に声をかけ、先を急がせた。
イスから腰を離し、テントから出ようとする。
「お2人分で、4000円になります」
俺は我が耳を疑った。
お2人分?それって何?俺が前世聞いたから!?っていうか、あんたが君も占っちゃえよベイビーみたいなノリで言ってきたんでしょ!?
「いやいやいや、あんたが占ってくれたんじゃないのか?」
「お2人分で、4000円になります」
一呼吸すらできないような間隔で占い師がもう一度言った。
なんだかかもられた気もするのだが…。
これも商売か…。なんて思って、4000円をテーブルに叩きつけた俺は、結衣の手を掴んでテントを後にした。
***
テントを後にし、まだ太陽が俺たちの頭上でさんさんと輝いている。
夏の蒸し暑さを肌で感じ、そこにいるだけで汗が噴出してくる。
「なんか、ぼられた気分だな」
「そう?私は結構楽しかったし、相応な額だと思うよ」
「結衣がそういうなら別にいいんだけど」
「それよりさ、びっくりだよね!前世の話!こんな偶然あるんだね!」
「どうだろうな。でも、相性の時に妙に引っかかることを言ってくれた」
「う〜ん、まぁ、なんとかなるよ!だって、非の打ち所が無いんだよ?絶対何があっても私たちなら大丈夫だよ!」
「そうだといいな」
「うん!」
結衣は、偶然と言っていたけれど…。
前世では愛し合っていた2人。それが今現在の、俺と結衣。
遥か遠くに、バラバラに暮らしていたはずの2人。それが、なんのめぐり合わせか、いろんな偶然を経て今は同じ学校に通い、同じ飯を食べ、同じ家で暮らしている。
これは、偶然なのか……それとも必然なのか……。
そんなことは分からない。どうしても知りたかったら、俺の嫌いな神様にでも聞いてくれ。
ただ、1つだけ言えるのは…。
俺も、2人一緒なら…何があっても大丈夫。
そう思んだ。
読んでいただきありがとうございます!
今回出てきました、蓮と結衣の前世、「姫と騎士」というのがありましたが、その前世での話を別の小説で掲載中でございます。
そちらの方もよろしくおねがいできればと思います。