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25/デート日和、玉子焼きこそ弁当の王者

これでもか!というほど絶叫マシンばかりを乗りつくした俺と結衣。

さっき聞かされた話だと、この遊園地のアトラクション制覇が今回の目的らしい。

そんなのは俺の体内スケジュールにはどこにも書いて無いし、もちろん部屋のスミッコにあるカレンダーにメモってあるはずもない。

俺はもっとほのぼのと話とかしながら過ごしたかったんだが…。

どうやら俺の意見・要望・提案などは本日一切受け付けてもらえないらしい。

もともと俺の誤算から始まったことなんだがな。

っていうか、この遊園地のアトラクションは何故か絶叫マシンばかりなんだよなぁ…。非常に迷惑な話なんだが…。


「はぁ…はぁ…なぁ、そろそろ…」


「ええっと…じゃあ、次は…」


次のアトラクションを求めて結衣はパンフレットに目を落としている。俺は、息も絶え絶えで結衣に休憩を訴えようとしているのだが…。

さっきからスルーされっぱなしだ。


「なぁ、結衣?」


「ん?何?」


「もう、飯にしないか?」


「う〜ん、もうちょっと遊びたいなぁ…」


結衣は名残惜しそうにパンフレットを握り締める。結衣の気持ちも分かるが、俺の体力を回復させないともう限界に近い。っていうか、君随分タフだね。

俺はもう一息!っと更に言葉を続ける。


「飯を食べたらすぐに遊べばいいじゃないか。もう、いい加減腹減ったし、休みたい」


ここで休憩できなければ恐らく生涯を閉じてしまいそうな俺は、必死な思いで説得を試みる。

それが通じたのかどうなのかはしらないが、結衣の口ではなく腹が応える。


ぎゅるるる〜〜


「あ!…ははっ、そうだね、お兄ちゃんお腹すいたみたいだし、お昼にしよう!」


結衣は顔を真っ赤にさせながら両手を体の前でぶんぶん振り、なんとかごまかそうとしている。そんな可愛らしい姿が、俺のS心に火をつけた。


「あぁ、そうだな、休もう。しかし結衣、さっきはぎゅるるって音が聞こえた気がしたんだが…」


俺は腕を組み、顎に指をつけながら言った。


「そ、そんなことないよ!気のせい、気のせい」


目が泳ぎまくってる上に、噛み噛みで、はたから見たら随分変な人に見られそうだ。


「いや、確かに聞こえたんだ。なんの音だ?」


俺は口元をゆがめ、半笑いになる。


「もう!意地悪!そんなこと言ってるとお弁当あげないからね!」


おっと、それはまずい!


「ごめん、ごめん。それより、あの弁当、昨日下ごしらえして、今日も朝早く起きて作ってくれてたんだろ?ありがとうな」


俺は話題を変える+感謝の意を込めて頭を撫でた。


「お兄ちゃん知ってたんだ。影の努力のつもりだったんだけどな」


それは悪かったね。


「…ありがとう」


はて?なぜお礼を言われたんだろう?


っとまぁ、そんなこんなで俺と結衣は、少し遅い昼飯にありつくべくどこか食事のできる場所を求め、歩き出した。



***



歩き出してはや10分、いい場所がなかなかなく、歩き続けている。

そこで俺は、パンフレットとにらめっこしながら、ある場所を見つけた。


「あそこなんかいいんじゃないか?」



俺はトルネードスネークに次いでこの遊園地の名所、海のお城のふもとにある、イソギンチャクやクマニミなどの魚をモチーフにしたテーブルをイスを指差す。


「いいね。じゃ、あそこにしよ」


結衣ははじめからそこに決めていたように、俺に同意すると、すぐにベンチに着席した。

とにもかくにも、俺の提案により、昼飯を食すのになかなかのポジションがゲットできた。

海のお城っていうのは、まぁ、これも安易な命名だと思うが、分からなくも無い。

城全体はほんとに海の中にある魚や人魚のお城のような雰囲気で、そこかしこにある海の生物には、可愛らしい目や口がつけられ、耳を澄ますと歌が聞こえてきそうなほどロマンチックだ。っていうか、実際に流れてたけど。


テーブルに結衣は先ほどコインロッカーから出してきた包みを3つ置く。

中身は様々。

肉類や野菜炒め、サラダ、おにぎりなど、どれも可愛く見えるように工夫され、見ているだけでも楽しめた。


「結構上手いじゃないか。さて、味はどうかな?」


なんて、作ってもらっておいて随分とでかい態度を取った俺は、まず玉子焼きを口に運んだ。

結衣はどっかの素人の料理番組で、アイドルが作った料理を司会者が食べるみたいな、説明に時間がかかりそうな目で俺を見つめている。


「…うまい!凄いなこれ。めちゃめちゃうまいぞ」


結衣の作った玉子焼きは、俺のストライクゾーンのど真ん中を射抜き、よもや一球でストライク三つ分はあるんではないかと、そこまで言わせるほど美味しかった。

焼き加減も、出しの加減も、俺が今まで食った玉子焼きの中で一番美味しいと思う。


「良かったぁ。その玉子焼きね、今までで一番うまくいったんだよ」


頬を赤らめながら嬉しそうに自慢する結衣を見てると、俺は嬉しくなり、うまいうまいいいながら弁当を空にしていった。

結局、俺が七割は食べるような形になってしまったが、美味しいものはしょうがない。


「ご馳走様。本当、美味しかったよ」


「お粗末様。お兄ちゃんうまいうまい言いすぎだよ。なんか恥ずかしくなっちゃった」


確かに、何を食べるにしてもべた褒めだったので、作った本人は恥ずかしかったかもしれない。しかし、結衣の弁当は俺の胃を満腹にさせるばかりか、俺の体力まで回復させてくれた。本当に美味しかったんだ、それくらい伝えさせてくれ。



***



さて、つかの間の休息というやつだろうか?それを終えた結衣は、弁当を片付けて立ち上がり、両手を挙げて伸びをした。そして、俺に手を差し出す。


「休憩終わり!」


元気良く俺にそういった結衣。俺は結衣の手をとり、立ち上がる。


「さて、行きましょうか。お姫様。段差があるので、お足元にお気をつけください」


俺は、結衣の真後ろにお城があるのを確認してから言った。

少し恥ずかしい。顔が赤くなって無いか、心配だ。さすがに気取りすぎたかな?


「あ、ありがとう。あなたも、き、気をつけてください」


結衣は俺以上に恥ずかしかったらしい。


「私がお姫様なら、あなたは誰なんでしょう?」


結衣が、そのままのノリで俺に尋ねてくる。結衣の言うそれはとても自然で、不自然さのカケラも無くて、最初からこの口調だったんではないかと、そんな錯覚さえさせるものだった。

恥ずかしくも、なぜか新鮮で、それでいてこの会話にさほど不自然に感じないのはなぜだろう?そんなことを思った。


「俺は…姫に仕える騎士ナイトです。なんなりと、お申し付けください。精一杯、努めましょう」


きっと、本当なら凄く恥ずかしいやりとりのはずなのに、それがなぜだか心地よかった。堅苦しいはずのセリフじみた言葉が、自然と口から発せられた。


「あなたが…私の騎士ですか…。なんだか素敵ですね」


「もったいないお言葉」


俺は、左手を後ろの腰に回し、右手で帽子を取るふりをし、紳士の礼のような真似をした。

結衣は俺につられてか、スタートの裾を手でつかみ、右足のつま先を地面につけてお辞儀した。結衣のはいているスカートは少しミニなもので、太ももが大きく見えたことにドキッとしたのはここだけの話。


「ちゃんと…守ってくださいね?」


結衣はすっかり優雅な雰囲気になり、とても年下には見えないだろう。

なんだか、懐かしい。そんな気がした。

こんな感じ、前にもあったような…。


「うん」


俺は記憶をあさるのに夢中になってしまい、普通に返事してしまった。


「あれ?なんで私守ってねなんて言ったんだろ?」


結衣がすっとんきょうな声を上げる。


「? 自分が言ったことだろ?」


「そうなんだけど…口が勝手に動いたっていうか、なんていうか…」


結衣は顎に手を当てて考え込む。


「まぁいいや、行こう!お兄ちゃん」


どうやら理由を探るのは諦めたらしい。


「行くところはもう決めたのか?」


「うん!ここにはいっとかないといけないんだよ」


「どこ?」


「着いてからのお楽しみ!」


その言葉で会話は閉めくくられ、俺は結衣についていくしかなくなった。

妙に意味深な結衣。どうせ行くんだから教えてくれたっていいだろう。

とりあえずパンフレットを開いて、結衣が好きそうな場所を探してみる。

「恐怖の神殿」結衣はあれで怖いのが苦手だからな。コレは無い。

絶叫系はあらかた乗りつくしたし…。

「天まで届く観覧車」は最後に乗りたいとか言ってたし…。

「海のお城」さっき行ったしな。


「あ…」


「どうしたの?お兄ちゃん?」


「いや、なんでもない」


「ふ〜ん」


俺が突然声を上げてしまった理由。それは、パンフレットでの

「海のお城」のコメントに、「お城のふもとにある右から三番目のベンチでお昼を取った男女は、結ばれること間違いなし!」とあったからだ。

よくよく思い出すと、俺たちが座っていたのは右から三番目。

偶然なのか、はたまた分かっててそこに座ったのか…。

俺はただ結衣の背中を見つめるばかりで、そんなんで真偽なんかわかりっこない。

っていうか、結衣、妙に歩くの早いな。

俺はこの問題を胸の中にしまい、結衣に追いつくために小走りした。











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