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2/大人はいつでも自分勝手

 こんにちは、今さっき目の前にいる男性に養子宣言をされ、不覚にも叫んでしまった蓮です。この突然のことに脳みそがついていきません。冷静なれ蓮。今までコツコツ積み上げてきた冷静でクールなキャラを壊す気か。自分に言い聞かせるようにして、こんがらがる脳みそを落ち着かせる。


「そんなに驚くことないだろう? 孤児院の子供が養子にされることは珍しくないと聞くし」


 男性が少し微笑みながら俺に言う。いや驚きますって。まさか自分が養子になるなんて考えたこともない。聞きたいことはたくさんあるのだが……。まず1番気になることは。


「あんたは誰だ?」


「コラッ!」


 バシッと院長に頭を叩かれた。痛い。


「……あなたは誰ですか?」


 頭をさすりながら、渋々言い直す。実は俺、敬語苦手なんだよね。


「あぁ、紹介が遅れたね。私は藤宮訓(さとし)、彼女は私の妻の加奈子だ」


 この人たちが俺を養子にしたがる理由は、多分理由があって子供が出来ないんだろう。そこはあえて聞くまい。それがマナーだ。それよりもなんで俺なのか、だ。


「なんで、俺なんですか? 養子ならもっと幼い子の方がいいんじゃないですか?」


「うん。それはもっともな疑問だね。理由はいくつかあるんだけど、1番の理由は、私が君をとても気に入ってるから……かな」


 「私たちがね」と、加奈子さんが付け加える。それでもまだたくさん疑問が残る。でも1番肝心なのは、俺の気持ち。初対面だが、この人たちはきっといい人だ。なんとなくだが、この人たちの養子になるのも悪くない。ただ、俺は養子になるわけにはいかない。


「あなた達の気持ちはとても嬉しい。けど、俺はここを離れるわけにはいきません」


 藤宮夫妻は困ったような顔をした。数秒の沈黙ののち、訓さんが携帯を取り出す。


「田村か? ターゲットを自宅まで連行してくれ」


 ……へ!? 今物凄く物騒な発言しませんでした!?

 するとドアが勢いよく開く音が。そしてドタドタと足音を立てて乗り込んでくる黒服に黒いサングラスのなんとも怪しい集団。


「ターゲット確認。これより捕獲する」


 俺は両脇をガッチリ固められる。なぜ!?


「ちょ、藤宮さん! どういうことだ!?」


 藤宮夫妻は俺のことなど無視して車に乗り込んでしまった。どうなっちゃうの俺!?


「院長!? なんとかしてくれ!」


「や、あんたもう藤宮さん家の子供だから私は口出しできないねぇ」


 はぁ? なにそれ!? もうすでに養子ってこと!? ってか俺の感情やら意見は完全に無視なわけ!?

 あの人たちをいい人と一瞬でも思った俺を殴りつけたい。いや、飛び膝蹴りをかまして首を180度捻ってやりたい。しかし、黒服さんにマークされてる俺には無理なわけで、泣く泣く車に乗せられる俺であった。




***




 ただいま車で藤宮さん宅に連行され中です。いまだに両脇を黒服に捕まれています。泣きたい。


「すいません。暴れたりしないんで、いい加減離してくれません?」


「本当に暴れない?」


 と、確か加奈子さんだったよね? が念押ししてくる。半笑いなのが少しムカつく。


「そりゃもちろん」


 この際離してもらえればなんでもいいや。


「田村、山崎、離してあげて」


 田村と山崎は俺をサングラスごしに一睨みしてから腕を放した。スイマセン、あんたたちマジで怖いんでにらまないでください。こんな人たちを従えてる藤宮夫妻は何者なんだ。


「俺これからどうなっちゃうんでしょう? 訓さん」


「はっはっは! お父さんと呼べ!」


 ダメだこのおっさん話になんねー。


「ってかいつから俺は藤宮家の養子になってたんでしょう? 加奈子さん」


「うふふっ、お母さんと呼んで」


 こいつもか……。あのいい人っぽいキャラはどこへ消えたんだ? なんだかどっと疲れたような気がする。


「やっぱり神様は俺が嫌いなんだ」


「ん? なにか言った?」


「別に」


 もうなるようになれッ!


「これで結衣も喜ぶなぁ。以前からお兄ちゃんがほしいって言ってたし」


 ボソッと訓さんがぶっちゃけた。


「はぁ? あんたたち子供いんの!?」


 結衣って誰ですか?


「そりゃあいるさ。いないと思ってたのか?」


「やだぁ、蓮ちゃんたら早とちりね」


 加奈子さんが人差し指を立ててチッチッチッとやりながら言った。正直うざい。いいよ。この際俺が勝手にあんたたちは子供がほしいのにできない可哀想な夫婦という勘違いをしていたのは謝るよ。しかもそれを見抜かれて何気に恥ずかしいのも許してやるよ。しかしながらまじに今のはうざい。ここが車内じゃなければ間違いなく真空飛び膝蹴りが入ってたよ? ……ってそうじゃなくて、結衣って子のことだった。結衣なんだから、女の子だよな。ってことは妹か……お兄ちゃんとか呼ばれたりすんのかな。……なんかいいかも。ってなんで俺乗り気になってんだよ! 危ない危ない。でも、結衣ちゃんのこと少しだけ聞いてみよう。


「結衣って子のこと、少しだけ聞いてもいいですか?」


「なに? 蓮ちゃん結衣に興味津々?」


「早くも食いついてきたか。いいだろう、結衣について教えてやる」


 聞いたのがいけなかったんだな。いや、結衣ちゃんに興味をもった時点でいけなかったのかもしれない。俺は藤宮宅につくまで、つまりまるまる三時間結衣ちゃんのプロフィールやら成長の記録やらしまいには昔話まで聞かされた。やっぱり、逃げれば良かったかなぁ? この先が本気で思いやられる。




***




 俺は車を降りて絶句した。


 なんだこれ!? どこの金持ちがここに住んでるんだ!? まぎれもなく俺の隣でニコニコしている藤宮夫妻なのだが。 それにしてもデカい。普通の家の3倍はあるだろう。ホントっあんたら何者!? 今更だが、車はリムジンだ。車に乗るときは、両脇を抱えられ気付く余裕がなかった。車内にいた時は、結衣ちゃんの自慢話に咲かせたくもなかった花が咲いてしまい、これまた気付く余裕がなかった。よって、気付いたのは車を降りてからである。ホントっあんたら何者だよ!?


「ホントっあんたら何者だよ!?」


「や、そんなくせ者みたいに言われてもね」


 しまった、口に出してしまった。落ち着いて蓮。冷静に、クールに。


「とりあえず。結衣が帰ってくるまで家でお茶してましょう」


 加奈子さんが切り出した。


「そうですね。聞きたいことも言いたいことも山ほどあるし」


 少し嫌みに言ってやった。


「わぁ、それなら話題に困らないわね」


 意味をなさなかった。加奈子さんには勝てそうもない。


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