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24/デート日和、相手は妹

青い空、広い海、そして…輝く太陽!


……なんて、どっかの童話の中の作り話だけの話だと思っていたんだが、現実そうでもないらしい。

本日、日の曜日に、結衣と2人でマリンランドっていう安易な名前をつけられた遊園地に来てるわけなのだ。

状況を理解していないそこのあなた、説明しよう。

話の発端は、環さんがお詫びとか言って遊園地の一日無料券二枚をくれたことから始まり、誰かにプレゼントフォーユーしようとしたが、結衣が行きたい言ったことから始まった。

ん?なんか少し日本語がおかしいな?まぁいいや。

とにかく、雲一つない快晴に、マリンってだけはあり海の上に立てられ、人工的な海岸まである。入ったら相当気持ちよさそうだ。ま、文句なしの遊園地日よりってこと。俺も、最初は乗り気じゃなかったが、やっぱりこの遊園地特有の雰囲気にはテンションを上げる効果があるのか、はたまた結衣とのささやかな思い出作りに無意識に緊張しているのか、なかなかに気分は晴れやかだ。



「うわ〜!広〜い!早くしてよお兄ちゃん」


結衣は俺を置いて10メートルほど先を後ろ向きに小走りしている。

我が妹も、かなりご機嫌のようだ。

これだけでも、ここに来た意味はあるんじゃないか。


「そんなに急ぐと転…あ!…ははは!」


俺が注意する前に、見事に転んでくれた妹。

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらゆっくりと立ち上がり、口を押さえて笑っている俺を結衣は恨めしげに睨んでくる。

残念ながら今のは君の不注意であって、俺のせいではないんだけどな。


「そんなに笑うことないでしょ!」


いや、今のは確実に笑うところだろう。

とか言ったら、恐らく機嫌を損ね、結衣がせっかく作った弁当が俺の手の届かないものになってしまうため、俺はその言葉を飲み込む代わりに、結衣の頭を撫でながら大丈夫?と一声かけてやった。

すると、怒った顔からすぐに笑顔になり、気持ちよさそうに目を細めながら大丈夫とつぶやいた。

結衣の前世は絶対猫だと思う。


「よし、最初は何に乗りたい?今日は思いっきりつきあってやる」


この一言から、俺のハードな1日が幕を開けてしまったのは、完全に俺の誤算だ。


「とりあえず、ジェットコースターにでも乗ろうよ」


そう言いながら、結衣は受け付けで貰ったパンフレットを広げる。

そして、

「これがいい」とパンフレットの一点を指差す。

俺はそれをのぞき込むが、目に飛び込んできたのは…。

その名もトルネードスネーク!

落差日本一!

連続大車輪で嘔吐は確実!

って書いてあるのだが…落差日本一って結衣は大丈夫なんだろうか?

っていうか、嘔吐確実ってのは本当なんだろうか!?

もしそうなら絶対に乗りたくないぞトルネードスネーク!


「やめとこう結衣。本当に吐いたらシャレにならない」


「大丈夫だよ。私こういうの強いから」


や、君じゃなくて俺がね…。俺が大丈夫じゃないの。分かる?もし妹の前で吐いたりなんかしたら…ねぇ。


「じゃ、早速行こうよ」


俺の心の叫びを無視した妹は、さっさと歩き出してしまった。

とりあえず実物を見ようと俺も歩き出すのだが……。

あの無駄にクネクネしたやつ…あれだろうか?

恐らくマリンランドのどこからでも確認することができるであろう大きさのクネクネ。そして地面すれすれまである長さ。地面っていうか、海だけど。

ってかあれ絶対海に浸かんない!?確実にジェットコースターの三分の1は海につかる計算だ。

この遊園地…大丈夫かなぁ?

とかっ、そうこう言ってる間にジェットコースターは目の前だ。

もう…覚悟を決めよう…!

俺は決心する。大丈夫。吐くわけない。単なるジェットコースターじゃないか。

客寄せの単なる大げさなコメントたろう。心配ない。

クネクネは近くで見ると予想より大きいが、どうせ大したことはないだろう。受付近くの地面には湿ったようなあとがいくつもあった。

ここ数日、雨は降ってないはずなのだが…。

ま、まぁ、そんなことは気にしない!兎に角大丈夫なんだ!


俺はるんるんな結衣と行列に並んだ。

降りてくる人が妙な顔をしている人ばっかりなのは、きっとあまりにスリルが無かったからだろう。そうに違いない。

暫くして俺たちの番になり、なんの巡り合わせか俺たちは先頭に乗せられた。

スリルが無いにしては妙に頑丈そうなセーフティーバーを降ろし、完全にロック。


「先頭なんて運が良いね。見てあのクネクネ!面白そう〜♪」


「あ、あぁ…そうだな」


いざ発射するとなると、ついに俺の安い自己暗示が解け、正気に戻る。

結衣はなんでこんなに余裕なんだ!

意味が分からない!なんなんだろうこのこみ上げる気持ち!それは恐怖!

なんだか無性に叫びたい気分だ!


「この際ハッキリ言うぞ。なんでそんなに余裕なんだ!?こんなクネクネありえな……いっ!!!」


俺の主張をよそに、かなりの速度で急発進するジェットコースター。

勢い余って舌を噛む。

ジェットコースターって徐々に速くなるもんじゃなかったっけ!?


「きゃ〜〜〜!」


最初の落下で絶叫する結衣。しかし、それは恐怖ではなく喚起の叫びだ。

ちなみに俺は舌を噛んだ痛みにもだえている。


しばらくして、なんとか気持ちを落ち着かせ、舌の痛みが引いたころ、急にスピードがゆっくりになった。

その反動でまたも舌を噛む俺。

ちっくしょう!と俺は手で口を押さえる。

カチカチカチカチ…という音に何故かはっと嫌な予感がした俺は、目を前方に向けた。

そして、俺の目に飛び込んできたのは、崖。のようなくだり道。おそらく90度に近いんじゃないかと思う。

これが、落差日本一か…。

俺は横にいる結衣に目をやると、なにがそんなに楽しいのか、目を輝かせていた。


そして、勢い良くコースターが急降下する。


「きゃ〜〜〜!」


「うぉ〜〜〜!」


隣からも後ろからも老若男女問わず悲鳴を上げる。

俺は二度と舌を噛むまいと口はしっかりと閉じている。


なんとか日本一の落差をクリアしたあと、終盤にかかって、今回最大の難関が待ち受けていた。

おそらく、このジェットコースターの名前の由来となったクネクネ。


またも、ペースゆっくりとなり、俺は身構える。流石にこれには結衣も少し笑顔が引きつっているはずだ。という俺の予想…というより願望は簡単に裏切られ、結衣は相変わらず目をキラキラさせて目の前のクネクネを眺めている。


そして、急降下しながらコースターがスピードを上げていった。

回転の数々!予想を遥かに超える気持ち悪さに、何かこみ上げるものがあり、一瞬ヒヤッとしたが、時間がたつにつれ少し慣れた。

その時だった。本当の不運は。




バシャーン!!!




***




「はっくしょん!…あぁ、くそっ」


「大丈夫?お兄ちゃん」


「あぁ、はっくしょん!」


軽快に長いクネクネを進んでいたコースターは、俺の危惧していた海に浸かるんではないか?というところに差し掛かった。

まぁ、お約束というか、俺は当たり前のように水をかぶったわけなのだが…。

何故か水を浴びたのは俺だけなんだ。

隣にいた結衣にはちょっと水しぶきが飛んだだけ。

まぁ、もしかしたら喜ばしいことなのかもしれない。大事な人が運良く水がかかんなかったんだからな。

あぁ、複雑。


「何渋い顔してるの?ちょっと休む?」


「いや、なんでもないよ。それより、次は何に乗る?」


俺は結衣の言葉を遮るように言った。俺の体調なんて結衣が気にすることじゃないし悪くもない。


「いいの?大丈夫なの?」


結衣のそんな気遣いが嬉しかった。


「言ったろ?今日は一日中つきあってやるって。乗りたいやつ沢山あるんだろ?休んでる隙なんかないだろう」


結衣は嬉しそうに頷いて、俺の手を取り走り出した。



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