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24/50

22/カス再び

いつもは無駄に長く感じてしまう授業も、昼休みが楽しみじゃなくなったとたん、瞬く間にすぎさってしまった。

俺の気分は、なかなかに晴れ渡っている空とは裏腹に、随分とブルーだ。

ここまでギャップがあるともう逆に笑えるね。


さて、今は午前最後の授業で、昼休みまであと5分ときてる。

つまり、あと5分のうちに何かいい策を練り、実行しなければ、またあの意味不明な修羅場に巻き込まれるはめになるわけだ。


朝の環さんと神谷はもう、アイコンタクトか何かで戦ってたんじゃないかってくらいの雰囲気だったね。

あれはまさに戦場、あれが本当の冷戦に違いない。

きっと、アメリカとロシアも真っ青だろう。


とかなんとか言ってる間に、もうあと3分になってしまった……!

考えろ。まず、俺の昼飯は後回しだ。俺の安全確保が最優先。

よし、決まった。

作戦はこうだ。

鐘が鳴り、委員長が礼を宣言したと同時に、俺はサイフを持って教室を飛び出し、とりあえず購買へダッシュ。

そして、昼飯の確保を終え、どこか安全な場所にて待機。

安全と判断した瞬間から、昼飯を食べても良い。

完璧だ。

今、シンプルイズベストという言葉が随分身近に感じられた。

安全な場所、結衣のいる中等部か、校舎裏がベストだな。

いつものテラスなんかに行くと、神谷が待ち受けているかもしれないし。


あと30秒。


20秒…。


そろそろサイフを取り出すか…。


キーンコーンカーンコーン


突然予想に反して鐘が鳴り響く。

何ィ!?あの時計、秒針が合ってないのか!?

くそっ、まだサイフが鞄の中だ…!


「起立!」


待ってくれ委員長!まだサイフが…。


「礼!」


くそっ!サイフはもういい!こうなったらとりあえずダッシュだ!

俺は、何を必死になっているのか、教室を飛び出そうとダッシュした。

俺の足はそこそこだし、まぁ、いくら神谷といえど女子に追いつかれるようなことはない。

しかし、1つ忘れていたのだ。

俺が教室を出るためには、どうしても神谷の横を通らなければいけないということを。

俺のダッシュ虚しく、神谷の鬼のような手によって、俺の修羅場行きは確定した。




***




冷静になって考えてみてくれ。

なぜ俺が一緒についていかなきゃならんのだ。

なんて、俺には言える訳もなく、俺は屋上への階段を割と遅めにあがっている。そりゃもうスローペースだ。

だって仕方がないだろ?行きたくないんだから。

でも神谷のことだから…。


「さっさと歩きな!」


そらきた。

なんでそんな不機嫌なんだよ?わかってるよ、俺が遅いからだよね。


「だって俺行きたくないし」


一応抵抗の意志を示す。多分効果なんてない。


「そんなことわかってるわよ。でも速くても遅くても結局行くことになるのよ?」


そうだろうな。俺の意見が通るなんて思ってなかったさ。

俺のささやかな抵抗むなしく、結局屋上に到着してしまった。


ガチャッとドアを開けると、前回とは違い、環さんはしっかりとベンチに腰掛けていた。

前みたいに首筋にスプーンを突きつけられるなんてことはなさそうだ。


「待たせたわね」


神谷は早くも戦闘態勢。なにがそんなに気に入らないんだ。


「で、あなたのせいってどういう意味?」


さっさと本題に入るわけね。

環さんも環さんで特に躊躇もせずにさっさと話し始めた。

あんまり言いふらしたい話じゃないんだが、話さなきゃ神谷が納得しないだろう。


2人はベンチにこしかけ、話し始めた。

あーあ、やっぱ俺来た意味なくね?

せっかく来たのに俺の出番ないじゃないか。

俺がそんなことを考えている間も、俺そっちのけで2人は話し込んでいる。

多分俺が今居なくなっても、気付かないんじゃないか?

……………………………………帰ろう。

俺は少し寂しい気持ちになりながら、屋上を後にした。

2人の話し声と、少しの風の音との中に、ドアの閉まる音が微かに響いた。



***



今日の空はなかなかにいい天気だったのだが、なんだか雲行きが怪しくなってきやがった。

こんな日は、さっさと帰って昼寝でもして過ごすのが一番なんだなぁ。


今日の授業ももう終わり、鞄の中に教科書をしまっている今日この頃なわけだが、神谷は帰ってくるなり不機嫌なのか上機嫌なのかよくわからない微妙としか言えない顔をしていた。

そしてなぜか、神谷から彼方に、彼方から瀬戸に俺の喧嘩の話が知れてしまっている模様。


まぁ、いいんだけどね。


そんなことよりも、随分と話が広まりまくってることの方が大問題。

それを神谷に言ったら、発信源は環さんとのこと。

まじで何してくれてんだあの人は。これで俺のイメージが変わるようなことがあれば、どうしてくれよう?

しかし、なんといっても今は放課後だ。

そんなことはさっさと帰宅したあとに、いくらでも考えればいいのさ。


「本日もお勤めご苦労、俺」


やばい、妙なことを口走ってしまった。


「なにバカなこと言ってんのよ」


あーあ、神谷さ、なんか今日妙に俺に絡んでくるね。

いつもの一問一答会話はどこへやら。


「彼方は?」


「今日は掃除当番」


「なるほど」


お、これいつもの調子だ。

やっぱこうじゃないと話しにくい。


「瀬戸は?」


「綾も掃除当番よ」


やっぱり、一問一答は少し芸が無さ過ぎないか?俺と会話する気があるのかないのか。

どっちなんだ?


「なんか妙に騒がしいわね」


俺の悩みをよそに、神谷がしかめっ面で言い放った。


「放課後なんだ。当たり前だろ」


とは言ったものの、なんだかいつもの騒がしさではなく、なんていうか、ピリピリしてる感じだろうか?


「玄関の方ね。……ちょっと見てくる」


神谷がそう言った瞬間、彼方と瀬戸が教室に走り込んできた。


なんか嫌〜な予感。


「蓮!」


「…何?」


「外に……芹沢が来てんだけど!」


芹沢って誰?………ってあいつかぁ!


「待て待て待て待て!何しに?なんで?」


「わかんねーけど…朝も言ったけど…仕返し、じゃねーかな?」


なんだよもぉ、仕返しって!

どんだけ暇なんだよ!俺に構う暇があったらどっかの高校の頭でも倒しに行けっての!

逃げるぞ俺は。絶対逃げる!やってられっか!


「どうする蓮?」


「どうするって…逃げる」


「「「はぁ?」」」


「え?何?なんか問題あったか?」


さすがに三人にそんな顔されると俺に問題があるのかと心配になるんだが…。


「男らしくないな」


「男らしくないね」


「男らしくないわね」


何合い言葉みたいに俺を否定してんの!?

じゃあ何?行って殺されてこいと?やですよ!


「蓮なら大丈夫だろ。絶対」


彼方が根拠の無い断言をし始めた。


「おいおい、どこから来るんだその自信は」


「全身から?」


全身からって…そりゃ自信もでるな。


「とりあえず様子を見に行くわよ。私、芹沢ってカス見てみたいの」


「1人で行けばいいじゃないか」


「蓮君、女の子にそんなこと言ったらだめだよ!危ないかもしれないからみんなで一緒に行こ〜」


おいおいおい、もし仮に神谷があのカスに切れたら俺よりまずいことになると思いますけど?っていうか神谷の方が危ないと思いますけど?


「というか瀬戸、お前もカスを見たいだけだろ」


「あはっ、ばれた?」


ばれたじゃないよ。


「とにかく、遠くからちょこっと見るだけなら…ね!」


「ねって…」


はぁ…。ね!なんて上目使いで言われたら、俺にはどうすることもできなくて、渋々玄関まで向かうことになった。

逃げる準備だけは怠らないで置こう。



***



あれ?あのふざけた金髪…あれって…カスだよな?


「1、2、3…7人…」


「ハッ、あの時と同じ人数じゃねーの」


彼方が、そう呟いた。


そして俺は思った。


敵の人数多!!!









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